【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 105

Column

CHAGE&ASKA 無精ひげで日焼けした西海岸帰りのCHAGEと、部屋に籠り“打ち込みの日々”だったASKAとの再会

CHAGE&ASKA 無精ひげで日焼けした西海岸帰りのCHAGEと、部屋に籠り“打ち込みの日々”だったASKAとの再会

1984年の夏。CHAGEは石川優子とデュエットした「ふたりの愛ランド」が大ヒットし、超多忙な日々を過ごしていた。そのご褒美というわけじゃないが、秋からは休みをもらい、アメリカ西海岸を旅する。カリフォルニアの光を浴び、現地でギタ−を弾き、曲を作る。

アチラでは、とかく年齢が若く見られることが多かったから、無精ひげを蓄え、剃らずにそのまま帰国した。そして、その手にはしっかりお土産が。90分入りのカセット・テープだ。なかにはぎっしり、向こうで作った新曲が入っていた。もちろんこれらは、次のアルバムのレコーディングで花開くこととなる。

ASKAはまったく別のことをしていた。9月にドラマ『友よ』に俳優として出演し、撮影をこなしている。その後の彼は“演じる”ことに貪欲だったわけではないので、今となっては“いい経験をした”といったところだろう。もしかしたらこれは、今更ほじくり返して欲しくない過去かもしれない。

でも、撮影の空き時間にロケ先で見つけた楽器店でギターをレンタルし、つま弾き、後にちあきなおみに提供する「伝わりますか」のモチーフを作ったりもしていた。音楽からは離れられなかったのだろう。実はこのドラマ。彼女も女優として出演している。その時点で楽曲提供という話は一切なかったが、縁というのは不思議なものだ。

11月には初の詩集『オンリー・ロンリー』を出版する。黒井健がイラストを描いている。「地球」という作品など、ASKAのモノの考え方が表われていると思う。この時点で詩集を出せたことは、大きな経験だったと回想している。歌のコトバを見つめ直し、表現の幅を拡げるキッカケとなったのだろう。

さらにこの頃、ASKAはプライベート・スタジオを持つ友人に刺激され、自らも機材を導入する決意をする。NECのPC-8801mkIIというコンピューターも購入し、デモ・テープ作りに励むようになる。専門家じゃなくても“打ち込み”で音楽を作れるようになった時代である。でも、機材を操作する入口は鍵盤なので、さらなる勉強を怠らなかった。寝食を忘れ、彼は周囲が心配するくらい、しばらくコンピューターに没頭した。そうして作り上げたデモ・テープは、次のアルバムで活かされた。

1985年1月25日。ワーナー時代の最後のアルバム『Z=One』がリリースされる。オープニングの「TWILIGHT ZONE」からして、まずは注目だ。アレンジは瀬尾一三とASKAの連名になっているのだ。これは初めてのことだった。彼が自宅で作ったデモのなかに、既にアレンジのアイデアがあったということだろう。イエスの「ロンリー・ハート」で有名になった“ジャジャン”というストリングスのサンプリング(オーケストラル・ヒット)に似た音色が聞え、空間をデザインするように音が飛び交い、実にドラマチックな仕上がりとなっている。

続く「棘」も、リンドラムやシンセ・ベースが活用されたとおぼしきサウンドである。それでいて、メロディ・メーカーとしてのASKAの良さは無くなっておらず、打ち込みだからといって無機的なわけではない。

「J’s LIFE」は松井五郎とCHAGEによる楽曲だが、ジャグバンド的な世界観をコンピューターを駆使して構築したような、斬新な作風である。間奏は「2001年宇宙の旅」のように時空を彷徨うかのような雰囲気となり、さらに女性アナウンサーによる天気予報などが流れてくる、実験的なアイデアが活きている。この曲のアレンジはギタリストの矢島賢のプロデュース・チーム、「Light House Project」が担当した。

さらにASKAの「標的(ターゲット)」は、ナイル・ロジャースが席巻していたこの時代の洋楽にも近い、実にダンサブルな楽曲である。「でも、ダンサブルっていってもチャゲアスでしょ?」、みたいに思っていると、その想像を超えていく。ここまで吹っ切れてダンサブルかーい! という感じ。曲のエンディングでバキューンとピストル音が響き、そのままノンストップで「メゾンノイローゼ」へ続く。

これがこれが、またしても「チャゲアスでしょ?」の想像を遥かに超えていく。松井五郎とCHAGEによる作品で、確かにCHAGEが歌っているのに、彼の声に聞えない。あえてオクターブ下で歌い、声自体も少し加工しているのだ。「J’s LIFE」も斬新だったが、これも斬新だ。アレンジは久石譲であり、この人も今回、CHAGE&ASKAの作品は初参加だろう。

「誘惑のベルが鳴る」も松井五郎とCHAGEの作品。こちらは吹っ切れたポップ・チューンであり、次もCHAGEの「マドンナ」だ。冒頭のみショッキング・ブルーのような70年代風イントロだが、すぐに洗練された打ち込みサウンドへと変わる。

詩集と同じタイトルの「オンリー・ロンリー」は、実に完成度が高い。アコースティック・ギターと打ち込みのサウンドが、見事に融合している。まったく声を張らないASKAだが、万人を説得する名唱だろう。さらにASKAの「星屑のシャンデリア」などは、そのままこの世界観を、後々の「 昭和が見ていたクリスマス」で歌って欲しかったくらいだ。英米のスタンダード曲のテイストをもっている作品である。

ドリーミーなこの曲から一転、CHAGEがシャッフルする「マリア (Back To The City)」は、彼の声が、これまで以上に“ダミ声”っぽい。これ、かなり振り切ってそういう声で歌っている。LRに分かれて包み込む、ホ−ン・セクションの繊細なアレンジも印象的だ。

ラストは「さようならの幸せ」。この曲も「TWILIGHT ZONE」同様、瀬尾一三とASKAの共同アレンジである。こちらはシンセサイザーのパッドが綺麗に響く作品。サビの絶唱が、ASKAの代名詞ともいえる“この人の声は世界でいちばん豊かな倍音に支えられているのではないか”と言いたい境地を最高品質で響かせている。

CHAGE&ASKAというと、この頃よりポニー・キャニオン移籍後のほうが注目されるが、この『Z=One』というアルバム、ヒットしたわけでもなかったけど、聴き応えは充分あるものだと再確認した。なかでもCHAGEの「メゾンノイローゼ」。聴いたことないヒトにはぜひ聴いてもらって、ぜひ驚いてもらいたい。

文 / 小貫信昭

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