黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 23

Interview

「スクエニ」のキーマン 橋本真司氏(下)「スクウェア・エニックス」転換期を語る

「スクエニ」のキーマン 橋本真司氏(下)「スクウェア・エニックス」転換期を語る

「忍耐」「行動力」「継続性」そして「孤独」

カッコいいじゃないですか、潔くて。この業界って自分の功績を自分からベラベラしゃべる人がいっぱいいるじゃないですか。だから、橋本さんはカッコいいなあと思うんですよね。「え、こんなすごいことをやってるの?」っていうのを今回改めて知っただけにそう思います。いや、もともと素晴らしい方だと思っていますよ。

橋本 ハハハハ、適当だなあ~。

橋本さんは覚えていないかもしれませんけど、僕は橋本さんに言われた言葉を、ずっとパソコンのスクリーンセーバーにしていたんですよ。

橋本 ウソ!?

本当ですよ。

橋本 それはね、独立される方にお伝えしているんだけど、自分がコブラチームを4年やったとき教訓としたのがイチに「忍耐」。フリーになると、すべての責任を自分で取らないといけないんでね。代表になる人は特にそう。自分が給料を払う番になるんだから、わがままなんて言っていられない。

そうですよね。

橋本 で、ふたつめが「行動力」。とにかく文句を言う前にお前やれと。3番目はだいたい皆さん勝利とか、そういう言葉を使うんだけど僕は違って「継続性」。1回のビジネスの成功なんて究極運が良ければできるんだけど、問題はそれを継続しなきゃいけないことなんだよ。それはプロデューサーしかり、経営者しかり。で、最後に社長になる人だけに言っている4つ目の言葉が「孤独」。

「孤独」かあ。

橋本 いいんだよ、社員が働かないとか、売れないとか文句を言っても。いいんだけど、それは天にツバするみたいな話で自分に返ってくるだけだから。そもそも自分で決めたことでしょと。それを僕は32、3歳で経験した。

僕はデジキューブに入って橋本さんと直接お仕事させてもらうようになったときに、その言葉を教えていただいて、ずっとそれをスクリーンセーバーにしていたんです。だから、デスクに戻ると橋本さんが言った言葉がいつも動いているんですよ。

1988年「E3」初参加のときの写真

橋本 アハハハハ。いや、もっといい言葉があるんだろうけど自分の経験で言うと、やっぱりその4つが大きかったんだよね。32、3歳のときの自分にとっては。

だから、今でも橋本さんのその言葉は心にありますよ。継続することとか、自分でとにかくやることとか。

橋本 1発当てて儲けを山分けして解散するんだったら言わないけど、作品を作り続けていきたいんだったら、やっぱり「継続性」はすごい重要で。途中であきらめちゃったら、もう終わっちゃうからね。

才能のある人を応援するほうが自分には合っているのかなあと

いやあ、でも橋本さんを見ていると自由に生きている感じがして。なんというか突き詰め感がないんですよ。それは何が違うんですかね。

橋本 自由に生きているのかなあ。

なんかね、「ああ、いいよ」みたいな感じの方に見えるんです。でも、作る人ってやっぱりこだわりがあったり、最後はこうでなきゃダメなんだって、映画でいうとフィルムを切っちゃうぐらいの根性があるじゃないですか。

橋本 いや、もちろんそれはあるよ。

でも、それを感じさせない人当たりの良さがあるんです。

橋本 ずっと、このまんまだよね。自分はモノづくりが好きで、これは売れるだろうなっていうのが分かるっちゃ分かるけど、かといって僕がディレクターをやるといいことはないので。やっぱり、『キングダム ハーツ』もそうだけど、才能のある人を応援するほうが自分には合っているのかなあと。それは変わらないよね。

でも、プロデューサーって独善性が強いというか、最後はこうでなきゃダメだみたいな感じの人が多いというのが僕の印象ではあるんですけど、橋本さんにはそれをあまり強く感じないんですよ。そこはだからディレクターとか実際に作っている人たちを優先して、彼らの気持ちを折らないようにと考えられているんですよね。

2004年「ベネチア映画祭」にて

橋本 そうそう。『FFVII』をプレステに持ってきたときの仕事もうそうだし、野村哲也(注44)と組んでイチからディズニーさんと交渉して『キングダムハーツ』をやったのもそうだし、今度出す『LEFT ALIVE』もそうなんだけど、いいやり方があるんだったら教えてほしいぐらいでね。今自分ができる最良のやり方でやってきただけで、僕のやり方がもう古いって言われりゃ古いんだろうし、他の方法があるんだったら、それでやっていただければいいかなとは思う。

注44:スクウェア・エニックスのクリエイター。『ファイナルファンタジーVII』のキャラクターデザインで注目を集め、『キングダム ハーツ』シリーズなどではディレクターも務める。

僕は作品を作りたかった。だから、坂口さんのオファーを受けた

なるほど。スクウェアとエニックスが合併されたとき、会社の体制とか体質が変わったわけですけど、そこへの違和感はなかったですか?

橋本 最初は大変だったけれども、ほかに選択肢はなかったよね。

(エニックスに)飲み込まれた感はありましたよね。

橋本 そう、それはやっぱりあるよね。ただ、合併して15年だけど、その間ずっと現場をやらせてもらえたのはありがたいなあとは思うね。

極端に言うと、自分が作りたいものを作れるのであれば、場所はどこでもよいという感じだったのでしょうか。

橋本 そんなことはない。スクウェアに入った1994年から95年の話に戻るけど、坂口博信さんに誘われたときに「橋本、お前は社長業がやりたいんだっけ、作品を作るほうがやりたいんだっけ?」って自問したんだよね。社長業でいくんだったら坂口さんのオファーを断ればいいんだけど、僕は作品を作りたかった。だから、坂口さんのオファーを受けた。

スクウェア時代 坂口氏による撮影

なるほど、作品を作れる環境に行ったと。

橋本 それとね、どうやったら『FF』や『ドラクエ』って作れるのかな、みたいなのがあったんだよ。僕は作れなかったからね。

橋本さんでも、そういう渇望があったんですか。

橋本 ああいう超大作のRPGってどうやったら作れるのかなと。もちろん、外からでも取材の記事とかコメントなんかで分かる部分はあるけど、中に入らないと分からないことがほとんどだよね。それで、実際に入ってみて分かったから。

すごいなあ。

橋本 なんだよ、それ(笑)。

いや、素晴らしいなあと思って。でも、『キングダム ハーツ』は大変だったんじゃないですか? 月並みな質問ですけど相手が相手ですし(笑)。

橋本 世界最高のコンテンツホルダーと20年近く仕事をやっていることは同業他社さんからよくほめられるよね。そこは継続性だよ。確か『キングダム ハーツII』のオリジナルを作ったのが2005年だったかな。そこから13年でやっと『III』だからね。もちろん、その間にいろんなバージョンがDSやPSPとかで出てはいるけどね。

それだけ間が空くということは、やっぱり大変なんですか。

橋本 野村の才能がすごいからね。彼には『ファイナルファンタジーVII』のリメイクもやってもらわなきゃいけないし、『キングダムハーツIII』もやってもらわなきゃいけない。彼の24時間をどうやって最大級うまく使ってもらうかっていうのが、やっぱりあるよね。ただ、そんな僕ももう還暦で定年なんだよ。今年の5月で60歳になって来年は61歳だよ。(※取材は2018年)

失礼なことをうかがいますけど、スクエニって定年があるんですか?

橋本 実はもう定年。だから今年の5月でもう卒業しているのよ。ただ、取締役の肩書があるんで残ってる。

取締役の任期はもう1年ぐらいあるんですか。

橋本 1年単位の雇用契約だから、それは来年(2019年)の春にまた社長と話し合いだよね。

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