Interview

井上芳雄&生田絵梨花が、ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』で伝える、“希望”とは?

井上芳雄&生田絵梨花が、ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』で伝える、“希望”とは?

2019年1月5日(土)より東京芸術劇場プレイハウスにてミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』が上演される。本作はトルストイの小説『戦争と平和』をモチーフに、2012年にオフ・ブロードウェイで産声を上げ、2016年にブロードウェイへ進出し、翌年のトニー賞では最多12部門にノミネートされ話題をさらった。そんな舞台の日本版の初演が、主人公のピエールに井上芳雄、ヒロインのナターシャに生田絵梨花を迎えて上演される。
彼らに本作の見どころのほか、今作ならではの大変さ、そしてミュージカルで歌を歌うことの意義まで、ミュージカル界の“プリンス”と“プリンセス”ふたりにじっくり話を聞いた。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 岩田えり


僕たちならではの『グレート・コメット』を

ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』は、アメリカのブロードウェイで2016年に上演され、翌年のトニー賞では12部門にノミネートされ話題になります。その本作がついに日本に上陸しますが、まず、海外で評価を得た最新のミュージカルを日本版で初演するにあたってのお気持ちはいかがですか。

井上芳雄 ブロードウェイの新作は、だいたい日本で上演されるまでに数年の時差がありますが、わずか2年弱で日本で初演を迎えることができて嬉しいですね。舞台美術を含めつくりが面白い作品ですし、日本版になるわけですから、僕たちならではのバージョンをつくることができるのでワクワクしています。

井上芳雄

生田絵梨花 まだ立ち稽古が始まったばかりですが、不安と楽しみの波が交互にくるなって(笑)。それは初演ということもあるのかもしれませんが、こんなに波を激しく感じる舞台は初めて。ミュージカルの場合、稽古に入る前に私はピアノを弾きながら譜読みをするのですが、譜面から難しくて、楽曲を理解することに今はドキドキしています。でも、みんなと稽古をしたときから面白い作品だと感じるし、セットにもワクワクさせられるし、楽曲もエネルギッシュですね。そういえば、歌稽古でみんなの歌声が合わさったときに、聴いたことのないハーモニーが生まれませんでした?

井上 そうだね。和音も普段のミュージカルにはない特別なものだよね。

生田 今までにない素敵な要素がいっぱいあるので、波を乗り越えながら、良い作品にしたいです。

生田絵梨花

作品を上演する劇場は東京芸術劇場のプレイハウスです。アメリカでの上演当初から客席と一体となった装置が話題になっていますね。

井上 僕は東京芸術劇場にあまり縁がなかったので、プレイハウスでの公演は楽しみですね。美術は、舞台上に客席があって、その中で物語を繰り広げていくので、今までにない演劇体験ができると思います。ただ、作品はトルストイの『戦争と平和』をモチーフにしていて物語の構造がしっかりしていますから、お客様がどこまで積極的に参加することになるのかはまだ未知数ながら、これからそのバランスを取っていくと思います。

生田 私もプレイハウスに立つのは初めてなので楽しみです。ステージは、舞台に出る役者もお客様も見たことのないようなつくりになっています。初めは客席と一体化する美術というのは想像がつかなくて、ステージにひな壇があるようなイメージを抱いていました。でも、そんな想像をはるかに超えて、ステージが飛び出して、そのブロックにお客様がいらっしゃる構造になっていますし、お客様は役者と絡むことがあるので楽しんでいただけると思います。ですが、それだけではなくて、台詞がすべて歌で成立しているミュージカルなので、よく耳を澄ませて聴いていただけたら嬉しいです。“聴き心地が良い音楽”ですし、重要なキーワードがほとんどの楽曲に隠されていて、そこから物語が展開するので、どのシーンも見逃せないと思います。

ピエールは偏屈、ナターシャは太陽みたいな人

井上さんの演じるピエール、生田さんが演じるナターシャの役どころを教えてください。

井上 僕の演じるピエールはロシアの貴族です。といっても、とある事情で正当な貴族ではないのですが、父親の財産を受け継いだ裕福な人間なんです。それでも、エレン(霧矢大夢)と“愛”のない結婚をしたり、周りから変わり者だと言われて、自分の人生に思い悩んでいる。だからといって、積極的に外に出るタイプでもなく、他人から見れば偏屈で変わった人生を送っている人物ですね。

生田 ナターシャはアンドレイ(武田真治)という婚約者がいながら、いろんな出来事があって、アナトール(小西遼生)と駆け落ちをしてしまうんです。それだけ聞くと、若くて無知だから、愚かなことをしてしまうイメージがありますが、「ナターシャは太陽みたいな人だ」と演出家の小林(香)さんがおっしゃっていて。たしかに、彼女は誰かに愛を捧げたいし、誰かに愛されたいというすごく純粋な気持ちを持っている、若くて心の揺れ動きが激しい女性なんです。だから、素直な気持ちを忘れずに演じたいし、今は彼女をしっかり演じるために細かいところを稽古で深めています。

膨大な人物が登場するトルストイの『戦争と平和』をモチーフにしているだけあって、人物相関がとても複雑ですね。

井上 たしかに、まずは名前を覚えてもらわないといけないかもしれませんね。とにかく複雑で、おまけにロシアの名前ですし、名前が似ている人も出てくるんだよね(笑)。

生田 ええ。マーリャ D.(原田 薫)やマリア(はいだしょうこ)は似ていますね。

井上 そう。時には名前の呼び方さえ変わって、“ナターシャ”は、“ナターリャ”と呼ばれたりする。

生田 『グレート・コメット』講座を開いたほうがいいですね?(笑)。

井上 (笑)。冒頭の1曲目で登場人物の背景を歌って、ナターシャやピエールのことを説明するのですが……。それでも、ピエールとアナトールは義理の兄弟で、ピエールとアンドレイは親友で、親戚のおばさんが出てきたり……と複雑な人間模様を描いていますね。

生田 日本にはない関係性があります。マーリャ D.はナターシャの名付け親として出てきますし。

井上 ただ、人間関係がわからなかったとしても、主軸はナターシャが恋に落ちて、それをピエールが見守るというお話なので、“昼ドラ”のようだと思っていただければ難しくはないですよ。

生田 面白いのは、(井上)芳雄さんがおっしゃるように、1曲目で、「プログラムを読んでね」って歌うんです。

井上 そうだよね。プログラムも読んでいただきたいけれど、日本のお客様は勉強熱心だから、観劇する前にホームページとかで勉強してくださると思うな。

生田 もし仮にわからなくても、オペラ風の歌やエレクトロニックのユニークな音楽だけでも十分に楽しめると思います。

小林 香にはこういう世界にしたいというビジョンがある

演出の小林 香さんの印象はいかがでしょうか。

生田 とても丁寧に説明をしてくださるので、腑に落ちる部分がたくさんあります。今までの稽古場だと、自分で考えて演技をして初めて、「もう少しこうしよう」と当てられることが多いのですが、香さんは、時代背景やキャラクターの説明といった“骨組み”を渡してくれました。難しい話だからこそ、一緒につくってくれるので勉強になります。

井上 僕は香さんが演出家デビューをされたときからの付き合いですが、翻訳ミュージカルで一緒になるのは初めて。ですから、改めて新鮮な気持ちで、どういうつくり方をされるか興味がありますし、僕らはしっかり準備をしていきたいですね。こういう世界にしたいというビジョンがある方で、美的感覚も鋭いですし、みんなも安心して演じられますよ。香さんのイメージを刺激する役づくりができればより一層面白くなると思います。

生田さんは小林さんの演出を受けるのは初めてだと聞きましたが、小林さんとよくタッグを組まれる井上さんからアドバイスはありますか。

井上 こだわりのポイントは譲らない方だけれど、決して厳しいわけではないので、怖がる必要はないかな。ただ、僕はこれまでの経験で、男性と女性の演出家は違うと思っているのですが、生田さんは女性の演出家は初めて?

生田 初めてです。

井上 女性の演出家は男性より怖いときがあるんだよ。

生田 えっ!? きっと恐ろしい経験がおありなんですね(笑)。

井上 (笑)。

1 2 >