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年末年始にこそ読んでほしい「殺人者の子」「母を亡くした子」「養子」――母子の物語に惹かれた3冊

年末年始にこそ読んでほしい「殺人者の子」「母を亡くした子」「養子」――母子の物語に惹かれた3冊

2018年に私が読んだ小説の中で、母と子についての物語は3作。まったく異なる形の家族を描く3つの小説から、母子の関係性に迷い、混乱しながらも前に進む者たちの人生に出会った。ただ、どの作品も「母の愛は尊い」と感傷に浸り、単純に涙できるような物語ではない。むしろ、生きづらさを抱えていたり、人としてダメだったりする母の人生も描くからこそ、強く惹かれた。

殺人者の愛を描く超温度差ハードボイルド

1作目は、昨年映画化もされた、沼田まほかるによる2011年のヒット作『ユリゴコロ』。主人公の青年が自宅で見つけた手記に、ひとりの女の半生が綴られていた。幼い頃から生命が消える瞬間に心を奪われ、人を殺すことで生きている実感を得てきた女・美紗子が、罪の意識を背負った男と出会い、家族を作るまでが語られる。

『ユリゴコロ』
沼田まほかる(著) / 双葉文庫 / 双葉社

血がドクドクと脈打つ音が聞こえそうなほど生々しい殺人の描写と、自らの異常な執着の行く先を追う、淡々とした一人称の語り口。主人公の現在と美紗子の過去がクロスしながら、ダークな世界観はそのままに、物語はある家族の愛の物語として進んでいく。冷たい文体で、人の温もりを知ってしまった殺人者の切なさと大きな母の愛が描かれる、超温度差ハードボイルド。ラストで、美紗子が初めて誰かのために人を殺したことがうかがえるのだが、そのあまりの頼もしさに思わず笑ってしまった。

「いなくなること」を知る少年と少女の強さ

川上未映子作の『あこがれ』は、母の不在によって、母の大きな存在感を描いている。物語は、小学生の男の子・麦彦と女の子・ヘガティーそれぞれが語る「ミス・アイスサンドイッチ」と「苺ジャムから苺をひけば」の2章から成る。麦彦は、スーパーでサンドイッチを売る、瞼を水色に塗ったちょっと奇抜な女性「ミス・アイスサンドイッチ」に惹かれる。彼女が去ってしまうことを知り戸惑う麦彦に、幼い頃に母を亡くしたヘガティーが語る。「会いたいときに、会いたい人がいてさ、会えるんだったら、ぜったい会っておいたほうがいいと思うんだよね」。

『あこがれ(新潮文庫)』
川上未映子(著) / 新潮文庫 / 新潮社

2章、ヘガティーは父が過去に別の家庭を持っていたことを知り、腹違いの姉に会いに行くことを決める。ヘガティーの母はもういない。いなくなった人にはもう会えないという、世界で一番悲しいことをすでに知っている少女が、アイデンティティーを揺さぶられる経験を通して、母の不在と向き合い少しだけ前を向く。ラストでヘガティーが書いた母への手紙には、がんばって大きくなっていくから心配しないでと言いつつも、「会いたい」と願う思いが詰まっていて切ない。彼女は、母の不在を受け入れたわけでも克服できたわけでもなく、心に穴が開いたまま、これから長い人生を生きていく。母の不在が子をちょっとだけ強くしたことに、ただただ感涙。

特別養子縁組をめぐるふたりの母の物語

そして最後は、特別養子縁組制度をテーマにした辻村深月の『朝が来る』。長い不妊治療に区切りをつけて特別養子縁組制度によって子を授かった女性と、中学生で出産したが育てることができず、子を手放した女性の人生を描く。

『朝が来る』
辻村深月(著) / 文春文庫 / 文藝春秋

子が幼稚園年長になったある日に「子どもを返してほしい」と連絡をしてきた女は一体誰なのか。その謎を追うミステリーとしても抜群に面白いが、「産みの親vs育ての親」というような、単純なテーマでは終わらない小説。感傷的な表現には頼らずに、不妊治療の実態や、養子であることを本人も周りも知りながら暮らす家族の姿、そして行き先をなくした母性に戸惑う生みの親の過酷な人生を淡々と描き出す。産んだ側のその後の人生にも、しっかり寄り添う目線が温かい。だからこそ、産んだ人や背景に関わらず、生命が誕生し、育ち、育てられることの尊さが、ずっしりと体にのしかかる物語だ。


多様な母子の姿を前に、親と子の関係性は個人のアイデンティティーを大きく左右するという事実に改めて気付く。誰もが避けられないテーマである親子の問題を通して、自分自身ともじっくり向き合う時間をくれる3冊だ。

文 / 川辺美希