LIVE SHUTTLE  vol. 314

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Mr.Children 音楽表現のダイナミクスと生演奏への喜びが活かされていた最新ツアーを振り返る。

Mr.Children 音楽表現のダイナミクスと生演奏への喜びが活かされていた最新ツアーを振り返る。

Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸
2018年11月29日 横浜アリーナ

開演前の場内には、切り絵のような淡い光が巡回していた。『重力と呼吸』のアート・ワークと、どこか繋がりそうなその光。やがて場内は暗転し、鼓動のような音響、メンバーとおぼしき人影が見え、大歓声が起こった。オープニングは「SINGLES」。“僕が僕であるため”“君が君であるため”。意味ある言葉がバンドとオーディエンスを繋いでいく。

中川敬輔が繰り出すベースが、建物構造そのものを揺らし始め、「Monster」が暴れ出す。“大丈夫”の歌詞を吐き捨てる桜井和寿に、こっちは“大丈夫”じゃなくなり、エモーションが溢れ出す。スクリーンのライブ映像もハレーションを起こし、彼の輪郭が横に流されている。“ヒマワリじゃない? ヒマワリだー”。横の男が叫ぶ。気持ちは分る。「himawari」は実に印象的なイントロである。この曲の田原健一のギターは、歌に和声法というより対位法的に絡み、ここにしかない味わいである。それを知った者は、もう離れられない。ツアー・メンバーに新加入、キーボードの世武裕子のシンセが、次の曲へと見事な橋渡しをする。

「さぁ、始まったぞーっ、横浜アリーナ!」。桜井の叫びとともに「幻聴」へ。あえて声帯をダークに駆使した「Monster」とは対照的に、陽だまりのような歌声だ。客席はワイパー。コール・アンド・レスポンス。言葉ひとつひとつが丁寧に心に馴染んでいく“この感じ”。そう、“この感じ”こそが、Mr.Childrenなのだ。

すべての人達に対し、「今日の出会いを祝して」と紹介したのが「HANABI」だった。“もう一回 もう一回”の合間に、優しく“よこはまぁ〜”と呼び掛け、それに導かれ、さらなる大合唱が起こる。スクリ−ンのライブ映像には、メンバ−の頭上からのアングルも加わる。

鈴木英哉のドラムが轟く。「聞こえてますかこの音。Mr.Childrenの骨格を鳴らしてる男の音です」。鈴木への労いのMCだ。このバンドが地球なら、心臓部、アマゾンのような存在が鈴木だ。そこに田原や中川という別の“骨格”も組み合わさって、アンサンブルとして機能し、「NOT FOUND」へ。いつもより低い重心に始まり、やがて全員の気迫がレッド・ゾーンへ振り切れる。

「忘れ得ぬ人」は、紛れもない桜井の名唱だった。感情が乗ってはいるが、過多にはならないプロフェッショナルな歌である。マイクが綺麗にサ行のリップノイズを拾う。Mr.Childrenではお馴染みのキーボーディスト、SUNNYのコーラスが効いている。二人の声が、相性よくブレンドする。歌い終わると場内を静寂が包む。「すごい、シーンとしてる…」。「聴き入ってたってこと?」。桜井の問い掛けに、“当たり前じゃん!”と、心の中で呟いた。

センターへと花道が続くのが、今回のステージ・セッティングだが、続く「花-Mémento-Mori-」では、アリーナの真ん中に桜井が立った。すると頭上から、帯状のスクリーンが幾つか降りてきて、そこに映写が…。こういう位置でのスクリーンは、初めて見た。

『重力と呼吸』にあって、大胆かつ緻密なアレンジがバンドの新境地といえた「addiction」では、花道両側の通路に光の柱が現われ、イルミネーションで場内をデザインし直すかのようだった。この曲の、都会的な疾走感とも実に合う。エンディングの鈴木のドラム・ソロも、この曲の総てを最後に受け止めて、大団円を醸しだす。

このあたりで、ふと想った。今回のツアーって、センター・ステージがメイン・ステージのサブ的な位置づけではなく、“すべてが一体化したライブ空間の創造”こそが、目指したものなのだろう。 

C7sus4 /C7のコ−ドといえば、もはや伝説といえる「Dance Dance Dance」冒頭のギター・ストロークだ。これが響けば条件反射で何かが起こる。花道の先端に田原が立ち、観客を煽る。当初はデジタル・ロックの典型的な味わいだったが、今ではより生身の、粘っこいグルーヴこそが魅力の楽曲に思える。

ふたつの鍵盤の前奏から始まった「ハル」では、花道の上空に巨大な布が現われ、微妙に形を変えていく。歌を聴きつつ見上げると、“UFO”“カーテン”“春の風”という、歌詞の言葉ともシンクロする。エンディングでは紙吹雪が舞って、情感豊かな余韻を加えていた。「and I love you」は光の洪水のなかで歌われた。それは全体に、モノトーンの白い光であり、時間を逆回転するように、彼らの足下から沸き上がり続けた。歌が持つイマジネーションの広がりを阻む、すべてのことを漂白するかのような光だった。「しるし」は盤石だった。“似ている”“似てきた”のくだりが味わい深い。

楽しみにしていた新曲があった。これは紛れもなく、ライブのために作った曲だろう。「さぁ次は、みんなが身にまとっているものを全部…」。そんなMCから「海にて、心は裸になりたがる」が始まった。4人がバンドを始めた頃に流行っていたタイプの曲調ではなかろうか。中川敬輔のベースが、終始、道案内役として重要だ。歌詞に様々に“〇〇〇の人”が出てきて、桜井は客席を、“あなたのことです”的に指さしたりして歌っている。そんな彼が、シャツを脱ぎ、ぶんぶん振り回し始めた。一番“裸になりたがる”のは、つまりは彼なのか…。ラストはオーディエンスと“オイ! オイ! オイ!”の大合唱。気づけば自分も、すっかり“裸”になってしまっていた。

混じりけのないトーンの「擬態」のイントロが鳴り、「そのままついてきてぇー」と桜井が叫ぶ。もちろん脱落者はゼロだ。そして「Worlds end」へ。背景のスクリーンの光の放射と、やがて弾け散った粒々が、演奏の変化に伴い、その一粒一粒が重力に逆らい上昇していく画面などは、実に緻密な音楽と映像のコラボレーションだ。エンディングで音がカオス化し、その頂点で鈴木のドラムがまさに“end”を体現するかのように打ち鳴らされた瞬間なども、見事すぎるほど映像と同期していた。鈴木のその日のバイオリズムで、毎回、多少の誤差があるはずのタイミングも、まさに段取りの窮屈さを感じないものだ。このあたり、デジタルとアナログな手法を、混ぜ合わせたものだろう。そしていよいよ、ラストへ。

その前に、桜井は長めのMCをした。25周年を越えた今、ここまで支えてくれた人達への感謝を伝え、でも自分達には辿り着いていない場所がまだまだ沢山あり、そんな「憧れ、理想、夢に、今から一歩一歩近づきたい」と決意表明する。さらにオーディエンスにも目を向け、ここに居る「多くの人はティーンエイジャーじゃないことを知っています」と場内を和ませ、でも唇を締め直し、「みんなにも僕らにも、伸びしろがあるんだと信じてます」と前を向いてみせる。そんなMCからの「皮膚呼吸」は、また違って響きもした。

アンコールは「here comes my love」からスタート。ステージ上部から降りて来た円形の舞台装置が、巨大なダウン・ライトのようにこれまでとは違う印象のステ−ジを醸し出す。アンコールといえば気楽に観る感じのコンサートも多いが、ここから新たな構築が始まるような、キリリとしたスタートだ。そして「風と星とメビウスの輪」へ。アリーナ中央に再び降りてきたスクリーンに、メビウスの輪が浮かび上がるという演出もあった。レーザーの光が交差し、角度が角度を生んでいく。

自分は秋という季節が大好きだと、そう前置きし、新しく書いたそんな季節の作品として、「秋がくれた切符」を歌う。ステージ上のモニターに腰掛けて歌うのだが、この日は段取りを忘れ、慌てて腰掛ける場面もあった。「どっこいしょ」。ステージの真横からのライトが、影が長くなる季節を演出する。明らかにここは、演劇の舞台のようなテイストだ。そう想ってみていたら、エンディングの[駆け寄り手を繋ぐ]では、実際に彼が手を差し出すシーンで終わっていった。最後の最後は「Your Song」。会場を出たあともこの曲のテンポ感が、駅までの歩幅を支えてくれているような気分がした。

最後にまとめのようなことを書く。レギュラー・ツアーとしては「虹」、「ヒカリノアトリエ」に続くものだった今回だが、前者において再確認した音楽表現のダイナミクスと、後者で培われた生演奏への喜びが、無理なく活かされていたのが、今回のツアーではなかろうか。映像作品として残されるなら、そちらも期待したいものである。

文 / 小貫信昭 撮影 / 渡部 伸

Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸
2018年11月29日横浜アリーナ

セットリスト

OPENING
M01. SINGLES
M02. Monster
M03. himawari
M04. 幻聴
M05. HANABI
M06. NOT FOUND
M07. 忘れ得ぬ人
M08. 花 -Mémento-Mori-
M09. addiction
M10. Dance Dance Dance
M11. ハル
M12. and I love you
M13. しるし
M14. 海にて、心は裸になりたがる
M15. 擬態
M16. Worlds end
M17. 皮膚呼吸
EN1. here comes my love
EN2. 風と星とメビウスの輪
EN3. 秋がくれた切符
EN4. Your Song

ライブ情報

2019年2月1日 台湾 台北アリーナ
2019年2月2日 台湾 台北アリーナ

Mr.Children

1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 〜Be Strong」など数々の大ヒット・シングルを世に送り出す。これまでに37枚のシングル、19枚のオリジナルアルバム、4枚のベストアルバムをリリース。2018年10月3日にNew Album「重力と呼吸」をリリース。10月からのアリーナツアー「Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸」日本公演が無事終了した。

オフィシャルサイト
http://www.mrchildren.jp

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