LIVE SHUTTLE  vol. 33

Report

HEATWAVE 「HW SESSIONS 2016 #2」@吉祥寺Star Pine's Cafe 2016.6.9

HEATWAVE 「HW SESSIONS 2016 #2」@吉祥寺Star Pine's Cafe 2016.6.9
ほとんどが新曲、しかもそれをレコーディングするという実験的なライブを、HEATWAVEが行った。
レコーディングスタジオさながらに座ったままで、様々なセッションを試していくライブは、新しい音楽が生まれていく現場を、オーディエンスも共に体験できるクリエイティブな時間だった。
確かな実力と信頼関係に結ばれたバンドだけが生み出せる、ライブの醍醐味が詰まった一瞬の連続。
これまでにない高みを目指して、HEATWAVEの攻めの姿勢は加速を続ける。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / 三浦麻旅子


「Rockが偉そうにしちゃいけない。偉そうにしたら、Rockじゃない」
それを聞いたのはいったい何年前だろう。
音楽評論家の平山雄一さんが書き留めた山口洋の言葉。
バンド全盛期。HEATWAVEが大手レコード会社に所属していて、音楽業界全体が競うことなくCDを売っていた頃だ。
それから私は、偉そうな奴に会うたびに、その言葉を思い出した。

* * *

吉祥寺・スターパインズカフェ。
ほとんど新曲を演奏し、同時にレコーディングするという挑戦的なライブを行う前日のブログに、山口洋はこう書いている。

「バンドをやる日は二日酔いでも胸が高鳴る。高校時代から変わっていない」

「バンドは愉しいね。同じ演奏なんて二度とない。手垢のついていないそのプレシャスな一瞬を捉えるかどうか、だけ」

言葉通り、この日のライブは、手垢のついていないピカピカの一瞬の連続だった。そして、バンドの愉しさ……高校生みたいな4人の胸の高鳴りがフロアを揺らし続けた濃密な夜だった。

オープニング。
バックライトが灯り、山口洋がブルースハープをひと吹きして、からだの一部と化したギターを鳴らすと、 そこは赤茶けた大地だ。
どこまでも続く岩だらけの道なき道。揺れる陽炎。
渡辺圭一(b)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)と絡み合い、せめぎ合い、昂揚していくサウンドの波は、たゆたうことをゆるしながら、この世界の不条理な哀しみを天上へと解き放つ。
長い1曲目「GIRL FRIEND」を終えると、山口はいたずら坊主のようにサングラスを外してニヤリと笑った。

「今日はもうみんな気がついていると思うけど……僕らの“実験”へようこそ! ここに来ているのは酔狂なHEATWAVEのコアなファンということで……。やってる本人がどこへ行くかわからないんだから、心してついてきてください。あ、レコーディングしてるからって遠慮しないで、歌ったり、ダイブしたりしていいからね(笑)」

緊張の糸がほどけて、ステージもフロアも全員が着席したまま、さあ出発だ。
後から思ったのだけれど、HEATWAVEのライブはまるでピースボート。遥かな海と大きな波、乾いた大地と灼熱の太陽、満天の星空と冴えた月、山頂の絶景、真っ白い雪平原、広大な河の流れ……全てがある。

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2曲目は、赤道直下の国でたくさんのストリート・チルドレンを前にしたとき生まれたという新曲「ティンプクトゥ」。

太陽の子 本当の君 そして永遠のnothing
生きる喜びをあの子らに伝えてくれ

かつては「黄金郷」として知られた西アフリカ・マリ共和国の都市、ティンブクトゥ。ポール・オースターの小説では、ホームレスの主人に死なれた犬が「魂が還る場所」として憧れる地でもあるが、いまはイスラム武装勢力に占拠され、砂漠化は進み、かつての光はかけらもない。
細海のピアノは、繊細な指先から祈りの粒のような音を響かせ、山口のギターは現実を切り刻むように熱を帯びていく。 HEAWAVE結成当時からの盟友・渡辺のベースは、フェルナンド・サンダースにも似て、山口のギターと引っ張り合いながら抜群のグルーヴを生み出す。
ドライブ感ハンパない池畑のドラミングが、さらに熱さを増幅する。

一転して、旅は標高3000mへ。白銀の世界で「これ以上はない幸せな顔で滑ってくる」盲目のスキーヤーを目の当たりにしたときの衝撃を歌った「BLIND PILOT」。

マイノリティだと嘆くことはない
私は自由に空を飛びたい
たとえ目が見えなくても あなたに向かって飛んでいきたい
盲目のパイロット 遅くはないさ

山口は机上で詩を書かない。
現場にからだを運び、さまざまなものを見聴きし、感じ、考え、膨れ上がったどうしようもない想いを、歌というカタチで昇華する。

4曲目はアメリカ先住民の大地へ。
シングル盤で発売もされている「Hotel Existence」。
20代後半、自ら体験した「ビジョン・クエスト」(先住民の男子が成人になるために行う儀式)のことを歌った曲。
砂漠でたった一人、どんな生き物がいるかわからない漆黒の闇の中で一晩明かす経験は「自分の中の宇宙と外の宇宙との境目がわからなくなる」と山口。曲を聴きながら、私たちはその孤独と大いなるものの存在に想像をめぐらせる。 ギターをグレッチに持ち替えてピュアなラブソング「PRECIOUS」を鳴らした後、山口はこう話し出した。

「絵も曲も完成なんかしない。締め切りを決めてその時点で出すかどうか決める、それだけ。この曲はまだリリースするかどうか微妙だけど……でも、やる。ずっと“STREET WISE”って言葉が引っかかってたんだ。道の上にある知恵。自分の経験じゃなきゃ何も学べないってこと」

この曲はルー・リードか佐野元春さながら言葉が礫となって飛んでくる。

お前の足りないところは個性なんだ
もう十分だよ 無傷から血を流し続けることは
STREET WISE!

細海のキーボードはサイケな色彩を添え、渡辺、池畑と自由にセッションを楽しみつつ、煽る、煽る。

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休憩を挟んで第2部は、Rockの巨人たちへのリスペクトに溢れた構成だ。
大きな星のマークのTシャツに着替えた山口は、まずアイルランドの崖っぷちに暮らす詩人、スティーヴの話をする。

「ミューズっていうのは、詩をもたらしてくれる人のこと。スティーヴは海に落ちている海藻を食べ、大西洋を眺めながら詩を書く。夜になるとPubに行く。すると町のおじさんがこう言うんだ。スティーヴ、今日の詩を聞かせてくれ。スティーヴは書いたばかりの詩を披露し、おじさんは彼にギネスを一杯ごちそうする。俺は感動して、素敵だねって言ったら、おじさんはこう言った。何言ってるんだ、ヒロシ、当たり前じゃないか。町には肉屋も八百屋もスティーヴも必要なんだ、って」

なんて素敵な話だろう。
断崖に砕け散る波のようなベースとギターのディストーションが響き「世界がミューズである限り」。
椅子に座っていることがもどかしそうに足を動かす山口、渡辺。
クールな池畑も一体となってエッジの効いたサウンドにガソリンを注いでいく。
アンビエントな細海のキーボードが無法地帯となった音の海を泳ぐ。

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「バンドって面白いだろ。大好きだよ」

まるで文化祭みたいな山口のMC。そして、Tシャツの星にスポットが当たる。

「いろんなミュージシャンがいなくなっていくけど、今年、凄くこたえたのがデヴィッド・ボウイ。生きているときはそんなに好きじゃなかった。カッコよ過ぎて。でも、彼がいなかったら、俺や圭一が凄く影響を受けたルー・リードって人もいなかったと思うし……。
軽トラックって単語を使いたかったんだ。スバルのサンバー。その荷台に星屑積んでさ」

ジギーは本当に星屑で
ジギーは本当にダイヤモンド・ダストで

ロック・スターに憧れた福岡の高校生は、いまも変わらず素直に憧れを口にする。
そのストレートさ、飽くなき好奇心と情熱、リスペクトが、HEATWAVEの背骨であり筋肉だ。

これまで出会って別れた人たちに、「元気でいてくれたら、幸せでいてくれたらそれでいい」と歌う「それだけでいい」、ミシシッピを共に旅した魂の分身の話に続く「ヨーコ」で、バンドのグルーヴは最高潮に達する。
メンバーチェンジはあったものの、HEATWAVEは結成37年、メジャー・デビューから26年。移り行く音楽シーン、その時の流れの中で、Rockに初めて出会ったときのパッションを燃やし続けている山口洋。

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「音楽業界とは随分離れたところに来てしまったけれど、音楽がなかったら、俺たちどうなってたんだろう。俺たちは不器用にやり続けると思うよ。しぶといからさ。介護施設に入っても歌い続ける。
52年も生きてるけど、あんまり自分のことがよくわからない。わかろうとするのもやめた。
いままで全力で走ってきたけれど、広いところを見渡して、人を信じて すっと着地するように音楽ができたら……」

細海魚のハモンドオルガンに誘われてミラーボールが回り始めると光の雨粒が降ってくる。本編最後は「STARLIGHT」。
発せられた瞬間から減衰していく音の粒は心の澱を取り払い、綺麗なかけらで満たしていく。

アンコールは山口も渡辺もサングラスを外し、足枷がとれたようにスタンディングで「新しい風」。
ひときわ印象的だったのは、この後だ。
メイン・ギター “ヒロシ・モデル”の弦が切れたのだ。ギターを手放してハンドマイクで歌う山口は、まるで陸に上がった魚のよう。
意を決してグレッチを取り上げ、チューニングもせずにかき鳴らしたその瞬間、ステージ全体が稲光に包まれた!
そのまま「満月の夕」へ。
1995年阪神淡路大震災のときも、2011年東日本大震災の後も、ずっと傷ついたものへ歌を届け続けた山口洋のタフな精神と肉体、そして限りない優しさが詰まった歌。
泣くことを赦してくれる歌。
あまりに静まり返ったオーディエンスをそのまま帰すには気が引けたのか、最後にもう1曲、「BRAND NEW DAY/WAY」。

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3時間近いライブが終わり、旅の余韻に浸りながらフロアを後にする一人ひとりの顔は、とても満ち足りて清々しかった。

2階席から食い入るようにステージを見つめていた友人が、やっと私のほうを向き直ってしみじみ言った。
「カッコ良かった……。いやぁ、カッコ良かった」
放心したように繰り返す彼女の瞳に煌めいていたのは、軽トラの荷台に詰め込んだ満天の星屑そのものだった。

* * *

最後に、翻訳家の柴田元幸さんが2008年に書いたブログの一節を。

彼(山口洋)の、いろいろ頑固であると思わせるブログの文章を読んでいると
何にせよもっと楽にやっていく方法もあっただろうし
もっと別の生き方もあるように思えるのだけれど
そういう意固地さが、オースターのこの本(『トゥルー・ストーリーズ』)を読んでいて
ふと思い出されたのだ。
とにかく、オースターも山口洋もこのように無事にものを発表することができ
私はそれを読んだり聴いたり観たりすることができて幸せだと思う。

うん。本当に幸せだ。

HW SESSIONS 2016 #2 セットリスト

第1部
1.GIRL FRIEND
2.ティンプクトゥ(新曲)
3.BLIND PILOT(新曲)
4.Hotel Existence
5.PRECIOUS
6.STREET WISE(新曲)

第2部
1.世界がミューズである限り
2.ジギーと星屑(新曲)
3.それだけでいい(新曲)
4.ヨーコ(新曲)
5.STARLIGHT

EN1.新しい風
EN2.満月の夕
EN3.BRAND NEW DAY/WAY

ライブ情報

山口洋 on the road again “Blind Pilot” 6月23日(木) 広島・福山POLE POLE 【オープニングアクト】THE KAZEASHI 6月25日(土) 島根・出雲LIBERATE 6月26日(日) 山口・岩国himaar (ヒマール)

オハラ☆ブレイク ’16夏 2016年7月30日(土) 〜 8月7日(日)   福島・猪苗代湖畔 天神浜 ※山口洋×矢井田瞳 (MY LIFE IS MY MESSAGE)は、8/6に猪苗代野外音楽堂に出演。 ※雨天決行

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2016 in EZO 8月12日 (金)・13日(土) 北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ ※HEATWAVEの出演は8/12

MY LIFE IS MY MESSAGE for九州 / POWER TO THE PEOPLE 熊本編 8月21日(日)  熊本・ぺいあのPLUS  【出演】山口洋 / 矢井田瞳

MY LIFE IS MY MESSAGE for九州 / POWER TO THE PEOPLE 8月27日(土)  東京キネマ倶楽部 【出演】山口洋 / 仲井戸”CHABO”麗市 / 矢井田瞳 featuring:古市コータロー(THE COLLECTORS) 8月28日(日)  東京キネマ倶楽部 【出演】山口洋 / 仲井戸”CHABO”麗市 / 矢井田瞳 featuring:TOSHI-LOW (BRAHMAN)

中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2016年9月10日(土)・ 11日(日)  岐阜・中津川公園内特設ステージ
※山口洋は、9/11のLIVE FOR NIPPON 〜Pray For 熊本〜での出演

HEATWAVE

山口洋 (vocal、guitar)、渡辺圭一 (bass)、細海魚 (keyboard)、池畑潤二 (drums)。
1979年、福岡にて山口洋を中心に結成。90年に上京し、アルバム『柱』でメジャーデビュー。当時のメンバーは山口洋、渡辺圭一、藤原慶彦。92年、『陽はまた昇る』のレコーディングで細海魚と出会う。95年には、阪神・淡路大震災の被災地への思いを歌った、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)との共作「満月の夕」を発表。世代を越え、広く歌われる歌となった。98年に発表された『月に吠える』は全レコーディングが山口洋、元THE BOOMの山川浩正、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャー、伴慶充で行われた。翌年の『日々なる直感』にはアイルランド音楽の重鎮、ドーナル・ラニーも参加。幾度かのメンバーチェンジを経て、2003年より、現在のメンバーで新生HEATWAVEの活動をスタートした。

オフィシャルサイト http://no-regrets.jp/heatwave/

リリース情報

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『Hotel Existence』
発売中

HWNR-011/¥1,500 (税込)

1.Hotel Existence
2.世界がミューズである限り
3.Swindle

vol.32
vol.33
vol.34