山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 50

Column

25年目の“Brotherhood” / Mr.Children

25年目の“Brotherhood” / Mr.Children

続けていくことは挑戦と忍耐の連続だ。
この連載も50回目。満を持して書き下ろすのは、バンド、Mr.Children。
長い時間をかけ、幾層にも襞を重ねながら、彼らの「間」に織り込まれ、育まれたもの──。
今年結成40年、HEATWAVE山口洋からの新たな門出のメッセージ。


2019年、迎春。

いつか書いておかねば、と思いつつ。新年にあたり、編集部の熱烈なリクエストに応えて、Mr.Children。

まずはギタリスト田原健一。ミスター・誠実。限りなく親愛の情を込めて、ケンちゃんと呼んでいる。

彼と僕はミュージシャンとしてではなく、ひょんな縁で、近所のキャッチボール仲間として出会った。杉並区永福町。誰かが云った「この町は英訳すると、フォーエヴァー・ハッピー・タウンなんですよ」と云うセリフに惹かれて越してきた町。なんだか、いいことがありそうな気がしたから。

投球フォームを見ただけで、ケンちゃんがタダの経験者ではないことはすぐに分かった。本気と書いて、マジってやつ。ある種の男の子たちが好む、キャッチボールという行為には無言の会話がある。いつだって彼が投げるボールにそこはかとない思いやりがあって、寡黙なケンちゃんと僕は、そうやって“Brotherhood”を育んだ。

既にプロのミュージシャンだった僕に、ある日ケンちゃんからデビュー・アルバム(酷評した記憶があるなぁ……汗)が手渡される。キャッチボール仲間はあっという間に信じられない勢いでスターダムを駆け昇っていく。でも、手が届かない存在になったかと云えば、そうではない。

有名であろうとなかろうと、連絡があろうとなかろうと、ケンちゃんと僕の間には“Brotherhood”があって、それが消えることはなかった。たぶん、掌の感触ってやつだ。

一度だけ、巨大なスタジアムでMr.Childrenを観させてもらったことがある。桜井君が僕らのアルバムのために文章を書いてくれた縁で。なんだか規模がデカすぎて、現実感が薄かったけれど、ケンちゃんがモンスター・バンドのメンバーとしての重責に向き合い、どれだけ切磋琢磨を重ねてきたのかはすぐにわかった。訳もなく誇らしかったのも、たぶん“Brotherhood”。自分の弟(居ないけど)が世界新記録を出したらこんな気持ちなのかもね。

数年前の夏、ケンちゃんから手紙が届く。むろん縦書き。清書したこと間違いなし。「HEATWAVEとライヴがやりたい」と。書かれた中身にも増して誠実な字体。あのね、ケンちゃん。断る理由が見つからないよ。振り返ってみれば、俺たちは幾度もキャッチボールをしたし、敬愛するカズ山本選手を一緒に野球場に応援に行ったりしていたけど、一度も一緒に演奏したことはなかった。この時点で、ケンちゃんに出会ってから実に25年が経過していた。四半世紀だよ。

その手紙は今も机の引き出しに、CHABOさんがくれた手紙と一緒にしまってある。”Brotherhood”の引き出しに。

25年目の必然。コンサートはケンちゃんと僕の故郷、福岡で行われた。そこでMr.Childrenと同じステージに立っていることはたまらない幸福だった。でも、ケンちゃん。次の邂逅に25年かかってたら、お互いもう生きてないかもよ。笑。

その日の日記に僕はこう書いている。

九州某所に向かうバスの中で書いています。笑っちゃうくらいの二日酔い。でも、記しておかないとね。Mr.Childrenはみんな品行方正で、酒なんて飲まないんだと思ってた。笑。でも、そんなことなかったぜ! 最高に気持ちいい男たちだよ。オレは吐きそうだけど。

HEATWAVEは福岡生まれのバンドだけれど、ファンの殆どは今日のライヴチケットをゲットできなかったそうで。ホームなのに微妙にアウェーなんだと覚悟はしてた。でもね、Mr.Childrenのファンはあたたかかった。メンバーが好きなバンドを観てみたいってヴァイブスに溢れてた。

僕は彼らに聞いてみたいことがあった。どうして音楽をやろうと思ったのか?、どうして曲を書こうと思ったのか?。彼らの応えは僕の動機とはあまりに違っていて=僕の場合、世界とコミットするにはその方法しかなかった=怒りや哀しみをうまくコントロールできない若者が生きていくための唯一の手段だった=この世界にこれだけの真っ直ぐなこころの発露があって、なおかつメンバーとの出会いと確かな友情があって、20数年に渡ってそれを持続させて、一点の曇りもなく、人を信じようとするこころをメンバーが互いに持ち続けていること。それこそが、彼らがあれだけのポピュラリティーを獲得している理由で、なおかつ満員の会場に充満していたヴァイブスだったんだね。そりゃ、オレたち、一緒に演奏するまで25年かかるわ。オレ、屈折してたもん。一回転して素直になるまでの25年!

世界はまだ信じるに足りる場所だね。そんなエネルギーをMr.Childrenとオーディエンスからもらった。こころから、ありがとう! ほんとうにありがとう!

ひとことで云って、たまらなく“バンド”で、民主的だった。僕も40年やってきたから分かる。メンバー間の人間関係がフラットであることなんて、ほぼあり得ない。僕もそれを目指してきて、紆余曲折の末、ようやく辿り着こうとしているのに。

どんな道程によってそれが形成されてきたのか、僕には知る由もない。でも、平坦であったはずがない。ほぼ奇蹟と云っていい。誰の思いやりと情熱と愛と信頼と忍耐力が欠けてもあの音は出ない。Mr.Children、固有の“Brotherhood”。ん? 同級生だっけ? まぁ、いい。それが中空に希望の絵を描く。人々はそこに夢を観る。僕はそのリレーションにモーレツにこころを動かされる。確かに愛が循環していることに。

もうひとつ。その日の打ち上げで桜井君が僕にこう伝えてくれた。「僕は歌うことだけは、誰にも負けたくないんです」、と。何云ってんだか、君は誰にも負けてないじゃん、と思ったけれど、その言葉は僕のこころに深く深く残った。どうして、彼はそんなことを僕に云ったんだろう? 果たして、僕は彼ほど「歌う」ことに向き合ってきただろうか?

セルフ・カヴァー・アルバム『YOUR SONGS』を創るにあたって。常にその言葉がこころの中に棲んでいた。道祖神で、ひかりでもあった。

キャリア38年目にして、初めて歌うことに100%対峙してみようと思った。いつもそこから逃げていたから。ヴォーカルを録音する際、歌のジャッジはディレクターやメンバーに丸投げにしていた。その作業があまりにも苦痛だったから。録音された歌からは自分のすべてがあぶり出しのように浮かび上がってくる。希望も夢も、弱さも醜さも。

言葉は僕を奮いたたせた。自分で歌い、録音し、ジャッジし、編集した。良いところだけを繋ぎ合わせるのではない。主観と客観を繰り返すタフさも必要。とことんまで向き合って、僕は山を超えた。超えてみたなら、清々しさとともに、新しい風景が拡がっていた。恥ずかしながら、自分の職業がシンガー“でもある”と云えるようになったのはMr.Childrenのおかげなのだ。

“Brotherhood”。どっちが兄か、なんてことはどうでもいい。どっちでもない気がする。彼らがひかりを放つとき、僕は道でありたい。ただ、それだけ。いつだって掌にはあの感触がある。

ひとことだけ。ありがとう!

感謝を込めて、今を生きる。

追伸
僕が死んだら、分身であるグレッチ・カントリー・ジェントルマンはケンちゃんに弾いてもらいたい。ここに書くのは反則だけど、書いておかないと受けとってくれないもんね。笑。


Mr.Children
桜井和寿(vocal,guitar)、田原健一(guitar)、中川敬輔(bass)、鈴木英哉(drmus)。1985年、高校の軽音楽部に所属していた桜井・中川と、野球部だった田原を桜井が誘って前身となるバンドを結成。コンクール直前にドラマーが脱退、田原と中川の中学の同級生だった鈴木を誘って出場したのをきっかけに1989年に結成。1992年5月、1stアルバム『EVERYTHING』でメジャー・デビュー。1994年6月に発表した5thシングル「innocent world」がバンド初のオリコンチャート1位に。さらに11月にリリースした「Tomorrow Never Knows」が276万枚という驚異的なセールスを記録。以降、日本を代表するバンドとして活動を続けている。2018年10月には、ニュー・アルバム『重力と呼吸』、全曲詩集『Your Song』をリリース。続く〈Mr.Children Tour 2018-2019 重力と呼吸〉全国12ヵ所24公演を終えたばかり。2019年2月には台湾台北アリーナ、4月からは5大ドームを廻る〈Mr,Children Tour2019“Against All GRAVITY”〉の開催が決定している。環境問題への意識も強く、桜井は本名の櫻井名義で小林武史、坂本龍一と2003年に持続可能な社会を目指す市民バンク「ap bank」を設立。そのための活動を行うBank BandでHEATWAVEの「明日のために靴を磨こう」「Tokyo City Hierarchy」をカヴァーしている。

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オフィシャルサイト

Mr.Children『重力と呼吸』
TOY’S FACTORY / TFCC-86659
前作『REFLECTION』から3年4ヵ月ぶり、19枚目のオリジナル・アルバム。4年ぶりにメンバーが出演するMVで話題になった「Your Song」、テレビ朝日系ドラマ『ハゲタカ』主題歌に起用された「SINGLES」、フジテレビ系ドラマ『隣の家族は青く見える』主題歌「here comes my love」、映画『君の膵臓をたべたい』主題歌「himawari」など全10曲を収録したセルフ・プロデュース作品。2018年10月3日リリース。


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。アン・サリーによるカヴァー「満月の夕(2018ver.)」は2019年2月公開の映画『あの日のオルガン』(監督:平松恵美子、主演:戸田恵梨香、大原櫻子)に起用されることが決まった。東日本大震災後は、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと“MY LIFE IS MY MESSAGE”として、福島県相馬市の人たちと希望のヴァイブレーションを起こすイベントを続けている。2018年4月から池畑潤二(Drums)、細海魚(Keyboard)と新生HEATWAVEとしての活動を開始。2018年12月にはHEATWAVE TOUR 2018“Heavenly”を行った。直近のライヴ予定は3月30日広島でのスペシャルLIVEに加え、4月6日、7日に東京・国立で本連載の番外編ライヴ・イベント第2弾の開催が決定。トークとライヴの2部構成で、連載で書き下ろしたアーティストの楽曲紹介をはじめ、HEATWAVE結成40年秘話や、カヴァー曲、新曲などを各日異なるテーマで披露する。1994年5月24日新宿パワーステーションでの“NO FEAR TOUR”の音源を収録した『OFFICIAL BOOTLEG #006 19940524』がHEATWAVE OFFICIAL SHOPにて好評発売中。

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音楽喫茶ヲルガン座11周年企画「山口洋~遅れてきたお祝い~Home Town~」

2019年3月30日(土)広島 音楽喫茶ヲルガン座
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「Seize the Day/今を生きる」番外編トーク&ライヴ

“Long Way For Freedom”
2019年4月6日(土)国立 地球屋

“Long Way For 40th”
2019年4月7日(日)国立 地球屋
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