Review

『Déraciné(デラシネ)』VRだからこそ体験できる“止まった時”の世界

『Déraciné(デラシネ)』VRだからこそ体験できる“止まった時”の世界

今年、「SIE JAPANスタジオとフロム・ソフトウェアの共同作品がPlayStation®VRで開発中」の発表を海外の最大ゲームイベント・E3 2018 の現地速報で知り、筆者は驚くと同時に、大きな期待を寄せていました。この2社の共同作品であるアクションゲーム『Bloodborne』のイメージから、「きっと今回も無残に死ぬことになるし、心もバキバキ折られてしまうに違いない」、「しかもそれをVRで体験できるなんて、いったいどういうことになってしまうんだ……」。筆者だけでなく、多くのファンたちも慄きつつ興味津々だったでしょう。しかし、ロンチトレーラーのイメージを見てびっくり。セピア色を基調としたノスタルジックな画面、美しい寄宿学校を舞台に繰り広げられるストーリー、しかもプレイヤーキャラクターは目に見えない妖精さんだとのこと。「えっ、嘘でしょ?」  思わず声が出てしまいました。ディレクターは、『アーマード・コア』シリーズ、『Demon’s Souls』、『DARK SOULS』などが代表作の宮崎英高氏。筆者を含め、数多のファンを絶望のどん底に叩き落してきた“あの”宮崎氏とは一見かけ離れたように見える作風に、発売日まで戸惑いっぱなしでしたが、プレイを始めてみるとすっかり引き込まれ、夢中になってプレイしていました。
このゲームは、出来る限りの事前情報を排した状態でプレイするのがベストだと思いますが、ゲーム概要の説明のため、あえて序盤のスクリーンショットに留めて掲載し、記事を進めていきますので、あしからず。

文 / 内藤ハサミ


※記事の後半でアンケートを実施中です。ぜひご参加ください!

静かに始まり、静かに進むストーリー

冒頭でも述べましたが、プレイヤーは姿の見えない妖精となり、6人の生徒と校長が暮らす寄宿学校の生活のなかで時間を遡ったり、未来に移動したり、と異なる時の間を移動しながら、ときには彼らに干渉し、物語に深くかかわっていくことになります。ゲームを始めるとすぐ、どこからともなく流れてくる落ち着いた女性の声によって、自分が妖精になることを告げられます。

▲「さあ、あなたはこれから、妖精になるの。止まった時の世界に住む、誰にも見えない妖精にね……」 この優しい声は、目のまえにある蓄音機から流れてくるのでしょうか? ここがどこなのかも含め、真相はまるではっきりしません

プレイヤーである妖精は、赤い指輪を右手、青い指輪を左手に着けています。これらには不思議な力が宿っています。赤には“触れた生物の命を奪い、再び与える”力が、青には“時の振れを観測する、時振計”が備わっているのです。プレイヤーは、このふたつの指輪を使って寄宿学校の生徒たちの生活に干渉していきます。

▲妖精の存在を信じ、友だちになりたいと願う少女、ユーリヤ

ユーリヤの持つ枯れた百合の花に指輪の力で命を吹き込むと、ユーリヤは「妖精さんが来てくれた」と確信し喜びます。どうやら、この学校の生徒6人は全員“妖精”の存在を知っている様子。特に妖精に対して強い思い入れを持ち、強く信じているのが、このユーリヤのようです。そして、ほかの生徒たちにも関わっていくと、姿の見えない妖精であるプレイヤーが自分たちに干渉していることを徐々に全員が認識することとなります。

なぜ、妖精のことを彼らは知っているのか、そもそも妖精である自分の存在とはいったい何なのか。物語冒頭ではわからないことだらけ。ゆったりした時間の流れを感じる寄宿舎のなかをうろうろしながら、オブジェクトを手に取ってみたり、残されたメモを読んだりしていくうちに、登場人物の人となりや舞台である寄宿舎のこと、そこで過去に何かが起こったことなどがうっすらと浮かび上がってくるのです……。

▲教室に貼ってある、寄宿舎のみんなの似顔絵。マリーだけ拙い絵なのが気になりますが、絵をよーく見てみるとその理由がわかります。また、マリーとニルスの間に置かれたメモを手に取ってみると……

▲“みんなの特徴メモ”と書かれていました。これは妖精に向けたものでしょうか。ユーリヤの説明がないことから、この優しい文字で残されたメモはユーリヤが書いたものであると推測できます

メモや手紙はたびたびゲーム内に登場し、その筆跡について“幼い文字”、“丁寧な文字”など、それぞれコメントがついています。誰が書いたものなのかがわからないメモは、筆跡で推測することが可能。これらは物語冒頭に登場するものなので、よく見れば気づいて理解できますが、終盤までにはその場・その情報だけではわからない、クリアしてもはっきりと謎が解けないような断片的な情報が多く登場します。

……はい、ということで、“フロム脳(フロム・ソフトウェア作品の特徴である、はっきりとは語られない物語や設定について、ディープな考察をせずにはいられなくなってしまった状態、の意)”の皆さん、朗報です。本作、しっかりとフロムしてます。フロム脳活性化待ったなしです! 淡々と、物事を俯瞰で見ているような掴めそうで掴み切れない独特の語り口……やっぱり、宮崎テイストは健在でした。しかもメルヘンな世界設定にこの宮崎テイストというのが、唯一無二の存在感を放っていて、とてもいい雰囲気なのです。

▲筆者イチ推しの部屋、礼拝堂。埃っぽく、冷たい空気が伝わってくるようです

ストーリーは、のんびりとして穏やかな寄宿学校の日常に現れる妖精、喜ぶユーリア、驚く他の子供たち……というほのぼのした描写から始まるのですが、どんどん話が進むほど、プレイヤーはどこか居心地の悪いような違和感を覚え始めます。何となく不気味な雰囲気を感じたり、ドキッとしたりするシーンもいくつかあります。ゾンビや化け物がスピード感タップリに脅かしてくることは一切ないですが、シンとした静かな夜の廊下を歩く怖さのようなものを味わいました。

クリアまではだいたい6時間くらい。クリアに関係のない要素を拾っていくと、もう少しかかるかもしれません。エンディングについては、もうヒントになることは何も言うべきではないと思うので、ぜひ自身でたどり着いて見届けてほしいのですが、少しだけ感想を。たった数時間生活を眺めただけで、密な交流を重ねたわけではない6人の子供たちですが、彼らにかなり感情移入し、好意を持っていたことにクリアしたあとで気がつきました。子供たちのことを知って、自分にできるささやかなことで希望を叶えてあげられたら……。そう思い、行動し続け迎えたエンディング、そしてその結果。演出が実に秀逸で、思わず目頭を押さえてしまいました。

操作とプレイをシンクロさせる工夫

本作のプレイには、PlayStation®VRヘッドセット、PlayStation®Camera、PlayStation®Move モーションコントローラー2本が必須となります。環境を調えるハードルはやや高めですが、操作の自然さを演出するには、DUALSHOCK®4でもPlayStation®Move モーションコントローラー1本だけでもなく、やはりこの形がしっくりくると思います。

▲花瓶を持つ操作のチュートリアル。両コントローラーのTボタンで掴む動作をします

掴んだものを反対の手に持ち替えることも可能。そして、持ったものを裏返したりして、いろいろな角度から見ることも自由自在。オブジェクトを手に取るシーンは多いのですが、ボタンを入力してアイテムを取るという操作をしているのではなく、自然にものを手に取っているように感じられるほど動作は直感的で、ゲームへの没入感を高めています。

▲中央にある青い光が、移動できるポイント

マップ内の移動に関しては、コントローラーを操って自由に歩き回れるわけではありません。上の画像のように、マップの一定間隔に点在する移動ポイントを見ながら右に持ったPlayStation®Move モーションコントローラーのMoveボタンを押すことで、行きたい方向に進みます。自由に動けないことでVR酔いの軽減になり、無駄に細かく動き回らないので、ストーリーに集中できる効果もあると感じます。

▲セピア色が美しい1階の廊下

地図はなく、マップはプレイヤー自身が覚えて進む必要があります。動き回れる範囲はそんなに広くないので、ゲームを進めていくうちに覚えることは比較的たやすいでしょう。こんなところも、リアルなのではないでしょうか。とにかく自由に……という最近のゲームに感じる流れとは逆行しているような向きもありますが、こういった一見レガシーに見えるようなシステムも、おそらく細やかに最適化されたものだったのです。実際、プレイ中に操作を煩わしいと感じたことはありません。移動も慣れてくれば自由に動くよりも早いですし。

命を奪い、また与える力を持った妖精となり、物語を見つめていくという役目を全うするうち、子供たちそれぞれのひたむきさ、純真さに心を打たれ、何としてでも守ってあげたいという気持ちになってくるでしょう。しかし、純真であるが故に信じやすく危なっかしい彼らとは、直接話をしたり、姿を見せて説明したりすることができません。

▲妖精に話しかけるユーリヤ。妖精の姿が見えているわけではないので、会話は一方通行で視線が合うこともありません。初めから、彼女とは違う世界に生きているんだということを強く感じさせられます

▲筆者が一番お気に入りのキャラクター、天真爛漫で一生懸命な性格が魅力的なロージャ

美しくも儚い命の輝きを、止まった時の世界という場所から見続けなければならないというのは、とてももどかしく切ないものでした。しかし、だからこそ余計に輝いて見えるのかもしれません。PlayStation®VRの特性をうまく使って、画面越しの干渉というリアリティを持たせる見事な作り。子供たちの無垢さや可愛らしさに触れて過ごしたほんの数時間で、ずっとこの子たちを見守っていきたい、と強く思わせるキャラクターと世界の魅力。どの要素にも感心するほかありません。正直、「エンディングを迎えて、この時間を終わりにしたくない」と思ったくらいです。

プレイヤーが操作する要素は少なめで、移動の自由度も高いとは言えず、システム的には古典的なアドベンチャーゲームという印象が強い本作ですが、むしろこの“古典的”な雰囲気がゲームのストーリーと相まって、「これでなくては」という良い味になっているのではないでしょうか。意図的に不十分な説明が散りばめられているという明快とは言えないストーリーに加え、文章表現は淡々としていて、声を荒げたり慟哭したりと激しい感情を露わにする人物も全く出てきません。作品全体から感じるのは美しさと叙情的な印象で、不思議な感覚を覚えます。これもディレクター・宮崎氏の手掛けてきた他の作品に通じる特徴かもしれません。そして、印象的なゲームタイトル『Déraciné』(根無し草、故郷を喪失した人の意)の本作における意味を知るとき、プレイヤーは思わず唸ってしまうことでしょう。

アドベンチャーゲームという本作の大枠だけを見れば、PlayStation®VRを使用しない選択も可能だったでしょう。しかし、やはり『Déraciné』はVRありきで作られ、VRで表現されなければならなかったゲームだと感じます。この美しい世界をまるで目のまえで起こっている出来事のように体験できるという幸せ。エンディングを見たあと、「VRのあるこの時代に生まれてよかった」としみじみ噛み締めた、そんな一作でした。

フォトギャラリー

■タイトル:Déraciné(デラシネ)
■メーカー:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
■対応ハード:PlayStation®4 ※PlayStation®VR および PlayStation®Move モーションコントローラー 2 本必須
■ジャンル:VRアドベンチャー
■発売日:発売中(2018年11月8日)
■価格:オフィシャルサイトでご確認ください。


『Déraciné(デラシネ)』オフィシャルサイト

 

©2018 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by FromSoftware, Inc.

みなさんの声をお聞かせください!

あなたの好きな美少女キャラがエンタメステーションで取り上げられるかも!?