山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 48

Column

クイーン / 誰かのようになることはない

クイーン / 誰かのようになることはない

2018年も暮れようとするとき、映画館で史上に残る大ヒットを続けている作品がある。
70年代から80年代にかけて活躍したクイーン、とくにフレディ・マーキュリーの生涯にスポットを当てて描いた『ボヘミアン・ラプソディ』。
映画館には当時のファンはもちろんのこと、若い世代、新たなファンも詰めかけ、11月下旬のオリコン週間アルバム・ランキングでは映画のサウンドトラックが1位に輝き、アルバム『ジュエルズ / Jewels』、『グレイテスト・ヒッツ / Greatest Hits』も同時にトップ10ランクイン。
史上初の記録を更新中のクイーンについて、山口洋が初めて書き下ろす。


編集部からのリクエストはまさかのクイーン。でもタイミングよく話題の『ボヘミアン・ラプソディ』も観たことだし、記憶を辿りながら書いてみたい。

1974年、僕は11歳。小学校5年か。ベトナム戦争のニュースをようやく聞かなくなって、小さなトランジスタラジオをイヤフォンで聴くことが、世界と僕とを繋ぐ唯一の細い糸だった。性や音楽に関すること、世界のこと。その細い糸から懸命にたぐり寄せた。とにかく、この小さな町を出ないまま、一生を終えるのはごめんだった。

ある日、ラジオから「キラー・クイーン」が流れてきた。それまでにこころにヒットしていたのはアメリカの「金色の髪の少女」やカーペンターズ。どちらかというと朴訥とした音楽。そんな日々に黒船の如くやってきた「キラー・クイーン」は違う惑星の音楽のように聞こえた。

なにより、歌い方がヘンだ。鼻詰まりのような声でいて、声域が広い。一度聞いたら忘れられない。そして、どんな和声なのか今でも分析できない独特なコーラス。ザ・ビーチ・ボーイズやCSN&Yと並んで、クイーンのコーラスには独自の響きがある。ちょっと湿気を帯びた古城のカーペットの匂いのような(失礼)。ギタリストの演奏も、それまで知っていたエレクトリック・ギターとはぜんぜん違う。ハーモニーが聞いたことがない類のもので、歪んでいるのに粗暴さはなく、育ちの良さがにじみ出る。そして総合的に云って、曲が醸し出す雰囲気がそこはかとなく卑猥。小学生には十分エロかった。

虜にはならないまでも、圧倒的なオリジナリティー。その頃から僕は本屋で音楽雑誌『ミュージック・ライフ』を立ち読みするようになった(失礼)。当時取り上げられていたのはクイーン、キッス、エアロスミス、エンジェル、ベイ・シティ・ローラーズなど。クイーンは頭抜けて音楽的クオリティーが高かった。

翌1975年。忘れもしない「ボヘミアン・ラプソディ」がラジオから流れてくる。なんだか、とんでもないものを聴いてしまった。好きかと問われるなら、決してそうではないけれど、きっと一生忘れられない。ひどくタチが悪いけれど、どうしても忘れられない女性、みたいな。

僕は成長が遅く、同級生たちが成長期に入り、声変わりをして、ヒゲが生えて男になっていく中でも、身長が伸びず、肌はキメ細かくスベスベのまま、体毛なんてまったく生えてこない。それがコンプレックスだった。

ある日、バスターミナルのトイレで用を足そうとしていたら、中年の男性に声をかけられた。彼は小指に怪我をしていて、そこに僕の小水をかけて欲しいと懇願する。そうすれば治りが早いから、ボクお願いね、と。何のことなのか、よくわからないけれど、使命感に駆られて、僕は男が云うとおりにした。瞬間、男は小さくうめき声を漏らした……。

いったい何だったんだろう?

フレディ・マーキュリーは何もかもが独特だった。セクシュアル・マイノリティーとして、僕が初めて意識した存在だった。気持ち悪いと感じる隙を与えないくらいフレディは突き抜けていた。クイーンが来日し、福岡にやってきた。ともだちは商店街で博多人形を買い求めるフレディを目撃したとコーフン気味に僕に話した。その話を聞いたとき、あの男の真意を僕は不意に理解した。そうか、世界にはこういう道もあるのか、と。

その男を憎む気には到底なれない。

フレディは猛烈に生きて、流れ星のように燃え尽きた。映画で描かれたように鮮やかな人生だった。僕がクイーンを熱心に聞いていたのは小学校高学年なので、何を歌っているのか、まったく知らなかったから、映画で初めてそれを知ることになる。

どの曲も、まるで自身に向かって歌っているかのようだった。自分を鼓舞するように、孤独を埋めるかのように。愛を歌い、愛を求めて。涙腺を刺激された。美しかった。人として、真のアーティストとして。気高く、醜く、美しかった。

物事をどの角度から捉えるか、考え方ひとつで結果は変わる。欠点は個性になり、コンプレックスは生きるための力へと変化する。フレディは愛の枯渇を音楽に変え、マイノリティーや無数の人間たちを励ました。

彼が人生をまっとうした年齢を遥かに超えて。あなたや僕という存在は世界に対して何ができるのか?

誰かのようになることはない。あなたも僕も。この世界で唯一の存在。それを無駄にすることは生への冒涜だと、フレディは鼻詰まりの声で叫んでいる気がする。

感謝を込めて、今を生きる。


クイーン / Queen:ブライアン・メイ(guitar,vocal / 1947年7月19日生まれ)とロジャー・テイラー(drums,pervussion,vocal / 1949年7月26日生まれ)が在籍したグループ“スマイル”を母体に英国ロンドンで結成。1970年にスマイルが自然消滅した後、フレディ・マーキュリー(vocal,keyboards / 1946年9月5日生まれ)を迎え、1971年2月にオーディションでジョン・ディーコン(bass / 1951年8月19日生まれ)が加入、“クイーン”を名乗り活動を始める。
フレディのアイデアによると言われるフランス貴族風のイメージを打ち出し、1973年初めにシングル「炎のロックン・ロール / Keep Yourself Alive」でデビュー。6月には1stアルバム『戦慄の王女 / Queen』を発表。オペラの影響も感じさせるフレディの個性的なヴォーカルをはじめ独創性に富んだバンド性は当時かなりショッキングなもので、本国イギリスでは賛否両論の中で迎えられた。1974年に『クイーンII / Queen II』(全英5位)、同年11月に『シアー・ハート・アタック / Sheer Heart Attack』(全英2位)を発表。日本での人気に加え、本国での人気も急上昇。特に『シアー・ハート・アタック』からのシングル「キラー・クイーン / Killer Queen」が全英2位にランクされる大ヒットとなったことで、名実ともにトップ・クラスのグループとしての地位を得ることに。
イギリス、アメリカ、日本をはじめ、世界中で成功したバンドのひとつであり、これまでに15枚のスタジオ・アルバム、その他多くのライヴ・アルバムやベスト・アルバムを発表。アルバムとシングルのトータル・セールスは2億枚以上。1991年にフレディが死去してからも、残されたメンバーによるクイーン名義での活動は断続的に続いており、ブライアン・メイとロジャー・テイラーのふたりが、2005年から2009年までポール・ロジャースと組んで“クイーン+ポール・ロジャース”として活動を行った。その後はアダム・ランバートを迎えた“クイーン+アダム・ランバート”としての編成での活動も行っている。2001年にはロックの殿堂入り。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第52位。

UNIVERSAL MUSIC JAPAN オフィシャルサイト

『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)/ Bohemian Rhapsody(The Original Soundtrack)』 [SHM-CD]
Universal Music UICY-15762
記録的なヒットを続けている映画『ボヘミアン・ラプソディ』(20世紀フォックス配給 / 2018年11月9日(金)〜日本公開)のオリジナル・サウンドトラック。伝説的なライヴ・エイドでの未発表演奏曲、キャリア全体にわたっての稀有なライヴ・トラック、選りすぐりのスタジオ・レコーディング曲、バンドによる名曲の数々が新ヴァージョンとなって収録。全世界で第1位に輝いた楽曲が11曲含まれるなど豪華な内容で構成。11月28日発表のオリコン週間デジタルアルバム・ランキングで1位を獲得した。

『シアー・ハート・アタック / Sheer Heart Attack』 [MQA/UHQCD]
Universal Music UICY-40253
初めて全英2位を記録した「キラー・クイーン /Killer Queen」を収録。世界的な成功への第一歩となった3rdアルバム。ステージでの定番として人気の高いR&Rナンバー「ナウ・アイム・ヒア / Now I’m Here」など全13曲を収録。「ハイレゾCD名盤シリーズ」として発売中。(1974年発表/2011年マスター)

『オペラ座の夜 / A Night At The Opera』[MQA/UHQCD]
Universal Music UICY-40190
英米1位を獲得するなど、4作目にして世界を制したクイーンの代表作。フレディ・マーキュリーの美学を凝縮したロック・オペラ「ボヘミアン・ラプソディ / Bohemian Rhapsody」、ジョン・ディーコンの代表曲「マイ・ベスト・フレンド / My Best Friend」等、各メンバーの個性が発揮された楽曲が精緻なトータル性の中に収まる。「ハイレゾCD名盤シリーズ」として発売中。(1975年発表/2011年マスター)

『グレイテスト・ヒッツ / Greatest Hits』 [SHM-CD]
Universal Music UICY-77921
「キラー・クイーン / Killer Queen」、「ボヘミアン・ラプソディ / Bohemian Rhapsody」、「伝説のチャンピオン / We Are The Champions」、「地獄へ道づれ / Another One Bites The Dust」など、1974年から1980年にかけてのシングル・ヒットを集めた歴史的ベスト・アルバム。完全生産限定盤の紙ジャケット仕様も発売中。(1981年発表/2011年マスター)

『ジュエルズ / Jewels』 [SHM-CD]
Universal Music UICY-15269
2004年にドラマ『プライド』で使われた「I Was Born To Love You」をはじめ、代表曲16曲を収録。160万枚を超すセールスを記録したアルバムを発売10周年を記念し、高音質(SHM-CD)で復活。(2004年発表/2011年マスター)

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。東日本大震災後は、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと“MY LIFE IS MY MESSAGE”として、福島県相馬市の人たちと希望のヴァイブレーションを起こすイベントを続けている。2018年4月から池畑潤二(Drums)、細海魚(Keyboard)と新生HEATWAVEの活動を開始、2018年は全3回の“HEATWAVE sessions”を行い、いよいよ12月19日からは大阪を皮切りにHEATWAVE TOUR 2018“Heavenly”がスタートする。HEATWAVE結成40周年となる2019年に向け、現在精力的に楽曲制作を続けているが、ツアーでは新曲も披露される予定。17歳から現在に至るまでの激レア&貴重音源満載の『山口洋の頭の中のスープ』好評発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

HEATWAVE TOUR 2018 “Heavenly”
12月19日(水)大阪 バナナホール
12月20日(木)福岡 Gate’s7
12月22日(土)東京 duo MUSIC EXCHANGE
詳細はこちら

vol.47
vol.48
vol.49