TVアニメ『SSSS.GRIDMAN』特集  vol. 3

Interview

『SSSS.GRIDMAN』にはなぜ“日常”の音楽が(ほぼ)なかったのか。『エヴァ』『シン・ゴジラ』の鷺巣詩郎が劇伴にこめたアティチュード

『SSSS.GRIDMAN』にはなぜ“日常”の音楽が(ほぼ)なかったのか。『エヴァ』『シン・ゴジラ』の鷺巣詩郎が劇伴にこめたアティチュード

TVアニメ『SSSS.GRIDMAN』は、円谷プロダクション制作による1993年放送の特撮作品『電光超人グリッドマン』を原作に、アニメ制作スタジオのTRIGGERが完全新作アニメーションとしてリメイクした話題作だ。ここでは、同作の劇伴音楽を担当した音楽家・鷺巣詩郎へのインタビューを敢行。特撮などの映像制作会社であるピー・プロダクション創業者・うしおそうじを父に持ち、『新世紀エヴァンゲリオン』『シン・ゴジラ』といったヒット作を筆頭に数々のアニメ・特撮作品の音楽を手がけてきた彼が、円谷作品との初仕事となる本作の音楽に込めた想いを語る。

取材・文 / 北野 創(リスアニ!)


「円谷作品に対する音楽はこうあるべきだ」というものをぶつけ合って、良い方向に弾ければ、と

まずは『SSSS.GRIDMAN』の劇伴のお話をいただいたときの率直な感想をお聞かせください。

鷺巣詩郎 僕はちょうど「日本アニメ(ーター)見本市」(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどを手がけているアニメ制作会社・スタジオカラーとドワンゴの共同企画によるWEB配信アニメシリーズ)で何作か音楽をやらせていただいてたので、そのときにカラーのスタッフの方からTRIGGERという素晴らしいスタジオがあるということを聞いていましたし、そこが『電光超人グリッドマン』という特撮作品を素材にした短編アニメ(雨宮哲監督による『電光超人グリッドマン boys invent great hero』)を「見本市」で作っていたことも覚えていたんです。

それで『SSSS.GRIDMAN』についてのメールをいただいたときに「これはもしかしたらあれのことかな?」と思って、まずはその映像を観てみたんですよ。そしたらアニメーションが素晴らしい動きだったので、これはやっぱり評判通りのスタジオなんだなと感じたんですね。

そのクオリティーの高さを受けて、お引き受けになられたと。

鷺巣 それもありますが、やはり自分にとって初めての円谷作品というのも大きかったです。日本のアニメや特撮に長く続いてるものはいくつかありますけど、なかでも映画の『ゴジラ』とテレビの円谷作品は圧倒的に長く、脈々と続いてますよね。そういう長い歴史の一部に参加するのはとても光栄です。それから、もともと実写だった作品をアニメにリメイクすることで、いろんな人の興味が増すと思いました。

Production I.Gの『ULTRAMAN』にしてもポリゴン・ピクチュアズの『GODZILLA』にしてもそうですけど、特撮で見慣れたものが最新のアニメでどういうふうに動くか、ものすごく期待されているところでもあり、制作スタジオにとってもいちばんの見せどころだと思いますし。そういういろんな脈絡をどういうふうに引き継ぐのか、ということも含めて、『SSSS.GRIDMAN』に大きな魅力を感じたんです。あと、これはサントラのライナーにも書きましたけど、自分の父親(うしおそうじ=鷺巣富雄)と円谷プロとの繋がりということもありましたね。

制作サイドからは何か具体的なオーダーや要望はありましたか?

鷺巣 基本的に、音楽はかなり自由にやらせてもらえました。この仕事を鷺巣に発注した時点で、上がってくる音については、もちろん制作サイドもある程度は予測してたと思うんです。

自分は1957年生まれなので、ウルトラシリーズのクラシックと言われるものをリアルタイムで観ていましたし、庵野秀明監督と一緒に『ふしぎの海のナディア』をやったときも、ふたりでさんざん『マイティジャック』(1968年放送の円谷プロによる特撮作品)の素晴らしさを確認し合ったりもしたし(笑)。それと同じように制作サイドの方々にも「円谷作品に対する音楽はこうあるべきだ」というものをそれぞれにお持ちだと思ったので、それが良い意味でぶつかり合って良い方向に弾ければ、という気持ちは双方にあったはずです。

そういう意味で、音楽についてひとつの大きな指標というよりは、みんなが「円谷作品の音楽はかくあるべき」というものを持っているということのほうが大事だったと思いますし、結果的に雨宮監督と音響監督の亀山(俊樹)さんのおかげで、それをうまく結実して具象化していただけたと思います。

「血湧き肉躍る音楽」─特撮ものには絶対に必要不可欠な高揚感

先ほどお話に上がったように、鷺巣さんは家系的に特撮と深い縁をお持ちで、2016年には『シン・ゴジラ』の音楽も担当されました。一方でアニメの劇伴も多数手掛けてこられて、アニメと特撮音楽の両方の分野に精通されています。今回の『SSSS.GRIDMAN』の劇伴で、それらのお仕事の文脈を活かした部分はありましたか?

鷺巣 もちろん活かしたところはたくさんあるし、新しいチャレンジもありますね。具体的に活かしたところはやはり「怪獣が歩く」音楽ですね。

日本の怪獣というのはすでにキャラクターが確立されてて、例えばガラモンやバルタン星人が初めて画面に登場しても、我々はすでにそれを怪獣という呼称を通り越して、それぞれの名前で呼べるわけです。なおかつ、そういう怪獣が歩くとどんな音楽が鳴るのか、すでにある程度の人が一定認識として持っている。要するに、日本人は「怪獣が歩くときはこういう音楽が鳴らなきゃいけない」ということを、義務教育のように知っているんですよね。

以前に手がけた『ブラック・ブレット』というアニメ作品でもいきなり怪獣が出てくるんですが、そのときだけはそれまでの音楽とは打って変わり、フルオケの「いかにもな音楽」を鳴らしましたし(笑)。『エヴァ』の使徒にしても、スタイリッシュなデザインのものとエグいものが出るときとでは音のテイストを変えてて、やっぱりエグいもののときは怪獣音楽に近い。それからもちろん『シン・ゴジラ』でゴジラが歩くときは、ここはやっぱり鷺巣の音楽じゃなくて(『ゴジラ』シリーズの音楽を担当していた)伊福部 昭の音楽でしょ! という感じでしたし。というわけで、怪獣が出現して歩く音楽に関しては非常にオールドスクールに作りました。

新しいチャレンジというのは?

鷺巣 これは僕が今回いちばんやりたかったことなんですけど、何らかの形の媒介があって変身する、要するにヒーローが現れるときの音楽ですね。自分で名乗って変身するというのは非常に勇ましいですし、いちばんオイシイところですから、そこにはそれなりの音楽が必要になるわけです。それから科学特捜隊でもウルトラ警備隊でもいいんですけど、怪獣に対峙する側が戦いに赴くときの音楽、あえて「血湧き肉躍る音楽」と呼びますけど、これは特撮ものには絶対に必要不可欠な高揚感です。

昔の特撮の場合、例えばウルトラ警備隊の乗り物がミニチュアがピアノ線に吊られてドドドドッと出撃するわけですが、そのときの音楽はことのほか重厚にしてチープな画面を支えなくてはいけないわけですよね。そういう音楽をやりたくてしょうがなかったけど、今までやれなかったので、今回は心ゆくまでやらせてもらいました。やはり出撃の音楽というのは、他とは代え難いものがありますし、非常にやりがいがあり、うれしかったです。少年の心を持った人であれば世代を超えて喜べる音楽だと思います。

今回の劇伴は「HumanLove」「1144」「1801」という3曲を軸に、それらの様々なアレンジで構成されていますね。

鷺巣 まず、今回は映画ではなく1クールのTVアニメなので、旋律やモチーフへの親しみを考えますと、メロディはそれほど多くないほうがいいんじゃないかな、というのがまずありました。それと最初の打ち合わせの段階で、今回は主題歌が物語の本編に食い込んだ形で使われると聞いていましたので、そこで劇伴のほうも多くのメロディモチーフを作ると視聴者の印象が取っ散らかると思いまして、3つに絞ったんです。

これらの曲名には何か由来があるのでしょうか?

鷺巣 「1144」「1801」というのは自分が曲を制作する際の管理番号そのままなんですが、「HumanLove」については、曲の中に「HumanLove」と「RobotLove」というコーラスが対になって入ってるんですね。それはシンメトリックな意味合いでつけたものでもあるんですが、「HumanLove」というのは円谷作品にずっと貫かれているテーマでもあると思ったので、この曲名にしたんです。

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