Tリーグ丸かじり  vol. 6

Column

表ソフト? 裏ソフト? 低身長Tリーガーたちの活躍には秘密があった!

表ソフト? 裏ソフト? 低身長Tリーガーたちの活躍には秘密があった!

メンバーの世界ランキングから考えて、女子はどう考えてもTOPおとめピンポンズ名古屋(以下、TOP名古屋)の優勝だろうと思っていたら、全42試合中22試合を終えた現在、TOP名古屋はまさかの2勝9敗で最下位だ。メンバーの上位3人が外国人選手であるため、来日中のコンディショニングが予想以上に難しいものと思われる。

TOP名古屋には日本人選手もいるのだが、なかなか勝利を挙げられないでいる。その中で唯一、シングルスで勝利を挙げているのが安藤みなみだ。安藤は、12月8日の日本生命レッドエルフ(以下、日生RE)戦で貴重な貴重な1勝を挙げ、見事にチームの2勝目に貢献した。

TOP名古屋所属の日本人選手の中で、確実に結果を残している安藤みなみ

安藤の卓球にはひとつの特徴がある。ラケットのバック面に「表ソフト」と呼ばれる、突起が表面に出ていて回転をかけにくいラバーを貼っているのだ。「表」とつくのは、このタイプのラバーが先に卓球界に登場し、後にこれを裏返した表面が平坦なものが出たためだ。「ソフト」はゴムにスポンジを張り付けた二層構造であることに由来する。現在の卓球界では回転がよくかかる「裏ソフト」が主流だ。うっかりレンタルビデオ店などで口にしない方がよさそうな名前だが、卓球界では当たり前の言葉だ。

回転のスポーツと言われる卓球で、安藤がわざわざ回転をかけにくいラバーを使っているのは、相手の回転に影響されにくいメリットがあるからだ。

実は、Tリーグの中には安藤の他にもバック面に表ソフトを使う選手が4人いる。それらの選手には共通点がある。身長だ。まだ小学4年生の張本美和を除いて、Tリーグの女子には4チーム合わせて33名の選手がいる。その身長の平均値と中央値はともに160センチ前後だ。その中で表ソフトを使っている選手たちは、身長が低い方から1番目(149センチの安藤と森薗美咲/ともにTOP名古屋)、4番目(154センチの前田美優/日生RE)、6番目(156センチの野村萌/TOP名古屋)、21番目(163センチの木原美悠/木下アビエル神奈川(以下、KA神奈川))の選手たちなのだ。

TOP名古屋に所属する野村萌(写真)は156センチ。バック面に表ソフトを使用

Tリーグには参戦していないが、世界で活躍する伊藤美誠と先日引退した福原愛もバック面に表ソフトを使っているが、身長はそれぞれ150センチと155センチだ。明らかに低身長側に偏っている。

これは偶然ではない。背の低い選手は台から離れると両サイドのボールに届かなくなるので台に近づかなくてはならない。台に近づくと、体とボールが近くなるので、バックハンドのとき、ラケットを引く空間が足りなくなって強烈なドライブをかけることが難しくなる(フォアハンドは体より後に引けるので問題ない)。もともと腕が短いので、その点でも強烈なドライブを打ちにくい。どうせ威力あるドライブを打てないのなら、バック側は表ソフトを使って相手の回転に鈍感なメリットを活かした方が得策ということになる。表ソフトの使用は、背の低さという制約によって、戦略を大胆に選択、集中した結果であり、それに成功した者だけがトップ選手として生き残れているのだ。

そんな「表ソフト使用ゾーン」ともいえる150センチ前後の身長帯で、唯一、裏ソフトで気を吐いているTリーガーがいる。身長152センチ、KA神奈川の森薗美月だ。森薗はチーム5番手だが、ダブルスで2勝、シングルスで1勝を挙げ、いずれもチームの勝利に貢献している。

この身長帯で森薗だけがそんな卓球をできているのには明確な理由がある。それは、女子卓球選手の中でも随一と言われる運動能力だ。足の速さ、跳躍力などがずば抜けており、それが身長152センチにもかかわらず長身の選手たちのように台から距離をとって動き回り、強烈なバックハンドのドライブを連発するスタイルを可能にしているのだ。

150センチ前後の身長帯で唯一、裏ソフトで気を吐いているKA神奈川の森薗美月

低身長の不利をラバーの選択によって逆手にとる選手もいれば、持ち前の運動能力でカバーする選手もいる。これらの選手たちが、リーグ最高身長の浜本由惟(174センチ/KA神奈川)、上から5番目の早田ひな(167センチ/日生RE)らが繰り出す豪打と対等に渡り合う。

「あらゆるボールゲームの中で、勝利の女神がもっとも広い範囲の遺伝子に歓迎の手を差し伸べているのは卓球競技だ」とかつて荻村伊智朗(世界選手権金メダル12個、第3代国際卓球連盟会長)は語った。低身長のTリーガーの活躍はまさにそれを物語っている。

取材・文 / 伊藤条太 写真提供 / T.LEAGUE

T.LEAGUE(Tリーグ)オフィシャルサイト
https://tleague.jp/

著者プロフィール:伊藤条太

卓球コラムニスト。1964年岩手県生まれ。中学1年から卓球を始める。東北大学工学部を経てソニー株式会社にて商品設計に従事。日本一と自負する卓球本収集がきっかけで在職中の2004年から『月刊卓球王国』でコラムの執筆を開始。世界選手権での現地WEBレポート、全日本選手権ダイジェストDVD『ザ・ファイナル』シリーズの監督も務める。NHK『視点・論点』『ごごナマ』、日本テレビ『シューイチ』、TBSラジオ『日曜天国』などメディア出演多数。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球天国の扉』など。2018年よりフリーとなり、近所の中学生の卓球指導をしながら執筆活動に励む。仙台市在住。

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