Interview

“脱げる”は、藤田恵名の最強の武器。すべてをさらけだし音楽と戦い続ける彼女が放つ新作「月が食べてしまった」

“脱げる”は、藤田恵名の最強の武器。すべてをさらけだし音楽と戦い続ける彼女が放つ新作「月が食べてしまった」

過激なジャケット写真やミュージックビデオでネットニュースをにぎわし、「今いちばん“脱げる”シンガーソングライター」という代名詞が定着した藤田恵名が、7ヵ月ぶりとなるメジャー2ndシングル「月が食べてしまった」をリリース。
アルバム『強めの心臓』(17年8月発表)では業界初となる「脱衣盤」と「着衣盤」をリリースし、前作シングル「言えないことは歌の中」(18年6月発表)では「検閲ver.」と「未検閲ver.」のミュージックビデオを公開し、R18指定を受けた彼女。本作でも「脱衣盤」と「着衣盤」の2種をリリースし、「着衣盤」は漫画家のこしばてつやが手がけたイラストによるダブルジャケット仕様となっており、ミュージックビデオでは喪服姿も披露している。
相変わらず自らをニュース化できる立ち振る舞いはさすがだが、彼女の本質はあくまでも音楽にある。彼女は、世間から色眼鏡で見られることはわかったうえで肌身を晒し、自分自身の弱さや痛みとも向き合い、ロックという音楽を武器に戦いを続けている。身体を張って消化した言葉だからこそ説得力を持って聴き手の心に響き、音楽以外の場所で戦う私たちに勇気を与えてくれるのだ。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 中原幸

孤独な戦い。寝てる間だけ、なかったことに錯覚できる

新年ということで、まず、2018年を振り返っていただきたいと思うんですが、昨年はどんな1年になりましたか。

活動は右肩上がりという実感はあるんですけど、喉(ポリープ)の手術をしたり、結膜炎になったり、体の節々が痛くて……(苦笑)。体調はあんまり良くない1年だったかなって思います。それでも活動ができているから、へこたれずに、腐らずに、治すことに専念しようって思うことができたのは良かったですね。でも、やっぱり外傷が大きい1年でした(笑)。

(笑)音楽活動は順調でしたよね。

そうですね。夏にシングルを出させていただいて、ワンマンライヴもして。前年に比べていい感じにいっているし、ファンの人の数も増えたように思います。何かをやったらネットニュースに取り上げていただくことも増えたので、知っていただく機会が増えたなって感じています。

昨年7月のワンマンライヴのタイトルが「もうきている」(もうキテいる/もう着ている)だったので、次は「着衣盤」のみかなと思っていたんですが。

まだ脱ぐんかい!っていう(笑)。私としては、ジャケットも含め、攻める感じでいくのはなんとなく想像していて。速くてロック色の強い曲で、わかりやすく攻撃的な感じでやりたいなと思っていました。ただ、今回は苦戦したんですよね。アレンジャーの(田渕)ガー子さんに(曲を)投げては跳ね返されて、作っては「まだいけるよ」って言われて……。結構、孤独な戦いでした。その間は他の方の曲も聴かないようにしながら、閉ざされた気持ちで書いてたので、それも今回の曲には入ってるのかなと思います。

「月が食べてしまった」には、孤独や挫折、やるせなさ、寂しさが詰まってますよね。

自分はそっち側の人間なので、さらに追い詰めることで説得力が出るかなと思って。自分自身がそういう状況になったときに、やっとの思いで出来たみたいな曲になりました。守られたなかでは書けないかな。ほったらかされてしまった、取り残されてしまったと思うときに出てきました。

活動は右肩上がりなのに、こういう歌詞が出てくるのが不思議な気がしました。

活動と曲は直結してなくて。自分でも、いい感じだなって思うことはあるんですけど、その中でも落ちぶれかけそうな瞬間とか、これでよかったのかなって後悔することはたくさんあって。そういう、もやもやした思いというか、隠していかなきゃいけない気持ちとかを、つらつらと書いた感じですかね。私はハッピーなときでも、つねに嫌なことやダメなことを想像してしまうので。

どんな思いを歌っていると言えばいいですか。

うーん……他者のせいにしてしまっていた自分のダメなところも受け止めようってことかな。救いを求めてる人に手を差し伸べたいっていう気持ちもあるんですけど、聴いてる人には、嫌なことから逃げてもいいし、強い単語を並べているので、気になったワードに耳を傾けてくれるだけでもいいし、みんなも同じような気持ちになったことがあるよねっていうのが伝わればいいかなって思ってます。

一番気になったのはタイトルにもなっている「何事もないように月が食べてしまった」というサビの最後のフレーズでした。

理不尽なことや嫌なことがいっぱいあって。そういう理不尽なことも、寝てしまえば、そのときだけは忘れられるっていうことが言いたかったんです。そういう意味では、「嫌なことから逃げていい」って言ったけど、実際は逃げ切れないんですよ。逃げ切れないけど、寝てる間だけは月が食べてくれるっていう気持ちを書いてますね。

寝てすべて忘れられるわけではないんですよね。より切なく響きますね。

そうですね。寝てる間だけ、なかったことに錯覚できるっていう感じですよね。だから、未解決です(笑)。でも、きっと多くの人がそうなのかなと思ってて。だから、寝るってすごいことだなって。眠りにつくって尊いし、素晴らしいことだなって思う。救えるような気がして、全然、救いようのない曲になってますね。

眠りを掘り進めると、要は死なないと忘れられないってことですよね。

極論はそうですね。ずっとつきまとうっていう。理解が深いですね、ありがとうございます。

レコーディングはいかがでした?

この曲は仮で録ったものが採用されました。ポリープの手術前で、喉が限界だったんです。何回も歌えないっていうギリギリの状態で歌ったテイクで、「そのギリギリが良かった」ってスタッフが言ってくださって。そのあとに本チャンで録るスケジュールもあったんですけど、最初に歌った荒さと声のかすれ方がすごく良かったので、「これでいこう」ってなりました。しかも、ピッチ修正もしてないんですよ。歌を歌ってる人間からしたら嬉しいことですよね。修正せずに素材で勝負できたのかなって。

歌っているときはどんな心境でした?

そのときは、このまま歌えないかもっていう危機感で歌っていたので、絶望でしかなかったですね。自分で作ったくせに歌いにくいというか、この声のコンディションじゃ無理だなって。当時、まだポリープができてるって知らなかったから、いつまでもこの曲を歌えないかもしれないって、すごい悲しい気持になりながら歌ってました。何回も歌えないし、とにかくしんどいなって。でも、それが歌詞の世界観とマッチして。

手術後はまだ歌ってないんですよね。

そうなんですよ。どうしよう、味わいが減って、全然違う歌声になっていたら(笑)。それはそれでまだ不安ですけど、全部が全部、悪ではないんだなって思いました。今となってはポリープができたこともプラスに捉えられるというか。ヴィンテージじゃないですけど、このちょっとかすれた声、藤田恵名第一形態の最後の歌声をリリースできるってことは貴重かなとは思います。

サウンドはストレートなバンドサウンドになっています。

毎回考えているのはライヴをしたときに、大きく音源から離れないっていうことだけですね。ギターも歌もライヴを前提にしてて。だから、インディーズのときのレコーディングは直立不動でやってたんですけど、今はライヴで動くことをイメージしながら歌ってます。サウンドに関しては、私はキレイなメロディラインが好きなんですけど、そこにガー子さんがちょっと違和感があるようなコードをいつも付けてくれるんですよ。昔は「なんでここ、このコードなんですか?」っていうやりとりもあったんですけど、今となっては、それもガー子節かなと思ってます。

サビのメロディラインとバンドアンサンブルは藤田恵名×田渕ガー子のタッグならではの響きになっていると思います。

嬉しいな。私も仮の編曲をいただいたときに、「ぽいわ〜」って思いました(笑)。藤田恵名っぽいサウンドっていうのがやっと定着してきつつあるのかなって思います。今までの自分だったら、毎回違うことしようって思ってたかもしれないけど、ジャケットしかり、サウンドしかり、懲りずに「ぽいね」っていう感じを曲げないっていうか、手を替え品を替えしないっていう美学が浸透してきたので、この感じで引き続きできたらいいなとは思います。

1 2 >