佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 76

Column

あいみょんは平成の”ニューミュージック”を奏でる正統派のシンガー・ソングライター

あいみょんは平成の”ニューミュージック”を奏でる正統派のシンガー・ソングライター

年の瀬が近づいて来るにしたがって、平成がまもなく終わるということもあり、どことなく落ち着かない日々の中で、音楽に関して気になるニュースが目に入ってきた。

■週間ストリーミングランキング1、2位独占 TOP10内に4曲

あいみょんの「今夜このまま」と「マリーゴールド」が今週からスタートしたオリコン週間ストリーミングランキングで1位、2位にランクイン。若い世代に絶大な人気を誇る、ストリーミングからブレイクした初のアーティストがその存在感を示した。

オリコンの週間ストリーミングランキングが12月に入ってスタートしたらしく、あいみょんの「今夜このまま」が153.9万ST、同じく「マリーゴールド」が85.3万STを記録したという。
そのほかにも「君はロックを聴かない」が69.9万STで5位、「愛を伝えたいだとか」が66.4万STで8位と、旧作をふくめてTOP10内に4作がランクインした。

兵庫県の西宮市生まれあいみょんは、父親が音響の仕事をしていたこともあって、幼い頃から音楽に慣れ親しんで育った。
そんな彼女が歌と音楽に衝撃を受けたのは、小学生の時に観たアニメ映画のなかで流れてきた吉田拓郎の歌だったという。

1970年11月に吉田拓郎が発表した1stアルバム『青春の詩』に収録されていた「今日までそして明日から」は、シンプルかつ素直であるがゆえに生命力の長い歌になっていった。
インディーズのエレックから翌年7月21日に出たシングル盤は大きなヒットにはならなかったが、ラジオの深夜放送で若者たちから高い支持を受けた。

わたしは今日まで生きてみました
時にはだれかの力をかりて
時にはだれかにしがみついて
わたしは今日まで生きてみました
そして今 わたしは思っています
明日からもこうして生きて行くだろうと

吉田拓郎の人気が沸騰したのはメジャーのCBSソニーに移籍した直後、1972年1月に発表した「結婚しようよ」が大ヒットしたのに続いて、叙情的な「旅の宿」がオリコンのヒットチャートで1位になったからだった。
そんな時期に「今日までそして明日から」は映画で劇中歌として使われたことによって、スタンダード・ソングへと成長していくのである。

スチール・カメラマン出身で映像美に定評がある斎藤耕一監督の作品で、『津軽じょんがら節』とならぶ代表作と評価された『旅の重さ』は、母親との葛藤から家出をした16歳の少女が自分の生き方を見つけていく物語だった。

全編を通して映し出される四国の緑がいっぱいの自然と、生命力に溢れるヒロインの高橋洋子が放っている躍動感は、「今日までそして明日から」の歌詞とも良くマッチングしていた。

21世紀になって「今日までそして明日から」が次世代の人たちに発見されたのも、クレヨンしんちゃんのアニメ映画『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』で、やはり挿入歌として使われたことによってだった。
そのアニメ映画で吉田拓郎の歌に出会った一人に、小学生のあいみょんがいたのである。

それから程なくして、あいみょんは父親の部屋に入ってCDをこっそり聴くようになっていく。
好んで聴いていたのは浜田省吾、尾崎豊、小沢健二といった、男性のシンガー・ソングライターたちであった。

あいみょんは中学生の時からソング・ライティングを始めたが、2015年にインディーズから「貴方解剖純愛歌~死ね」でデビューした後も、それまでよりも豊かな歌詞の表現を模索して、映画や小説にもヒントを求めていたという。

そうした試みが結実したのが、2016年にリリースされたメジャーからのデビュー・シングル「生きていたんだよな」だった。

家の近くで飛び降り自殺をした少女に想いを馳せるという歌詞だったが、冒頭からまくしたてるような口調で、現実に起こった忌まわしい出来事が歌われていく。

彼女が最後に流した涙
生きた証の赤い血は
何も知らない大人たちに
二秒で拭き取られてしまう
立ち入り禁止の黄色いテープ
「ドラマでしかみたことなーい」
そんな言葉が飛び交う中で
いま彼女は何を思っているんだろう
遠くで 遠くで
泣きたくなったんだ 泣きたくなったんだ
長いはずの一日がもう暮れる

人の死を目の当たりにした主人公の思考や感情が、情景を淡々と描写していく言葉と、情熱的な彼女の声によって、ひとりの人間の死とともに、生までが浮かび上がってくる。
物語性を内包しているストレートな歌詞とまっすぐで力強い日本語の歌声が、主にネット上で発見されて広がるるにつれて、若い音楽ファンの中に「あいみょん」という不思議な名前も広まっていった。

今年に入ってからはカルチャー誌やファッション誌などにも登場したことで、10~20代を中心としていた音楽ファン以外にも知られるようになり、Spotifyではネクストブレイクアーティストに選出された。

さらに一般層にまであいみょんの名前が知られたのは、ちょうど1週間後に迫ったNHK紅白歌合戦の初出場の話題によるものだった。
そこで歌う予定になっている「マリーゴールド」は今年の8月にリリースされて、Apple Musicのランキングで1位を獲得している。

麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと
懐かしいと笑えたあの日の恋

郷愁を誘うようなフォーキーなメロディと、過ぎていった夏の風景に重ねて儚い恋模様を描いた歌詞は、これまでの集大成といえるものであった。
吉田拓郎の名曲「夏休み」へのオマージュが、”麦わら帽子”という言葉から感じられるのもいい。

あいみょんはストリーミングからブレイクした初めてのアーティストといわれるが、音楽的なバックボーンは1970年代に始まった、吉田拓郎を筆頭とする“ニュー・ミュージック”である。
平成の終わりに登場した正統派のシンガー・ソングライターとして、今後の活躍にいっそう期待していきたい。


あいみょんの楽曲はこちらから

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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