冒険Bリーグ  vol. 10

Column

悲運の叩き上げシューター、富山・大塚裕土が夢舞台の主役になった日

悲運の叩き上げシューター、富山・大塚裕土が夢舞台の主役になった日

『冒険Bリーグ』第10回は富山グラウジーズ(以下、富山)の大塚裕土を取り上げる。1月19日に富山県で開催された「B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2019」で、大塚は24得点を挙げる活躍でMVPを受賞した。決して“エリート”ではないバスケ人生と、大舞台で見せた活躍を今回は語りたい。

31歳の大塚はオールスター前のファン投票で、B.WHITE(ホワイト)のフォワード/センター枠3位となり選出。先発メンバー5名に入った。188センチのウイングプレイヤーとして、リーグ戦でも中地区上位と好調の富山を支えている。

彼はスリーポイントが得意なシューターで、今季ここまでの1試合平均得点は9.7を記録(1月16日時点)している。富山はジョシュア・スミス、レオ・ライオンズと外国籍のインサイドがまず強力。とはいえ二人を警戒し過ぎると、大塚の“外”がある。

オールスターに選出されたものの、試合前は至って無欲だった。大塚は「MVPは全く狙っていなかった。3ポイントを決めることしか考えてないです」と口にする。いくら地元の開催とはいえ、オールスターはリーグを代表する外国籍選手、日本代表経験者がプレーする場だ。ただその無欲が、力みを消したのかもしれない。

前半は2得点に止まった。しかしB.WHITEは後半最初のオフェンスで「大塚に打たせる」オプションを使った。オールスターは多様な選手がプレータイムを分け合い、そのいいところを引き出す試合運びが常道。地元選手に少し華を持たせようというチョイスだったのだろう。

彼は第3クォーター残り9分33秒、この3ポイントシュートを成功させた。すると8分22秒、7分33秒、6分38秒……と次々にリングを射抜いていく。気付くと周りの選手がご当地シューターにボールを集め始めていた。

B.WHITEのポイントガードで、秋田ノーザンハピネッツ(以下、秋田)時代には大塚の後輩だった富樫勇樹(千葉ジェッツ)もこう振り返る。

「後半は(大塚が)当たっていたので、彼に打たせるために自分はプレーしていた」

第3クォーターは、その人生を変える10分間だったかもしれない。大塚は3ポイントシュート6本を含む20得点を決め、ビハインドを負っていたチームを逆転に導いた。B.WHITEは130-122で勝利し、MVPの大塚は賞金100万円を手にした。叩き上げシューターは、人生最大の栄冠を手にした。

【厳選プレー集】B.LEAGUE ALL-STAR 2019

富樫も先輩の受賞を熱く喜び、称賛する。

「秋田で一緒にやっていた大塚選手が(MVPを)獲ってくれて、ほんっとうにうれしいです。チームが勝たないとMVPはないと思ったので、そればかり考えていました。キレイな顔、キレイなシュートフォームから、キレイな弧を描いて入る、キレイなシュートが美しい!」

「キレイな顔」はともかく、その3ポイントシュートは努力によって積み上げたものだ。高校までインサイドプレイヤーだったが、強豪・東海大に入ってサイズで勝負できない環境になった。大塚はシュートに磨きをかけることで出番をつかもうとしたわけだが、それも簡単ではない。大学の同期には古川孝敏(琉球ゴールデンキングス)、石井講祐(千葉ジェッツ)と言った現在もB1で活躍する名シューターがいたからだ。

卒業後は有力チームに進めず、栃木ブレックスの育成チームで、NBDL(2部)のTGI D-RISEに入った。そこで2年間プレーした後、12年にようやくプロとしてbjリーグの宮崎シャイニングサンズへと進む。しかし自身は活躍したものの12-13シーズンはチームが西地区最下位に沈み、さらにクラブは活動を休止してしまった。

そこから秋田、サンロッカーズ渋谷を経て、17年から富山に在籍している。

オールスター戦後の取材に応じる大塚は本当にうれしそうな、いい顔をしていた。MVPの感想はこう述べている。

「後半にチームメイトがパスを出してくれて、本当に感謝しています。本当こんないい結末が待っているとは思っていなかった。本当に素晴らしい1日になりましたね。忘れないと思います。重い1日でした」

感慨深そうにこう続けていた。

「B.LEAGUE ALL-STARと言えば、代表選手が集まる場です。代表経験がない僕がスターティング5で出て、まさかMVPを取るとは……。今からプロ選手を目指す子供たちに夢を与えられたんじゃないかと思います」

エリートでなくても、キャリアの中に悲運があっても、30歳を過ぎてからでも大舞台の主役になれる。子供はもちろん、B2やB3でプレーする若手にも夢を与える大塚の活躍だったのではないだろうか。

取材・文 / 大島和人 写真提供 / B.LEAGUE

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著者プロフィール:大島和人

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都町田市に在住する。大学在学中にテレビ局の海外スポーツのリサーチャーとして報道の現場に足を踏み入れ、アメリカの四大スポーツに接していた。損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年から「球技ライター」として取材活動を開始。バスケの取材は2014年からと新参だが、試合はもちろんリーグの運営、クラブ経営といったディープな取材から、ファン目線のライトなネタまで、幅広い取材活動を行っている。

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