横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 12

Column

送辞――烏野高校排球部のみなさまへ

送辞――烏野高校排球部のみなさまへ
今月の1本:ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝最強の場所(チーム)″

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月はハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝最強の場所(チーム)″をピックアップ。卒業を迎えた烏野高校排球部に感謝の言葉を届けます。

文 / 横川良明

2015年11月14日、僕は演劇「ハイキュー!!」と出会った

これは、ひと月遅れの彼らへの“送辞”だ。

2015年11月14日、僕はAiiA 2.5 Theater Tokyoにいた。ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」。その初日に先立って行われたゲネプロ取材に参加していた僕は、今終わったばかりのエキサイティングなステージに興奮して、体温が2℃くらい上昇したような心持ちだった。

初めて観た演劇「ハイキュー!!」は、今までのどの舞台とも違っていて。ポップで遊び心ある映像表現はまるでテクノロジーアートのよう。体育館の天井を模した壁面に漫画のコマ割りが投射され、そこに原作の絵がそのまま映し出されるアイデアは斬新で、胸が躍った。

和田俊輔のつくる音楽は、音符のひとつひとつにスポーツの臨場感と青春のきらめきが結晶化されていて。あのクラップと共に始まるテーマソングを初めて聞いたとき、全身の毛穴がかっ開くような興奮を覚えた。

役者たちはみな額に汗かき舞台を駆けめぐり、よく統率された集団パフォーマンスは観ているだけで楽しかった。そして、その中心でよく笑い、よく飛び跳ね、よく走り回り、よく叫ぶ日向翔陽(須賀健太)は、名前の通り“太陽”そのものだった。

それが、3年と2ヶ月前のあの日の記憶。だけど、そのときの僕はまだ完全に“ハマる”という状況ではなくて。面白い舞台が出てきたな、という舞台を愛する者としての幸せな観劇体験のひとつでしかなかった。

あのとき僕は「観劇」なんて枠では語れない何かを体験した

もう前後の見境もないくらいに心を奪われたのは、〝勝者と敗者″から。プライベートで訪れたTOKYO DOME CITY HALL。アリーナの後方座席で、僕は嗚咽をかみ殺す余裕もないくらい泣き濡れていた。

強豪・青葉城西高校戦。あんなに胸が押し潰されそうになりながら観た舞台は生まれて初めてだったんじゃないかな。これはあくまでつくりもので、試合結果なんてすでに原作で描かれている通りだとわかっているのに、僕はとにかく烏野高校に勝ってほしくて必死だった。

1点入れば「よし!」と心の中でガッツポーズをとり、1点返されれば、針で直接刺されたような痛みが心臓を走った。握った拳の爪が食い込みすぎて、そのときはまったく痛みなんて感じなかったんだけど、帰り道の電車でふと掌を見たら真っ赤に腫れ上がっていた。たぶんあのとき僕は「観劇」なんて枠では語れない何かを体験した。

それから、〝進化の夏″があって、〝はじまりの巨人″があって、いよいよ〝最強の場所(チーム)″。烏野高校排球部メンバーの卒業の舞台。

内容についてはもう細かくふれなくていいかな、と思う。

観た人それぞれの“卒業”があった。それでいいし、それがいい。大切に、大切に、胸にしまって、何か辛いことがあったとき、元気がほしいなと思ったとき、そっと心のポケットから取り出して、万華鏡を覗くように、彼らのいた世界を仰ぎ見る。それだけでまた明日から歩き出せるような、そんな公演だった。

その代わりに、これは“送辞”だから、卒業を迎えた烏野高校排球部のみんなに感謝の言葉を贈りたい。少し長くなる。だけど、どうか書かせてほしい。

みなさんの前途に輝かしい未来が待っていますように

武田一鉄 役の内田滋さん。あなたが舞台の上にいるだけでホッとしました。誰かのために陰日向で奮闘する人生も素晴らしい、ということを教えてくれたのは武田先生でした。温かい支えを、ありがとうございました。

烏養繋心 役の林剛史さん。いつも舞台をピリッと引き締めながら、同時に温もりある笑いをくれたのが、烏養コーチでした。こんな指導者に出会えたら、と憧れずにはいられません。揺るぎない道標を、ありがとうございました。

嶋田誠 役の山口賢人さん。山口との特訓シーン大好きでした。きっとマートさんも烏野高校排球部と出会って、また新しい夢を見ることができたんじゃないかなと思う。力一杯のエールを、ありがとうございました。

清水潔子 役の長尾寧音さん。〝進化の夏″で初めて潔子さんが登場したとき、あまりにもキラキラしていて。僕も田中や西谷のように「潔子さん…!!」と心臓を撃ち抜かれるところでした。気高き清らかさを、ありがとうございました。

谷地仁花 役の斎藤亜美さん。きっと観客のほとんどが仁花ちゃんと同じ村人B。共感するところがいっぱいでした。〝進化の夏″での演技忘れません。ひたむきさと愛らしいイラストを、ありがとうございました。

田中冴子 役の佐達ももこさん。その場にいるだけで周りのテンションが上がるような、エネルギッシュな演技が姐さんそのものでした。田中家の姉弟愛、好きです。ロックなソウルを、ありがとうございました。

東峰 旭 役の冨森ジャスティンさん。「漫画から抜け出してきた」というフレーズは、冨森さんの演じる旭さんのためにあるのだなと驚くばかりです。いちばん心に残っているのは、やっぱり初演。エースの帰還に、胸が震えました。普段はヘタレだけど、試合が始まれば頼もしい。優しさという名の強さを、ありがとうございました。

菅原孝支 役の田中尚輝さん。終盤からのバトンタッチでプレッシャーに感じることも多かったのではないかなと勝手に想像しています。〝最強の場所(チーム)″で見せてくれた菅ちゃんの新しいことへの挑戦は、田中さん自身にも重なって見えるところがありました。挑み続ける勇気を、ありがとうございました。

澤村大地 役の田中啓太さん。その大きな背中は、澤村先輩と同じ。いるだけで落ち着く頼れる主将でした。〝はじまりの巨人″では澤村先輩の不在に胸が苦しくなり、〝最強の場所(チーム)″の回想場面では3年生の歴史に瞼がじんわりと熱くなりました。男のたくましさと器の大きさを、ありがとうございました。

縁下 力 役の川原一馬さん。あなたがあっての〝はじまりの巨人″。そう断言できるぐらい、あの「サッ 来ォォオい」は最高でした。僕も辛いことがあると逃げ出すタイプだったので、縁下の気持ちはすごくわかったし、そんな縁下を川原さんが演じてくれて本当に良かったです。世界一の「サッ 来ォォオい」を、ありがとうございました。

西谷 夕 役の渕野右登さん。普段は親しみやすいけど、コートの上に立ったら天才。白鳥沢学園高校戦で、オープンになった舞台装置の向こう側、、背中に照明を受けてノヤさんが現れたとき、全身に電流が走りました。あの圧倒的存在感は、まさに守護神。痺れるようなレシーブとヤンチャな明るさを、ありがとうございました。

田中龍之介 役の塩田康平さん。誰もが認めるハマり役。田中先輩にしか見えなかったし、今でも正直塩田さんを見ると田中先輩と呼びたくなります。見た目は怖いけど、義理人情に厚くて、どんなときも決して諦めない。そんな田中先輩が好きです。周りにいる人たちを力づける熱い男気を、ありがとうございました。

山口 忠 役の三浦海里さん。山口、好きです。僕も根性無しだから、山口に自分を重ねずにはいられません。この3年間は、何一つ武器を持たない山口にとっての成長物語でもあったように思う。あのジャンプフローターサーブが決まったときは、もう涙で前がよく見えませんでした。まばゆい成長を、ありがとうございました。

月島 蛍の小坂涼太郎さん。普段はあんなにとぼけていて可愛いのに、舞台上では完璧な月島。そのシニカルな物腰に目を奪われて、大勢の人がいる中でもいつも月島を追っていました。あの決勝のMVPは間違いなく月島。月島がバレーにハマった瞬間に立ち会えて、本当に幸せでした。とびきりの理性と情熱を、ありがとうございました。

影山飛雄 役の影山達也さん。これだけ魅力的な大役を途中から演じる。そのプレッシャーがどれほど大きかったか、凡人の僕には想像もつきません。でも、影山さんが演じた影山は、人間味があって、気は荒いけどチャーミング。影山さんだから表現できた影山飛雄だったと思っています。影山飛雄という男を生きてくれて、ありがとうございました。

日向翔陽 役の須賀健太さん。まだ24歳なのに、こんなにも座長という言葉がしっくり来るのは須賀さんだから。何があっても、須賀健太がいるから、演劇「ハイキュー!!」は大丈夫。ずっとそう信じてきましたし、そう信じて応援してきて本当に良かったと、今、心の底から感謝しています。

小さな身体で、それでもがむしゃらに飛び続けた翔陽。僕が翔陽を見て勇気づけられるのは、“好き”という気持ちがあれば、どんな高い壁だって必ず乗り越えられるんだと思わせてくれるから。バレーに対するまっすぐな想いだけで一点突破してきた翔陽は、憧れでした。そして、そんな翔陽を演じ続けてきた須賀さんも。

どれだけ言葉を重ねても、全然気持ちが追いつかない。だから、どうか最後に一言だけ。夢を、ありがとうございました。

そして、卒業の場にはいなかった木村達成さんにも、橋本祥平さんにも、秋沢健太朗さんにも、猪野広樹さんにも、ありがとうございました、と伝えたい。ひと足先に卒業を迎えた方たちだけど、みんなが繋いでくれたからこその今回の卒業なんだと思っている。全員で、烏野高校排球部。あのオレンジと黒のユニフォームを着たみなさんが大好きです。

正直に言うと、思い入れが強い分、卒業後のことを考えると不安でいっぱいで。いつか新しいキャストが烏野高校排球部を引き継いだとき、本当に今みたいに曇りのない気持ちで愛せるだろうか。その自信がなくて、ここで僕にとっての演劇「ハイキュー!!」もひと区切りかな、と思っていた。

でも、こうして文章を書いてみて改めてわかった。送辞は、まだ学校に残る在校生が書くもの。僕はまだがらんどうになった劇場に残って、新しくやってくる烏野高校排球部を迎えてあげなくちゃいけない。それが、今まで最高のドラマを見せてくれた前キャストにできる一番のお礼。だから僕はこれからも変わらずに演劇「ハイキュー!!」を応援していきたいと思う。

須賀くんたちが見せてくれた“頂の景色”を胸に、もっともっと高い場所へ――

烏野高校排球部のみなさん、本当にお疲れ様でした。演劇「ハイキュー!!」に出会ってくれたこと、素晴らしいプレイを見せてくれてたこと。その奇跡に感謝します。この3年間は、僕にとっても青春でした。

ご卒業おめでとうございます。

ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」〝最強の場所(チーム)″

東京公演:2018年10月20日(土)~10月28日(日)TOKYO DOME CITY HALL
広島公演:2018年11月9日(金)~11月10日(土)はつかいち文化ホール さくらぴあ 大ホール
兵庫公演:2018年11月15日(木)~11月18日(日)あましんアルカイックホール
大阪公演:2018年11月23日(金・祝)~11月25日(日)梅田芸術劇場 メインホール
宮城公演:2018年11月30日(金)~12月2日(日)多賀城市民会館 大ホール
東京凱旋公演:2018年12月7日(金)~12月16日(日)日本青年館ホール

原作:古舘春一「ハイキュー!!」(集英社「週刊少年ジャンプ」連載中)
演出・脚本:ウォーリー木下
音楽・演奏:和田俊輔

出演:
〈烏野高校〉
日向翔陽:須賀健太/
影山飛雄:影山達也/
月島 蛍:小坂涼太郎
山口 忠:三浦海里
田中龍之介:塩田康平
西谷 夕:渕野右登
縁下 力:川原一馬
澤村大地:田中啓太
菅原孝支:田中尚輝
東峰 旭:冨森ジャスティン/
〈青葉城西高校〉
及川 徹:遊馬晃祐
岩泉 一:小波津亜廉
松川一静:白柏寿大
花巻貴大:金井成大
矢巾 秀:山際海斗
渡 親治:齋藤健心
京谷賢太郎:北村健人
金田一勇太郎:坂本康太
国見 英:神田聖司/
〈白鳥沢学園高校〉
牛島若利:有田賢史
瀬見英太:瀬良祐介
大平獅音:横山真史
天童 覚:加藤 健
五色 工:菊池修司
白布賢二郎:佐藤信長
川西太一:辻 凌志朗  ※辻は一点しんにょう
山形隼人:高橋駿一/
鷲匠鍛治:川下大洋/
〈烏野高校 OB・OG >
嶋田 誠:山口賢人/
田中冴子:佐逹ももこ/
〈烏野高校 マネージャー〉
清水潔子:長尾寧音
谷地仁花:斎藤亜美/
〈烏野高校 顧問・コーチ〉
武田一鉄:内田 滋
烏養繋心:林 剛史

オフィシャルサイト

©古舘春一/集英社・ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」製作委員会

原作本『ハイキュー!!』
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