横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 11

Column

舞台『魔界転生』が教えてくれたこと。「娯楽があるから、人生が楽しい」

舞台『魔界転生』が教えてくれたこと。「娯楽があるから、人生が楽しい」
今月の1本 日本テレビ開局65年記念舞台『魔界転生』

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月は、舞台『魔界転生』をピックアップ。今年最大級のスケールで演劇界を湧かせた娯楽大作から、エンタメの意義を改めて考えてみたい。

文 / 横川良明

これぞエンターテインメント。豪華キャストで贈る傑作時代劇

上川隆也、溝端淳平、高岡早紀、そして浅野ゆう子に松平健。正月恒例の新春時代劇を思わせる破格のキャストが揃った本作。演出を手がけるのは、ヒットメーカー・堤幸彦。映像の印象が強い堤監督だが、定期的に舞台も手がけており、脚本家・マキノノゾミとのタッグは中村勘九郎主演の『真田十勇士』以来。前作同様、絢爛豪華なステージで観客を魅了した。

一幕95分、二幕105分という上演時間を見て、正直、最初は怯みもした。休憩時間30分を含めれば怒濤の4時間弱。さすがに途中で集中力が途切れないか心配しながら明治座に足を運んだのだけど、終わってみればあっという間。一瞬たりとも時間を気にすることなく、奇想天外な一大スペクタクルに釘付けとなった。

何と言っても痛快なのが、そのケレンミ溢れる演出の数々。魑魅魍魎の世界を彩るプロジェクションマッピングや、溝端によるフライング、そしてアンサンブルキャストたちの技術が光る迫力の殺陣など、見どころを挙げれば枚挙に暇がない。堤幸彦らしい小ネタも随所に散りばめられていて、大作ながらいい意味での軽さがあり、肩肘張らずに楽しめる。次々とシーンが入れ替わるが、場面転換も手際が良く、まるで中だるみを感じさせない。

座長・上川隆也は、舞台に出てきた瞬間に思わず「よっ!」と掛け声をかけたくなる華やかさと、剣豪らしい凄みをまといつつ、全体的にはちょっとおとぼけなキャラクターで、その抜け感が味になっている。溝端淳平は妖艶さと孤高さを持ち合わせ、納得の天草四郎。高岡早紀は持ち前のどこか寂しさ漂う儚い雰囲気が舞台上でよく映える。一幕終盤に登場した浅野ゆう子は出てきた瞬間からメタネタを交えて観客を和ませつつ、キレキレの悪女っぷりを披露。花も実もある大女優なのにユーモアも兼ね備えていて、少ない出番ながら存在感はバッチリ。そして、松平健のありがたみすら感じさせる貫禄。見せ場である上川VS松平の対決は、それだけで十分にチケット代のもとはとれたと頷ける気迫があった。

こうした大物たちと共に舞台を盛り上げたのが、若手実力派の舞台俳優たち。村井良大は愛嬌、松田凌は清々しさ、そして玉城裕規は狂気を舞台にもたらし、木村達成は実直に、猪塚健太は激烈に、栗山航は人間味いっぱいに役を生き抜き、それぞれ一陣の風となって駆け抜けた。松田と玉城の対決、そして木村と栗山の絆など、サイドストーリーながらしっかり目頭を熱くせられてしまうのは、それぞれがきちんと関係性を大事に、ひとつひとつの場面を重ねてきたから。柳生衆のコミカルな連携プレイは微笑ましく、序盤の空気づくりに大きな貢献を果たした。

いい演劇に出会うと、ちょっとだけいい人になれる気がする

エンターテインメントとはすなわち「娯楽」。同じ意味なのだけど、この舞台に限って言えば不思議とエンタメというより「娯楽」と呼んだ方が個人的に据わりが良い。それはすなわちこの作品の持つ大衆性、気取りのなさが、「娯楽」というちょっと古典的な匂いのする単語にぴたりとマッチするから。

小学館「デジタル大辞泉」によると、「娯楽」とは「仕事や勉学の余暇にする遊びや楽しみ」らしい。なるほど。仕事や勉学といった義務的行動から解放された、ひとときの癒しや歓び。それが「娯楽」なのだ。「娯楽」の種類は人それぞれ。いわゆる可処分時間を何に使うかで、その人の人生の輪郭が見えてくる。旅に出るのも良し、食を楽しむのも良し。そして、こうして劇場に足を運び、非日常を味わうのもまた極上だ。

観劇の楽しさは、きっと上演時間だけに限らない。劇場に着いてポスターを撮るところから始まって、明治座なら推しののぼり旗が立っているのを見て「おめでとう」と記念撮影して感慨に浸ったり。もしくは残念ながらのぼり旗が出ていない俳優が推しの場合は、「いつか自分の推しののぼり旗が立ちますように」と応援の気持ちで祈ったり。賑やかに軒を連ねる売店で普段なら手は出さない和菓子を買ったりお土産にしたり。あの華やいだ空間にいるだけで、心がいつもよりウキウキする。それも含めて観劇なのだ。それこそ今日は観劇だからとお気に入りの服を選ぶところから観劇は始まっているのかもしれないし、意地でも開演時間に間に合わせるぞとハイスピードで仕事を片づけるのも、観劇の醍醐味かもしれない。

「娯楽」があるから、私たちはなんとか笑って生きていける。舞台『魔界転生』を観て、しみじみいいなと思ったのは、いろんな事情と感情を抱えてやってくる観客一人ひとりを心から楽しませようというサービス精神が随所に感じられたから。約4時間もの間、難しいことを何も考えずに楽しんで、気持ち良く帰りの電車に乗ることができた。いいお芝居を観た日は、少しだけ自分も優しい人間になれる気がするし、世界中の赤の他人たちを愛しく思えるのだ。そんな観劇の本質を舞台『魔界転生』は再確認させてくれた。

この演劇コラムも今年はこれで締め括り。振り返ってみても、喜怒哀楽、いろんな感情を舞台を通して体験させてもらいました。ともすると単調になってしまいがちな日常に、これだけハリを感じられるのは、生活に演劇という「娯楽」があるからこそ。

そして、こうして書き連ねた文章が、電車に乗っている間のスキマ時間とか、雑事を終えてひと息つくその瞬間の、ちょっとした「娯楽」になれていたら幸甚です。

演劇を愛するすべての人たちに、素敵な年の瀬が訪れますように。少し気が早いですが、今年1年、本当にありがとうございました。

日本テレビ開局65年記念舞台『魔界転生』

福岡公演:10月6日(土)~28日(日)博多座
東京公演:11月3日(土・祝)~27日(火)明治座
大阪公演:12月9日(日)~14日(金)梅田芸術劇場メインホール
原作:山田風太郎(角川文庫刊)
脚本:マキノノゾミ
演出:堤 幸彦
出演:上川隆也、溝端淳平、高岡早紀、村井良大、松田 凌、玉城裕規、木村達成、猪塚健太、山口馬木也、藤本隆宏、浅野ゆう子、松平 健、ほか
企画・製作:日本テレビ

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