LIVE SHUTTLE  vol. 329

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完全辞職。“ぼくのりりっくのぼうよみ”とはなんだったのか? ラストライブ「葬式」から考察

完全辞職。“ぼくのりりっくのぼうよみ”とはなんだったのか? ラストライブ「葬式」から考察

2019年1月をもってぼくのりりっくのぼうよみを辞職する20歳のラッパー/歌手、ぼくのりりっくのぼうよみが、1月29日(火)に東京・昭和女子大学 人見記念講堂でラストライブ「葬式」を行なった。1月13日(日)大阪 森ノ宮ピロティホールの「通夜」、前日に開催された「葬式〜前夜祭〜」との3日間公演によって、ぼくのりりっくのぼうよみは完全に終了。最期の舞台に彼は、知性、技術、センス、遺志のすべてを注ぎ込み、最高のステージを見せてくれた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 川崎龍弥

ラストライブ「葬式」で見事に“ぼくりり”を破壊し尽くしてみせた

まずは、“ぼくりり”の3年間を簡単に振り返っておきたい。10代前半の頃から“ぼくのりりっくのぼうよみ”“紫外線”名義で投稿動画サイトを中心に活動をスタート。ネットラップシーンで注目を集めるなか、高校2年生のときに10代向けオーディション「閃光ライオット」でファイナリストに選出され、高校在学中の2015年12月、1stアルバム『hollow world』でメジャーデビュー。音楽ファン、音楽メディアの中で“天才ラッパー現る”と大きな話題となった。その後、「Be Noble」(映画『3月のライオン』前編主題歌)、「SKY’s the limit」(資生堂「アネッサ」CMソング)、「つきとさなぎ」(テレビ東京 ドラマ25「SR サイタマノラッパー〜マイクの細道〜」エンディング曲)といった話題曲を次々と手がける一方、文学性の高さと先鋭的なライミングを共存させたリリックによって、文芸雑誌『文學界』にエッセイを寄稿するなど、幅広いフィールドで才能を発揮してきた。

順風満帆なアーテイスト活動を続けていた(かのように見えた)彼が突如として“辞職”を宣言したのは2018年9月のこと。9月21日にオンエアされた報道番組『NEWS ZERO』の特集の中で、「ぼくのりりっくのぼうよみという“天才”を葬ろうと思っております」と語ったのだ。その理由について彼は「文学的、天才、哲学的な歌詞がステキだみたいなことを言っていただいて、ほかの人たちの中にある偶像に自分が支配されてしまうことに耐えられない」と説明。その後、「私は、ぼくのりりっくのぼうよみを辞職します。自分で作り上げたこの偶像を破壊することで、3年間の活動を全うしたいと思います」と正式にコメントした。

そして、9月25日から全国ワンマンツアー「僕はもう……」を開催。2018年12月12日にラストアルバム『没落』、ベストアルバム『人間』を同時リリースしたあとも、YouTuberグループ“へきトラハウス”に加入・即座に脱退、フジテレビ系『ワイドナショー』に出演するなど、想像の斜め上を行く行動を続け、賛否両論を巻き起こし、いきなりの辞職宣言への批判に対し、Twitterで「リプ欄の説教ババア軍団うざすぎワロタ」とコメント、当然のように大炎上するなど、SNSでも話題を集めた。しかし、言うまでもなく“ぼくりり”の軸になっているのは音楽そのもの。“ぼくりりを破壊し尽くす”という目的を持ち続け、様々なメディアを駆使してきた(SNSの炎上も“ぼくりりの破壊”をテーマにした表現の一部なのだと思う)彼は、ラストライブ「葬式」で見事にそのフィナーレを飾ってみせたのだった。

彼自身の終焉にふさわしいクオリティを明確に示していた

会場のロビーには、献花台が用意され、その中央には遺影が飾られている。喪服を着たファンが白い花を祭壇に置き、手を合わせる様子はまさに“葬式”そのもの。そしてステージの真ん中には巨大な十字架が掲げられ、その周りには蝋燭を模した無数のライトとパルテノン宮殿のような白い柱が4本。思わず“黒ミサ”という言葉を思い出す、神聖にして厳粛なムードが漂っている。“葬式”のため、声援やヤジはナシ、アンコールもナシ。「故人は最期まで静かに見届けていただくことを望んでおります」というアナウンスが流れたあと、ついにライブはスタートした。

まずスクリーンに映し出されたのは、机に向かって手紙を書くぼくりり。左手にペンを持ち、「拝啓 寒さが一層募ります……」から始まる文章を刻む彼の姿を、満員のオーディエンスが静かに見守る。バンドメンバーとぼくりりがステージに登場し、最初に放たれたのはラストアルバム『没落』の1曲目に収録された「遺書」。「丹精込めて育てた偶像を 今日を持って破壊することに決めました」という、昨年9月以降の行動原理をそのまま示したリリックが響きわたり、会場全体にピリッとした緊張感が走る。続く「あなたの手を握ってキスをした」は、現在ブレイク中のバンド、King Gnuの常田大希作曲によるナンバー。ブラックミュージックのテイストを濃密に込めたトラック、ファルセットを交えたソウルフルなメロディを完璧に乗りこなすボーカルに思わず圧倒される。オーディエンスは全員、座ったまま。ジッとステージを凝視し、曲が終わると全力で拍手を送っている。

東京の街の風景を映し出した映像を挟み、この3年の間に生み出された楽曲が続けざまに披露される。他者の視線を気にし続け、未来を規定されながら生きる現代の若者の思いを投影した「sub/objective」(スクリーンにはMVが投影されていた)、バウンシーなビートとともに「生き急ぐ 死に急ぐ 切り刻む」という痛々しいワードが突き刺さる「CITI」(この曲のとき、観客が少しずつ立ち上がり、手を上げ始める)、そして、美しいピアノに導かれ、「お前ら全員バカばっか」と歌い出す「Black Bird」。今の社会を覆うディストピア感をリリカルに描き出す初期の楽曲から感じられたのは、“辞職”は突然に思いついたことではなく、ぼくりりはおそらく、音楽という表現に手を染めたときから、“いつ破滅させるか”をつねに意識していたということだ。

ダブステップ、フューチャーベース、トラップからビッグバンドジャズまで、つまり最新のダンスミュージックからからオーソドックスな音楽までを網羅したサウンドをしっかりと乗りこなし、生々しく、艶めかしい声を響かせるパフォーマンスも印象的。シンプルに歌がうまく、豊かな低音から美しい高音までを自在に使いこなすボーカルからは、ぼくりりに備わっている、シンガーとしての大きな可能性を改めて感じ取ることができた。

そして言うまでもなく、前代未聞の「葬式」の中心を担っていたのは、「断罪」「人間辞職」といったアルバム『没落』の楽曲だ。圧巻だったのは、ストリングスカルテットと共に演奏されたラストの4曲「輪廻転生」「曙光」「没落」「超克」。なぜ、“ぼくりり”は自らのキャリアを終わらせ、自分を破壊しなくてはならなかったのか? そして、彼はどこに向かおうとしているのか? そのすべての答えが、この4曲の中に強く刻まれていた。あまりにも切実なリアリティとまるで神話のような美しさを共存させたラストパフォーマンスは、ぼくのりりっくのぼうよみの集大成であり、彼自身の終焉にふさわしいクオリティを明確に示していたと思う。

「誰も 見たことのない 景色が見たい まっさらな雪 身を焦がす炎のなかで 真っ青な未来を見る」と記された白いテープが客席に放たれるなか、彼は観客に向かって一礼。嵐を映し出す映像の中に入り込むと、凄まじい雷鳴が鳴り響き、すべてを消し去るようにライブは終了した。3年という短い期間のなかで、音楽ファンに強い傷跡を残したぼくのりりっくのぼうよみ。“ぼくりり”としての活動はこの日のライブですべて終わったが──望みどおり、完璧な形で自らを破壊し尽した──彼自身のクリエイターとしての才能は疑いようがない。できるだけ早い時期に“輪廻転生”を果たし、その優れた創造性によって再び我々を揺さぶってくれることを心から願う。

ラストライブ「葬式」2019.1.29@東京・昭和女子大学 人見記念講堂 SET LIST

M01. 遺書
M02. あなたの手を握ってキスをした
M03. sub/objective
M04. CITI
M05. Black Bird
M06. 二度と来ない朝
M07. 断罪
M08. 人間辞職
M09. Be Noble
M10. 在り処
M11. liar
M12. 僕はもういない
M13. For the Babel
M14. blacksanta pt.2
M15. 祈りを持たない者ども
M16. 輪廻転生
M17. 曙光
M18. 没落
M19. 超克

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