Tリーグ丸かじり  vol. 9

Column

卓球競技の華、カットマン。想像を絶する技術に迫る!

卓球競技の華、カットマン。想像を絶する技術に迫る!

Tリーグには様々なプレースタイルの選手たちがいるが、その中でひときわ異彩を放つ選手がいる。男子では琉球アスティーダの村松雄斗、女子ではトップ名古屋おとめピンポンズの徐孝元(ソ・ヒョウォン/韓国)、日本生命レッドエルフの石垣優香、日本ペイントマレッツの相馬夢乃が該当する、カットマンというスタイルだ。

カットマンとはいわゆる守備型の選手だ。攻撃もするが、基本的には台から離れて相手に攻撃させ、相手がミスをするまで延々と返し続けるスタイルだ。ただ返し続けたのでは相手もミスをせず、最後には打ち抜かれてしまうので、相手がミスをするように「カット」と言われる後退回転をかけるため、カットマンと呼ばれる。

Tリーグを代表するカットマンといえば、トップ名古屋おとめピンポンズの徐孝元(ソ・ヒョウォン/韓国)が有名

卓球は、他のラケットスポーツと比べてボールが極端に軽く、ラバーの摩擦が高いため、回転するボールがラケットに当たると、あらぬ方向に跳ね返ってしまう。大きい場合には45度以上も方向が変わる。これが卓球の回転の威力だ。よくテレビ放送などでボールの軌道が曲がることが取り沙汰されるが、45度も跳ね返る方向が変わる脅威に比べたら、軌道の変化などものの数ではない。

回転の中でも、もっとも脅威なのが上下方向の回転だ。よく卓球経験者が初心者に回転をかけて意地悪をするのは横に跳ね返る「横回転」だが、横方向は卓球台の幅に入ればよいので的が広い。それに対して、上下方向はネット上空20センチほどを通さないと相手に打ち込まれてしまうので、はるかに的が狭いのだ。

その上下方向の回転のひとつが、相手が打つと真下に落ちる「カット」であり、そのカットの回転量の強弱を操って相手のミスを誘うのがカットマンなのだ。

トップ選手のカットの回転量は想像を絶する。ある測定では毎秒137回転を記録した。このようなカットボールを普通に打ち返すと、ボールはほとんど前に飛ばず、自分の足元に落ちてしまう。相手のコートに入れるためには、ラケットの角度を思い切り上に向けるか、激しく上に振り上げることが必要だ。もしもそこに、カットに見せかけた無回転のボールが来たらどうなるか。ボールは天井めがけて飛んで行ってしまうのだ。

このような回転量の差で相手のミスを誘うのがカットマンだ。カットマンは回転量をごまかすためにあらゆる工夫を凝らす。上記の4選手とも、ラケットの片方の面には摩擦の高い「裏ソフト」と呼ばれるラバーを貼っているが、もう一方の面には、村松雄斗と石垣優香は摩擦の小さい「表ソフト」、徐孝元と相馬夢乃は極端に摩擦の小さい「粒高」と呼ばれるラバーを貼り、ラリー中に反転する。こういう選手がいるため、ラバーの色はラケットの両面で赤と黒にすることにルールで決められている(どちらが赤でも黒でもよい)。色が同じだと全く返せないからだ。それほど回転の威力は絶大なのだ。

日本ペイントマレッツの相馬夢乃は摩擦の小さい「粒高」と呼ばれるラバーを使用

もちろん同じラバーであっても、打ち方で回転量は変わる。それが相手に分かりにくいようにフォームで誤魔化すことも技術のひとつだ。カットマンが、ときに卓球台よりも低い位置でカットをするのは、打球の瞬間を相手から見えない位置でするためだ。当て方によって打球音が違うので足で床を打ち鳴らして音を消したりもする。まったくもって卓球とは半分手品のような競技なのだ。

このような策略の果てに、相手が回転を見誤って高く浮かした瞬間に前に出てきて一発で仕留める、これがカットマンの醍醐味であり、卓球競技の華といってよいプレーだ。

にもかかわらず、用具が進歩した現在では攻撃選手の方が優勢であり、カットマンで勝つことは難しい。実際、Tリーグでのカットマンのこれまでの戦績は、徐孝元は2勝9敗、相馬夢乃は0勝2敗、石垣優香と村松雄斗は出番なしという厳しい状況だ。

卓球競技の華として、奮起を期待したい。

取材・文 / 伊藤条太 写真提供 / T.LEAGUE

T.LEAGUE(Tリーグ)オフィシャルサイト
https://tleague.jp/

著者プロフィール:伊藤条太

卓球コラムニスト。1964年岩手県生まれ。中学1年から卓球を始める。東北大学工学部を経てソニー株式会社にて商品設計に従事。日本一と自負する卓球本収集がきっかけで在職中の2004年から『月刊卓球王国』でコラムの執筆を開始。世界選手権での現地WEBレポート、全日本選手権ダイジェストDVD『ザ・ファイナル』シリーズの監督も務める。NHK『視点・論点』『ごごナマ』、日本テレビ『シューイチ』、TBSラジオ『日曜天国』などメディア出演多数。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球天国の扉』など。2018年よりフリーとなり、近所の中学生の卓球指導をしながら執筆活動に励む。仙台市在住。

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