LIVE SHUTTLE  vol. 320

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HEATWAVEが見せた到達点と新次元の始まり。最強のトライアングルが描く果てしない宇宙への奇蹟と軌跡

HEATWAVEが見せた到達点と新次元の始まり。最強のトライアングルが描く果てしない宇宙への奇蹟と軌跡

満月の夕、ジョー・ストラマーの命日。2018年12月22日(土)冬至、HEATWAVE TOUR 2018 “Heavenly”のツアーファイナルが東京・渋谷のduo MUSIC EXCHANGEで行われた。約30年間共に歩んできたベースの渡辺圭一が脱退するという大きな変化があった2018年。あえてベース不在のまま3人編成の道を選び、山口洋、池畑潤二、細海魚の3人にしか奏でられない有機的なバンド・サウンドを追求してきた。トリオとして初のツアーとなった2018年末、変革と進化のさらなる先には、降り注ぐような音楽の奇蹟があった。激動の年をすべて音楽に昇華し、今年結成40年目を迎えるHEATWAVEが魅せた音楽の光とは。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / 三浦麻旅子

バンドという形態にとっては致命的とも思える決断が、3人の結束を強靭にした

「初」という字は、衣に刀と書く。
いかに経験を積もうとも、それに甘んずることなく、断ち切る勇気を持つこと。
2018年の終わりに観たHEATWAVEのライヴは、それが迸るステージだった。
HEATWAVE TOUR 2018 “Heavenly” 最終日。
その日は、冬至で、満月。
ひとつの終わりでもあり、始まりでもあるこの日、今年結成40年目を迎えるバンドは、その歴史に「刀」を入れた。
バンドが到達し得るひとつのゴールとして。
あるいは、バンドという形態が創り得る新次元のスタートラインとして。

渡辺圭一(bass)が辞めて3人編成となってから初めてのツアー。これまでHEATWAVE sessions 2018として3回ステージを重ねてきた。
実験。検証。受容。挑戦。創造。
あえてベースを補充しない。バンドという形態にとっては致命的とも思える決断が、3人の結束を強靭にした。

HEATWAVEツアーとしては初、オールフロア着席でのステージ。She & Himのクールなオールディーズが流れる中、客席がほぼ埋め尽くされると、弾んだアイリッシュ・フィドルが聴こえて、あたたかいハンドクラップの渦が巻き起こる。
迎え入れられた3人は、これまでのように山口洋がフロントではなく、池畑潤二をセンターにトライアングルを描いてポジションに着く。山口が手にしているのはアイリッシュ・ブズーキだ。
正面よりやや斜に構え、ステージの池畑と細海魚、フロアのオーディエンス、全体が視界に入るポジショニング。池畑もしっかり山口を捉えて、会場の空気を束ねるような密度で変拍子を繰り出す。
オープニングは「愛と希望と忍耐」。

たどり着く場所なんてわからなくていい
きっと道そのものが答えになるのさ

HEATWAVEの歴史と重なるような詞に、ブズーキの音色、細海のキーボード、池畑のドラムが絶妙に絡み合う。
特に池畑の集中力。最初の一音から全神経を集中して、この「場」に集う皆を別の場所へと連れていこうとする責任と気迫に溢れている。

「今日はジョー・ストラマーの命日。野性の呼び声、聞こえるよ」とギターに持ち替えて「WILD IN THE STREET」。
あきらかにこれまでのライヴとは違う。3人が横並び。その中でも舵を握るのは池畑で、細海もパワーアップして大きな一翼を担う。一方、山口はちょっと引いて、2人とのセッションを楽しんでいるようにも見える。
「バンドの高齢化に伴い、客席の高齢化も止まらないので、今日は座席を用意させてもらった」と山口が言うと、「ありがとー!」とフロア。「じゃあ、花の歌、うたうね」と「フリージア」。3人の生み出すグルーヴは驚くほど有機的だ。ベースの不在は、画家があえて描かない一筆のようにリスナーの想像力を刺激する。

「誰かのようになることはない」と山口が叫んで「BLIND PILOT」。
光速で宇宙を往くようなキーボードに、大地を疾走するドラムがくっきりと風景を描き出す。それにしても、池畑の繊細さはどうだろう。ハイハットもスネアも紙一枚倒れるのも見逃さないようなナイーヴさで雪の結晶を宙に舞わせる。一転して、バスドラが力強く響いてフルスロットルで加速。

池畑が還暦を迎えるなんて、いったい誰が想像しただろう。日本のロックを牽引したあの破壊的で革新的なビートが、これほど繊細で表情豊かに、包容力さえ抱いて繰り出される日がくるなんて。
後に明かされることになるが、このツアーのセットリストはすべて池畑がつくったという。ベースなしでやっていくという決意、HEATWAVEというバンドの屋台骨になりきる覚悟が、その演奏に結実している。

「新しい歌を用意してまいりました。絶対に、皆さんと時代を共有していないと書けない歌」と、5曲目は新曲「コンプライアンス」。そして東京オリンピックの開催が決定したことをテレビで知ったときの気持ちを込めたという「焦燥のブルー」からインターネット黎明期に書いた「TOWER OF SILENCE」。
体制、権力、システムという巨大な壁に抗うものとしてロックが生まれたなら、その原点に立ち返るような演奏だ。数々の先駆者たちへのリスペクトと自身の初期衝動。熱い波が一気に会場を覆い尽くしていく。怒りとパッションを込めたグレッチのソロ、重心の低い暗めのビート、サイケデリックなキーボードに、大人のロックの色気と艶がのぞく。そこに立ち現れる風景は、ショーン・ペンの映画にも似て、寂寥の中に救いを差し出す。

「30年間バンドを支えた渡辺圭一がいなくなってごめんね」
「道が二つに分かれたときは……困難なほうへ行ったほうがいいかもよ」
優しさが滲むMCに続いて新曲を2曲。家族に翻弄されている身近な友人らのことを歌った「OPEN」、そしてツアー・タイトルにもなった「HEAVENLY」。
美しく響くギターの音は永く一本道を歩いてきたミュージシャンの面目躍如ともいえるものだ。

空から君の声が響いてくる
会えなくても 叶わなくても
想いはいつか 風になる

耳を捉えるメロディーライン、普遍の光を帯びた歌詞は、新曲ながらすでにエヴァーグリーンの趣だ。最近、空と話せるようになったという山口は、ツアーに出る前、夕陽と話したと語り始める。
「お前はやるべきことをやったのか?」
「はい」
「よし!」
1年前のステージで「すべてを失ったとしても、大事なものは何ひとつ失われてはいない。全部、ここにあるから」と左胸に拳を当てた山口。孤独な魂はずっと彷徨を続けてきた。脈動する熱い想いと記憶を糧に自らを屹立させてきた。それがこのステージでは、変化しているように思えた。
続く「GIRLFRIEND」は圧巻だった。池畑のスティックは絵筆のようにさまざまな色彩を放ち、細海の指先は光の粒を宙に飛ばす。山口のギターは限りなく深みを目指し、たゆたい、踵を返して光の方へと浮上する。

再びブズーキに持ち替えて「ガーディアンエンジェル」。レゲエのリズムとアイリッシュの音色が緑の風景を拡げていく。
フロアでは座っているのがもどかしそうに、横揺れを始める女性たち。丘を渡る風、木々のざわめき、葉擦れの音、淡い陽光。
天使がそこかしこを浮遊するように、3人の創り出す音楽がひとりひとりの背中をあたたかく包む。「満たされる」という言葉はこんなときに使う。そう思ったとき、隣の席の横顔にポツリと光る粒が見えた。

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