モリコメンド 一本釣り  vol. 103

Column

須田景凪 ボカロ界の頂点から登場した、10代から圧倒的に支持されるシンガーソングライター

須田景凪 ボカロ界の頂点から登場した、10代から圧倒的に支持されるシンガーソングライター

カラオケ「JOYSOUND」のランキングで2017年発売曲総合1位、2017年〜2018年と2年連続10代ランキングで1位を獲得した楽曲「シャルル」。リアルタイムランキング(2019年1月26日現在)でも4位にランクインするなど(ちなみに米津玄師の「Lemon」は2位)“いま、もっとも歌われている楽曲”として完全に認知されている。この楽曲を支持しているのは、主に10代。簡単に歌える楽曲ではないが、最後まで歌い切ったとき達成感、メロディラインを口ずさんだときの気持ち良さがウケているという。20代以上の大人のリスナーへの認知度はまだまだこれからかもしれないが、10代の間の支持は圧倒的。つまり「シャルル」は、この先の音楽シーンの在り方を示す楽曲の一つだと言っていいだろう。

この楽曲を生み出したのは、須田景凪。もともとは“バルーン”名義でボカロPとしてスタートし、2017年10月に自身の声で楽曲を歌う“須田景凪”として活動を開始したシンガーソングライターである。

まずはボカロP“バルーン”名義の楽曲をいくつか紹介しよう。2017年に発表された「レディーレ」。美しい憂いを帯びたメロディ、重層的なアレンジとしなやかなグルーヴ感を併せ持ったサウンド、そして、“一人になって 気ままになって/また 不気味な日々を巡る?”という叙情的なリリックがひとつになったこの曲は、彼のソングライティングの確かさとクリエイターとしての資質の高さを証明している。そのほか、キャッチーかつ鋭利なギターリフ、心地よいファンクネスを感じさせトラックを軸にしたダンスチューン「メーベル」、高速の4つ打ち、裏打ちのギターフレーズ、高揚感に溢れたサビのメロディが共存する「雨とぺトラ」なども高い評価を獲得。動画投稿サイトで100万回以上の再生回数を突破する楽曲を次々と生み出し、インターネット音楽のリスナーを中心に支持を広げていった。また、彼自身が歌うセリフカバーも軒並み大きな反響を集めている。

メーベル/flower

雨とペトラ/flower

前述した通り、ネットやカラオケで音楽をチェックしている若者層と20代以上の音楽ファンの間では若干の温度差がある須田景凪。その差を埋める大きな契機になりそうなのが、メジャーレーベルからリリースされる1st EP「teeter」だ。作詞・作曲・編曲と歌唱はもちろん、須田自身。このEPに収録されている6曲を聴けば、シンガーソングライター/クリエイターとしての彼のポテンシャルを実感してもらえると思う。

では、「teeter」の収録曲をいくつか紹介していこう。

1曲目の「mock」は疾走感のあるバンドサウンド、“君を連れ去ってしまいたいと思ったんだ/呪いを穿つような瞳ですらも”という衝動を描いた歌詞がぶつかり合うアッパーチューン。特筆すべきは彼のボーカリゼーションだ。起伏に富んだメロディライン、日本語の響きを活かしたリリックを的確に描きながら、意味性とグルーヴを同時に感じさせる歌からは、シンガーとしての確かな個性をはっきりと感じ取ることができる。

初の実写MVが話題を集めているリード曲「パレイドリア」は、テン年代以降の日本のギターロックの潮流を感じさせるナンバー。オリエンタルな雰囲気のギターリフ、トリッキーな仕掛けをポップに昇華させたバサウンド、心地よい語感と勢いに溢れたフロウをバランスよく配置した楽曲は、フェス大好きのロックファンにも大いにアピールするはずだ。“パレイドリア”(Pareidolia)とは心理現象の一種で、視覚や聴覚から刺激によって、普段からよく知った事象を(それ自体がそこに存在しないにもかかわらず)思い浮かべる現象を指す。さまざま音楽の要素、映像喚起に優れた歌詞などによって、聴き手の想像力を刺激する須田の楽曲には、この言葉がよく似合う。

そのほか、ダンロップのスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX 02」のプロモーションのために制作された短編アニメ『ROAD TO YOU 〜星降る丘の約束〜』の主題歌「レソロジカ」(切ない情感を映し出すミディアムチューン)、昨年7月にMVがYouTubeで公開され140万回再生を超えた「Dolly」(緻密に構築されたアレンジと繊細なボーカルラインが印象的なナンバー)などを収録。レコーディングにはモリシー(Gt/Awesome City Club)、長島涼平(Ba/フレンズ/the telephones)、村田シゲ(Ba)、堀正輝(Dr)など、センスと技術を持ち合わせたミュージシャンが参加、楽曲の良さを正確に引き出していることも本作の聴きどころだ。

米津玄師の驚異的なブレイク以降も、ボカロシーン、ネットシーンからは斬新な才能を備えたニューカマーが続々と登場している。まちがいなく須田は、そのなかでも傑出したセンスを持ったアーティストのひとり。「teeter」のリリース、そして、3月から4月にあけて行われる東名阪のツアーで、さらに幅広いリスナ—が彼の音楽世界に魅了されることになるはずだ。

文 / 森朋之

その他の須田景凪の作品はこちらへ。

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