モリコメンド 一本釣り  vol. 100

Column

Ghost like girlfriend “気配”さえも歌と言葉に置き換える。優れたポップミュージック生み出すシンガーソングライター

Ghost like girlfriend “気配”さえも歌と言葉に置き換える。優れたポップミュージック生み出すシンガーソングライター

Ghost like girlfriendは、兵庫県淡路島出身のシンガーソングライター、岡林健勝のソロプロジェクトだ。まずは2017年5月にリリースされた1stミニアルバム『WEAKNESS』に収録されている「fallin’」を聴いてみてほしい。浮遊感のあるエレクトロサウンド、優しく、繊細なメロディライン、東京を舞台にした“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語を映し出すリリックが融合したこの曲がネットを中心に拡散したことで、Ghost like girlfriendの名前は音楽ファンの間で認知された。渋谷と下北沢で撮影されたMVも秀逸。YouTubeのコメント欄を見れば、国内外のユーザーから高く評価されていることがわかってもらえるはずだ。

2017年7月に発表した2ndアルバム『WITNESS』では、“先鋭的なトラックと間口の広いポップネスの融合”という基本的なコンセプトをさらに追求。収録曲「sands」におけるカッティングエッジなトラックメイク、トリッキーなリズムアレンジ、創造性に溢れたリリックの組み合わせは、彼の音楽的なオリジナリティをしっかりと証明していた。ときに実験的なアレンジを施しても、一般的なJ-POPユーザーが聴いて“いい!”と感じられるポップネスを失わないことも、Ghost like girlfriendの魅力だろう。

2019年1月16日にリリースされる3rdミニアルバム『WINDNESS』——デビュー3部作の最後の作品に位置づけられている——で彼は、そのクリエイティビティをより強く押し進めることに成功している。彼自身の解説によると、『WINDNESS』とは、手触り、一見した様子、ものに触れたときの素材感を意味する言葉だという。本作には聴覚だけではなく、手触り、匂いなど、五感に訴えかけるような楽曲が多く収録されているため、このワードをタイトルに選んだのだろう。筆者はそのコンセプトに“気配”という言葉を加えたいと思う。ひとりの人間の心のなか、背景、周囲に確かに存在する(だけど決して確認することができない)“気配”を歌と言葉に置き換える——おそらくはそれこそが、彼が本作でやろうとしたことではないか。そのスタンスはそのまま“カノジョのような幽霊”というプロジェクト名のイメージとも重なるはずだ。

では、収録曲を紹介していこう。まずは1曲目の「shut it up」「描け、狙え、したら行け」という鋭利な言葉から始まる。その中心にあるのは、“まわりの雑音に惑わされることなく、自分自身がやりたいことを貫きたい”という切実な思いだ。SNSが浸透したことにより、我々は程度の差こそあれ、不特定多数の意見や反応を気にせざるを得ない状況に追い込まれた。音楽家をはじめとするクリエイターも例外ではなく、彼らは常にユーザーのリアクションを浴びながら生きている。しかし、だからと言って、世間の反応によって作品が歪められてしまうのは本末転倒。ときには周囲をシャットアウトし、自我を突き通すことが必要なのだ。そう、これまで以上に エキセントリックなサウンドによる「shut it up」は、クリエイターとしての覚悟を示した楽曲だと言っていいだろう。

続く「Tonight」は、スペイシーな雰囲気のエフェクト、シンプルな4つ打ちとしなやかなファンク・ビートを共存させたリズム、軽快なギターカッティングがひとつになったダンスチューン。セクシーな手触りのメロディと相反するように(?)、人間の孤独や寂しさを前面に押し出した歌詞の世界も印象的。アンバランスな要素をあえて取り入れるソングライティングは、この曲によってひとつの高みに達している。

「もう戻らない/僕の元にあの日々はもう戻らない」というサビのフレーズが強く心に残る「cruise」のテーマは、大切な何かを失ってしまった過去の思い出。どんな人にも、ずっと記憶に残っている“あの日々”が存在しているはずだが、それをどう捉えるかは、その人の解釈次第。切なさと憂いを共存させたメロディ、起伏に富んだサウンドによって、リスナー自身の思い出をフラッシュバックさせるこの曲には、優れたポップスに必要不可欠な機能が確かに備わっている。

「you’re my mirror」は、人を好きになり、その人と気持ちがシンクロした瞬間の圧倒的な肯定感を描き出したミディアムバラード。恋愛中に訪れる“世界が美しく見える瞬間”を叙情的に表現した、質の高いラブソングだ。ソウルと歌謡曲の狭間を揺らぐようなメロディ、美しいグルーヴと歌詞の意味を同時に伝えるボーカルも素晴らしい。

そして最後の楽曲「raining like hell」は、きらびやかなギターフレーズ、高揚感のあるビート、アッパーに駆け抜ける旋律を軸にしたナンバー。「それでも信じ抜いて 声を叶えて」という最後のフレーズからは、この先の未来に対する強い意思が伝わってくる。

繰り返しになるが、どんなに先鋭的なトラックであっても、どれほど濃密な感情を描いていても、絶対にポップネスを損なわないことこそが、Ghost like girlfriendの良さ。歌としての強度を高めた本作『WINDNESS』、そして、2019年3月7日に渋谷WWWで開催される初ワンマンライブをきっかけにして、彼の優れたポップミュージックはより多くのリスナーを視野に入れることになるはずだ。

オフィシャルサイト
http://ghostlikegirlfriend.com

vol.99
vol.100
vol.101