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PS4で甦った未完の大作『シェンムー』の魅力を振り返る

PS4で甦った未完の大作『シェンムー』の魅力を振り返る

19年まえに表現した”自由度の高さ“

さて、今回は『シェンムー I&II』から『シェンムーI』をご紹介しよう。舞台となるのは1986年11月の横須賀。武術道場の師範である芭月厳を父に持つ高校3年生の主人公・芭月涼は、目のまえで父を殺めた謎の男に仇を討つべく、その相手を探すとともに芭月家から奪われた”鏡“の謎を追うというストーリーになっている。

▲龍の刺繍が入った中華服に身を包み、キリッと尖った目が冷酷な殺気に満ちている謎の男。趙孫明(チョウソンメイ)という男を巌が殺したと言っているが、その真実はいったい……

▲涼に「愛すべき友を持て」という言葉を遺し、静かに息を引き取る巌。俳優、そして武道家でもある藤岡弘、氏によるキャラクターボイスは暖かさと勇ましさを兼ね備えており、セリフが流れると背筋がピンとしてしまう

壮大な冒険の幕開けとなる当作の主なゲームパートは、商店街のドブ板通りや新横須賀港を行き来しつつ、街にいる人への地道な聞き込みを繰り返し、ときには外国人の船員を締め上げたり、またあるときはフォークリフトでの荷物運びのアルバイトをしながら父の仇への手がかりとなる情報を集めていく。
これだけでは単なるアクションアドベンチャーに思われてしまうが、FREEというジャンルが示すとおり、1日の流れは起床と就寝以外は何をしても自由なのだ。ゲームセンターでミニゲームを遊び尽くしたり、一日中ガチャガチャを回して過ごしたり、ドブ板通りを行き交う人々を眺めて過ごすこともできる。
とはいえ、いつまでもブラブラしているわけにはいかない。芭月家の庭に植えてある桜の木が花を咲かせ、そして散るまでにクリアしなければ、ふたたび謎の男が涼の前に現れるというバッドエンディングを迎えてしまうため、それなりの期限は設けられている。
また、いくらFREEを謳っているからといっても、『たけしの挑戦状』のようにいきなり一般人に殴りかかったり、郵便物を運ぶバイクを強奪してドブ板を暴走することはできない。ゲームであっても、超えてはならないラインを超えずに現実世界を仮想体験できるのが『シェンムー』の楽しみかたなのだ。

▲バトルパートは『バーチャファイター』を発展させたシステムとなっているが、パンチとキックだけでも十分に戦えるようになっており、対戦格闘ゲームが苦手な人への配慮がなされている。また、ムービーシーンでプレイヤーにコントローラーを手放させないように、QTE(Quick Time Event)というボタンアクションパートが割り込まれることも

▲駄菓子屋にて、ガチャガチャに熱視線を送る少年の横でひたすら100円をつぎ込むという、大人げない遊びかたも……

▲街の人々もただのNPCではなく、仕事や店番といった日常生活を営んでいる。なかにはスロットハウスに開店まえから並んでいる常連客もおり、この人よりも先に入店しないと当たりやすい台を占拠されてしまう、という仕掛けもある

本筋に沿うだけではなく、あえて逸れることもできるシステムは今でこそ当たり前のように組み込まれているが、当時は「寄り道してもいいのか!」と驚いたことをよく覚えている。巌が殺された原因を知ることはできるのか? 父の仇に拳を振ることはできるのか? ストーリーの核心に迫りたいと思う反面、クリアを目指して淡々と進めてしまうのがなぜか惜しいような気がしてしまうのだ。
たとえば、コンビニでお菓子を手にとって購入したり、自販機でジュースを買うこともできるが、これらを飲食することで体力回復といったステータスの変化が起きるわけではないし、ガチャガチャで集めたフィギュアをコンプリートしたからといって何か評されるわけでもない。はっきり言ってしまうと、「だから何?」と思えてしまう要素でも当時は「すげえ!」と感動した。

▲自販機でジュースを買って一日中飲み続けることもできる。体力回復やステータス上昇といった変化は起きないが、フィギュア付きの”当たり缶“がたまに出るとちょっと嬉しい

▲骨董屋で技書を購入したり、または友人・知人から技を伝授してもらうこともできる。バリエーションを広げ、来るべき一戦に備えておきたい

▲『シェンムーI』に華を添えるヒロインであり、涼に想いを寄せる原崎望。ドブ板や港でのデートは残念ながらできないが、親密度を上げ、ふたりの距離がちょっとずつ近づいていくようなサブイベントがいくつか用意されている

とはいえ、『シェンムー』が示した自由度の高さは、今から見れば追求したリアルさをゲームにうまく落とし込めていない印象を受けるのもまた事実。ファンであれば“鈴木裕氏のゲームだから“、”セガのゲームだから“と許せてしまう盲目的な一面もあるが、一般のゲームプレイヤーからの受けを考えると、見過ごせない詰めの甘さが目立ってしまう。
「〇〇という男なら明日の昼に来るよ」という情報を得てその男に会うと、「明日の夕方にあの店で待ち合わせしよう」と言われ、物事が1日置きに進むというテンポ感は少しばかり間の悪さを感じるところもある。
ストーリーの後半、情報収集の一環として数日間のアルバイトを始めるまでは、1日500円のお小遣いをもらう以外に所持金を増やすことができないため、じつはあまり無駄遣いができないという制限もかけられている。また、アルバイトで得た賃金で不自由なくお金が使えるようになっても、この頃になるとほぼ強制的にシナリオの大筋に乗せられてしまい、自由に行動できるパートが非常に限られてしまう。なお、所持金やアイテムを含めた『シェンムーI』のクリアデータは『シェンムーII』に引き継いで遊ぶことが可能だ。
そのほか、情報を集めるために街行く人々に声をかけても「先を急いでるので」、「別の人をあたって」といった冷たい反応ばかり返ってくることも多い。ムキになって追いかけてみると、主婦の人たちは井戸端会議を始めたり、若いお兄ちゃんの場合はスカジャン屋で品定め。その様子に思わず「ぜんぜん急いでねえじゃん!」とツッコミたくなるし、単に避けられたような気がするのはある意味、現実的だ。

▲毎朝、下駄箱の上に置かれているお小遣いの500円をガチャガチャ5回ぶん、ゲーセンで5クレぶんなどと考えてしまうのはダメなゲーマーの性。ストーリーの後半では港で荷物運びのアルバイトに精を出すが、先輩から口頭で軽くレクチャーを受けるだけで、なんとフォークリフトを運転できてしまう

▲情報収集は街での聞き込みだけではなく、電話番号案内(104)に問い合わせたり、占い師にアドバイスを求めることも可能。占いは1回300円となかなか高額だ

3DCGの技術は本物と見間違えるほどに進化し、VRの登場によって仮想と現実の境目がなくなりつつある現代から見ても、セガサターンのカクカクとしたポリゴンから一転、さまざまなマッピング機能を搭載したドリームキャストの美麗なグラフィックに度肝を抜かされたのが今から20年近くもまえであることが信じられない。
「これから先、ゲームのグラフィックはどうなっていくんだろう?」と、CG表現が進化していく過程において、『シェンムー』はシナリオをパパっと進めるだけがゲームではないという可能性を見出し、ミニゲームや買い物をして過ごしたり、自宅やコンビニに置いてある物品を手にして眺めることができるという“ゲームのなかのリアル”を追求した。しかし、まだ誰も道標を残していない未開拓の分野であることから、当時は革新的だったことも、現代からすればゲームとしての古さや粗さが目についてしまうし、『龍が如く』シリーズやオープンワールドのゲームを親しんでいる若年層のプレイヤーに『シェンムー』が必ずしも受け入れられるとは限らない。しかし、”かつて『シェンムー』というゲームがあった“という概念だけで語られてしまうのはあまりにも残酷だ。『シェンムー I&II』は、クリエイターがゲームの世界で表現できる限界に挑み、その挑戦意欲と姿勢に多くのファンが胸を震わせたという事実を追体験できる機会をふたたび与えてくれた、と受け取りたい。
『シェンムーI』の主舞台は横須賀だが、次回に紹介する続編の『シェンムーII』では異国の地、香港に移行する。さまざまな通りが入り組む市街と、“一回入ると出てこられない“と言われた魔窟の九龍城で、涼はいったいどんな出会いと発見をするのだろうか? まずは『シェンムーI』で、幕を開ける壮大なドラマの体験者と目撃者になってみてほしい。

フォトギャラリー

■タイトル:シェンムー I&II
■メーカー:セガゲームス
■対応ハード:PlayStation®4
■ジャンル:アクションアドベンチャー、FREE(Full Reactive Eyes Entertainment)
■発売日:発売中(2018年11月22日)
■価格:パッケージ版、ダウンロード版 各 3,990円+税


『シェンムー I&II』オフィシャルサイト


©SEGA

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