映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』特集  vol. 3

Interview

宮藤官九郎が撮りたかった、演劇的な映画【インタビュー前編】

宮藤官九郎が撮りたかった、演劇的な映画【インタビュー前編】
宮藤官九郎×長瀬智也コンビが帰ってきた! 宮藤監督作品に欠かせない役者・長瀬智也が、本作で実に7年ぶりに映画に“赤鬼役”でカムバックした本作は、地獄で高校生と赤鬼がロックバンドを組むという奇想天外なストーリー。非現実的な設定で普遍的なテーマを描き続けてきた“クドカン作品”の中でも、最も突き抜けた、笑いと涙とロックに溢れる極上のエンターテインメントになった。 演劇にドラマにとジャンルを横断して幅広く活躍する宮藤官九郎が映画『真夜中の弥次さん喜多さん』(2005)で映画界に衝撃的なデビューを果たしてから、10年。映画に賭けた新しい挑戦とは、一体どんなものだったのか。『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』の公開を控えた宮藤官九郎監督に話を聞いた。エンタメステーションでは、制作現場の舞台裏から、宮藤監督の死生観に迫ったロングインタビューを、前篇・後篇の2回にわけて掲載します。
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話が掴みきれなかったスタッフは実際多かったと思います(笑)

高校生が地獄でロックバンドという設定は、どこから着想されたのですか?

もともと『スクール・オブ・ロック』みたいな痛快なロック映画がやりたいなと思っていたんですよね。それまで「パンク」とか、好きなジャンルにこだわっていたけど、もうちょっと広い意味でのロック映画をやりたいなと思って、長瀬くんとそんな話をしたのがはじまりですね。
70年代以降のハードロックって?地獄?がカッコよく歌われている。KISSやAC/DCの歌詞を見たりすると「HELL!(地獄)」や「KILL!(殺せ)」など威勢のいい言葉が使われていて。それで「地獄の軽音楽部」っていう仮タイトルだけ最初に思いついて、地獄なのに“軽い”っていう字が入ってるところがいいなって思って。それで高校生が地獄に落ちたら鬼がいて、鬼とバンド組まないといけなくなるっていう話を考えました。なので、地獄とロックと長瀬くんは、ほぼ同時に思いついたんです。

 映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

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初号を観た尾野真千子さんが「出来上がった作品を観て、初めてこういう話だったのかと理解できました」とおっしゃっていました。宮藤監督の作品は独特な設定が多いだけに、脚本の段階で、その世界観を掴み切れる方は実際どれだけいるのだろうと思っていました。

撮ってる時も「尾野さん、わかってないんだろうなあ」っていう瞬間は正直、何回かありました(笑)まあ、面白いから、それでいいんですけど。それは尾野さんだけじゃなくて、みなさんイメージしにくいみたいです。特に、今回の撮影は、インコやアシカと絡んでる動物のシーンから撮り始めたので、自分の役柄や話が掴みきれなかったんじゃないかと思います(笑)。でも尾野さんは、さすがで、持ってくところは持っていくんですよねぇ……。ラストシーンは「やっぱり上手だなあ」って思いました。ここはシリアスに行った方がいいっていう場面は、やっぱり肌で感じるんだなって感心しましたね。

 映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

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長瀬さんは、監督からオファーを受けた時に「“地獄でロックバンド”という設定を聞いただけで、普通の人が理解できないくらいのレベルの理解が僕にはできたんです」とおっしゃっていました。宮藤監督作品の出演が長いだけあって、長瀬さんとは、あうんの呼吸だったようですね。

確かに長瀬くんは「地獄の鬼を演じてほしい」と話をしたら、二つ返事で引き受けてくれたし、僕が何をしようとしてるのか、すぐにわかってくれていたところがありました。でも今回は、いままでの(自分の監督作品の)中では、一番、口で説明しやすかったかもしれません。特に長瀬くんと神木くんには、話しましたね。でもほかの人にはしなかったです。多分、説明しない方がおもしろくなると思ったのかもしれない。自分で観て(映像が)つながってればいいやって。話して説明することで、何かが変わっちゃうのもヤだなって。宮沢(りえ)さんの芝居なんて、一回テストでやってみたら、完全に出来上がっていたんで、もういいやって思ったんですけど、でも「何も(演出の)仕事をしてない」って思われるのもいやだなと思って(笑)一応「こんなふうにやってもらっていいですか?」とか言ってみましたけど。でも、いいものに対して、ことさら言葉で説明するのもなあって思っちゃうんですよ。

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

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長瀬さんと神木さんには、どんなことをお話されたのでしょうか。

僕が何をしようとしているのか、だいたい伝わっていたところがあったので、長瀬くんには、ファッションとか、細かい話をしましたね。(長瀬が演じる)近藤さんは、町の音楽スタジオでスタッフをやってる30半ばの男ですが、その近藤さんの背景をみんなで想像しながら、長瀬くんと衣装さんを交えて話し合いました。近藤さんは、本当はミュージシャンになりたかったけどなれなくて、“ミュージシャン崩れ”っていう感じなのか、もしくは、アカデミックに音楽をやっているタイプの方がいいのか。
逆に神木くんには、気持ちの面を話しましたね。「ここでは、彼女の気を引きたいから、こういう態度」とか「彼女の「あっ」ていう声は小さすぎて、本当なら聞こえないはずなんだけど、大助に聞こえちゃうのは、それくらい神経を張り巡らせてるから、ここではすぐに振り返ってください」とか、そんな話をしました。

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演劇的な要素を映画に活かそうと意識して挑んだ作品

画面の端にいる役者やエクストラの人まで見逃せない演技をしているところが、舞台をやってこられた宮藤監督ならではですよね。

今回は意識して、演劇的な要素を取り入れた映画を撮ろうと思ったんです。演劇はカメラでズームインできないですよね。お客さんには、全部舞台が見えちゃいますよね。そこが演劇の好きなころでもあるんですが。
この間、といっても2年前くらいに、久しぶりに自分の監督第1作目である、『真夜中の弥次さん喜多さん』を観返したんです。僕は基本的に出来上がった作品はできるだけ観たくないんですが、観ないといけなくなって……。そうしたら、完全に映画で演劇をやっているんですよ(笑)もっと(カメラで)寄ればいいのに、全部フレームに入るサイズで撮って、みんながあちこちでへんなことやってるのを全部映してるっていう。いま観ると「こんな撮り方してたら、何がおもしろいのかわからないじゃん」っていう……。「この時は、まだ演劇を引きずってて、無意識のうちに映画で演劇をやっちゃってたんだな」と思いました。だから、今回はより自覚的に、映画で演劇的要素を取り入れようと思いました。自分は今までずっと芝居をやってきた人間なので、これまで映画を撮るときは、演劇っぽい部分をできるだけ排除して映画を撮ってきた訳ですけど、それをやっていたら、それこそ、ずっと映画を撮ってきた人にはかなわないなって思ったんです。ずっと演劇ばかりをやってきたからこそ、映画に活かせる舞台の手法もあるんじゃない?って思って、それを今回はやってみたいなと思ったんですね。それで、地獄はオールセットにしたんです。

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

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リアルに作り込むことを意図的に放棄したかのような「地獄」でしたよね。「これはセットです」と言っているかのような。

はじめに地獄の映画を撮りたいと思ったときに「映画では無理かもしれない」とも思ったんですね。まずフルCGにしたら、カネがかかりすぎるだろうと。それに、フルCGの映画の持つ独特のテイストって既にあるし。どんなに技術を盛り込んで舞台を作り込んでも、カメラの動きも限定されるし、カット割らないといけないし、規制がある。それが役者の芝居というかライブ感を止めちゃうんじゃないかと思うのがどうもなあ……と思っていた時に、オールセットでやろうと思って。そう思って、映画『楢山節考』(木下恵介監督)を観返してみたら、ラストの現代の風景以外は、全部オールセットで撮影されていたんですよね。これ、出来るんじゃないかなって。
演劇だと、幕の前で芝居をするのは当たり前のことです。でも、演劇の舞台セットみたいなところで映画を撮ってみるとか、そういう演劇の手法をこれまでなぜか映画で使ってこなかった。今回は思い切って、演劇をやるつもりでやろうと思って。作り込んでいけば大丈夫だって、そこに迷いはなかったですね。でも地獄のセットとか衣装とかひっくるめると、結局CGと同じくらいカネがかかっちゃったんですけど(苦笑)。

長瀬くんがオナラをしたところ。これは使いたいと思いました(笑)

撮っていて楽しかったシーンはどのあたりでしたか。

現場でおもしろかったのは、やっぱり、じゅんこが出てきてからかなぁ。前半を長瀬くんが引っ張っていった後に、その主導権がじゅんこに渡されたところから、さらにストーリーが展開するし、映画がもう一段階ステージが変わる感じがしました。今回、長瀬くんに鬼をやってもらうことの次に決まっていたのは、皆川くんに女子高校生をやってもらうことで(笑)。舞台ではよくやってることだけど、この手法が映画で通用するのかっていうのは、自分のなかでのチャレンジでもありました。あと結構重要なシーンで長瀬くんがオナラをしたところ(笑)。これは使いたいと思いました(笑)。やっぱり狙って笑いを取りにいかない時に生まれるものってあるし、そこがおもしろかったりするんですよね。もったいないじゃないですか(笑)

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

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それをNGにせず取り込んでいく、取り込んでいけるというのがさすがですね。話を少し戻すと、撮影前に、何度か脚本の書き直しがあったそうですが、脚本の設定が大きく変わった部分はどのあたりだったのでしょうか?

輪廻転生の部分です。本当はもともと地獄だけで完結するストーリーを作っていて、転生する話は一切なかったんです。現世のシーンは大助の回想という形で入っていくのですが、基本的に大助はずっと地獄にいるという設定で話を書いていました。長瀬くんに関しては、はじめは何の背景もないただの鬼だったんですけど、輪廻転生の話を導入してから、前世では「近藤さん」だったというキャラクターが生まれました。これも後付けだったんですよ。

転生する部分が、大助の成長物語に重要なくだりになっていると思うので意外です。転生部分を加えようと思ったのはなぜだったのでしょうか。

地獄のことを調べていた時に、仏教の考え方では、人は死後7回転生するという考え方を知ったんです。成仏するまでに6種類の迷いある世界…….天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道を巡るって。畜生道は面白そうだけど、ほかはあまりイメージできなかったので、畜生道だけ使ってみようかなと思って考えていきました。
でも撮っている最中は本当に辛くて大変でしたね。インコなんて5羽くらい使っているんです。飛べるヤツ、じっとしてられるヤツ….って、それぞれ得意分野があって、現場で助監督さんがシーンに合わせてキャスティングしていくんです。でも本当に言うことを聞いてくれなくて、大変でした。当たり前なんですけどね(笑)でもアシカだけは、本当に優秀でした。撮影1ヶ月前に水族館に行って、「こういうシーンを撮りたい」と伝えたら、1ヶ月間ずっと“便座から顔を出して止まる”というポーズを練習してくれたんです。この芸が、その後ショーとかで活かされることはまったくないと思いますけど(笑)。このあたりは編集している間に、「これって全部神木くんの生まれ変わりなんだよな」と思って観ている間に、だんだん面白くなってきましたね。

 映画『TOO YOUNG TOO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

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取材・文 / 鈴木沓子
撮影 / 田里弐裸衣

宮藤官九郎インタビュー 後編

【ムービーレビュー】『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

2016年6月25日(土)全国ロードショー

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

不慮の事故で17歳にして命を失った高校生の大助(神木隆之介)。目覚めた場所は、まさかの“地獄”だった!! たいして悪いこともしてないのに、大好きなひろ美ちゃん(森川葵)とキスもしてないのに、このまま死ぬなんて若すぎる! 途方に暮れている大助が出会ったのは、地獄でロックバンドを組んでいる赤鬼キラーK(長瀬智也)。大助は、彼から地獄のシステムを学び、現世へのよみがえりを目指した大奮闘を始める。すべては、現世に戻って、ひろ美ちゃんとキスするためにーー。

キャスト
長瀬智也(キラーK)
神木隆之介(大助)
尾野真千子(なおみ)
森川葵(ひろ美)
桐谷健太(COZY)
古舘寛治(松浦)
皆川猿時(じゅんこ)
古田新太(えんま校長)
宮沢りえ(37歳と47歳の手塚ひろ美)
坂井真紀(よしえ)
荒川良々(仏)
Char(鬼ギタリスト)
野村義男(ジゴロック挑戦者)
ゴンゾー(ジゴロック挑戦者)
マーティ・フリードマン(じゅんこA)
ROLLY(じゅんこB)

監督・脚本 宮藤官九郎

配給 東宝、アスミック・エース
(125分、2016年)

オフィシャルサイトhttp://tooyoungtodie.jp/

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