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“普通”とは何か?──前山剛久や小松準弥らが問いかける。舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』開幕レポート

“普通”とは何か?──前山剛久や小松準弥らが問いかける。舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』開幕レポート

シリーズ累計580万部発行を誇る、香月日輪による人気小説を原作とした舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』が1月11日(金)新宿・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて初日を迎えた。
初日前日に行われた囲み取材には、主人公の高校生・稲葉夕士を演じる前山剛久、稲葉の親友・長谷泉貴 役の小松準弥、スタイリッシュで美男の霊能力者・龍さん 役の佐伯 亮、アパートの住人で詩人の一色黎明を演じる谷 佳樹が登壇。キャストたちの意気込みコメントと、本番さながらの役者陣の熱演が光ったゲネプロの模様をお伝えする。

取材・文・撮影 / 片桐ユウ

“普通とは何か”──そこの境界線を踏み越えていく勇気

『妖怪アパートの幽雅な日常』は、妖怪ファンタジーの体裁を持ちながら、心優しくもクセのある入居者たちとの交流を通して、主人公の心の成長を描いていく青春ストーリー。

小説は2003年から2013年までに本編全10巻、外伝1巻を刊行。2011年からは漫画家・深山和香によってコミック化され、現在も「月刊少年シリウス」(講談社刊)誌上にて連載中だ。2017年にはアニメ版が放送され、新たなファンを増やし続けている。

今回は脚本・谷 碧仁、演出には劇団「エムキチビート」を主宰する期待の若手演出家・元吉庸泰を迎えての舞台化。 囲み取材には、主役の前山剛久、小松準弥、佐伯 亮、谷 佳樹。舞台を中心に活躍する注目の若手俳優4名が登壇した。

前山剛久は「魂を込めて稽古に臨んできたので、素敵な作品に仕上がっていると思います」とコメント。「座長の立場だと、いつもは“引っ張らなくては!”という意識があったのですが、今回は稲葉夕士という役同様に支えてもらったなという感覚が強いです。カンパニーのみんなに導いてもらいました。それに毎日、稽古場ではワークショップがあって。みんなで絵を描いたりもして、気負いすることなく伸び伸び楽しくやっていました」と、座組みへの信頼を明かした。

小松準弥は「長谷は稲葉の親友としてつねに彼を見守り、心の変化を感じている大切な役割を担わせていただいています」と役どころを紹介。「カンパニーの雰囲気は最高です!」と胸を張り、「夕士のことはもちろん、様々な人の表情や話からもできるかぎりのものを受け取っていただけたら」と意気込んだ。

佐伯 亮は、舞台ならではの見どころを「幽霊・妖怪たちが本当に出てきます。その表現やダンサーの三井 聡さんのパフォーマンスがすごいです!」とアピール。「共通点が少ない役だったので苦労はありましたが、演じていくうちに龍さんの持つ様々な優しさを感じることができて、すごく充実した稽古になりました」と手応えを語った。

谷 佳樹は、前山と2年ぶりの共演。「久しぶりだったので探り合っている感から始まりましたが(笑)、演じていくうちに感覚も戻ってきて。お互いに“成長しているね”という話をしました」とエピソードを披露。
「(前山が)すごく器用になって、すごいなと思いました」と語る谷に「ありがとうございます!」と深々とお辞儀をして会場から笑いを起こした前山も「距離がグッと近くなりましたよね」と、にこやかに振り返った。

最後に前山が「この作品を見て考えるのが“普通とは何か”ということだと思います。皆さんと僕の“普通”も違うし、それぞれがその違いを理解するのは難しいこと。でも、そこの境界線を踏み越えていく勇気をもらえると思います」と、作品の魅力を語って囲み取材は終了した。

妖怪アパートの中だからこそ、夕士の葛藤がリアルに浮かび上がる

この後は、ゲネプロの模様をレポートする。

3年前に両親が他界し、伯父の家に引き取られた稲葉夕士(前山剛久)16歳。高校からは寮に入り自立して……と思った矢先、寮が火事で焼けてしまう。困り果てた夕士を見て、とある不動産屋が紹介してくれたアパート・寿荘は、家賃2万5千円という破格物件。だがそこはオバケや妖怪が出るという……。

冒頭に登場する“寿荘=妖怪アパート”の模型は、アニメで描かれたアパートの外観そのもの。舞台後方の上部、蔦が絡まる窓からは暖かな日が差し込んでおり、アパートの内部に入り込んだ気分にさせてくれる。

その寿荘には、詩人の一色黎明(谷 佳樹)や画家の深瀬 明(佐々木 崇)、除霊師として修行中の久賀秋音(中村裕香里)など、アクの強い住居人がズラリ。普通のサラリーマン……に見える佐藤さん(相川春樹)も実は妖怪。得体の知れない幽霊や妖怪も当たり前に暮らしている“妖怪アパート”だ。

秋音がアパートに入り込んできた悪霊を退散させたり、厳つい容姿の深瀬を夕士が妖怪と勘違いしたり。またあるときには、アパートに出入りする骨董屋(細見大輔)から夕士がユニコーンの角を売りつけられそうになったり。アパート地下にある温泉(!?)で一色と夕士がのんびりと入浴しているときに、キュートだがあきらかに人外の大家さんが、後ろから“ぬっ”と現れたり……。

妖怪アパートで起こる特徴立ったエピソードが続々と展開。
見飽きないにぎやかなシーンが続き、それらは親友・長谷泉貴(小松準弥)宛に夕士が送った手紙を長谷が読み上げ、時に対話することで振り返って明かされていく。

序盤は妖怪アパートの“非・日常”感に驚く夕士をコメディタッチに見せるが、そのアパートで起こる出来事を目の当たりにして、他者との“触れ合い”を重ねることで、徐々に夕士の“日常”になっていく様を、舞台は役者の細やかな機敏で表現している。
夕士がアパートの住人たちと一緒にご飯を食べて「美味しい」と感じるシーンは印象的だ。

笑顔の裏で嘆きや怒りを堪えている、肩肘の張った少年・夕士の繊細さを前山剛久が全身で体現。特に、霊獣に守られている可愛らしい子供のクリ(荒井 悠・猪股怜生のWキャスト/ゲネプロ時は猪股)が、実は虐待されて死んだ幽霊であり、その母親の怨霊がアパートにやってくるシーン。堰を切ったように怨霊に向かって感情をぶつける様と、その直後、ようやく己の悲しみを実感して放出させるシーンは、“芝居”だからこそ伝わる迫力に溢れていた。

立ち姿から非の打ちどころのない優秀な高校生・長谷そのものの小松準弥は、夕士に向ける眼差しや静かな存在感で、夕士への想いやりを細やかに伝えていた。

霊能力者・龍さんを演じる佐伯 亮も、優しげだが他の人とは違うただならぬ力を秘めた雰囲気を纏って登場。夕士にとって忘れられないアドバイスを贈る、先人としての役割をしっかり果たす。

一色黎明を演じる谷 佳樹はじめとする個性豊かな住人と共に、空間を彩っているのがスペシャル・ダンサーの三井 聡だ。“妖怪”や“幽霊”を様々な身体表現で舞台上に描き出すパフォーマンスは、この舞台ならではの見どころとなっていた。

摩訶不思議な妖怪アパートの中だからこそ、夕士の葛藤がリアルに浮かび上がり、まだ未成年である夕士に、アパートの大人たちから贈られるアドバイスが真実味を増す。
“大人”と“子供”、“非日常”と“日常”。その境目ならではの不思議な魅力を“芝居”で受け取ることのできる贅沢なひと時が、劇場で待っている。

上演は1月27日(日)まで。ハイタッチ会やアフタートーク、「大家さん」との撮影会などが開催されるアフターイベント日も決定している。

舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』

2019年1月11日(金)〜1月27日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

原作:香月日輪
漫画:深山和香
脚本:谷 碧仁
演出:元吉庸泰
振付・ステージング:三井 聡

出演:
稲葉夕士 役:前山剛久
長谷泉貴 役:小松準弥
龍さん 役:佐伯 亮
詩人・一色黎明 役:谷 佳樹
画家・深瀬 明 役:佐々木 崇
久賀秋音 役:中村裕香里
佐藤さん 役:相川春樹
クリ 役(Wキャスト):荒井 悠
クリ 役(Wキャスト):猪股怜生
竹中 役ほか:室井 響
博伯父さん 役ほか:石井英明
恵子伯母さん 役ほか:馬渡亜樹
恵理子 役ほか:永田紗茅
スペシャル・ダンサー:三井 聡
骨董屋 役:細見大輔

企画・製作:舞台「妖アパ」製作委員会(パルコ、サンライズプロモーション大阪)

オフィシャルサイト

©香月日輪・深山和香/講談社
©2018 舞台「妖アパ」製作委員会

関連書籍:小説『妖怪アパートの幽雅な日常』
著者:香月日輪/出版社:講談社文庫
関連書籍:コミック『妖怪アパートの幽雅な日常』
原作:香月日輪/漫画:深山和香/出版社:講談社 月刊少年シリウス