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桑田佳祐『ヨシ子さん』。4人の文筆家による最速レビュー合戦 【前編】

桑田佳祐『ヨシ子さん』。4人の文筆家による最速レビュー合戦 【前編】

ソロとしては約3年振りとなる桑田佳祐の最新シングル「ヨシ子さん」が6月29日にリリースされる。
タイトル曲は、多様な音楽性や遊び心が満載で、攻めの姿勢に溢れる1曲。
TVCMソングとしてもお馴染みの「大河の一滴」、「愛のプレリュード」、ニュース番組のテーマソングでもある「百万本の赤い薔薇」などが収録された、聴き応えのあるシングルについて、4人の文筆家にレビューしてもらった。
桑田佳祐の「ヨシ子さん」の魅力を多角的に検証する。


日本の歌謡曲が初めて到達する場所へ進もうとしている

文 / 森朋之

毎年、自身のラジオ番組で邦楽シングル・ベスト20を選んでいる桑田佳祐は(2015年の1位は槇原敬之の「超えろ。」、2位はGLIM SPANKYの「褒めろよ」)日本のポップミュージックに強い関心を持ち続けていているわけだが(←ここは山下達郎も同じ。この好奇心と執着心が第一線で活躍を続ける理由のひとつかと)、今回のシングルにも“まだ負けない。俺がこの国のポップスのレベルを上げてやる”と言わんばかりの気合いが満ちていて驚かされる。4曲を通して感じられるのは、サウンドメイク、歌詞の内容を含めて、60歳を迎えた(!)桑田が現在のリアルをしっかりと発していることだ。表題曲「ヨシ子さん」は“R&Bやヒップホップには疎いのよ”みたいな愚痴で始まりつつ、レゲエとカリプソとサイケデリックを混ぜ合わせたトラックによって斬新すぎる音楽性を示唆する桑田流のダンスチューン。EDMとEDを掛けたりしながら(つまり“そんなじゃ勃たたないよ”ということですね)、最終的に「エロが足んねえ」と憤慨してみるリリックを含め、枯れたフリしてやっぱり絶倫(でいたい)というところが素晴らしい。

その他の収録曲も興味深い。「大河の一滴」は4つ打ちのエレクトロとラテン歌謡を融合させた高揚感あふれるナンバー、「愛のプレリュード」は思わず湘南サウンドという言葉が頭をよぎる桑田節全開のポップソング、「百万本の赤い薔薇」はモータウン・テイストのゴージャズなサウンドメイクが印象的な楽曲。テイストはまったく違うが歌の内容は“在りし日のふたりの関係を回想しつつ、現在の心境を描く”という点で共通している。達観したフリをせず、確実に変化していく肉体と精神に翻弄されながらも、それでもロマンとエロを求め続ける――還暦を超えた桑田はいま、日本の歌謡曲が初めて到達する場所へ進もうとしているのだと思う。ちなみにこのシングルを聴いて40代の私がいちばん強く思ったのは“あと何回セックスできるだろう?”でした。ポップスを聴いてそんな気持ちになったのはもちろん初めてです。

 

“縛りを取り払える”のは、桑田ソロ領域の大いなる魅力

文 / 佐伯明

「サザンオールスターズの楽曲とソロ楽曲の間に、境界線はない」と、桑田佳祐が発言したのは、シングル「波乗りジョニー」(2001年リリース)の頃だった。確かに「波乗り〜」だけを聴くと、サザン楽曲との“境”はないように感じるけれど、僕は、きちんと境はあると思っている。それが如実に現れるのがアレンジメント部分だ。サザンの楽曲アレンジにおいて、桑田さんが緻密に作ったデモ音源に対して、各メンバーが音で個性を出しながらもデモに近づくレコーディング方法であれ、メンバーにある程度自由にプレイしてもらった上で桑田さんがある種の編集をしていく方法であれ、サザン楽曲には、今や歴然とメンバーの音に立脚した編曲がある。だが、桑田ソロ楽曲に、人格という名のサウンドが規定するアレンジは、原則としてはないと思う。

もちろん、桑田さんのソロのキャリアも1987年から確かに堆積してきたわけであるから、彼にふさわしいソロ楽曲のアレンジもあるとはいえ、“縛りを取り払える”のは、桑田ソロ領域の大いなる魅力である。

今回の4曲のうち「百万本の赤い薔薇」だけが、他3曲とは異なる編曲クレジットとなる。桑田さんに原由子さん&曽我淳一さんがクレジットされた「百万本〜」は、ハネたリズムを落ち着かせるようなピアノやストリングスの配置が、耳に心地いい。「愛のプレリュード」(編曲:桑田佳祐&片山敦夫)は、ウクレレとエレクトリック・ギターのステレオ対比が、男女の性格対比を表しているようで、何度でも聴いてしまう。マイナーコードに4つ打ちを当て過ぎ去りし日々に恨み節も込めた「大河の一滴」は、日本人情緒を、やさぐれたピアノで煽っていく超ポップな編曲だろう。そして「ヨシ子さん」は、レゲエ&セカンドライン・リズムにモジュラー・シンセ的な音とエレクトリック・シタール、歌詞には“ナガオカ針”から“デヴィッド・ボウイ”まで記される、これまた縦横無尽の桑田流。

僕には、桑田さんがこの曲を「平成のロバート・ジョンソンともいうべき曲」と言ったのが、解る気がする。つまりは、奇怪・奇天烈な楽曲であり、それこそが、桑田ソロの本性なのである。

 

時代を取り込む貪欲な雑食性が、特殊な才能の源に湧き出ている

文 / 佐野郷子

「ヨシ子さん」と聞いて、すわ昭和の爆笑王=林家三平を思い出してしまうオーヴァー50なので、お得意の昭和ど真ん中歌謡かと予想していたら、見事に外れてしまった。その意表を突き方が、しかし、桑田ソロらしくてうれしくなってくる。歌詞ではR&B、HIPHOP、あげくはEDMまで引き合いに出しながら、サウンドはインド〜東南アジア風という妙な味わいの曲をシングルに持ってきたのだから大胆。そんな時代を取り込む貪欲な雑食性が、桑田佳祐の特殊な才能の源に今なおこんこんと湧き出ている。還暦超えにして、このタフな胃袋は尋常ではない。オッサンのぼやき、つぶやきを軽妙に聞かせてしまうのもこの人にしか出来ない芸当で、好きなオンナができても「イイ歳こいて」という自覚があるところが哀しいかな、ニッポンの男の性。ボブ・ディランやデヴィッド・ボウイの音楽には影響されても、桑田佳祐は昭和生まれの日本の男なのだ。

「昭和」「歌謡曲」というのも彼の音楽の重要なファクターだが、「大河の一滴」は、打ち込みの四つ打ちにラテン・ギターと歌謡曲の下世話さが相まってやるせない情感を演出。現在、大きく変貌を遂げつつある渋谷駅周辺で、かつての色恋を忍ぶ中年の男の視点がやけにリアルなのは、宮益坂下、オムライスで知られる「ラケル」、渋谷川の暗渠などが歌詞に出てくるせいもある。ご当地ソングの伝統を渋谷を舞台に継承したのはさすが青学出身? ウクレレが効果的に使われた「愛のプレリュード」は、本作では最もサザン寄りのポピュラリティのある曲だが、ポップスの王道といえるメロディときらびやかなアレンジがソロではむしろ新鮮なのが「百万本の赤い薔薇」。サビで繰り返される〈ダ・ドゥ・ロン・ロン〉(フィル・スペクターのプロデュースによるクリスタルズの代表曲)に込められた60’sポップへの憧憬も好もしい。

何度目かの転機を経て、今また打って出ようとする桑田佳祐。力まずとも、何をしでかすか分からない危うい香りも込みで、日本の音楽界の4番バッターであることに変わりはない。

 

『ヨシ子さん』

【収録曲】
1.ヨシ子さん(WOWOW開局25周年CMソング)
2.大河の一滴(UCC BLACK無糖TVCMソング)
3.愛のプレリュード(JTB TVCMソング)
4.百万本の赤い薔薇(フジテレビ系列 全国26局ネット「ユアタイム~あなたの時間~」テーマソング)
5.大河の一滴(TV Edit)

【初回限定盤特典ボーナストラック】
6.東京(TOKYO Big Band Session)
7.風の詩を聴かせて(Live at Onagawa Station -2016.03.26-)
8.明日へのマーチ(Live at Onagawa Station -2016.03.26-)
9.明日晴れるかな(Live at Onagawa Station -2016.03.26-)
WOWOW開局25周年記念特別番組“桑田佳祐「偉大なる歌謡曲に感謝 ~東京の唄~」”でのスタジオセッションによってリアレンジされた「東京」に加え、3月末に閉局した“女川さいがいFM”を労うべく宮城県・女川町にて行われたサプライズライブ音源など、計4曲のボーナストラックを収録。

 

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