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年末年始にこそ読んでほしい、「死生観」について考えさせられる3冊

年末年始にこそ読んでほしい、「死生観」について考えさせられる3冊

死は、ストーリーを大きく動かす起爆剤だ。それは起承転結のどこにおいても機能し、読者の感情を様々に奮い立たせる。ここでは、私が今年読んだ本の中から特に気に入った3冊を、それぞれにおける「死の役割」を切り口としてご紹介したい。各種ジャンルが異なるものを揃えたので、どなたにも、いずれか一つは興味を持ってもらえるはずだ。

例えば、死ほど「恐怖」をそそるものはない

澤村伊智氏が発表した『ぼぎわんが、来る』は、まさに「死=恐怖」の装置を最大限に活用した物語だった。あらすじを一言で言えば、文字通り、とにかく「ぼぎわん」が「来る」。外見、出自、動機、何から何まで謎に包まれている相手が、ただただ愚直にコチラを殺そうと忍び寄る様は本当に恐ろしい。

『ぼぎわんが、来る』
澤村伊智(著者) / 角川ホラー文庫 / KADOKAWA / 角川書店

息もつかせぬ逃走劇、ふんだんにちりばめられた民俗学的知識、おどろおどろしい人間模様、複雑に入り組んだ社会問題。それらすべてが「死への恐怖」というボウルの中でかき混ぜられ、われわれの前に運ばれてくる。殺されるよりも恐ろしいこととは何か。生きるよりも大切なこととは何か。追われる者たちは、矢継ぎ早に迫りくる様々な決断を、常に自らの命と天秤にかけながら進んでいかなければならない。ひとたび最初のページを開いたら、その結末にたどり着くまで、脳内が「ぼぎわん」の4文字に対する不安と好奇心で埋め尽くされることだろう。

なお本書を原作として12月7日に公開された映画のタイトルは、ずばり『来る』。澤村氏が物語に詰め込んだ「死が迫る恐怖」を、さらに凝縮して観客にたたきつけようとする中島哲也監督の心意気が伝わる。オリジナルと映像化作品、それぞれに魅力があるので、ぜひ両方とも楽しんでほしい。

 

また、死は「感動」の源泉ともなる

「ドラえもん学」の提唱者である横山泰行氏が発表した『「のび太」という生き方』は、ダメダメなキャラクター・野比のび太が持つ人間力について、目標の立て方、ひみつ道具の使い方、はてはしずかちゃんへのアプローチ方法に至るまで様々な角度から分析したユニークな一冊である。

『「のび太」という生きかた』
横山 泰行(著) / アスコム

中でも最も自分の興味を引いた考察は、のび太にとってドラえもんと同じくらい大切な理解者であった、彼の祖母についてのものだった。漫画内の一エピソード「あの日あの時あのダルマ」では、亡くなる直前の彼女とのび太の交流が描かれている。どれだけイジメられようと、どれだけ失敗しようと、決してへこたれないのび太の姿勢は、おばあちゃんと交わしたこの「最後の約束」によって育まれた。大切な存在と交わす永遠の別れは、誰の人生においても大きな試練となる。だからこそ、それを乗り越える過程は何にも代えがたいドラマとなって、多くの読者の共感を誘うのだ。

もちろん他のトピックもためになるものばかりで、それら全てへ目を通した後には、のび太という人間に抱く印象が180度変わっているに違いない。挫折と成長の関係性について深く学べる良書なので、老若男女問わずお薦めしたい。

そして、死は「笑い」にも繋がりうる

今年8月に急逝した漫画家のさくらももこ氏は、生前に数々のエッセイ本を執筆していた。それらの記念すべき第一冊目となったのが、1991年刊行の『もものかんづめ』である。漫画と同様、本著でも随所において彼女のシニカルな視点が冴えわたっているが、その最たるエッセンスが詰まっているのは、彼女自身の祖父の死をめぐって綴られた「メルヘン爺」という章だ。

『もものかんづめ』
さくらももこ(著) / 集英社文庫 / 集英社

有名な話として、『ちびまる子ちゃん』に登場する献身的なおじいちゃんのキャラクターは、実際の人物像と大きくかけ離れていたという。現実における2人の関係は、希薄どころか険悪なものだった――ゆえにさくら氏は本章において、「ろくでもないジジィ」(本文から引用)の大往生を徹底的に痛快な出来事として書いている。畳みかけるような毒舌と的確な情景描写、「メルヘン爺」というタイトルをめぐる伏線回収に至るまで、どこをとっても見事というほかない。

なお、この話が月刊誌「青春と読書」に掲載された際、数人の読者から苦情のハガキが届いたそうだ。あとがきでは、さくら氏自身がその当時の心中について述べているが、この内容も非常に「さくらももこ的」である。彼女の人生観を少なからず感じ取ることができる一節なので、本書を読む際はぜひ見逃さないでほしい。


ときに不条理で、ときに尊く、ときに喜ばしい消失。あなたが今年手に取った本の中で、死は、どんなメッセージを伝えていただろうか。

文 / 佐藤太亮