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【ムービーレビュー】『クリーピー 偽りの隣人』には、『叫』にはついにあらわれなかった、ほんとうの叫びが刻印されている。

【ムービーレビュー】『クリーピー 偽りの隣人』には、『叫』にはついにあらわれなかった、ほんとうの叫びが刻印されている。

黒沢清には『叫』という空前絶後の傑作がある。おそらく未来の映画史において、あの作品はさらに大きな評価を獲得するであろうとわたしは確信しているが、『クリーピー 偽りの隣人』には、『叫』にはついにあらわれなかった、ほんとうの叫びが刻印されている。すさまじいばかりの叫びである。この叫びが、いつ、だれの口から発せられるか、それをここで語ることは慎まなければいけないが(そんなことをしたら、わたしは、あの叫びによって呪い殺されてしまうに違いない)、それが地鳴りのような叫びであることだけは明記しておいても、おそらく罰は当たらないはずだ。それは、なにかが終わる叫びであると同時に、なにかが始まる叫びである。そうだ、叫びに対してわたしたちが戦慄するのは、何かが終わり、何かが始まることを、ほとんど理屈抜きで体感してしまうからなのだということを、この映画の叫びは問答無用の風情のまま、突きつけている。

世界は終わるが、また、違う世界が始まる。絶命と誕生とが、互いを刺し貫くときに、否応無しに漏れる、擦れるようにして零れ落ちる声、いや、音。それが叫びなのだということを理解するために、この映画のすべての映像は存在している。

ある者は西島秀俊に、ある者は竹内結子に、ある者は香川照之に、ある者は藤野涼子に、そして、ある者は東出昌大に吸い寄せられるだろう。自分のなかに確実にある、不可解な感情、制御しきれない不確かな部分が、彼ら彼女らの一挙手一投足によって、愛撫され、刺激されるのだ。その、後ろめたいほど官能的で、後戻りできないほどの愉悦は、恐怖が恐怖だけでは存在していないという真実を明るみにする。わたしたちは、なぜ、戦くのか。それはつまり、何かが終わるということは、何かが始まるということを、身体のどこかで知ってるからに他ならない。『クリーピー 偽りの隣人』の叫びは、わたしたちの遺伝子を直撃する。どうか、覚悟して、劇場に臨んでいただきたい。

文 / 相田冬二

映画『クリーピー 偽りの隣人』

映画『クリーピー 偽りの隣人』

映画『岸辺の旅』でカンヌ国際映画祭<ある視点>部門の監督賞を受賞した黒沢清監督が、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した前川裕の原作小説『クリーピー』を実写映画化したサスペンススリラー。奇妙な隣人に翻弄されながら、日常生活の隙間に潜む深い闇へと引きずり込まれていく夫婦の恐怖を、原作とは異なる映画オリジナルの展開で描き出した。
 元刑事の犯罪心理学者・高倉のもとへ、刑事時代の後輩だった野上が訪ねに来る。6年前にある家族が失踪した事件の分析にぜひ力を貸してほしいという依頼だった。そんな時、新居に引っ越した高倉と妻の康子は、隣人の西野の言動にどこか違和感を抱き始めるーー。主人公の犯罪心理学者を西島秀俊、妻・康子を竹内結子、不気味な隣人を香川照之が演じるほか、川口春奈、東出昌大ら豪華キャストが集結。

スタッフ
監督 黒沢清
原作 前川裕
脚本 黒沢清 / 池田千尋

キャスト
西島秀俊(高倉)、竹内結子(康子)、川口春奈(早紀)、東出昌大(野上)、香川照之(西野)

(2016年、130分)
配給 松竹 / アスミック・エース
6/18(土)全国公開

オフィシャルサイト http://creepy.asmik-ace.co.jp/

©2016「クリーピー」製作委員会

映画『クリーピー 偽りの隣人』 対談:黒沢清監督&東出昌大