LIVE SHUTTLE  vol. 29

Report

斉藤和義 @日本武道館 2016.5.22 「風の果てまで」

斉藤和義 @日本武道館 2016.5.22  「風の果てまで」
昨年11月からスタートした、全都道府県を回る斉藤和義史上最長・最大の67本に及ぶツアー「KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで”」が終了した。 半年に渡る長い旅の中で研ぎ澄まされたステージは、斉藤自身の存在感を際立たせながら、バンドや観客との特別な一体感を生み出していた。 ツアー終盤の5月22日、日本武道館で行われたステージの様子をレポートする。

文 / 平山雄一 撮影 / Koh Sasaki


積極的なライブ活動とコンスタントな楽曲リリースで、斉藤和義は音楽シーンの中で独特のポジションを築いてきた。殊にライブは斉藤というアーティストへの信頼感の核となっていて、彼の赤裸々な表情とそこから紡ぎ出される音楽に直に触れることができる特別な場なのだ。
近年の斉藤の主なツアーとしては、2011~2012年には全国40都市40公演、2013~2014年には55都市62公演があり、今回のKAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで”は67本を数える。これほど多くの本数のツアーを行なうアーティストは稀だ。
総動員数を優先するアリーナやスタジアム・ツアーは、大がかりな演出などの楽しみがあるが、斉藤が優先するのはあくまで“生身”。いろいろな場所に自ら足を運び、直接、歌を届ける。自分の日常感覚に即したパーソナルな歌を作る斉藤には、このやり方があっている。その意味で言えば、武道館はツアー中、最大規模の会場となる。しかし席を埋めたオーディエンスたちの表情に、不必要な緊張はない。親しい友人が歌うのを待っているかのような雰囲気だ。それは武道館を“普通のホール”にしてしまう、斉藤のポテンシャルの大きさを表していた。
さあ、間もなく61本目の開演だ。

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ステージには昔のウエスタン映画の舞台となった“荒野”をイメージしたようなセットが組まれている。暗転になると、荒野を吹く風と響き渡る馬のひずめの音のSEが聴こえてきた。バックはドラム、ベース、ギター、キーボードの4人。ドラムセットの背後に“TO THE END OF THE WIND”と書かれたフラッグが掲げられる。シルエットの斉藤の動きに、いちいち歓声が上がる。
エレキギターの刻みから始まったのは、最新アルバム『風の果てまで』の1曲目「あこがれ」だった。「誰かの真似をして生きなくていい」とつぶやく歌詞が、かげりを帯びたメロディに乗る。人に押しつけるわけではないが、聴いていると心に引っかかるのが斉藤の言葉の特徴だ。その背中を押す玉田豊夢の力強いドラムと、グルーヴィーな山口寛雄のベースがいい。
60本を越えるライブを重ねてきたバンドが爆発したのは、次の「ワンダーランド」だった。照明が明るくなり、「ヘイ、武道館!」と斉藤が叫ぶと、5人がひとつになったタイトなバンド・サウンドが大会場を満たす。ステージの全員がコーラスをすると、オーディエンスも歌いだす。たった2曲で密なコミュニケーションが実現する。「単刀直入」とはこのことだ。
終わると斉藤は、ギターを弾きながら「長い長いツアーをやってるところです。武道館を楽しみにしてました」と話し出す。早くもバックメンバーの紹介だ。ベースの山口はウッドベースに、ギターの真壁陽平はバンジョーに持ち替えている。
「懐かしいヤツ、やります」と、サードシングル「君の顔が好きだ」(94年)が始まる。ラグタイム風の曲調に合わせて、キーボードの堀江博久は西部劇のバーのピアニストのように、ボードビリアンみたいなアクションで弾く。堀江は単に楽器が上手いだけでなく、ステージでの表現全般に長けている。これもまたパーソナルな歌を得意とする斉藤にとって、強い味方であることは間違いない。斉藤とメンバーのレベルの高いパフォーマンスは、オーディエンスをどんどん魅了していく。

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ここで斉藤は、「じゃ、最後まで楽しましてもらいますんで」と言った。この言葉に斉藤のライブ哲学が表れている。斉藤はライブを楽しみに来ている。もちろんオーディエンスを楽しませにも来ているのだが、まずは「ステージ側の自分が楽しくやる」。その楽しんでいる姿を見て、「客席側も楽しんでほしい」と言うのだ。だから「楽しくライブをやる」のが、斉藤の誠意だ。このツアーで彼は60回以上にわたってそれを繰り返してきた。最終盤の武道館でも、その誠意はまっとうされていた。

そう思うと、斉藤の歌が耳にストレートに飛び込んでくる。♪命まで取られるわけでもないだろ 好きなことは譲っちゃダメさ♪(「攻めていこーぜ!」)、♪傷口なんて 舐めれば直る それより行きましょ♪(「Player」)、♪歩こう 時には手も繋いで 踊ろう もう十二時は過ぎたけど♪(「シンデレラ」)など、アルバム『風の果てまで』からの曲が強いメッセージを伴って聴こえてくる。
この日、斉藤は羽根飾りを付けたテンガロンハットをかぶって歌っていた。そのいで立ちとアーシーなサウンドから僕が連想したのは、ボブ・ディランが1975年に行なった伝説のツアー“ローリング・サンダー・レヴュー”だった。
ミュージシャンばかりでなく、詩人や俳優を引き連れて小さな町を旅したこのツアーは、巨大産業化するロックに対しての批判も含まれていた。言い方を変えれば、個人と個人が音楽を通して交流することを取り戻そうとした試みだった。
武道館に設置された荒野のセットと、そこを旅するミュージシャンを彷彿とさせるセットリストは、斉藤のテンガロンハットとあいまって、彼のパーソナルな歌の気分を象徴していると僕は感じた。

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そんなライブのハイライトは、中盤の「青い光」と「Summer Days」だった。
斉藤は楽器を持たずにスタンドマイクの前に立つ。ヘビーなサウンドをバックに、「青い光」を朗読のように歌う。♪幸せのイメージ♪と言いながら、バックの音のイメージはかなり不気味だ。さらには斉藤自身が、途中で超攻撃的なトランペット・ソロを取る。
極め付けは真壁のギター・ソロだった。真壁は藤井フミヤのニューアルバムにも起用されている注目のギタリストで、強烈なロックテイストをサウンドに加えるのが得意だ。この曲でもソロで幻想的なムードを醸し出していた。
2000年に発表された「青い光」は、前年に起きた臨界事故を思わせる内容を持っている。そんな楽曲の鋭いメッセージを5人が共有して、全霊を込めて表現する迫真の演奏となった。
続く「Summer Days」は、一転して明るいカントリー・ロック。過ぎ去った青春の日々を取り戻そうと、爆音でロックンロールを鳴らす歌だ。堀江はキーボードを離れて、マンドリンを掻き鳴らす。社会性の強い「青い光」から、バカ騒ぎの「Summer Days」への転換は、本当に見事だった。♪キミに届け!♪と歌いながら、5人が客席を指さしてストップモーションするシーンで、オーディエンスは大喜びする。
そうした流れの中で歌われた「やさしくなりたい」は、単なるシングルヒット以上に楽しいものとなる。その楽しさをダメ押しするように「何処へ行こう」では♪明日の行き先を僕等は考える それより誰よりも今夜を楽しもう♪と歌う。ラストの「時が経てば」で斉藤は、♪がんばれ 負けるな~時が経てば笑っちゃうことだってあるんだから♪と歌って本編を結んだのだった。

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ふと横の客席を見ると、今年3月の武道館イベント“ROOTS 66 -Naughty 50-”で共演したメンバーの何人かが、大笑いしながら斉藤に拍手を贈っている。人生の裏表をひとつのステージで表現するダイナミズムこそ、斉藤のライブの醍醐味だ。50歳っていいもんだなあ。

アンコールで斉藤は、髪を後ろで束ね、白いTシャツ姿ですっきりと現れた。開演してから2時間半になろうというのに、「アォー! ウワー!」と叫んで元気そのものだ。歓声を返す観客の4分の3ほどを占める女性のほとんどは40代だろうか。とにかく斉藤に負けずに元気だ。
アンコールで披露した新曲「マディウォーター」は、ドロドロの不倫テレビドラマの主題歌だ。ドロドロ=マディを、斉藤がリスペクトするブルースマンのマディウォーターズにかけたタイトルが斉藤らしい。切ないロックが熱い会場にしみこんでいく。
最後の最後は底抜けにハッピーな「ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー」。堀江が“バレルハウス(安酒場)ストンプ”というスタイルのピアノで盛り上げると、玉田はスティックを放り投げて素手でドラム・ソロを取る。ステージも客席も笑顔であふれかえっている。「最後まで楽しましてもらいますんで」という言葉通りのエンディングとなった。

「ありがとう、またね~」と斉藤が別れの挨拶をすると、ステージ上のスクリーンに「股ねん」という文字が映し出された。3時間にわたるライブは、いい感じに脱力した幕切れとなった。
終わった後、僕はなぜか本編ラストの「時が経てば」の♪時が経てば笑っちゃうことだってあるんだから♪というフレーズを思い出していた。きっとこれが斉藤のやさしさと距離感なんだと思った。それだけで満足な夜だった。

KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで” セットリスト

01.あこがれ
02.ワンダーランド
03.君の顔が好きだ
04.攻めていこーぜ!
05.ウサギとカメ
06.夢の果てまで
07.Player
08.劇的な瞬間
09.恋
10.シンデレラ
11.青い光
12.Summer Days
13.アバリヤーリヤ
14.さよならキャディラック
15.傷口
16.やさしくなりたい
17.歩いて帰ろう
18.何処へ行こう
19.時が経てば

EN01.Endless
EN02.マディウォーター
EN03.ずっと好きだった
EN04.ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー

リリース情報

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マディウォーター
2016.6.8 ON SALE

【初回限定盤(2CD)】
VIZL-1049/1,800円+税
【通常盤(CD)】
VICL-37349/1,200円+税

■収録曲
Disc 1
01.マディウォーター
02.Call me Now
03.月光
(LIVE TOUR 2015-2016 風の果てまで at よこすか芸術劇場 2016.2.21)
04.ワッフル ワンダフル
(LIVE TOUR 2015-2016 風の果てまで at なら100年会館 2016.2.24)

Disc 2(※初回限定盤のみ)
01.FIRE DOG
(LIVE TOUR 2015-2016 風の果てまで at 和歌山県民文化会館 2016.3.31)
02.BAD TIME BLUES
(LIVE TOUR 2015-2016 風の果てまで at 福岡サンパレス 2016.2.14)
03.彼女
(LIVE TOUR 2015-2016 風の果てまで at 倉敷市民会館 2016.1.25)
04.印象に残る季節
(LIVE TOUR 2015-2016 風の果てまで at 帯広市民文化ホール 2015.12.3)
05.歌うたいのバラッド
(LIVE TOUR 2015-2016 風の果てまで at 中標津町総合文化会館 2016.4.13)

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風の果てまで
発売中

【初回限定盤A(2CD+DVD)】
VIZL-1020/4,400円+税
【初回限定盤B(2CD)】
VIZL-1021/3,500円+税
【通常盤(CD)】
VICL-64600/3,000円+税

■収録曲
01.あこがれ
02.さよならキャディラック
03.傷口
04.攻めていこーぜ!(Album ver.)
05.アバリヤーリヤ
06.夢の果てまで
07.小さなお願い
08.恋
09.シンデレラ
10.時が経てば
11.Player
12.Endless(Album ver.)

■特典CD収録曲(初回限定盤A・B付属)
01. NO!
02. 明日も今日の夢のつづきを
03. ワンダーランド

■特典DVD収録内容(初回限定盤A付属※VIDEO CLIP収録)
01.愛に来て
02.やぁ 無情
03.おつかれさまの国
04.ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー
05.COME ON!
06.ずっと好きだった
07.Stick to fun! Tonight!
08.ウサギとカメ
09.やさしくなりたい
10.月光
11.ワンモアタイム
12.Always
13.かげろう
14.ひまわりの夢
15.カーラジオ
16.攻めていこーぜ!

プロフィール

斉藤和義


1966年6月22日生まれ。栃木県出身。1993年8月25日にシングル「僕の見たビートルズはTVの中」でデビュー。翌年にリリースされた「歩いて帰ろう」で一気に注目を集める。代表曲である「歌うたいのバラッド」、「ウエディング・ソング」、「ずっと好きだった」、「やさしくなりたい」は様々なアーティストやファンに愛される楽曲となっている。自他共に認めるライブアーティストであり、弾き語りからバンドスタイルまで表現の幅は広い。また、自らの音楽活動に加え、様々なアーティストへの楽曲提供、プロデュース等も積極的に行う。2011年にはドラマー中村達也とのロックバンド、MANNISH BOYSの活動をスタート。これまでに2枚のオリジナルアルバム『Ma! Ma! Ma! MANNISH BOYS!!!』『Mu? Mu? Mu? MANNISH BOYS!!!』のリリースをはじめ、全国ツアーも行っている。

公式サイト:http://www.kazuyoshi-saito.com/

vol.28
vol.29
vol.30