
『冒険Bリーグ』第12回は、ライジングゼファー福岡(以下、福岡)のデクスター・ピットマンを取り上げる。211センチ・132キロという巨漢を活かした肉食系のプレーを披露する彼だが、オフコートでは意外な顔を見せる。今回のコラムでは興味深いギャップを持つピットマンの素顔に迫ることにした。
福岡は2016年のBリーグ開幕をB3で迎えたが、そこから1年毎に昇格してB1まで駆け上がってきたクラブだ。今季は9勝29敗と苦戦し、残留争いに直面している。それでも2月2日のアルバルク東京戦(以下、A東京)は、福岡市東区の照葉積水ハウスアリーナに5,618名の観客が押し寄せた。
A東京は2017-18シーズンを制した日本のトップクラブだ。そんな難敵に対して福岡は山下泰弘、城宝匡史と主力を負傷で欠きつつ、74-84と悪くない試合を見せた。
ボブ・ナッシュHCはこう述べていた。
「選手たちが攻撃、セットプレーをよく遂行できていた。3人の日本代表がいる強豪に10点差で、内容も悪くない試合ができたと思っている。自分たちは戦えるという感覚を2試合で得られた」
指揮官が真っ先に名を挙げて讃えたのは、復帰戦で結果を出したピットマンだった。
「ピットマンがポストでチームを支えるスコアリングをして、周りもしっかりそこを見てそこに入れるプレーができた。彼がケガ明けでもいいプレーをしてくれて喜んでいる」
ピットマンは昨年12月22日のレバンガ北海道戦で肋骨を2本折り、2月2日が40日ぶりの復帰戦。27得点、14リバウンドと圧巻のスタッツを残してチームに大きく貢献した。
【B1ハイライト】02/02 福岡 vs A東京(18-19 B1第23節)
A東京はアレックス・カーク、竹内譲次とBリーグ屈指のインサイドプレイヤーを擁し、相手にハードなディフェンスを仕掛けてくる。ただピットマンはパワーにアドバンテージを持っていた。富山クラウジーズ時代の対戦(2017年10月28日)でも21分の出場でA東京から23点を稼いでおり、彼自身は“相性の良さ”さえ感じている。
ピットマンはこう口にしていた。
「(A東京は)素晴らしいチームだし、機動力があって展開も速い。ただサイズ的には自分より小さいので、ポストから点は取れる自信は持っていた」
彼はリバウンドも強烈だ。特に得点に直結するオフェンスリバウンドが、ピットマンは際立っている。A東京戦でも身体の幅、上半身の強さを活かしてゴール下を制圧していた。一人でオフェンスリバウドを6本確保し、ボックスアウトの動きから仲間に「取らせる」貢献も大。シュートが落ちた後のセカンドチャンスポイントは、福岡がA東京を15点も上回った。
30歳の彼はNBAのチャンピオンリングも持っている「ビッグ」な経歴の持ち主でもある。マイアミ・ヒートではレブロン・ジェームズとプレーを共にしていた。
一方でピットマンはその巨体、プレーからは想像しがたいギャップの持ち主だ。大型選手は低くてよく通る声の持ち主も多いが、彼は声のキーが高く音量も控え目。話の内容も「俺様感」が一切ない。率直な質問をぶつけても、笑顔のまま答えてくれる紳士だ。
そんな優しき大男は常人離れした巨体と運動能力を持つ一方で、凡人と同じ問題を抱えて生きてきた。それは“ウエイトコントロール”だ。高校時代は何と200キロを超す体重でプレーしていた。70キロを超える減量に成功した今も「自炊をしたり、シェフやトレーナーに頼ってやらないと体重が増えてしまう」という悩みは変わらない。
彼は糖分や脂肪分をコントロールした生活を続けていて、以前の取材で鶏肉やブロッコリーをよく食べると明かしてくれた。現在のおすすめはブロッコリーその他の食材をミキサーに入れて作るグリーンジュースで、それを毎朝飲んでいるという。ガールフレンドが来日をするときは彼女の手も借りるが、基本的には自炊生活だ。せっかく福岡で生活していても、豚骨ラーメンを堪能することは難しい。
どちらかと言えば「草食系」の生活が、その肉食系プレーを支えている。「自炊するビッグマン」はこう強調する。
「福岡のご飯は美味しくて気に入っている。でも食事が試合やコンディションに出ることはよく理解している。白米は美味しいし大好きだけど、糖分が多いのでよくない」
現在の体重を尋ねると「測っていない。それを意識しすぎると力を発揮できない」とかわされてしまった。それでもあれだけ動けているのなら問題はないだろう。彼はボールタッチの柔らかさ、シュートの上手さも兼備しているし、130キロ超級とは思えない跳躍も見せる。自身も「今シーズンはプレータイムが延びているし、富山のときより動けている」と自信を口にしていた。
今季は外国籍選手の起用ルール変更もあり、ピットマンも1試合平均の出場時間が30分以上に伸びている。福岡の復活、B1残留にはそのパワフルなプレーと、毎朝のグリーンジュースが欠かせない。
取材・文 / 大島和人 写真提供 / B.LEAGUE
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著者プロフィール:大島和人
1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都町田市に在住する。大学在学中にテレビ局の海外スポーツのリサーチャーとして報道の現場に足を踏み入れ、アメリカの四大スポーツに接していた。損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年から「球技ライター」として取材活動を開始。バスケの取材は2014年からと新参だが、試合はもちろんリーグの運営、クラブ経営といったディープな取材から、ファン目線のライトなネタまで、幅広い取材活動を行っている。