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「“最強”って言葉は女性のためにある」生涯現役を貫くヴィヴィアン・ウエストウッドに迫るドキュメンタリー映画とは

「“最強”って言葉は女性のためにある」生涯現役を貫くヴィヴィアン・ウエストウッドに迫るドキュメンタリー映画とは

ヴィヴィアン・ウエストウッド。
この名前を口にするだけで、何故か湧き上がるものがある。社会との対峙の仕方がわからず、世界は遠く、孤独で、感情の渦をどうしようもなく溜め込んでいたあの頃……。
逃げ道は音楽だった。私が住んでいた田舎にはブランド・ファッションなど売ってなかったけれど、ラジオだけは公平に英国の音楽を届けてくれた。それはトンネルの先の光のようだった。
いつか、ここを出て、あの光の差す方向へ、行くんだ。

©Dogwoof

キラキラした洋楽は虹の架け橋だった。レッド・ツェッペリン、キング・クリムゾン、イエス、クイーン、おまけにベイ・シティ・ローラーズ……。そこに登場したのがセックス・ピストルズだった。
まず、名前がヤバい。1976年。田舎の真面目な女子中学生にはちょっと口にしにくいバンド名。ヴォーカルも演奏も正直下手で、でも、胸ぐらをわし摑みにされるような強烈な破壊力はラジオからでも十分伝わってきた。
東京に出てきて、公園通りや表参道、竹下通りを初めて歩いたときのときめきを忘れない。ラフォーレ原宿。田舎には絶対売ってないファッションの殿堂。その中でも特別強烈な光を放っていたのがヴィヴィアン・ウエストウッドだった。

©Dogwoof

前置きが長くなった。これは過去形ではない現在の物語。
ヴィヴィアンに3年間密着取材し、関係者の証言はもちろん、過去の映像、写真をかき集めて見事に編集、オリジナルの音楽でドラマティックに彩られたドキュメンタリー。
セックス・ピストルズを生み出したマルコム・マクラーレンと最初の店“LET IT ROCK”をキングス・ロードにオープンしたのが1971年だから、もはや半世紀近くファッション業界にいて、77歳のいまもバリバリ現役。近年は環境保護活動にも積極的なヴィヴィアンの、これは完璧なプロモーション・ビデオじゃないか、ってほどシビレるカッコよさが詰まった84分だ。
PVって言い方はネガティヴに使われることが多いけど、そのくらいスコンと突き抜けた彼女の魅力、ファッションの粋が詰まっていて、観ている間中ときめかされ、揺さぶられ、そして観終わった後、背筋をピーンと伸ばして大股で闊歩したくなる作品なのだ。

©Dogwoof

オープニングからしてヤラレる。
ゴージャスなソファに座った不機嫌なヴィヴィアンが面倒臭そうに「つまんない質問はしないでね。それから過去の話もやめて。退屈だから」。
元々労働者階級出身。日本よりずっと階級社会の英国で、そこから抜け出すのは至難の技だ。5歳の頃から服や靴を作っていた彼女は、教師に美術学校を勧められて入ったものの、お金がなくて、より現実的な服作りの方向へ。
21歳でデレク・ウエストウッドと結婚。当時日本でも団地生活に憧れた娘がたくさんいたように、ヴィヴィアンも結婚生活が人生を満たしてくれると信じていたが、現実はさにあらず。「知的好奇心が満たされなかったから」と、あっさり離婚。
そして、弟の友人、マルコム・マクラーレンとの運命的な出逢い。それからの快進撃はご存知の通り。反権力、反体制を音楽とファッションで表現したセックス・ピストルズをマルコムは世に送り出し、パンク・ムーヴメントは若者カルチャーを席巻する。ピストルズ同様、ヴィヴィアンは時代の寵児となるが、ムーヴメントが長く続くわけもなく、世界進出の挫折も重なって……。

©Dogwoof

映画は、現在の公私にわたるパートナー、アンドレアス・クロンターラー(25歳下)や父親の違う二人の息子、ベン・ウエストウッドとジョー・コーレ、ビジネス・パートナーのカルロ・ダマリオらの証言を挟みながら、ヴィヴィアンの人間性を彫刻のように浮き上がらせていく。男たちの証言はどれもヴィヴィアンの強さを際立たせて小気味よい。
世界的なモデル、ケイト・モスの証言もふるっている。どんな証言かは映画をどうぞ。
クライマックスはこれまでのショウのハイライト。あまりにもヴィヴィアンらしい靴を履いたナオミ・キャンベルがショウの最中に尻もちをつく伝説の映像もしっかり収録。
カメラに作り笑いすることなど皆無。常に本気。いつだって過激。変わり続けるヴィヴィアンを観る歓びは、「生きる」歓びそのものだ。

ケイト・モス ©Dogwoof

「私が動くのは、いつだって未来への危機感からなの」
70年代にパンク・ファッションで若者たちを熱狂させたのも、英国社会への危機感から。いま、彼女を動かしているのは、地球そのものへの危機感だ。
ファッション・デザイナーとして唯一、男性なら“Sir(サー)(爵位:Knight)”にあたる栄誉称号“Dame(デイム)”を2006年に叙勲してなお、グリーンピースとともに北極を視察し、首相官邸に向かってシェールガス採掘に抗議する戦車デモを行なったり。
バナーをしっかり握っていつものファッションで挑むヴィヴィアンのカッコよさと言ったら!

©Dogwoof

監督はロック・バンドのライヴ映像やMV、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルの短編フィルムに関わってきたローラ・タッカー。ヴィヴィアンへのリスペクトと女性としての共感に満ちた眼差しが素敵だ。
編集はTVや映画のドキュメンタリー、ドラマを長く手がけてきたベテランのポール・カーリン。リズミカルでキレの良い編集、さまざまな過去素材の挿入の仕方は見事。
音楽はソチとリオのパラリンピック聖火台点火式等のサウンドデザイン・作曲も手がけている大御所、ダン・ジョーンズ。洗練されたサウンドが光と水のように全編を煌めかせる。

©Dogwoof

正直で真面目でオシャレでちょっとミーハー、手仕事が好きで正義感が強くて情熱的で、感じたことは即行動、いのちに関わることには黙っちゃおかない……。
ヴィヴィアンの根底にあるのは、実はすべての女が持っているものばかり。
そう、“最強”って言葉は、女のためにこそあるんだから。

もう、やることはやった、と大人しくなっちゃった女たちに。
自分なんて世界のちっぽけなピースに過ぎない、なんて思っている少女たちに。
すべての女に観てほしい、虹の橋を渡る女の物語。

文 / 村崎文香

映画『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』

公開日:2018年12月28日(金) 角川シネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:ローナ・タッカー
出演:ヴィヴィアン・ウエストウッド、アンドレアス・クロンターラー、ケイト・モス、ナオミ・キャンベルほか

配給:KADOKAWA
©Dogwoof
オフィシャルサイトhttp://westwood-movie.jp/

STORY:
2016年2月、ロンドン・ファッション・ウィークの秋冬ショーを控えた前夜。ヴィヴィアン・ウエストウッドのアトリエでは、最終チェックに追われるデザイナーとスタッフたちがいた。デザイナーであるヴィヴィアンは、1枚1枚を細かくチェックし、指示を間違った服には「最低ね。クソ食らえよ」と容赦なく言い放つ。77歳を迎えた今も、現役だ。
「私の知的好奇心が満たされなかったから」と、ヴィヴィアンは最初の離婚を振り返る。息子のベンが5歳の時、マルコム・マクラーレンと出会ったヴィヴィアンは、彼がプロデュースするバンドの服をデザインし、パンク・ファッションを生み出した。今でも人気のあるこの頃の服について、彼女は時代を超えるデザインをクリエーションする秘訣を惜しみなく披露する。
「彼女のすべてが好きだ」と堂々と宣言するのは、アンドレアス・クロンターラー、ヴィヴィアンの今の夫だ。オーストリアの大学でヴィヴィアンの生徒だった彼はショーを手伝うようになり、今では共同でデザインを手掛ける最強のパートナーとなった。当時、「母の半分の年」だったアンドレアスについて、マルコムとの間の息子のジョーが本音を打ち明ける。
さらに、CEOのカルロ・ダマリオと二人の息子が、1985年にヴィヴィアンが無一文になったという、衝撃の事実を明かす。古いミシンで自ら縫った服で一からやり直し、遂に1990年と翌年に連続でデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞するまで上り詰めたのだ。
環境保護活動に走り回り、ニューヨーク、パリと支店をオープン、絶好調のヴィヴィアンが、自分の会社は「危機信号よ」と驚くべき言葉を口にする。果たして、その真意とは──?