映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』特集  vol. 4

Interview

宮藤官九郎の死生観に迫る、ロングインタビュー 【後篇】

宮藤官九郎の死生観に迫る、ロングインタビュー 【後篇】

生きづらさは、ずっとある。いまの方が深刻になっている気がします

不慮の事故がきっかけで地獄に落ちてしまった高校生・大助(神木隆之介)。大好きなひろ美ちゃん(森川葵)に会いたい一心で、現世への復活を懸けて、赤鬼キラーK(長瀬智也)とロックバンドを組む……という奇想天外なストーリーで、現代の死生観を、笑いと涙とロックで根底から覆す映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』。制作現場の裏舞台を聞いた前篇に続いて、作品の軸になっている宮藤監督の死生観について聞きました。

それにしても、宮藤監督の作品は死をめぐるテーマが多いですよね。

やっぱり生死に興味があるんですよね。特に「死」に関しては、自分のスタンスや印象が年々変わってきているから、撮り続けているんだろうなと思います。(本作では大助が)17歳で死んじゃったところから物語が始まるんですけど「自分自身が死んでも普通に日常生活は続いていく」って喜劇的だなと思って。いまは、死ぬっていうことが、悲しいことや怖いことじゃなくなるといいなと思っているんです。そう考えるのも、自分自身が死に近づいているから、死に対して生真面目な感じを回避したかったのかなぁ……。これから先は、どんどんそういう傾向になってくるんじゃないんですかね。ああやって(劇中のシーンのように)死んだら、昔知ってる人に偶然会えたりするんだったら、地獄っていいんじゃないかっていう。

むしろ、後半に出てくる天国は無機質な世界観で、それこそ「死」という感じがしました。これまでの生死のイメージが逆転しているというか……。

天国が楽しいイメージになっちゃうと本来の(映画の)狙いとは変わってきちゃうけど、でも不思議な世界観にはしたいと思いました。というのも、地獄や死後の世界について書かれた本や資料を読んでみると、たいがいが地獄の話ばっかりなんです。天国のことは詳しく描かれていない。ということは、「みんな本当は、地獄に興味があるんじゃないか?」って思ったんですよ。“天国では、すべての欲から解放される”って書いてあるけど、「いやいや、欲がなくなったら、面白くないんじゃないかなぁ…..」って思って。だから、“悪いことしたら地獄に落ちる”ということを考えた人は、「むしろ本当はそっち(地獄)に興味があるんじゃないの?」と思ったことが、もともとこの映画をやろうと思ったきっかけになりました。天国は地獄より地獄だった、みたいな。

「地獄観」つまり「死生観」がアップデートされたと思いました。

みうらじゅんさんと話したときに、「地獄のことが長い間アップデートされてない」と。「今時、現世でやったことが閻魔様の鏡に映るって言ってるけど、いまはもうブルーレイでしょ」みたいな話をされていて、「確かにそうだな!」と思ったんですよね。それで「地獄がアップデートされた作品をいつか撮りたいな」とずっと思っていました 。例えば、いまの時代だったら、“携帯電話を奪われる地獄”とか、“機種変地獄”とか。せっかく入れた情報が全部機種変で飛ぶとかいう方が恐ろしいですよね。それにいまの時代、地獄に行っても、もう鬼すらいないかもしれないですもんね。

「天国と比べたら、実は地獄の方が楽しい」という解釈は斬新ですね。もしそう思うことができたら、たとえ現世で生きるのが苦しくても、向き合い方を変えることができそうです。

地獄では閻魔さまに「お前は生前こんなことをしたよな」と裁かれて、要するに一人ひとりの存在が尊重され、認められていると思ったんです。例えば、現世で嘘をついた人は舌を抜かれるとか、不倫した人は周濠地獄とか、ちゃんとその人の経験や個性を尊重している。かたや天国が平べったくみんな平等。ということは、天国では人として扱われないんじゃないか。天国は、放って置かれているかんじが、ちょっとヤだなぁって(笑)とはいえ、自分は、天国にも地獄にも行きたくないですけどねぇ。

 映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

自分の作品を観てくれる人の年齢層を下げたかった

先ほど「死ぬのが怖くなくなる映画にしたかった」とおっしゃっていましたけど、でも作品を通じて伝わって来たのは、現世にいても地獄にいても天国にいても、「生きることをまっとうすることはカッコいい」というメッセージでした。例えば、大助が「自殺」という歌詞を書いているのを笑い飛ばすシーンが劇中でてきますが、自殺を美化してしまうようなエンタメ作品に対しての異議申し立てを感じたのですが。

そうですね、やっぱり「自殺がいちばん重い罪」という考えは最初からありましたね。こんな映画撮っておいてアレですけど、死んだ人よりも、生きている人がどう思っているかということが大事だと思っているんです。そうなると、自殺がいちばんよくないんじゃないかなって思う。例えば、バナナを喉に詰まらせて死んじゃうとか、事故で死んじゃうとか、死に方にもいろいろあって、死んだら全部同じなんだろうけど、でも生きている人からしたら、自分と関わりのある人が、自殺なのか事故死だったのかって、全然違うことだと思うんですよ。だから自殺がいちばんよくないなっていうのはありますね。
 それをただ単に「現代の風潮」みたいなことにして、「若い人たちはすぐ自殺しますね」って伝えて、それで終わらせちゃうのは、なんか嫌だなって思いますね。だから、笑いにしたいんでしょうね。死ぬっていうことを美化したりとか神聖なものにするような風潮があるとしたら、それを笑いにしちゃえば、恥ずかしくて、みんなできなくなるんじゃないかっていう。

ということは、今回やはり若い観客を念頭に置いて作った部分はありますか。

そうですね。例えば、全体の音楽に関しては、はじめから向井(秀徳)さんにやってもらおうと思ってお願いしていたのですが、主題歌の『TOO YOUNG TO DIE!』に関しては、「映画のオープニングをイメージした時に、これは向井さんじゃない方がいいかもしれない」と思っていたら、向井さんもそう言ってくださって。そうしたら音楽プロデューサーの安井さんから「元 THE MAD CAPSULE MARKETSのKYONOさんはどうですか」と言われて、すごくいいなと思って。それはどうしてかと言うと、これまでの自分の映画を観てくれている人たちの年齢層を今回はもう少し広げたいなと思っていて。我々世代のハードロックじゃなくて、もう少し若い世代に観てほしいと思っていて。だから、もう少しラウド系の音を意識したいなと思いました。

 映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

昨年の夏、聖飢魔IIを見て、やっぱり笑ったんですよ(笑)

だからKYONOさんにお会いした時も、「こんな歌詞で、結構ハードコアな感じで始まるんだけど、サビはメジャーでお願いします」くらいしか伝えていなくて、あとはおまかせしてしまいました。でも「メタルの人の過剰な感じが、ちょっと笑えるレベルまでいっちゃってることってあるんじゃないですか。地獄図はそういうバンドなんです」っていう説明はしましたね。というのは、いまロックバンドのステージを見ていると、音はともかく「何これ?!」って驚くことって、ほとんどなくなってきてるというか……。昨年の夏、聖飢魔IIを見て、やっぱり笑ったんですよ(笑)ロックバンドでメイクをしている人って、今の時代は、まずいないじゃないですか。でもちょっと前まで「ロックって素顔でやるものじゃない」くらいに思っていた時代がありましたから(笑)そういう作り込みって、なければない方がいいっていうのが、今は主流ですよね。だからフェスのバックステージとかに行くと、誰がスタッフで誰がミュージシャンなんだかわからないから、全員に挨拶してまわっちゃうんですけど(笑)それで、「なんだよ、いまのアーティストじゃなくて、スタッフかよ!」っていうことって多くて(笑)。そこで改めて、聖飢魔IIを見てすごいなって思ったし、でも「いまこういう感じはヒットしないだろうなあ」と思う一方で、若い人たちにこういうロックをわかりやすく翻訳したい、わかりやすく提示できるものがほしいなって思ったんですよね。

メタルとロックだけではなくて、ファンクもあったり、音楽のジャンルも多彩ですよね。

向井さんが『天誅』の曲を書いた時に、電話がかかってきたんです。『天誅』の曲ができたんだけど、ファンクになっちゃったんだけど、いいですか?って(笑)。もう地獄に落ちてるんだから、音楽のジャンルにこだわる必要もないだろうっていう(笑)ファンクもあるし、バラードもある。しかも長瀬くん、全部できるんですよ! 途中から踊りに夢中でギター弾いてなかったりしますけど(笑)。

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高校生の大助が“生きる”ことを体で知っていく話にしました。

映画『中学生円山』は、監督自身の中学時代がモデルになっていると聞きましたが、今回も何か盛り込んだエピソードはありましたか。

自分の部屋で髪の毛のことばかり気にしていたりとか、クラスの中で、自分の立ち位置とかは参考にしましたね。自分は男子校だったので、修学旅行で女子の部屋に行ってみたいなことはありませんでしたけど。
あと、これは向井さんのエピソードなんですけど、気になる女子に会いにいくときに、(まだギターを持っていないけど、ギターをやっていることをアピールしたくて)ギターの入ってないケースだけをかついで持って行ったという話です。自分の青春時代、バンドやってる奴は学校でも目立つというか、モテてる連中でした。でもいまの時代、そういう奴は、部活も趣味も、何もやってないんじゃないかなって。逆に、バンド組んで「自殺」なんて曲を作っちゃうような奴は、もう少し端っこにいるんだろうなって思って。そういうのは自分の経験と、いまの時代を照らし合わせて考えましたね。

 映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』より。© 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

宮藤監督は、大助みたいな高校生だったのでしょうか?

そうですね、近い部分はあるし、いまの若者とも近いのかもしれない。すぐ「死にたい」とかって軽く言っていましたね、「絶対に死なない」と思っていたけど(笑)。現実逃避はいつも考えていましたけど、音楽とかラジオとかっていう場所があったので、まだなんとかなっていたのかもしれません。でも東京に対する憧れはひどくありました(笑)。その頃、自分の二大コンプレックスは「モテない」っていうのと「田舎に住んでる」ということだったので、その点は大助とは違いますね。

時代背景の違いや、それによる生死の感覚の違いは意識して補正されたのでしょうか。

いまは、どこにいても何も不自由しないくらいインターネットやSNSでつながってる。昔は田舎にいると、雑誌とかで間違った情報を仕入れて、カン違いして、東京に行って「全然違うじゃん!」って愕然とする……ということが多かれ少なかれありましたけど、いまは全然なさそうですもんね。そういう意味では、夢も見ないけど、誤解もないし、絶望もないんじゃないかな。 そのあたりは意識しましたね。そういう感覚を持っている大助が、「生きる」ということ自体を、体で知っていく話にしました。

地獄に生きることで“リアル”を取り戻す>という点でいうと初監督作の映画『真夜中の弥次さん喜多さん』に共通するものを感じました。宮藤監督の作品には、生きづらさが共通してあるように感じます。

生きづらさは、ずっとありますよね。でもいまの方が深刻になっている気はしますね。それは俺がそう思うくらいだから、若い人はもっと感じているんだろうなって、心配になりますよ。昔はマンションとかアパートに住んでるお隣さんと挨拶もしないというのが“ちょっと前のリアル”だったら、いまはお互いのことを知りたくなくても知れちゃう時代じゃないですか、SNSとかで。僕はやらないですけど。そこでは、知ってほしい自分と本当の自分がいて….ってなると、どんどんキツくなってくるんじゃないかな。若い子は特に、大変だなあって思いますよね。でも、そういう生きづらさも、まだネタにできるくらい小さい時に、笑い飛ばしちゃえばいいんじゃないかなって思っている部分はあるのかもしれません。
3.11の震災後、すぐに立川志らくさんの落語会があって、俺、誘われていたんです。でも震災から1週間も経ってないし、やってないだろうなって思っていたんですけど、やるっていうんですよ。じゃ観に行こうかって行ったら、お客さんは案の定半分くらいしかいなくて。でも古典落語を何本かやってて、すごく面白かったんですよ。いちばん汚染が心配されていた時期だったんですけど最後に志らくさんが「それではみなさんの体が放射能に慣れたころに、また」っておっしゃって、それがドッと受けたんです。なんかホッとしました。
自分は宮城の出身なんですが、宮城から友達がきて「サインしてほしいんだけど」って言われて、すごくめんどくさいんですよ。でも震災後は「被災者なんでサインもらっていいですか」って(笑)。「こういうことで救われるんじゃないかな」って思ったんですけど、それをフィクションでやるには、まだその時はすこし早いんじゃないかなって思っていて、それをあとから『あまちゃん』でやったんですけど。そういうことも時間が経って、だんだん笑いにできるといいなって思います。

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最後の質問です。「天国も地獄も行きたくない」ということですが、もし地獄に落ちてしまったら、閻魔様に何て言いますか?

「結構がんばりました」って言いたい。作品を見せたいですね、DVDとかwikiでもいいんですけど。地獄に閻魔帳ってあるんですよ。「僕はこんなことを前世でがんばりました。だから現世に行かせてください」ってお願いするためのもの。今回も小道具さんが作ってくれたんですけど。それを見せて「いっぱい悪いこともしましたけど、いいこともしたと思います」って言いたいですね。

取材・文 / 鈴木沓子
撮影 / 田里弐裸衣

宮藤官九郎インタビュー 前編

【ムービーレビュー】『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

宮藤官九郎(くどう・かんくろう)

1970年7月19日、宮城県生まれ。91年より劇団「大人計画」に参加。ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(2000)で脚本家として脚光を浴びる。映画『GO』(01)で第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、ドラマ『木更津キャッツアイ』(02)で平成14年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、舞台『鈍獣』(04)で第49回岸田國士戯曲賞など、多数受賞。その他主な脚本作品に、『舞妓Haaaan!!!』(07)、『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』(14)、『あまちゃん』(13)、『ごめんね青春!』(14)など多数。俳優としても活躍する一方、パンクコントバンド「グループ魂」ではギターを担当。映画『真夜中の弥次さん喜多さん』(05)で映画監督デビューし、2005年度新藤兼人賞金賞受賞。今作は『少年メリケンサック』(09)『中学生円山』(13)に続く4作目の監督作品となる。

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

2016年6月25日(土)全国ロードショー

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

不慮の事故で17歳にして命を失った高校生の大助(神木隆之介)。目覚めた場所は、まさかの“地獄”だった!! たいして悪いこともしてないのに、大好きなひろ美ちゃん(森川葵)とキスもしてないのに、このまま死ぬなんて若すぎる! 途方に暮れている大助が出会ったのは、地獄でロックバンドを組んでいる赤鬼キラーK(長瀬智也)。大助は、彼から地獄のシステムを学び、現世へのよみがえりを目指した大奮闘を始める。すべては、現世に戻って、ひろ美ちゃんとキスするためにーー。

キャスト
長瀬智也(キラーK)
神木隆之介(大助)
尾野真千子(なおみ)
森川葵(ひろ美)
桐谷健太(COZY)
古舘寛治(松浦)
皆川猿時(じゅんこ)
古田新太(えんま校長)
宮沢りえ(37歳と47歳の手塚ひろ美)
坂井真紀(よしえ)
荒川良々(仏)
Char(鬼ギタリスト)
野村義男(ジゴロック挑戦者)
ゴンゾー(ジゴロック挑戦者)
マーティ・フリードマン(じゅんこA)
ROLLY(じゅんこB)

監督・脚本 宮藤官九郎

配給 東宝、アスミック・エース
(125分、2016年)

オフィシャルサイトhttp://tooyoungtodie.jp/

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