Interview

【インタビュー】綾野剛、白石監督を“日本で一番悪い監督”と称賛!

【インタビュー】綾野剛、白石監督を“日本で一番悪い監督”と称賛!
2002年、北海道警察に勤務する稲葉圭昭警部が覚せい剤取締法違反容疑と銃砲刀剣類所持等取締法違反容疑で逮捕、有罪判決を受けた。しかし、事件はそれだけでは終わらなかった。稲葉は自らの業績を上げるため、スパイ(通称S)を従えて武器や麻薬の密輸など規格外の違法捜査を繰り返していたのだ。しかも、彼の行いを北海道警察は黙認していたとも言われている。「稲葉事件」と呼ばれる実際に起きた事件をモチーフにした『日本で一番悪い奴ら』が公開される。監督を務めた白石和彌と主演の綾野剛に話を聞いた。

この方は本当に“日本で一番悪い監督”なんです(綾野)

以前、綾野さんはあるインタビューこう仰っていました。「色々と試させてもらえる現場と、演出がきっちり決められた現場がある」と。今回はどちらでしたか?

綾野 前者でした。とはいえ、後者が正しくないとは思わないんです。そのお陰で自分が見たこともできない表現ができることも多々ありますから。逆に決め事がなさ過ぎることで弊害が起きることもあると思いますし、自分自身それで失敗したこともあります。やりたいことをやっている瞬間は気持ちよかったし、監督もOKを出してくれたんですが、完成したものを自分で見たときに「これ、役じゃなくてただの綾野剛。ダメだな」って思ったことがありました。その点、白石さんは「じゃ、やってみましょうか」とまずやらせてくれるんですが、どこに行くのかわからないままとにかくやってみると、「じゃ、次はこんな感じでもう一回やってみましょうか?」と提案してくれる。投げっぱなしではなくちゃんと手綱を握ってもらいながら自由に走り回っている感覚があって、ものすごく心地よかったです。

白石 この映画に関しては、いかに綾野君に諸星という役に入り切ってもらって、一人歩きしてもらうかが最大の演出だろうとずっと思っていましたが、初日、2日目くらいから、「用意スタート!」がかかった瞬間から完全に諸星になっていました。なので、綾野君がすることが諸星。僕からはそれをもう少し面白くするための提案をしましたが、その意味では、ずっとセッションしている感じでしたね。

綾野 監督はそう仰いますが、個人的には諸星はほぼ監督のアイデアだけで形成されていると思います。監督の提案してくれたことは、自分の想像を遥かに越えてくるというか、圧倒的に面白かったので。

白石 そうなの?(笑)

綾野 そうですよ。 この方は本当に“日本で一番悪い監督”なんです(笑)。例えば、諸星の資金が底をついてしまいシャブを捌くしかないとなり、彼のSたちが「オヤジ、頑張ろうよ!」「俺も頑張るよ!」って立ち上がって盛り上がるシーンがあります。重いトーンにしようと思えばできたシーンですが、そのときの演出が「じゃあ、高校球児が甲子園を目指そうよって感じでお願いします」って(笑)。僕はもう大爆笑しちゃって。ただ、シャブを捌くなんてことはもちろんしたことないので、リアリティがまったくないわけです。でも、甲子園を目指すって感覚は野球をしていなくても何となく想像できるし、リアリティを持って演じられる。そういうところはついていきたいとしみじみ思いました。拳銃の受け渡しのシーンでも、通常なら周囲から見えないようにテーブルの下でするじゃないですか? でも、監督は「普通に上から渡しちゃって、チャカも袋から出して確認して、スパゲティを食べてください」っておっしゃったんです。だから、基本的に現場は大爆笑で。面白すぎてよくわかんなかったですね。

映画『日本で一番悪い奴ら』より。?2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

映画『日本で一番悪い奴ら』より。?2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

モデルの稲葉さんは色気と引力がある方(綾野)

ノンフィクションが原作ですが、そういう場合の役者さんのアプローチの仕方は大きく分けて二つあると思います。原作はもちろんあらゆる資料を読み込んで外側から作り上げる場合と、そういうことはせずに台本から得たインスピレーションだけを頼りに内側から作り上げる場合です。今回、綾野さんはどちらのアプローチをとりましたか?

綾野 どっちもです。使えるものは出し惜しみせずに何でも使いたいので。というのも、毎回撮影のときは全力を出し切っているんですが、いざできあがった作品を見るときには少し成長した自分がいるので、どうしても粗が目についてしまうんです。だから、できることはすべて出し切る。でないと、「あのときあの可能性を捨てなければ……」って後悔してしまうので。

モデルである稲葉圭昭さんにもお会いしたのですか?

綾野 三回ほどお会いしました。でも、そこで得るべきものって、お会いしたときに自分が感じられたものだけでいいと思うんです。この髪型を真似しようとか、この癖を真似しようとかではなく、稲葉さんと会ったときに自分が何を思うか。その上で、何を思ったかと言うと、色気と引力がある方だなと。すごくモテたと思います。男性が男性にそう思うことってあまりない。過去にデンジャラスなことをして、捕まって、刑期満了したから魅力的に見えるのかもしれないですが、それを差し置いても、稲葉さんから放たれている“真っ当さ”には痺れるところがありました。稲葉さんご自身は諸星とは対局にあるような人で、怒鳴ったことあるのかなってくらい静かにお話しをされるのですが、色々と聞いているとときどき「あれ、これは内緒で」とか普通に言うんです(笑)。まったく曲がってない。

白石 本当に綾野君の言う通り。ピュアだし一貫している。

綾野 そういう部分は体に染み込ませつつ、あとは、台本にある諸星という人物を監督と一緒に作り上げたという感じです。彼から直々に教えていただいたことで言うと、「僕は血管が出ないので、シャブを打つときは足です」ってことくらい。こう言うと、みなさん笑いますが、教えられなかったら腕に打っているはずなので役に立ちました。

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白石 綾野君の役作りに関していうと、最初に会ったときに驚いたことがあります。諸星は柔道をしていたので耳が“餃子”になっているのですが、「知り合いの医者に聞いたら、ヒアルロン酸を打ったらこういう耳になるって言っていました」って(笑)。この人、何を言っているんだろうって思いました。

綾野 『凶悪』を撮った監督というイメージが自分の中で強いので、どこまででもいけますっていう姿勢をプレゼンしておきたくて。それに対して監督は「いやいや特殊メイクだよ!」って普通に突っ込まれたのですが、「この“普通さ”だ!」って思ったんです。海外の映画なんかでも、さも本当の赤ちゃんのように人形を抱いたりしますが……。

白石 『アメリカン・スナイパー』ね(笑)。

綾野 そうです。でも、それを普通にやってのける感じ。もはやぶっこわれているその“普通さ”に寄り添おうと、突っ込まれた瞬間に思いました。本当にすることが面白くないこともあるし、そもそも虚構なんだから、見ている人に“本当なもの”として届けばいいんだって。

白石 でも、蹴るところは本当に当てたり、バランスですよね。それはやりながらすぐに見えてきたので、安心して進められました。

綾野 ところで、僕は台本で知っているはずなのに、終盤で夕張に左遷されるのがめちゃくちゃショックだったんです。これっぽっちも面白くなれなかった。終盤に行くにつれてそろそろ駄目なんじゃないかって気配があったんですけど。でも、シャブがやめられなくて、結局、左遷され、捕まって……ショックでした。あと、撮影中は諸星として夢も見ました。諸星が警察みたいなところで誰かを刺しては逃げてを繰り返そうとするんですが、体が重くて前に進めないっていう。かなり辛かったです。