Interview

本物だから描けた『火花』の情景 林遣都、波岡一喜スペシャルインタビュー

本物だから描けた『火花』の情景 林遣都、波岡一喜スペシャルインタビュー

空前の大ベストセラーとなった又吉直樹による小説『火花』が、Netflixで配信されるオリジナルドラマとして映像化された。お笑いにかける芸人たちの青春群像を描きながら、人間の神髄にまで迫った原作の雰囲気に忠実でありながら、その世界観をさらに深めた圧巻の完成度ではやくも絶賛の声が集まっている。実力派キャスト、5人の監督、全10話一挙配信。原作を読んだ人も、まだ未読の人も必見な『火花』の画期的な試みに迫る。

ふたりは10年前の出会いから「師弟関係」

出演が決定したときはどんなお気持ちでしたか?

 これは大変な作品だなって感じたのと同時に、絶対に自分の中で残るものにしたいと思いました。作品としても、人の心に残るものにしたい。プレッシャーはありましたけど、自分のすべてをぶつけてみるしかないって思いました。

波岡 僕は素直にめちゃめちゃ嬉しかったですね。でも、同時に神谷という男が醸し出すカリスマ性というか、人を惹きつける力というのをどこまで表現できるかっていうことに不安でいっぱいになりました。初日、1話撮り終わったくらいで、僕と遣都との関係性、神谷と徳永との関係性がつかめてきて。徳永にとっての、徳永だけの神谷であればいいんだなって思って、あとは集中してやるだけでしたね。

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おふたりは、実際にも先輩、後輩の関係性だったんですよね。

 10年近く前に、僕が俳優の仕事を始めたばかりの頃にお仕事を一緒にさせていただいたことがあって。僕はまだ地元に住んでいて、何も知らない高校生だったんですけど、俳優のかたで、はじめて二人きりでご飯に連れてってくれた先輩が波岡さんだったんです。

波岡 ファミレスですけどね(笑)

 仕事のことから、プライベートのことまでいろいろ話して。学生時代のこととか、恋愛の話とか。

 それ以降もちょこちょこ連絡は取ってたんですけど、なんでも話せる先輩とずっと思ってて。だからこそ、こういう作品で、波岡さんと、しかも師弟関係で一緒にできるっていうのは…。

波岡 「運命」やな! こんなこと、僕もはじめて言うたけど。

 同じことを舞台挨拶で言おうと思ってたんですけど(笑)。もうあの時から決まってたのかもしれないなって。

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作品と現実がオーバーラップしてきますね。『火花』で描かれるのはお笑いというフィールドですけど、俳優という職業でも共感できる部分はありましたか?

 お笑いでも俳優でも、表現をするという仕事を選んで、夢を持って都会に出てきて、そんなにうまくいくこともなく、いろんな苦しみがあって、埋もれていきそうになりながらも、這いつくばって……。

波岡 なんかカッコいい言葉を連呼しとるな(笑)。

 (笑)。でも、その中で周りの人との出会いがあって続けていけたりとか、頑張るっていうのは、すごく共感できるところがありました。原作も、自分に置き換えながら読ませていただいたし、演じるときも気持ちが入ってしまうというか。

波岡 徳永はお笑いで売れたい、けど、自分がおもろいかどうかわからなくなってくる。そこで神谷は、お前ならもっとできると思うし、もっとおもろいはずや、と、徳永のことを信じてるんですよ。自分が面白いと思うことをやれよ、と。それが、自分にも言われてるような気がしたんですよ。僕は俳優として、いままでそこまでやりきってなかったような気がして。もっと自分にわがままで、自分のやりたいようにやっていいのかなって。まわりの評価を気にしなくても、お前がやりたいと思う神谷をやれよっていう気持ちになれたので、すごく影響されたと思いますね。

おふたりの共演する場面で印象的なシーンはありますか?

波岡 それはいっぱいありますね。どれも印象的で。

 強いていうなら、やっぱり後半から最後にかけてです。熱海に行く前からのくだりというか。

波岡 あそこはやっぱり強烈やな。居酒屋で俺が服を脱いでからの。

 あとは後半の鍋のところです。

波岡 神谷が銀髪になって現れるところ。

  あのシーンまでに、ふたりで積み上げてきた関係性が出来てるんで、波岡さんを見てるだけで泣けてくるというか。こんだけ好きやった人が、なんでこんなボロボロになってるんだって。居酒屋で神谷さんの体を見るところも、台本を読んでるとすごく重たいシーンなんですよ。どうなるんだろうって不安もあったんですけど、現場では集中して真剣に取り組めました。あのシーンを観た方々からは、泣けたし、笑えたみたいなこと言ってくださったので、原作にあったものに近づけたのかなって。

波岡 僕も後半は印象的ですけど、やっぱり撮影初日のことも覚えてますね。徳永が漫才やって、スベって、神谷が「カタキとったるわ」って。そんなに絡みがあるシーンじゃないんですけど、初日やったし、現場も張り詰めてるし、お互いに緊張もしてたし、探りあってる部分もあったんですけど、これで走り始めたなって想いがありましたね。あと、真冬に撮ったんで、すっごく寒かった。

5人の監督と、スタッフの情熱

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今作は廣木監督をはじめ、5人の監督が各話を担当するという制作体制でしたが、現場はいかがでしたか?

 最初は戸惑うかなって思ったんですけど、廣木監督が最初に作ってくれたベースというか、空気感があって、それを監督の方々を含め、スタッフのみなさんが言葉にしなくても分かっているというか…。僕らはそれぞれの10年を生きていけばいいっていうことだったんです。現場では本当に自由にやらせていただいたんですけど、出来上がったものを観て、あの監督さんはこんな細部まで演出してくれてたんだって、あとから感じることが多かったです。

波岡 僕たちは、全話通して神谷でいて、徳永でいろよっていうことを尊重していただいたんです。ただ、僕はいろんな監督とやらせてもらってすごく刺激的だったし、出会いという意味でも幸運だったと思いましたね。

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今作は、街の情景そのものも、もうひとつの主役といっていいぐらいに描き込まれてましたが、撮影は大変だったじゃないでしょうか?

波岡 今回のロケはめちゃくちゃリアルですよ。吉祥寺、高円寺、渋谷、三宿の246沿い、上石神井、下北沢…。

 売れたら六本木とか。

波岡 そうそう、それに高田馬場、富ヶ谷……ここまでガチにロケして撮ってる作品はなかなかないですよ。

それはやはりテレビでも映画でもないNetflixだから可能だったんでしょうか?

波岡 いや、それもあるかもしれないですけど、やっぱり勇気ですよ。スタッフの方々の勇気と、あの時、僕たちの撮影のために協力していただいた通行人の方々のおかげですね。

 確かにそうですね。制作のスタッフの方々はすごかったです。毎晩、毎晩、人止めして、街をリアルに切り取っていただいた、というか。

波岡 吉祥寺の駅の真ん前のシーンとか、映像で観たら誰もいないんですけど、本当はたくさん人がいてるんですよ。僕と遣都がそれぞれ別の方向に歩いていって、それをクレーンで上から撮った長回しのシーンがあるんですけど、その間のいくつもある横道に総勢20人くらい制作の方がおって、一般の方々もカットがかかるまでずっと待っていただいてて…。現場ではそういうことがたくさんあって、この作品はみなさんの勇気に支えてもらったと思いますね。

取材・文 / 大谷弦
撮影 / 吉井明

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プロフィール

林遣都

1990年12月6日生まれ、滋賀県出身。2007年に映画『バッテリー』で主演デビュー。同作品での演技が評価され日本アカデミー賞、キネマ旬報ベスト・テンなどその年の多くの新人賞を受賞。その後も主演を含め数々の作品に出演する。主な出演作は、『ダイブ!!』(08/熊澤尚人監督)、『ラブファイト』(08/成島出監督)、『風が強く吹いている』(09/大森寿美男監督)、『パレード』(10/行定勲監督)、『荒川アンダー ザ ブリッジTHE MOVIE』(12/飯塚健監督)、『僕だけがいない街』(16/平川雄一郎監督)など。公開待機作に『花芯』(16/安藤尋監督)、『にがくてあまい』(16/草野翔吾監督)、『グッドモーニングショー』(16/君塚良一監督)『しゃぼん玉』(17/東伸児監督)などがある。初舞台『家族の基礎』(16/9/6〜公演)にも出演。

波岡一喜

1978年8月2日生まれ、大阪府出身。2005年『パッチギ!』(井筒和幸監督)の出演で注目を集め、以降映画やテレビドラマ、舞台などで多数の作品に出演。主な出演作は、『クローズZERO』シリーズ(07・09/三池崇史監督)、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(10/山崎貴監督)、『十三人の刺客』(10/三池崇史監督)、『探偵はBARにいる』シリーズ(11・13/橋本 一監督)、『ベイブルース〜25歳と364日〜』(14/高山トモヒロ監督)、『図書館戦争』シリーズ(13・15/佐藤信介監督)、『おかあさんの木』(15/磯村一路監督)など。ドラマではNHK-BS時代劇『立花登青春手控え』に出演中。

林遣都
ヘアメイク / SAYAKA スタイリスト / 菊池陽之介
波岡一喜
ヘアメイク / SAYAKA スタイリスト / 黒田匡彦
衣装:KENT AND CURWEN/03-5468-5640 Losguapos for Stylist/03-6427-8654

ドラマ『火花』

売れない芸人コンビ「スパークス」のボケ担当の徳永は、熱海の花火大会で先輩芸人である神谷と電撃的に出会い、「弟子にして下さい」と申し出た。「いいよ」と答えた神谷だが、その条件は「俺の伝記を書く」ことだった。それ以降、ふたりは頻繁に会い、語り、飲み歩きながら、さまざまな人間たちと触れ合い、お笑いについての考えを巡らせる。挫折と葛藤の日々を繰り返しながら、徳永は少しずつだが売れていき、その一方で、神谷は自堕落な生活に埋没していく…。

Netflixにて、6月3日(金)より全10話一斉配信中

出演:林遣都 波岡一喜 門脇麦 / 好井まさお(井下好井) 村田秀亮(とろサーモン) 菜葉菜 山本彩(NMB48/AKB48) 染谷将太 田口トモロヲ 小林薫

総監督:廣木隆一
監督:廣木隆一 白石和彌 沖田修一 久万真路 毛利安孝
脚本統括:加藤正人
脚本:加藤正人、高橋美幸、加藤結子
脚本協力:板尾創路
音楽:上野耕路 石塚徹
主題歌:OKAMOTO’S「BROTHER」
原作:又吉直樹「火花」(文芸春秋刊)

オフィシャルサイト http://www.hibana-netflix.jp/
©2016YDクリエイション

原作本 『火花』

著者:又吉直樹
出版社:文藝春秋

お笑い芸人である又吉直樹の小説デビュー作。自らの芸人としての体験をベースに、笑いの神髄と人間とは根源を真摯な文体で描ききった“純文学”。第153回芥川龍之介賞など、数々の賞を受賞、250万部を超える大ベストセラーとなった国民的作品。

【ドラマレビュー】『火花』の圧倒的な世界観