Interview

マイケル・ムーアが語る、世界一平和的な「世界侵略」の舞台裏

マイケル・ムーアが語る、世界一平和的な「世界侵略」の舞台裏

 映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』
マイケル・ムーア監督に突撃電話インタビュー

過激なアポなし突撃取材で、数々の話題作を発表してきたマイケル・ムーア監督。『ボウリング・フォー・コロンバイン』ではアメリカの銃規制問題をあぶり出しアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞、『華氏911』では同時多発テロをめぐってブッシュ政権の在り方を問うて、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した。その後も、医療制度や金融資本主義などを取り上げて、社会問題に鋭く斬り込んできたが、待望の最新作では、ついにアメリカ国内を飛び出して、世界を舞台にした本作『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』をリリース。今回のミッションは、世界各国を訪れて、いまのアメリカ社会を建て直すのに必要な政策を”略奪”して持ち帰るという「世界侵略」にある。年間8週間も有給があるイタリア、麻薬使用が犯罪対象ではないポルトガル、学校給食がフルコースのフランスなど、各国で目の当たりにする驚きの“常識”とは……? エンタメステーションは、マイケル・ムーア監督に電話インタビューを行い、その世界一平和的な「世界侵略」の舞台裏を聞いた。

完全に道を見失った。欲に目が眩んで、
かつて手にした民主主義を手放してしまったんだ

今回取材をして、一番監督が驚いた国、もしくは興奮した政策は何でしたか?

すごくたくさんあるから難しいなあ。ポルトガルでは過去15年間に渡ってどんな麻薬を使用しても犯罪に問われていないけど、その結果、ドラッグによる犯罪や使用者が減少しているという事実かな。実際に良い結果が出ているというのがすごいし、痛快だよ。それからフィンランドは学力No.1を誇る教育の国だけど、宿題という制度を導入していないことだね。どれも僕らが当たり前だと思っている常識や業界でまかり通っている通説と、あべこべの結果が出ているんだ!(笑)
ここから得た教訓は、「いまこそ発想の転換が必要だ」ということ。今から20~30年前、アメリカでは「もっと生徒に宿題を増やすべきだ」と言われていた。なぜなら教育水準の高い日本人はたくさんの宿題をこなしていたからだ。日本の子どもたちはより長く学校や塾で時間を過ごして、よりたくさん宿題をしている。大人になっても、より長く会社にいて、 よりたくさん働く。それが強い経済を生みだしたんだと言われていたんだよ。でも間違いだったんじゃないかな。いま日本はあの時のような強い経済を維持できていない。つまり、強い経済力は、それ以外のところに秘訣があったんじゃないかな。アメリカも日本も、本質に立ち返った方がいい。世界的に世の中がおかしくなる前の時代にね。もといた場所に立ち返ってみることは悪くないし、決して「後ろ向き」なことじゃない。僕たちは、いまこそ歴史に学ぶべきなんだ。もっと平和的に人間らしく生きる道や方法が、きっとあるはずだ。ここにひとついい事例がある。なぜ君は、日本時間の朝5時に、僕の話を聞きに来たんだ?(笑)僕は遅い時間でもいいって言ったのに。働きすぎだし、すごく日本人的だよ。

……監督に話を聞きたかったので……。

ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいけど、それが当たり前だとみんなが思う風潮はよくないと思うんだ。

そうかもしれません。アドバイス、ありがとうございます。では映画の話に戻らせていただくと、なぜアメリカは一度手にした自由や民主主義を手放してしまったのでしょう?

完全に道を見失った。過剰に進んだ資本主義社会の中で、欲に目が眩んで、かつて手にした民主主義を手放してしまったんだ。そしてそれは僕たちだけじゃない。多くの国が、目標にすべき道を見失っている。自分のミッションは「その道」を探ることにあると思っている。

教育とメディアは、本来の仕事をすべきだ
このふたつが市民の公共を守る

アメリカではドナルド・トランプ氏の躍進が続いているようですが、彼が大統領になったら、そのミッションは難しくなると感じますか?

そうだね。だから、なんとかして阻止したいと思っている。でも実際、アメリカ人の多数はドナルト・トランプを支持していない。アメリカで選挙権を持っている国民の80%は女性、有色人種、そして18歳から35歳の若者層だから、みんなが選挙に行けばトランプは負けるはずだ。2008年には、その大多数が黒人の大統領オバマを選んだんだ。だから、僕は自分が居る場所から、自分のやれることをやるだけだ。アメリカの大多数の、オープンマインドで知性のある人たちに向けてね。

でも数パーセントの富裕層が、いまのシステムを支えていると言われいますよね。そしてトランプは社会福祉政策を唱えて、低所得者層を取り込もうとしているように見えます。

でも頭のいい人たちは気づいてるはずだよ、いかにトランプが嘘つきかってね。最近始まった社会福祉政策のごたくは、単に票集めに走っていて、本当にヤツがそうした公共問題にまったく興味を持ってないことにね。つまり、リテラシーが一層問われる時代になったということだ。だから、教育とメディアは、本来の仕事をすべきなんだ。この2つが、市民の公共を守る。

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時にムーア監督の作品は「主観的すぎて、ジャーナリスティックではない」という批判を受けることもありますが、それに対してどんな反論をお持ちですか。

僕は完璧な客観主義なんて存在しないと思っているんだ。誰かが客観的だと思っていること自体も、それは主観で考えた「客観性」だろう?客観報道にみせかけたプロパガンダほど、たちが悪いものはないよ。それに僕は映画監督である前に、ひとりの人間だ。

ひとりの人間、ひとりの市民として、映画を撮っているというスタンスなんですね。以前は「ブッシュ(元大統領)を打倒するまで映画を撮り続ける」とおっしゃっていましたが、いまは何を最終目標とされていますか?

目下の目標は、トランプを打倒すること。最終目標は、いい映画を撮ることだ。いま市民が立ち上がって、いい動きが生まれ始めている。「オキュパイ・ウォールストリート」とか、アフロアメリカンの「ブラック・リブス・マター」とかね。たくさんのデモや活動や展開して、何万人もの人が行動を起こした。僕の役割は、この動きをもっと発展させていくこと。一市民としてね。実際に過去作品が、そうした活動のトリガーになったという実感があるんだ。本作も「ヨーロッパだから理想的な政策ができるんでしょう」と言い始めるアメリカ人はいるよ。でも映画を観た後に、もし少しでも共感したなら、次回のPTAの集まりで「給食で、子どもに毒を与えるのはやめませんか?」と発言することだってできる。明日からできることばかりだよ。(クエンティン)タランティーノは、僕が『華氏911』でパルム・ドールを獲った時のカンヌ映画祭で審査員長だったんだけど、「僕はこれまで一度も投票したことがなかったけど、この映画を観て考えを改めたよ。ロスに戻ったら、すぐに登録して投票する。これから先もずっとだ」と言ってくれたんだ。あの言葉は、パルムドール(カンヌ国際映画祭の最高賞)より、はるかに大きな賞だと感じたし、そういう映画を撮り続けたいと思っている。

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国内での撮影を一切せずに、アメリカの問題を撮る。
それが今回のミッションだった

今回の映画は問題点に焦点を当てるのではなく、民主主義を機能させるのに優れた政策など良い面にフォーカスした作りになっていますが、その理由を教えてください。

これまで散々批評家に、ムーアは問題点ばかりあげつらって、解決策については手つかずだと言われたから、解決策だけを撮る映画と作ってやろうと思ったんだ。同時に、アメリカ国内での撮影を一切せずに、アメリカの問題を撮る、これが今回のミッションだった。

監督が影響を受けたという『ゆきゆきて、神軍』も、戦場での撮影はありませんが、まさに戦争を撮った作品でした。まったく違うタイプの映画ではありますが。

それは考えていなかったけど、その影響はあるのかもしれない。自分がこれまでに撮った全作品は、『ゆきゆきて、神軍』の影響を受けていると言っても過言ではないからね。『ゆきゆきて、神軍』は、いまもまだ変わらず、生涯観たドキュメンタリー映画の中で不動の1位だ。原一男監督とはお話をさせていただいたことがあって、非常に光栄だった。本当にすばらしい映画監督で、僕は自分が初監督作品を撮るよりずっと前にアメリカン・フィルム・インスティチュートに行って、彼の映画を観て、すごく影響を受けたんだ。僕はアメリカで彼の映画をもっと上映したい。アメリカ人が観るべき作品だと思っている。

でも、そうした映画に興味を持つ層って、どのくらいいるでしょうか。監督が指摘されているように、アメリカには他国への興味が薄く、排他的な文化があるとか…。

まさにそうなんだ。自分が少数派だという自覚はあるよ。実際にアメリカ人の70%はパスポートを持っていないし、外国に行ったことがない、だから世界の情勢に興味がないし、ほかの国の人たちがどんな生活をして何を考えているのか知らない。それだけ視野が狭いから「俺たちが一番で、俺たちが正義で、世界の中心だ」と思っている人は多い。でもそれは事実間違っているし、古い考え方だけじゃなく、独裁的で非常に危険な考えだ。でも僕の作品はアメリカの保守層にこそ、気に入ってもらえると思っているんだよ。なぜなら、僕はアメリカという国を愛しているし、なんとかよくしたいと思っているからね。この映画を作ろうと思ったきっかけも、僕は19歳で大学を中退した後、ユーロパスで数ヶ月ヨーロッパを旅したことから始まっている。でもスウェーデンにいる時に、足の指を折ってしまったんだ。それで現地の病院に行って、治療費を支払おうとしたら、「お金を払う必要はない」って言われて、意味不明だったんだよ! ヨーロッパを旅している間に、そんな風に驚かされたことがたくさんあって、「なんて素晴らしいアイディアなんだろう」と思うのと同時に、「どうしてアメリカでは、こうしたシステムが導入出来ないんだろう?」と単純にすごく不思議だった。

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でも、物事も時代も変わる。きっと、改善できるはずだ

しかも映画の中で、欧州の人たちは「この素晴らしいアイディアや政策は、すべてアメリカから学んだ」と言っていますよね。今回監督が試みたのは、“民主主義が失われた後のアメリカ”ではなくて、欧州の政策を通じて、“民主主義が機能していた、かつてのアメリカの姿”を浮き彫りにすることだったのでしょうか。

まさにそうだね。ノルウェーの刑務所に行った時は、椅子から転げ落ちそうになったよ(笑)殺人で服役している囚人が包丁を持って料理ができたり、刑務所が牢屋じゃなくて一軒家タイプだったり….。でも世界でも最も低い再犯率を誇っている。そうした刑務所の核となった考えが、アメリカからきていたと聞いて、ますます信じられない気持ちでいっぱいになった。もちろん完全に過去の時代に戻ることはできない。でも過去から学んで、かつて勝ち取った民主主義がいまどうなっているかを、改めて向き合って、新しい道筋を探すことが必要だと感じている。“自由の国アメリカ”はもう過去の幻想だ。ここから何ができるかにかかっている。

「世界侵略」を終えたいま、その可能性と希望は感じていますか?

そう思いたいし、信じたい。いずれにしても、変えていくしかない。だって、現状がこんなにお粗末で(苦笑)問題だらけなんだから。でも物事も時代も変わるんだよ。ベルリンの壁の崩壊も、ネルソン・マンデラの釈放も、ひと昔前は、そんなことが起きるなんて、まるで信じられなかった。この1年で起こったアメリカ国内だけのニュースを観てもそうだ。きっと改善できる。若い人たちが変えてくれるだろう。

取材・文 / 鈴木沓子

写真/映画『マイケル・ムーアの世界戦略のススメ』より
(©2015, NORTH END PRODUCTIONS)

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映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』

TOHOシネマズ みゆき座、角川シネマ新宿ほか全国公開中

アメリカが誇る最終兵器がついに世界に向けて発射された!!!
これまでの侵略戦争の結果、全く良くならない国・アメリカ合衆国。米国防総省の幹部らは悩んだ挙句、ある人物に相談する。それは、政府の天敵である映画監督のマイケル・ムーアであった。幹部らの切実な話を聞き、ムーアは国防総省に代わって自らが“侵略者”となり、世界各国へ出撃することを提案。そして空母ロナルド・レーガンに搭乗し、大西洋を越えて一路ヨーロッパを目指すのだった。世界のジョーシキを根こそぎ略奪するために――。

監督・製作・脚本・“侵略”:マイケル・ムーア
原題:WHERE TO INVADE NEXT
2015年アメリカ映画 119分 
配給:KADOKAWA 
オフィシャルサイトhttp://sekai-shinryaku.jp/

(c)2015, NORTH END PRODUCTIONS