モリコメンド 一本釣り  vol. 99

Column

Kaco 切なさ、力強さ、包容力。人生のなかで得た経験、人とのつながりを楽曲につなげる才能

Kaco 切なさ、力強さ、包容力。人生のなかで得た経験、人とのつながりを楽曲につなげる才能

自分自身のリアルな感情を普遍的な歌に結びつけるセンス、そして、優れたポップネスを含んだ楽曲を作り上げる作家性。ふたつの要素をバランスよく備えたシンガーソングライターである。NEWSのシングル「LPS」(通常盤収録)の「madoromi」を手がけたことでも注目を集めてるシンガーソングライター、Kacoだ。

愛媛県出身の彼女が音楽に興味を持ったのは、小学校の頃。当時もっとも大事だったメディアは、テレビだったという。歌番組で観た(聴いた)Mr.Children、絢香、スキマスイッチといったアーティストから音楽に惹かれ、15才のときから作詞作曲をはじめた彼女が“できるだけたくさんの人に届く音楽を作りたい”と思うようになったのは、きわめて自然なことだったのだろう。

2015年あたりから本格的な音楽活動をスタートさせたKacoは、2016年に1stミニアルバム『影日和』、2017年に2ndミニアルバム『身じたく』をリリース。彼女自身のなかにある“影”を叙情的に描いた「影日和」、そして、恋愛、仕事などを中心に“人生の身じたく”をテーマにした「身じたく」を経て届けられた3rdミニアルバム『たてがみ』は、“外に出る”をコンセプトに掲げている。

まず印象に残るのは、70年代〜80年代の日本のポップスを想起させるメロディラインだ。前述した通り、彼女のルーツは90年代以降のJ-POPなのだが、シンガーシングライターとして活動するようになってから、90年代以前の音楽も積極的に聴くようになったという。荒井由実(松任谷由実)、大貫妙子などの作品の魅力を自分なりに解釈し、自らの楽曲に取り込む。その最初の成果が、「たてがみ」のおけるシックかつポップなメロディなのだと思う。

また、前作以降の彼女自身の環境と心境の変化がリアルに反映されていることも、「たてがみ」の魅力。たとえば1曲目の「夢から醒めた夢」における“理想と違ってもそれは  僕らの未来図の愛すべき構成物だ”というフレーズは、彼女が実際の経験がもとになっている。活動を助けてくれるスタッフとの別れ、そして、途方に暮れていた彼女に手を差し伸べ、一緒にキャリアを切り開いてくれる人たちとの出会い。たとえネガティブな状況に陥ったとしても、すべてを受け止める気持ちがあれば、未来は必ず見えてくるーー解放的なポップネスを感じさせる「夢から醒めた夢」の前向きなパワーは、Kacoの生々しい思いが込められているのだ。

「涙の割りかた」「猫になれたら」などのラブソングも印象に残る。どちらも決してハッピーなラブソングではなく、切なさ、喪失感が強く伝わってくる楽曲だが、まるでドキュメンタリーのようなリアリティを描きながら、決して上品さを失わない歌詞の世界からは、彼女のソングライティングの確かさが伝わってくる。特にピアノと歌だけで構成された「猫になれたら」のボーカルは絶品。まるでライブのような臨場感のなかで(ピアニストがペダルを踏む音もそのまま残っている)、ひとつひとつの言葉に繊細かつ濃密な感情を込める歌の表現は、本作における大きな聴きどころのひとつだろう。

タイトル曲「たてがみ」と「あいそうろう」の歌詞は、高橋久美子(ex.チャットモンチー)との共作。どちらの歌詞も実際にふたりで顔を合わせ、率直な意見とアイデアを交わしながら制作されたという。チャットモンチーの時代から、深く、鋭い意味を込めた歌詞によって高い評価を得ている高橋との共作は、Kacoにとって大きな財産になったはずだ。

切なさ、力強さ、包容力が同時に伝わってくるミディアムバラード「たてがみ」には、聴く者に寄り添うだけではなく、強く背中を押してくれるパワーが込められている。それを象徴しているのが“正しさも  間違いも全部  どうだっていい  味方でいるから”というライン。まるで母が子に言い聞かせるようなこのフレーズに圧倒的な説得力を持たせるボーカルも、この曲のキモだ。

ジャズとロックが絡み合うサウンドと色気のある歌声がひとつになった「あいそうろう」は、いまの時代に必要なメッセージを含んだナンバー。人の反応を気にする余り、正しいものを正しい、美しいものを美しいと表明しづらい現代において、“でも、本当は心のなかに思っていることがあるでしょう?”と語りかけるこの曲には、思わずドキッとさせられる刺激がしっかりと宿っている。

伊藤大地(Dr)、伊賀航(Ba)、古澤衛(G)、sugarbeans(Key)という実力あるミュージシャンが参加し、楽曲のポテンシャルを上手く引き出していることも、本作の充実につながっている。人生のなかで得た経験、人とのつながりを楽曲につなげ、自らの音楽世界を広げ続けるKaco。この人が作る音楽をずっと追いかけていたいと思わせてくれる、豊かな才能を持ったシンガーソングライターだと思う。

文 / 森朋之

オフィシャルサイト
http://kaco-official.com

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