Interview

T字路s 類い稀なる歌声で人生の悲喜交々を描く新作で見せた日常への愛おしい眼差し。

T字路s 類い稀なる歌声で人生の悲喜交々を描く新作で見せた日常への愛おしい眼差し。

一度聴いたら忘れられない歌声と、ブルースなどのルーツ・ミュージックをベースに人間味溢れる曲を奏でるT字路sが、約2年ぶりとなるセカンド・アルバム『PIT VIPER BLUES』をリリースする。2017年の初のオリジナル・フル・アルバム以降、その唯一無二の個性を武器に人生の悲喜交々を描いた歌は老若男女から熱烈な支持を獲得。ほぼ二人のみでレコーディングされた新作は、彼らのリアルな息づかいはそのままに、より日常に密着した愛おしい歌、ライブでは涙する人も多い代表曲「泪橋」の再録音など、今のT字路sの魅力を余すことなく伝えている。類い稀なる声と表現力で聴くものを魅了する伊東妙子 (Vocal/E.Gt/A.Gt)と、その世界観を独自の音に仕立てる篠田智仁(E.Bass,/W.Bass)にその深化と心境を訊く。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 沼田 学

新作はもう一度原点に戻って、二人だけで成立する曲をつくろうとした。

7年越し初のオリジナル・アルバムから約2年。注目が一気に集まったこの2年を振り返るといかがですか?

伊東妙子 大きなステージに少しは慣れたことくらいですかね。初めてクアトロのワンマンライブをした後、私、終わった瞬間ホッとして号泣しちゃったんですよ。今はその時に比べたら多少は穏やかな気持ちでできるようになりました。

篠田智仁 フジロックやライジングなどのロックフェスにも呼んでもらって、以前より若いお客さんが増えてきました。前は年齢層高め、飲酒率高めのお客さんが多かったんで(笑)。

前作は2010年の自主制作盤に収録され、全国で地道にライブを重ねて育んでいった曲を新たにレコーディングした曲も入っていましたが、新作は新曲が中心になりましたね。

伊東 前作で7年間溜めてきたものは出し尽くしてしまったので、「泪橋」以外は書き下ろしの新曲です。今回はライブの本数を絞ってアルバムの制作期間というのを設けてもらったんです。

今回はほぼ二人のみでレコーディングしていまますが、それはバック・トゥ・ベイシックという意味があった?

伊東 そうですね。前作はゲストありきで曲をつくったんですけど、結局、ライブはほとんど二人だったし……。

篠田 レコーディングした曲がライブだと二人でなかなか再現できないというジレンマもあって。二人の時は妙ちゃんの呼吸や息づかいに合わせるように自然に演奏してきたんだなと気がついたんです。

伊東 うちらが未熟なせいもあるんですが、二人の時は曲に入り込んで夢中にできるんですけど、バンドだとリズムをキープしなきゃとかに意識がいってしまって。それでもう一度原点に戻って、先ずは二人だけで成立する曲をつくろうと。

篠田 もちろんバンドでやる楽しさもあるし、ライブはどっちも盛り上がるんだけど、もう一度二人でレベルを上げれば、次はゲストさんが入ってもいけるようになるんじゃないかと思うんですよ。

テーマは一貫して、器用に生きられない日々の中でも光はある。

今回もアナログテープ一発録り、歌も一発録りですか?

伊東 はい。アナログテープ一発録りは、Pro Toolsのように修正が一切効かないことは分かっているんだけど、生のリアルな息づかいを閉じ込めたいので。

篠田 前作は最終日に4曲録ったりしていたんですが、今回はアルバムの制作に専念できたのが良かった。うちら、器用じゃないんで、ツアーをやりながら音源制作ってできなくて。

アルバムのリード曲「暮らしのなかで」もそうですが、今回は“人生”というより日々の暮らしが歌に滲み出ていますね。

伊東 そうなんです。特に意識したわけではなかったんですけど。

篠田 実は前作でけっこう出し尽くした感があって、これ以上歌うことがあるんだろうかという不安もあったんですけど、日常が滲み出た歌ができて「あっ、まだまだ歌うことあるじゃん」と思いましたね。歌詞のことは妙ちゃんに任せきりなんですけど、また一つチャンネルが増えた気がしますね。

伊東 器用に生きられない日々の中、それでも光はある。テーマは一貫してそれなんだと思います。

篠田 そこなんだよね。妙ちゃんがつくる曲は。その時々によって目線は変わっても、歌っている大きなテーマは「泪橋」の頃からブレていない。

「はじまりの物語」でも〈クソみたいな日々を 抜け出してもう一度 生まれて 歩きはじめる〉と歌っていますね。

篠田 前作のその目線の歌はありましたけど、今回はさらに明るくなったというか、吹き溜まりでいじけているだけじゃないというね(笑)。

男女二人組の微妙なさじ加減を汲み取ってプレイしてくれたハンバート ハンバートの佐藤良成

二人だけで成立する曲を目指しつつ、ハンバート ハンバートの佐藤良成がピアノ、フィドル、バンジョー、編曲で参加していますが?

伊東 ハンバート ハンバートも男女二人組で、私たちと同じようにバンド編成の時の微妙なさじ加減に苦心してきたと思うので、その悩みを言わずもがなで分かってくれるから、絶妙なプレイで曲を引き立ててくれて。

篠田 変な言い方ですけど、いわゆるピアニストではない人にピアノを弾いてもらいたかったんですよ。

伊東 いわゆるピアニストだと曲の印象がピアノに支配されるので、二人でライブをやる時に違ってくることを良成さんは分かってくれる。

篠田 ゲストに演奏をお願いして、「あまり弾かないでほしい」とは言いづらいじゃないですか?(笑)。良成はそこを汲み取ってプレイしてくれた。

「孤独と自由」はT字路s 解釈のモータウン的ナンバーですが、孤独と自由というテーマもT字路sの歌の根底にあるものですね。

伊東 そうですね。あんまりモータウンっぽくない歌詞ですけど(笑)。

篠田 暗いようで明るいような、明るいようで暗いような。

伊東 それは人生、そういうもんだから(笑)。

篠田 「ふりこのように」もそうだけど、どっちでもなく揺れ動く歌も多いね。モータウンにも明るくて楽しい曲だけじゃなくて、人間の嘆きや葛藤を歌ったナンバーもあるし、そういう影の部分が入っている方がうちらっぽいかなと。

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