Interview

対談:黒沢清監督&東出昌大 監督・黒沢清、俳優・東出昌大がガチでお互いを批評する!

対談:黒沢清監督&東出昌大  監督・黒沢清、俳優・東出昌大がガチでお互いを批評する!
『クリーピー 偽りの隣人』で、黒沢清監督と東出昌大の初顔合わせが実現した。一筋縄ではいかないこのスリラーで、東出は、いまは犯罪心理学者である主人公、高倉(西島秀俊)を再び現実の事件の世界に引き込む、かつての同僚刑事、野上を演じている。意外なキーマンとして存在することになるこの野上をどう読み解くかで、映画の様相は一変するだろう。人間の奥底に潜んでいるものとは何か。それを再考させるのが、この作品である。
では、黒沢は東出を、東出は黒沢を、どう読み解いているのか。

遠くにポツンといる東出さんが気になって仕方がない(黒沢)

黒沢監督は、『寄生獣』の異様な東出さんがとても良いとお感じになって、今回起用されたんですよね。

黒沢 いえいえ、それは(受けとり方が)極端です(笑)。とにかく『ごちそうさん』でしたね。もちろん、それまでに『桐島(、部活やめるってよ)』とかいろいろ観てはいるんです。(でも)『ごちそうさん』で、このひと、おかしい! って、出た瞬間から大笑いしてしまいまして。もう、本当におかしかった。で、その後、『寄生獣』も拝見して。うわ、全然違う。こういう役もアリなんだと。ヘンな言い方ですが、今回の野上という役は主役じゃないので、東出さんほどの人にお願いするのは難しいかな……という想いは正直ありました。それでも『ごちそうさん』のようにも『寄生獣』のようにも見えるこの人、いったい正体は何者なんだろうという興味が大きかったので、ダメ元で声を掛けさせていただきました。ある程度、歳をとるとそういう方はいらっしゃるんですけど、この若さで、このものすごい幅のある存在感って、たぶん他にいないですよね。

©2016「クリーピー」製作委員会

©2016「クリーピー」製作委員会

野上は、どっちに転んでもおかしくない役ですよね。

黒沢 ええ。この人(野上)が、どっちに振れていた人なのか結果、わからず終い、というのがものすごくいい感じのイヤーな映画の後味になってると思うんですね。この人は悪だったのか正義だったのか、それともまったくそういった価値観と無縁の人間だったのか、最後までわからないでしょう。

狡猾な策略家にも見えるし、純粋な好奇心の持ち主にも思えますよね。知性とイノセンスが同居しているというか。

東出 こう見せよう、というほどのことを考えていたわけではないんですけど。やっぱり野上っていうのは仕事人間で、仕事が好きで。監督がおっしゃっていたのは「一人称」、つまり「自分」という人物だと。それがすごく腑に落ちたというか。僕、もともと、怖い趣味があって(笑)。サイコパスとか、そういう人の本を読むのが好きで。FBI心理捜査官の本があるんですけど、獄中の猟奇殺人犯に会いに行ったときに、「鮫のような目をしていた」と。すごく深い真っ黒な目。『羊たちの沈黙』のアンソニー・ホプキンスもそうですし。なんだろう、この人、という人物に興味があって。野上もそこは共通なんじゃないかなと。捜査一課で仕事しているうちに、そういう人物を見るのが生きがいにもなっている部分もあるし。彼自身、(猟奇殺人の世界に)引っぱられておかしくなってる部分もあるだろうし。そういうキャラクターかなと思ってやらせていただきました。

彼のそうした視線が、ある種の底知れなさを生み出しているのかなと思います。

黒沢 そうなんですよ。西島(秀俊)さん扮する高倉も(その世界に)冒されてる人なんですけど、高倉は嬉々としてのめり込んで。「野上、やったな!」というように(笑)。でも野上は「はい」と(冷静に答える)。つまり、野上のほうが底知れない。高倉はわりと単純で、隙だらけなんですけど。そういうバランスを最初から考えてキャスティングしたわけでは、もちろんありません。でもお一人お一人が存分にその個性を発揮していただければ、作品はどんどん厚くなっていきます。それにしても、こんな猟奇的な内容の映画なのに「どう? この豪華なキャスト!」というのが、ちょっと自慢なんですけどね(笑)

東出 もともと黒沢監督の映画が好きだったので、それはそれはうれしくて。もちろん緊張感もあるんですけど、流れるように統率がとれてる現場というか。監督の下、ひとつのものを作っている、一致団結した感じ。他の現場にはなかなかないものがあって。だから、ずっと現場に居たいなと思いました(笑)。もっと現場に居たいなって。西島さんはやはり黒沢組の空気を熟知していらして。『LOFT ロフト』とか、黒沢映画での西島さんが大好きだったので、別に現場で言葉を交わしたということはなくて。それも失礼な話で。西島さんが、ある種の緊張感を持って現場にいる僕に、初対面で話しかけてくださったんですけど。「僕もできる限りのことをこの現場でしようと思ってるので、野上でいようと思ってるんです」と言って(それだけで)会話は終わって。で、打ち上げの席で謝ったんですけど(笑)。でも西島さんの居ずまいですとか、お芝居の雰囲気ですとか、ご一緒していて、ああ、黒沢映画に僕も参加できてるんだ、とは思えました。なんでしょうかね、西島さんのお芝居って。熱があるような、ないような……すごく魅力的でした。

黒沢 いま、おっしゃったように(現場では)ほんとにしゃべらないんですよ。僕は最低限の「ああして/こうして」ということを言い、(それに対して)「はい」とだけで。他のキャストの人たちは、内容がこういう映画である分、カットがかかれば、ものすごく陽気にーー特に香川(照之)さんを中心に、竹内(結子)さんもすごく朗らかに談笑してらっしゃるんですけど。東出さんは少し離れてぽつーんといらっしゃるので、逆にものすごく気になりました(笑)。いや、完璧に野上になってくれているので、仕事はやりやすかったんですが。いや、すみません、演じている東出さんより、待ち時間に遠くのほうでポツンと居る東出さんのほうが気になってしょうがなかった(笑)。こういう人は初めてですね。大きいから目につきやすいというのもあったのかもしれませんが。それくらい何かを発していらっしゃるというか。逆に、こっちも緊張もするんですけどね。僕も動向をすべてチェックしてるわけではありませんが、「今日は出番が終わりました」というときも、その後、居るんですよ。

東出 現場を見てたくて。

黒沢 え? まだ、居る? なんで10メートル先に東出さんがいるんだ? と気になってしょうがない(笑)

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呆気なくそこに在るリアリティ、それが黒沢映画の魅力(東出)

東出さんは、黒沢映画のどういうところがお好きなんですか。

東出 監督が出されている本とかも読んでいて。これが自分の言葉なのか、監督の映画論の影響を受けてたのか、わからないんですけど。ドキュメンタリーを撮るというわけではないし、ものすごく誇張した「これを見ろ」というようなお芝居でもない。その、ふわふわしてるようで、どこかリアリティがあって、どこか「映画」って感じがするところが、すごく好きで。テストで懐中電灯を照らすシーンがあったんです。その懐中電灯の光がカメラをまたいだんです。(映画のカメラは)1秒間に24回シャッターを押してるから(光によって)映像がちょっと乱れて、それを嫌がる監督もたぶんいらっしゃるだろうし。で、本番ワンテイクやったら、「さっきのが良かったから、それをやり直して」とおっしゃって。お芝居なんだけど、映画的に、映像がブレるのが楽しいとお思いになってるのか、ああ、そこが映画なんだなって。小さなことなんですけど。うれしかったですね。こうやって黒沢映画って出来ていくんだと目の当たりした気がして。

現実に起きることを取り込みながら、しかし、それはドキュメンタリーではないんですね。まさに映画です。

東出 ええ。あと、全然違う話なんですけど、映画の好きなワンシーンで、『CURE』で役所(広司)さんが近づいていって、なんのためらいもなく(銃を)パンパンと撃つんですよ。『ドッペルゲンガー』でも柄本(明)さんがガツンといきなりトンカチで殴られたりとか。僕が映画を観てて、いま撃てばいいのに、とか、いまやればいいのに、とか思うーーハリウッド映画観てても、すごくあるじゃないですか、そういうことーーところが、呆気なくすっと流れる感じがすごく好きなんです。胸がスカッとするというか。それはもう個人的な意見です(笑)

もはや感覚的なことですよね。

東出 嘘がないというか。そこですね。

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黒沢さんは、俳優、東出昌大の秘密がわかりましたか。今回の撮影を通して。

黒沢 秘密は……これからですね。二枚目のスターであることは間違いないんですが、じゃあ、どういう方向の二枚目なのか、さっぱり掴めない。そこが最大の魅力なんですね。僕も今回はちょっとお手合わせさせていただいたぐらいで。また主役の映画とか目白押しであるんでしょうけど。一度、完全に主役で何か演じていただきたいな。やっぱり主役の方だと思います。脇に居るのもいいんですが、やっぱり(存在感が)気になっちゃってね(笑)。

掴めないというのは、それだけ可能性がある?

黒沢 もちろん可能性があるということなんですけど。俳優のことを語る、上手い言葉がなかなか見つけられないんですけれども、単純に、見た目と声のトーンが、普通の人と少し違う「あるレベル」でずーっと「ある一定のライン」を保っている……わけのわからない表現ですけど(笑)。普通だったり、普通じゃなかったりする、というような振幅がある感じとちょっと違うんですね。普通じゃないところを、この人はずーっと進んでいるんだと。どこまで行っても、普通の人と交わらないっていう。じゃあ、この人、どこまで行くの? それを見てみたいという感じですかね。他にいないですよね。こういう方って。

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黒沢監督は映画を作り、東出さんは人物を造形するわけですが、ご自身が体験したことを頼りにすることはありますか。

黒沢 自分が現実に体験したり、あれこれ考えたりしてることと、作ってる作品は極力切り離そうとしています。関係がない。ただ……悲しいかな、そう思ってても、どこかで自分が出ちゃうんですね。だから、普段何となく気になったりしてることは、よくよくちゃんと考えておかないと、そんなものを作品に反映させる気持ちがさらさらなくても、ふと出ちゃう。知らないあいだに。映画って怖いなあと思ってます。観客は鋭く見抜きますからね、この作者何も考えてないなって。だから、警戒しながら撮ってます。仮に自分をさらけ出すことになっても恥ずかしくないように、物事をちゃんと考えておかないといけないんだよなあと思うんですが、人間なかなかそうはうまくいかないんですけど。

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東出 僕は、実際の自分の経験が全部記憶できているわけではないので、『クリーピー』に限っては、警察官もやったことないですし、なかなか当てはまる部分もないけれど、別のドラマとか映画とかをやったときに、ああ、確かにこういう気持ちだったとき、(自分にも)あったなって。10代のモラトリアムな頃の感じかな、とか。それは、完全にシンクロするわけではないんですけど、こういう想いはあったなと。参考にする、というほどのことでもないんですけど、役を考えるときにいちばん「近しい」感じは、以前読んだ本なんですね。普段から本が好きなんです。あれ、これは似たような話だな、とか。(あの本に出てきた)ああいう人物かな、とか。以前読んだ本からの連想ぐらいのものなんですけど。それはあります。

取材・文 / 相田冬二
撮影 / 田里弐裸衣
ヘアメイク / 勇見 勝彦(THYMON Inc.)
スタイリスト / 檜垣健太郎

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映画『クリーピー 偽りの隣人』

映画『クリーピー 偽りの隣人』

映画『岸辺の旅』でカンヌ国際映画祭<ある視点>部門の監督賞を受賞した黒沢清監督が、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した前川裕の原作小説『クリーピー』を実写映画化したサスペンススリラー。奇妙な隣人に翻弄されながら、日常生活の隙間に潜む深い闇へと引きずり込まれていく夫婦の恐怖を、原作とは異なる映画オリジナルの展開で描き出した。
 元刑事の犯罪心理学者・高倉のもとへ、刑事時代の後輩だった野上が訪ねに来る。6年前にある家族が失踪した事件の分析にぜひ力を貸してほしいという依頼だった。そんな時、新居に引っ越した高倉と妻の康子は、隣人の西野の言動にどこか違和感を抱き始めるーー。主人公の犯罪心理学者を西島秀俊、妻・康子を竹内結子、不気味な隣人を香川照之が演じるほか、川口春奈、東出昌大ら豪華キャストが集結。

スタッフ
監督 黒沢清
原作 前川裕
脚本 黒沢清 / 池田千尋

キャスト
西島秀俊(高倉)、竹内結子(康子)、川口春奈(早紀)、東出昌大(野上)、香川照之(西野)

(2016年、130分)
配給 松竹 / アスミック・エース
6/18(土)全国公開

オフィシャルサイト http://creepy.asmik-ace.co.jp/

©2016「クリーピー」製作委員会

【ムービーレビュー】映画『クリーピー 偽りの隣人』