Interview

演出・松居大悟&俳優・尾上寛之が語る、同世代で挑む、長塚圭史作品『イヌの日』について

演出・松居大悟&俳優・尾上寛之が語る、同世代で挑む、長塚圭史作品『イヌの日』について

初演とも再演とも違う、大悟がやりたい『イヌの日』をみんなで作れたらいい

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長塚さんからは何か要望はあったんですか?

松居 再々演を僕がやりたいって言ったときに、「どういうものをやりたいかを提示してくれ」って言われて。2000年の初演は圭史さんが主観で書いていて。2006年の再演はかなり引いた目線で客観的に書いていた。僕は「第三者的な状態で、主観でやりたいです。初演をベースに、再演のようなグッとくるニュアンスも出したい」っていうことを伝えて。そのあとに「お前のやりたいことはわかった」って、圭史さんが脚本を書き直してくれたんです。その本を渡してもらってからは全部、任せてくれてますね。

尾上 この間、観に行った舞台の楽屋裏で圭史さんに会ったよ。「お疲れ様です」って挨拶したら、「稽古どう?」って聞かれて。いろいろと聞きたいことや伝えたいことはあったけど、グッと噛み締めて、「やっぱり本が難しくて」って言ったら、「だろうな」って言われた(笑)。でも、「みんなで話し合って、意見を出し合って、意味を考えながらやってるので楽しいですよ」って伝えたら、「かなりぶっ飛んでる本だからな。頼むぞ」って。

松居 プレッシャーをかけられた(笑)。

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演出家、キャスト全員でディスカッションを続けるなかで見えてきたものはありますか?

松居 登場人物のみんながものすごく人間的に見えてきましたね。稽古に入る前は結構、暴力的で、悲しい話だっていうイメージがあったんですけど、みんながそれぞれの役に命を吹き込んでいくと、向こう側にちゃんと生きようとしていることや、前向きなこととか、なんだかんだ全体的に生命力がほとばしる劇にしたいなっていうことだけは見えてきて。

それは監禁してるほうもされてるほうも第三者の友人も?

松居 監禁してるって思ってたけど、今は、実は守るために閉じ込めていただけなんじゃないかっていう解釈もできるなという話になってきてるんです。“外は地獄だから”っていう設定も、初演のときは圭史さんが実際の監禁事件から着想して書いているけれど、今は現実として「外は放射能まみれだ」っていうセリフが完全な嘘とは言えなくなってきてて。実際に外が危険になってる今にして思うと、ただ守っていたのかもしれない。そう考えると、監禁というのは間違ってるんだけど、間違ってなくて、すごく切ないなって思ってて。

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尾上 最初に本を読んだ感想としては、暴力的で暗くてギスギスしている上の世界とキラキラしている下の世界がぐちゃぐちゃになるのかなっていう単純な構図を考えてたけど、みんなでディスカッションしてるなかでもっと複雑で深い感じになってきて。大悟が言ったように、もし“守る”っていう意思で監禁していたとしたら、僕が演じる(監禁するほうの)中津も印象が変わってくるんですよね。

松居 そうそう。だから現時点では、監禁してるヤツがまともで、それを止めようとする人たちがおかしいようにも見えてくる。それってすごいことだなと思うんですよね。でも、全員、筋は通ってるんですよ。そんなことやっちゃダメだよっていう人も正しいし、中津も自分の正義で女の子を守ってる。そこに外の世界の人が加わって、それぞれが正しいと思っている世界の歯車がだんだんとズレていって、もしかしたら壊れていっちゃうのかなって。

尾上 まだまだ可能性は広がってるよね。これからの話し合いで、どうなるかわからない。

松居 でも、最後は決めなきゃいけないですからね。

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プレッシャーも感じてますか?

松居 もはやプレッシャーは感じてないですね。仲間がいるって思えてるから。

尾上 演ってるほうとしては、まだまだ練っていかないといけない部分があるから、不安やプレッシャーもありますね。まだ悩むことも多いけど、それ以上に大悟や同年代の仲間と一緒に『イヌの日』をやれるっていう喜びのほうがでかい。だからこそ、楽しく、大切に築き上げたいって思ってるかな。

松居 僕自身のことで言うと、ゴジゲンの公演以外だと、『リリオム』(2012年)以来になるんですよね。本を預かって演出させてもらうっていう意味では……ちょっと言葉選びが難しいですけど、生産的に作れてるなと思ってて。嘘もつかず、全部ぶっちゃけられて、みんなで意見を出し合って。「わからない」も「決めたくない」も「面白い」も言える、すごく健全な現場だなって思います。なんか……演劇を作ってる実感があるんですよね。

尾上 え? ゴジゲンは? おかぼれは?

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松居 ゴジゲンはゴジゲンというもので演劇じゃない(笑)。おかぼれはMCのほうが長いライブのようなもので、劇じゃない(笑)。舞台の初日に向けて、ここから決めていく作業は捨てなきゃいけないこともあるけど、みんなで話し合う作業も含め、全部に意味があるなって実感してて。「これなら演劇、いけるな」って改めて思いました。30歳にもなって、今まで何してたのって言われそうだけど(笑)。

尾上 びっくりしてるんですけど(笑)、大悟がみんなで作ることを楽しんでるのが嬉しいですよね。あとは、初演とも再演とも違う、大悟がやりたい『イヌの日』をみんなで作れたらいいなと思ってます。

松居 そうだね。僕が高校生のときに感じた、目の前で圧倒されて劇場を出る演劇体験を、見ちゃいけないものを目撃したという共犯関係を、みなさんにもぜひ、この『イヌの日』で感じてもらいたいなと思いますね。

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「心の中に閉じ込めておきたい小5のときの記憶とは?」

松居 僕はお受験だったので(笑)。小4から塾に通っていて。月曜日から金曜日まで、下校時間の16時になったら、みんなはグラウンドに遊びに走っていくのに、僕は校門の前で待ってる親の車に乗って、ケンタッキーを渡されて、塾に到着するまでに食べ終えて、21時まで勉強してました。塾の勉強も、したくてしてるわけじゃなかったから、修正液をノートに出して、少しずつ固めて白いボールにするっていうのをずっとやってました(笑)。どれだけでかくできるかを一番後ろの席でやってた。あのボールの記憶は「なんで僕がここにいるんだろう?」っていう悔しさの象徴だったかも。

尾上 小5のときに、別の町内にめちゃくちゃでっかい公園が出来たんです。最初は学校終わりで遊びに行ってたんですけど、すごく人が多くて。ある日、「朝、集まろうぜ」ってことになって。学校が始まる前に公園に行って、水風船をいっぱい作って。みんなでぶつけ合いして、ビッチャビチャになって学校に行くっていうのを毎日やってましたね。1時間くらい遊んで、クタクタになってから学校に行ってた思い出は閉じ込めておきたいですね。

舞台『イヌの日』

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2016年8月10日〜8月21日 下北沢 ザ・スズナリ

進学も就職もせずに遊び暮らしている広瀬幸司。ある夏の始め、遊び仲間の中津正行から“ある人たち”の面倒を見るよう仕事を頼まれる。大金に釣られ仕事を引き受けた広瀬だが、その“ある人たち”とは恐るべき状況下にある者たちだった……。

【作】長塚圭史
【演出】松居大悟

【キャスト】
尾上寛之 玉置玲央 青柳文子 大窪人衛 目次立樹
川村紗也 菊池明明 松居大悟 本折最強さとし 村上 航/加藤 葵 一色絢巳

【企画・製作】ゴーチ・ブラザーズ

『イヌの日』オフィシャルサイト
http://inunohi.wixsite.com/2016

『イヌの日』スポット映像公開中!

プロフィール

松居大悟

1985年生まれ、福岡県出身。ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。監督、脚本家、俳優など幅広く活躍。2009年に『ふたつのスピカ』(NHK)で同局最年少のドラマ脚本家デビュー。2012年に映画『アフロ田中』で商業映画デビュー。以降、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13)、『スイートプールサイド』(14)などで監督を務めるほか、2015年には『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『私たちのハァハァ』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて2冠受賞、両作でTAMA映画賞最優秀新進監督賞を受賞。12月には監督映画『アズミ・ハルコは行方不明』が公開されるほか、クリープハイプの「鬼」、石崎ひゅーい「花瓶の花」のMVなども手がけている。

尾上寛之

1985年生まれ、大阪府出身。1994年に『ぴあの』(NHK)に出演。以降、俳優として数々の映画、舞台、テレビなどで活躍。近年の主な出演作品には【映画】『殿、利息でござる』(16/中村義洋 監督)、『王妃の館』(15/橋本一 監督)、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13/松居大悟 監督)、『俺はまだ本気を出してないだけ』(13/福田雄一 監督)【舞台】『TOKYOHEAD』(15/上田 誠 脚本・演出)、『残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」』(15/河原雅彦 演出)、『宅悦とお岩~四谷怪談のそのシーンのために〜』(14/岩松 了 作・演出)、『殺風景』(14/赤堀雅秋 作・演出)、『八犬伝』(13/河原雅彦 演出)【テレビ】『イチから住』(EX/16)、『花燃ゆ』(NHK/15)などがある。

関連情報

★おかぼれ オフィシャルサイト
http://okabore.com/news.html

■クリープハイプ「オレンジ」MV

■映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』劇場版予告編 – 監督・脚本:松居大悟×音楽:クリープハイプ