佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 77

Column

満員の渋谷クアトロで開催されたカクバリズムのイベントで、初めてVIDEOTAPEMUSICを体験した夜

満員の渋谷クアトロで開催されたカクバリズムのイベントで、初めてVIDEOTAPEMUSICを体験した夜

2019年の初ライブは1月12日、東京の渋谷クアトロで開かれたカクバリズムのイベント「Quiet Spark」だった。
出演はShohei Takagi Parallela Botanica 、折坂悠太、 DJは松永良平、そしてぼくのお目当てだったのがVIDEOTAPEMUSICである。

チケットは前売り段階でソールド・アウト、当日は満員だったのでドリンクの注文にいくのも大変で、思うように動きがとれないくらいの混雑だった。
それでもVIDEOTAPEMUSICのライブが始まってしまえば、エキゾチックな過去の映像とゆったりとした音楽にひたることができて、なかなかにゴキゲンな夜となった。

VIDEOくんたちは変わったアーティスト名の通りに、かなりユニークな作風ではあるのだが、鳴らしている音は骨太なものだった。
過去のビデオテープに残された様々な映像素材をサンプリングし、そこに自身がつくったビートを加えたトラックを流しながら、ピアニカをはじめパーカッションやギター、キーボードなどの楽器を弾いていく。

したがってライブバンドとしてもパワフルで、十分すぎるくらいに魅力的であるということがわかった。
それは今年になって最初の発見で、大きな収穫だったと思う。

彼らはそのようにして観客とともに、その場で映像と楽曲を同時にカタチにしていくという、これまで誰もやったことがない試みを見せてくれたのだ。

その特異な世界の面白さについては、友人から数年前にこんなニュアンスで薦められたことがあった。

閉店したレンタルビデオ屋などで蒐集したVHSや、実家のホームビデオに記録された映像などから、自在にサンプリングされて紡がれていく音と映像は、時空を飛び越えて、新たな物語として息を吹き返す。

しかしスマホやパソコンで見てもいまひとつ、いや、いま二つも三つも映像の印象が強くて、なかなか音楽の本質がつかめない感じがしていた。

ところが実際にライブを体験してみたら、想像をはるかに超える素晴らしい時間と空間を、ほんとうに心地よく楽しむことが出来た。
ライブで見ていてわかったのは、映像に世界中のダンス・ミュージックという要素が入っていることだった。
だからそれなりの音量が鳴っていないことには、身体ごと楽しむまでにいかないのだろうということもわかった。

1月12日の夜はおよそ1時間のライブだったが、ステージ上にはVIDEOくんの他に潮田雄一・松井泉・エマーソン北村というメンバーが登場したらしい。(クアトロの有名な柱の影だったために、残念ながらパーカッションの人以外はほとんど見えなかったのです。残念!)

それにしても、すでに役目を終えたはずのビデオテープというメディアを使って、過去を再利用しながら新しい音楽を生み出すという発想は、なんとも見事なものだとVIDEOくんいには素直に脱帽してしまった。

しかもこの日はライブバンドとしても高いレベルで安定していて、そのクールな雰囲気から伝わってくる熱さがなんとも気持ちがよかった。

そこで、ライブ後は急いで家に帰って、これまでのVIDEOくんのインタビューを読んだ。
そこには「なるほどね」と頷ける発言がたくさん載っていて、ここでも感心してしまった。
そのなかから「昔の映像をコラージュするということはどういうことなのか?」について、VIDEOくんが語っていた言葉のいくつかを紹介したい。

ニュータウンみたいな街並みより、路地裏にあるスナックの何とも言えない色の看板とか、いつの時代からあるのかわらない自動販売機がある街並みが好きでした。あと、祖父が旅行に行ったり、写真を撮るのが好きな人だったので、家に古い写真とか絵葉書がいっぱいあって。それを見るのも好きでしたね。

やっぱり、映像の中でしか見ることのできない時代の風景ってあるんですよ。昔の映画の中で流れている音楽然り、登場人物の服装然り、そういうものを見ることで、現代に生きていたら気づけない文化や人の気持ちが見えてくる。

過去と自分は切り離されているように思えるけど、古い映画で流れている音楽を真剣に聴いたりすると、ちゃんと地続きなんだって実感できる。ものを作る立場としても、過去を見ないと納得できないというか、今の自分の気持ちだけで作っていると、本当に個人的な表現になってしまいそうで。もちろん、個人的な表現でもいいとは思うんですけど、この手法でやっている以上は、自分が今の世界や時代の縦軸と横軸の中のどこに立っているのかを自覚した上で表現をしたいんですよね。

これらの言葉にはぼくがここ数年にわたって書き続けていること、これからの表現者に向けて残そうと思っている日本の新しい歌と音楽についての考察と、かなり重なり合うものがあるように思えたのも心強かった。

おそらくぼくは今年も七転八倒しながら、音楽史の研究を行っていくのだろう。
だから、エキゾティックな切り口のライブや新作で、VIDEOTAPEMUSICから心地よい刺激をもらって、リフレッシュしたいと思った夜だった。

※VIDEOTAPEMUSICの発言部分はすべて、下記のインタビューからの引用です。
VIDEOTAPEMUSICが語る「過去を知ると、未来も想像できる」


VIDEOTAPEMUSICの楽曲はこちら

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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