Interview

大黒摩季を捨てた瞬間から始まった制作とは? 気迫さえ伝わってくる衝撃的な発言とともに、8年ぶりのニューアルバムへの意欲を訊く。

大黒摩季を捨てた瞬間から始まった制作とは? 気迫さえ伝わってくる衝撃的な発言とともに、8年ぶりのニューアルバムへの意欲を訊く。

8年ぶりとなるニューアルバム『MUSIC MUSCLE』は、2枚組27曲収録の超意欲作。それぞれ「FIGHTING MUSCLE」、「RESTING MUSCLE」と題されたDiscは、パワフルな楽曲と内省的な楽曲が並んでいて、人間としてのキャリアを積んだ大黒摩季のメッセージのスケールの大きさを感じる。誰に何を伝えるか。ギリギリまで焦点を絞り込んだ音楽作りは、大黒の気迫さえ伝わってくる。それは“復活”というより、新たな大黒摩季の“誕生”と言っていい。
このインタビューでは、久々のアルバム制作に臨んだ彼女の心の内にスポットを当ててみた。すると、衝撃的な発言が次々に飛び出してきたのだった。

取材・文 / 平山雄一

大黒摩季としての生活からバッサリ下りたその瞬間から、そういう歌の芽はあったんじゃないかな、きっと

『MUSIC MUSCLE』のアルバム制作の始まりは、どんな感じだったんですか?

今、思い起こせば、このアルバムの始まりって、人生で初めて大黒摩季というものを捨てた瞬間からですね。 

えっ?! それって、みんなが90年代に持っていた大黒摩季のイメージを捨てた瞬間っていうことですか?

いや、イメージということではなくて、女の人生を生きるために、大黒摩季っていう歌手を捨てた。不妊や身体の治療をするために、歌を、大黒摩季という活動自体を捨てざるを得なかったの。オペをするということは、歌えなくなるリスクがあったわけで、それでも愛に生きたわけですよ。その瞬間からこのアルバムは始まったんじゃないかなとは思います。じゃなかったら、こんな歌詞、書かないですもん(笑)。

歌えなくなるリスクがあった?

そう。私の筋肉は“高音筋”って言っていいぐらい特別なもので、今回のアルバム・ジャケットに写ってる、モッコリ背筋が高音筋。そして肝になる下腹部の腹筋が、高音を支える中低域と呼吸筋。それをオペで切ってしまうと、高くて強い声が出なくなるリスクがあった。蚊の鳴くような声の大黒摩季なんか、まったくニーズがないでしょ?(笑)。「もう歌手は無理」という次元に一回行って、すべてが、いわゆる“余生”=新たに頂いた人生、これからはすべてが恩返し、みたいな気持ちになったという。

今回のアルバムは曲数が多いから、全曲には触れられないんだけど、「女はつらいよ。」と「あなたは私の苦しみがわかりますか」と「東京 ロケンロー」と「泣いていいんだよ」について、どうしても聞きたかった。

だからそれが、大黒摩季を捨ててなかったら、出来なかった曲ですね。

ああ、そういうことか。

うん。オペして、女性としてドップリ生きてみて、母の介護をして。大黒摩季としての生活からバッサリ下りたその瞬間から、そういう歌の芽はあったんじゃないかな、きっと。大黒摩季が主婦としてゴミ出ししたり、家事をしたり、昼過ぎになったら母のリハビリに付き添いに行って。「毎日同じことやるのってこんなに大変なの?」っていう。時間が決まってるほうが楽だと思ったんだけど、もう強迫観念しかないの。大変だった。でもそれをやっといて良かったですけどね。

楽しみは夜中の“iTunes王様買い”みたいな感じだった(笑)。それでも結局は音楽に癒やしてもらってて

「泣いていいんだよ」はどんなふうに出来ていったの? これを聴いていて、大黒さんは「自分に言ってるのかな?」って思った。

もちろん、自分ですよ。それこそ「女はつらいよ。」じゃないけど、そんな茨の道を自分で選んだ上で、失敗を繰り返してた。だから切り札もなく、大黒摩季を要求されるような場に行きたくないから、友達すらも会ってなかったし。友達に会えば、必ず「いいよねえー、夢見ていられる人は」とか言われちゃうし、コンサートに行くと「摩季姉、摩季姉、今日の私の歌、どうだった?」って聞かれるし。「今、人に意見できるあたしじゃないんだよなあ……」みたいなところもあった。

ライブをやった人から感想を聞かれてね。

うん、そう。まず人のライブ観ると、変なところで悔しくなって、泣けてくる。いいライブだなと思えば思うほど、「私だったらこういうふうにやるのになあ」とかね。「私はもう二度とライブをできないんだろうか」って、人のライブを観て悩むだけでももったいないじゃないですか。もうなんか、「誰にも会いたくない」みたいな感じだった。

引きこもっちゃうよね。

うん。少しおろおろしてたんだけど、キッパリ決めてからは、八百屋さんや酒屋さんとちゃんと立ち話もするようになり、クリーニング屋さんのカードのポイントを溜めて使えるようになり、イオンにも足繁く通うようになり、ホントの“主婦”になりました。すごく大変だったけど、相方に毒づくのも野暮だし、私が逆ギレしてしまうと行き場がない。物欲でもあれば買物して発散できたんでしょうけど、物欲はないし。結局、夜中にみんなを寝かせてからが、私の唯一の自由時間で。楽しみは夜中の“iTunes王様買い”みたいな感じだった(笑)。それでも結局は音楽に癒やしてもらってて、でも自分で決めたことだから愚痴は言えないし、強がりながらどこかで、「誰か今、私を後ろ抱っこしてくれればいいのに!」と思ってたんですよ(笑)。そして「後ろ抱っこしてくれるような曲があったらいいのに!」が、「泣いていいんだよ」です。

なるほど!

私、飲みに行って「泣いてもいいんだよ」って言われても、泣けないの。かと言って、男の人に本当に後ろ抱っこをされて「泣いてもいいんだよ」って言われて、ゴォォォーッて泣いてグチャグチャになるのもどうだろうっていう躊躇が入って本当に泣けないから、「やっぱり音楽で泣かせてくれる曲が要る!」って思ったんですよ。

あはは、大黒さんらしい。で、この歌で別の意味で後ろ抱っこしてくれたのが、ギターのオグ(小倉博和)ちゃんだった?(笑)

そう(笑)。オグちゃんに「世界でいちばん優しくてあったかいアコギを弾いてください」ってオーダーしたの。

正解!

ただ「泣いていいんだよ」は、そういう曲があったらいいなとは思ってたけど、今回のアルバムのラインナップに入れてたわけではなくて。でも「FIGHTING MUSCLE」の曲が揃ってきたら、全部濃すぎて疲れた(笑)。さすがにファイティングし過ぎでしょって。「頑張った心を許してくれる曲がないとダメだな」って思ってたら、「あ、後ろ抱っこの曲が必要だ!」って思ったの(笑)。で、空いてるスタジオで曲作りやってたら、そのまま詞も全部出てきちゃった。いわゆる“降り曲”。ポローンと詞も曲も全部降りてきて、iPhoneで録って。でもね、その時点でCDに収録できる時間がギリギリだったから、「よし、3分以内でいってみよう」みたいになって。オグちゃんを呼んで、「せーの」で録ったの。オグちゃんが、「後ろ抱っこの種類はどうする? ギュー、がいい? それともフンワリがいい?」とか言うから、「その中間がいい」って私が言って(笑)。歌もギターも最初のテイクがいちばん良かった。ものの2時間で完成しちゃった。神曲ですね。

私の心の中に、人生の深度が付かないと鳴らない魔法の笛みたいなものがあったとして、今まで鳴っていなかったものがある日ひょっこり鳴り出したりしてきたので

次は「泣いていいんだよ」の対極にある、「東京 ロケンロー」の話をしましょう。今回のアルバムではいろんなミュージシャンとコラボしていて、「東京 ロケンロー」は麗蘭=仲井戸麗市&土屋公平とやっている。大黒さんとの組み合わせに驚いた。

私、麗蘭の2人、大っ好きなの。リスペクトをしていて、それぞれCHABOさんがRCサクセションだった頃とか、スライダースの蘭丸だった頃とか、そっちも大好きだけど、麗蘭でやってるのが好きなの。で、一緒にやりたいって麗蘭の事務所の人に相談したら、「本気でやんなさいよ」って言われて、電話を切ってそのまま神戸のチキンジョージにライブを観に行ったり。せっせとあししげく匍匐前進しながら、信頼してもらえる場所まで、そうして今回一緒にやってくれることになって。

麗蘭のツアーだったんだね。

そうそう。で、行って救われた。CHABOさんは飄々としながら、スパイスの効いた言葉をポロンと落としてくれた。公平さんは、笑いながら粛々と助けてくれる人で。スケジュールも含めて「摩季ちゃんだったら」って言ってくれて、夢が叶ったんです・・・ほら、お金を積んでも来るような人たちじゃないから。

そうだね。

そう、気持ちがないとやらない人たちだから。「ファンとしてずーっとライブ行ってて良かったあ!」みたいな。それでスタジオに来てくれることになって。

歌詞と曲は?

スピリチュアルな歌って、歌える年齢になるまで作っちゃいけないと思ってたの。自分が薄っぺらいうちはやっちゃいけない。それは「A Natural Woman」を歌うのもそうだし、「THE ROSE」も、“女力”がないと全然鳴らない曲だから。そういうのは自分の中で封印してた。だから今回、自分の中で、「親心ブルース」とか「女はつらいよ。」とかシャンソンの「あなたは私の苦しみがわかりますか」とか、「東京 ロケンロー」もそうなんだけど、そういう“観念ソング”は私の中でまだやっちゃいけないと思ってたものなんですよね。

それを今回、やろうと思った?

そう、自分への覚悟と答えです。“観念ソング”は、人生の酸いも甘いも含めて、深度がないと共鳴しない。私の心の中に、人生の深度が付かないと鳴らない魔法の笛みたいなものがあったとして、今まで鳴っていなかったものがある日ひょっこり鳴り出したりしてきたので。最高のご褒美。だから今、すごい成長期なんですけど。

ははは! 自分で“成長期”って言う! いいですねえ。

そうそう、人生でいちばん成長期なんですよ。体のコンディションが良くなったのも、生まれて初めてぐらいの感じ。若いときから病気があって、それがどんどん悪くなってきていたので、高校生のとき以来の、どこも痛くない、どこもつらくない、歌のことだけ考えられる時間帯っていうのが幸せでならなくて。

「東京 ロケンロー」に関しては、心も体調も含めて2人とやる準備が整ったっていうことなのかな。

そうそうそう。だから三つ指ついて「大黒摩季、やっと準備が整いました!よろしくお願いします!」みたいな(笑)。

「整いました」だね(笑)。

そしてこの歌詞――これ、詞先なんですよ。突然「今まで封印していたスピリチュアルな観念ソングをやってもいいかな、しかも麗蘭も来てくれるわけだから」って思った瞬間に、ブワーッとあの歌詞が先に出てきたんです。

それで詞先なんだ。

そう。思いの丈を書き綴っていて、普通だったらそれを推敲して歌詞にするんだけど、今回、削るのを止めたの。プリプロ用に歌詞をCHABOさんと公平さんに送ったら、「いいじゃん!このままやっちゃおうよ!」って言われて、おおよそのサビメロだけはあって、Aメロも「とりあえず弾くから乗っかって、歌いたいように歌いなさいよ」ってCHABOさんが言ってくれて、「さすがだねえ」って思いました(笑)。で、2番の、ギタリストに蘊蓄を語る歌詞を2人に歌ってほしかったんです。

はは!そうなんだ。

そうしたときに感動したのが、2人が「俺たちはまだ小僧だから歌えない。摩季ちゃんがギタリストに言ってくれる分にはいいけど、俺らはまだ自分たちが思ったギターを弾き切れてない小僧だから、ギタリストに意見はしたくない」ってお断りされた。それって、カッコ良くないですか?

カッコいい!!

ねえ!それで私が歌ったら、ちょっと説教みたいになっちゃったんですよ(笑)。

♪感情がないなら 機械でいい 音楽はただのDataだ♪っていう歌詞は面白かった!

うん。私だったらボーカリストに向かってそう言いますよ。別に勝った負けたじゃなく、言いますね。でもこの2人が「俺たちは小僧だから、言えないよ」って言ってるのって、カッコ良すぎません?

カッコいいよな。ずっと年上なのに。

そう! 反省しちゃう(笑)。

「摩季ちゃんが復活するんだったら」って言って、オグちゃんも麗蘭もTAKUYAも、ここで言い切れないくらいいろんな人が参加してくれた

このアルバムで、いろいろなミュージシャンとコラボして、自分の中のいろんなものを発見したレコーディングだったんだね。

それって、いわゆる、“ひとりバーニーズ”みたいな気分です。

セレクトショップみたいな。

そうそう。幕の内弁当っていうか。幕の内で言えば、あそこの牛しぐれを持ってきて、築地であの人んちの玉子焼きを買って、私はご飯とごま塩みたいな感じで(笑)。みんなのすごいところを、私のお弁当に入ってもらってるっていうだけだから。私はたぶんプロデューサーでもコンポーザーでも何でもなくて、チョー音楽ファンなんだと思うんですよ。6年間休んだおかげで、もう完全なる音楽ユーザーになっちゃった。だから「FIGHTING MUSCLE」の方は、“やる気出さなきゃいけない日のプレイリスト”です(笑)。で、「RESTING MUSCLE」は、いくらお金を遣っても癒やされきらないじゃないですか。その根源がやっとわかって、大人になると自分の中で自分を裁く人が育ってくるからなんですよね。そいつを黙らせないと、心底癒えない。だから、そいつが黙らなかったとしても、へっぽこなことをやっちゃったり、つまずいた自分を「オッケーオッケー!」って言えるかどうか。“癒やし”じゃなくて、“許し”が私には必要だった。RELAXじゃなくて、REST。休憩して、許す。「RESTING MUSCLE」の方はそういうプレイリストです。

スッキリしてる!

主婦になってすぐの頃は、不安もあってチョロチョロしてたんですよ。でも思い切り“女”を生きてたら、歌うよりも歌を作る方が好きだし、私は歌詞を書いたり、曲を作ったりすることができると思った。今はもう生きるのも死ぬのもひっくるめて、いろんなことをカミングアウトしたし、なーんにも怖いことがないです。今回、「摩季ちゃんが復活するんだったら」って言って、オグちゃんも麗蘭もTAKUYAも、ここで言い切れないくらいいろんな人が参加してくれた。それもこれまで様々な現場を共にしてきてのご褒美。素晴らしいと思う人とはしっかり繋がって。。。私ぐらい日本のミュージシャンを愛してる人はいないと思ってます。絶対的なミュージシャンとの信頼感が、今回生まれました。だから私にはミッションがあって、私の世代で母になってる人が、ちょうど音楽に影響される小学生から高校生ぐらいの年頃の子どもたちの親世代なので、又聞きでもいいから、いい音を聴かせたかったんです。

このCDを買ってくれる人の子どもたちがね。

そう! 彼らがママたちが車でかけてるのを聴くじゃない。そして憧れてミュージシャンを目指す人が増えてくれたら、日本の音楽シーンのクオリティがあがって、世界にも通用してゆきますよね。だから、自分の世代が本物のいいミュージシャンのいい音を残すのが、私のミッションです。

ありがとうございました。

その他の大黒摩季の作品はこちらへ

ライブ情報

ジルベスター・コンサート

2018年12月31日 札幌文化芸術劇場hitaru
*詳細はこちら
https://www.htb.co.jp/event/silvester/

MAKI OHGURO MUSIC MUSCLE TOUR 2019

25周年を記念して1年4ヶ月に渡り開催された85本もの全国ツアーから10ヶ月、 ニューアルバム『MUSIC MUSCLE』を提げて、再び大黒摩季が全国を駆け巡る!!

3月21日(木・祝)千葉県成田国際文化会館 大ホール よりスタート!
*詳細はこちら
https://maki-ohguro.com/live/tour2019.html

大黒摩季

札幌市・藤女子高等学校を卒業後、アーティストを目指して上京。スタジオ・コーラスや作家活動を経て、1992年「STOP MOTION」でデビュー。
2作目のシングル「DA・KA・RA」を始め「チョット」「あなただけ見つめてる」「夏が来る」「ら・ら・ら」などのミリオンヒットを立て続けに放ち、1995年にリリースしたベストアルバム「BACK BEATs #1」は300万枚を超えるセールスを記録する。TV出演やLIVEも行わなかったことから、大黒摩季4CGで存在しないなどの都市伝説があった中、1997年の初ライブでは有明のレインボースクエアに47,000人を動員し、その存在を確固たるものにする。その後も毎年全国ツアーを継続し、精力的に活動するも2010年病気治療のためアーティスト活動を休業する。その間、地元・北海道の長沼中学校に校歌を寄贈、東日本大震災により被災した須賀川小学校への応援歌・歌詞寄贈、東日本大震災・熊本地震への復興支援など社会貢献活動のみ行っていたが、昨年よりDISH//、TUBE、郷ひろみなどの作詞提供をはじめクリエイティブ活動を再開。アトランタ・オリンピックや「ゆうあいピック北海道大会」のテーマソング、アテネ・オリンピックの女子ホッケー・チームのサポートソング、そして2015年には再生に向けたスカイマーク・エアラインに応援歌を提供するなど「応援ソング」には定評がある。
2016年8月、ライジングサン・ロックフェスティバルでの出演を皮切りに、故郷である北海道からアーティスト活動を再開。

オフィシャルサイト
https://maki-ohguro.com