佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 80

Column

ヴァージョンアップされて圧巻だった『アレサ・フランクリン物語』

ヴァージョンアップされて圧巻だった『アレサ・フランクリン物語』

高山広の音楽一人芝居による『ルーサー・ヴァンドロス物語』と『アレサ・フランクリン物語』が、2019年2月2日(土)に「せたがや音楽プロジェクト」第5回公演として、世田谷区の成城ホールで開催された。

ぼくはこの一人芝居を昨年の9月、湯川れい子さんにさそわれて初めて観劇した。
そして終演後にワクワクした気持ちで、これは新しい表現になりうるのではないかと思った。

だから「ミュージカルとは異なる分野で、一人芝居から意欲作や実験作が生まれてくる、そんな可能性に期待がふくらんだ一夜だった」と、この連載にも書いた。

<参照コラム>

スーパースターの素顔や真実をたった一人で伝える画期的なパフォーマンス~高山広による一人芝居を観て

スーパースターの素顔や真実をたった一人で伝える画期的なパフォーマンス~高山広による一人芝居を観て

2018.09.04

そこでさっそく企画者の吉岡正晴さんに相談して、成城ホールで公演をプロデュースさせていただくことにしたのである。

オープニングは吉岡正晴さんと湯川れい子さんによる、トークから始めさせていただいた。
会場に来ている方の多くが、アレサはともかく、ルーサーというアーティストについては、さほど知識を持っていないとの前提で、プロフィールや人と成りを初めに語ってもらいたかったのだ。

お二人が語った言葉を、思いつくままに書く。

「R&Bチャートでは数多くのヒット曲を放ったが、全米トップ40に入ったヒット曲が少ないので、日本ではかなり過小評価されているシンガー兼プロデューサー」
「コーラス・シンガーだった裏方時代が長く、遅咲きだったが30歳にしてデビューした後は、1981年からわずか24年の活動期間に、8つもグラミー賞を受賞している」
 

「実はとってもハンサムなんだけど、アルバムを出すごとに大幅に体重が変わって、顔もスタイルも変わっていった」
「ソフトで繊細なヴォーカルは都会的で評価が高かったし、ジャネット・ジャクソンやマライア・キャリー、ビヨンセとのデュエットでも知られている」
「また若い頃からアレサ・フランクリンをプロデュースするなど、才能にも恵まれていたが、2005年に54歳で早逝してしまった」

 

会場には20代から70代まで、幅広い年齢層の観客に足を運んでいただいた。
おかげさまで終演後の反応やアンケートでも、お二人のトークをふくめて好評だった。

もちろん、ホール公演だったことのメリットとして、照明が自在に調整できることや、音響的にも環境が良かったことが大きかった。

また高山さんを支える芝居のスタッフと、「せたがや音楽プロジェクト」のスタッフとの連携もスムーズだった。

個人的には9月に初めてみた時に比べて、特に「アレサ・フランクリン物語」がヴァージョンアップされて、素晴らしい作品に仕上がっていたことに感銘を受けた。
ルーサーやアレサの人物像とともに、とりわけスーパースターになったアレサの孤独が、鮮明に浮かび上がってきた。

だから涙を流す観客が多かったのだろう。

企画者の吉岡さんが、自身のブログにこんな感想を述べていた。

この『アレサ物語』、当初の想定は40分だったが、この日はなんと47分もやっていた。まったく時間の長さなど感じなかったので、それだけ密度の濃いパフォーマンスだったということだろう。
それにしても、この設定、このエンディングには毎回度肝を抜かれる。まさに一人芝居の無限の可能性を感じさせた。
何より、素晴らしかったのが、観客のみなさんがクローズドな空間(ホール)であったために、圧倒的に集中して見ることができたこと。
観客の集中度をここまで感じるとは思わなかった。
しかも、ルーサー、アレサを知らなくても、その高山広ワールドにぐいぐいと引き込まれて行くということ。
照明によって真っ暗闇が作られ、さまざまな照明の技が見せられる。
暗転と光との演出によって、否が応でも、観客全員の視線が高山広一点に集中する。
 

湯川さんがカーテンコールで、こんなことを仰っていたのも印象に残った。

「ルーサーのことやアレサのこと、本当に高山さんのお芝居を見てから、それまで遠くの神のような上の存在だったものが、とても身近に感じられるようになりました」
 

なお吉岡さんからは最後に、「次はまだ正式発表してないのですが、6月30日(日)です」という報告があった。
内容はマイケル・ジャクソンだというので、思わず小躍りしたくなってしまった。

初めて高山広の一人芝居を観た後で、時代や社会的背景なども織り込みながら、美空ひばりさんやエルヴィス・プレスリー、マイケル・ジャクソンをやって欲しいと、湯川れい子さんと吉岡正晴さんと一緒に話したことが、なんと1年もしないうちに実現することになったのだ。

夢を見させてくれる音楽や芝居に出会えることの喜びと、それを結びつけてくれる人と人との出会いに、あらためて感謝の念が湧き上がっている。

<主催の「せたがや音楽プロジェクト」は世田谷に縁のあるアーティストが集まり、自由に音楽を創作し、日本から世界へ発信していく夢を掲げる団体です。>

イラスト / 北村範史 写真 / 長渡和好

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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