Interview

KUMONOSU 八王子PとHANAEの新ユニット。 “闇”や“悪”をモチーフに、リアルな表現に目を向けた世界観とは? 二人に訊く。

KUMONOSU 八王子PとHANAEの新ユニット。 “闇”や“悪”をモチーフに、リアルな表現に目を向けた世界観とは? 二人に訊く。

ボカロPの第一人者であり、幅広いフィールドで活動している八王子P、そして、歌手・詩人・モデルとして才能を発揮しているHANAEによる音楽ユニット“KUMONOSU”が始動。1st EP「共犯」でデビューを飾る二人に、ユニット結成の経緯、“悪”“闇”をモチーフにしたコンセプト、楽曲制作における独自のスタイル、将来的なビジョンなどについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

“闇”“悪”といってもいろいろあるけど、それに寄り添えるような音楽が作れたらなと思ったんですよね(八王子P)

まずはKUMONOSU結成の経緯を教えてもらえますか?

八王子P これまでボーカロイドのシーンで活動してきて、それは今後も続けていきますが、一方で「生身の人間が歌う自分の作品を作ってみたい」という気持ちもずっとあったんですよね。ボーカリストを探すなかで出会ったのがHANAEさんで、とにかく声が魅力的だなと思い、お声がけさせてもらったということです。

HANAE 私もずっとソロとしてやってきたんですが、音楽を始めた頃はユニットかバンドに憧れがあったんです。デビューしてからも、誰かとガッツリ組んでやりたいと思っていたし、八王子Pさんから声を掛けてもらったときは「なんてタイミングがいいんだ」って。私はそこまでボカロPの音楽を聴いてなかったけど、八王子Pさんの楽曲はそれ以外の人にも届いているし、曲もすごくいいので、一緒にできることになって嬉しいです。

確かに八王子Pさんの音楽は、ボカロシーンを超えて広く浸透してますからね。

HANAE そうなんですよね。いまの10代のリスナーは、J-POP、邦ロック、ボカロみたいなジャンルの区別なく聴いてる感じもあるし。

八王子P 「好きな曲を聴いてたら、それがたまたまボカロの曲だった」という感覚なんでしょうね。初音ミクが生まれてから12年くらい経つし、まったくマニアックなものではないというか。米津玄師さんのように、ボカロ・シーンを完全に飛び越えて、アーティストとして活躍されてる方もいらっしゃるので。

KUMONOSUの音楽的な方向性は明確だったんですか?

八王子P KUMONOSUとしていちばん伝えたいのは“闇”とか“悪”といったものなんです。音楽をどっぷり聴いてる人のなかには満たされないものを抱えていることが多いと思うし、音楽に救いを求めている人もいるんじゃないかなと。“闇”“悪”といってもいろいろあるけど、それに寄り添えるような音楽が作れたらなと思ったんですよね。そういう話をHANAEさんにしたら、彼女もTwitterのフォロワーのみなさんからお悩み相談を受けることがあるらしくて。

HANAE 私はSNSでファンとコミュニケーションを取るタイプなので、けっこう切実な悩みが送られてくることもあって。夜中に「死にたいです」とDMしてくる子とか。でも、その子のインスタを見ると彼氏とディズニーランドに行った写真がアップされてたり、「みんな、人には言えない思いを抱えているんだな」と感じることも多くて。そういうことを書かない(歌詞にしない)のはフェイクだし、KUMONOSUはそれができる場所だと思うんですよね。

KUMONOSUを始めたからといって、それぞれのソロ活動を否定しているわけではないので。別口の楽しみというのかな(HANAE)

ソロアーティスト・HANAEの表現とは違うということですか?

HANAE ソロのHANAEもキラキラとかわいいアイドルというわけではないんですが(笑)、非現実的な表現もあるし、自分のブライトサイドをがんばって引き出しているところもあって。でも、活動歴が長くなるにつれて、自分のなかのリアルな部分——人間関係や恋愛のことだったり、漠然として不安だったりーーが大きくなってきて、「そこもきちんと表現したい」という気持ちはあったんですよね。

八王子P いまHANAEさんが言ったことが、僕もすごく共感できますね。八王子Pのイメージもしっかり付いてしまってるし、それとは別のところで表現を広げたいという思いはあったので。やりたいことをやってるという意味では、どちらも同じなんですけどね。いまはファンとアーティストとの距離がすごく近いし、ウソをついたり、やりたくないことをやってしまうと絶対に伝わるので。自分の気持ちに素直に、やりたいことをやるのは大事だと思います。

HANAE KUMONOSUを始めたからといって、それぞれのソロ活動を否定しているわけではないので。別口の楽しみというのかな。人間は多面体だし、暗い部分、明るい部分があるのは当たり前だと思うんですよ。それを否定せず、いろいろな面を共存させている感覚が強いかもしれないですね。

なるほど。実際の制作はどうやって進めたんですか?

八王子P EP全体のテーマを先に決めました。まずは大枠のテーマを明確にしてから、それぞれの曲のイメージをある程度固めて、僕が曲とメロディを作り、HANAEさんに歌詞を当てはめてもらった感じですね。

HANAE 設計図みたいなものもありましたね。何度もやりとりはしましたけど、制作やレコーディングに入る前に、着地点が見えていたほうがやりやすいので。EPの「共犯」というタイトルも最初からあったんじゃなかったかな。

八王子P その後「共犯」という曲を作って、それが軸になって。そこからさらにストーリーを広げていきました。

私がこのEPに入っている5曲を通して表現したかったのは、孤独の肯定なんです。そのイメージに近いのが「共犯」だったんですよね(HANAE)

音楽のジャンルではなく、まずは“伝えたいこと”が存在していたと。おふたりのなかで「共犯」はどんなイメージなんですか?

HANAE 各々が手を汚しているというのかな。同じ場所で同じことをしているというより、お互い別のところで生きていて、それぞれが手を汚しているというか…。私がこのEPに入っている5曲を通して表現したかったのは、孤独の肯定なんです。そのイメージに近いのが「共犯」だったんですよね。

八王子P “ひとりじゃないんだよ”ではなくて、“みんな孤独だから”という。孤独といっても感じ方はそれぞれだと思うけど、それは特別なことではないというか。

HANAE インスタやTwitterの質問箱(匿名で質問する、質問を受け付ける機能)で「これをやればハッピーになれる」という方法を提示して有名になる人もいるけど、私はそういう哲学では救われてこなかったんです。そういうものとは違うやり方、もっと不良な回答をしたかったのかもしれないですね。私は2017年にクラウドファンディングで詩集(『路上のロリータ』)を出したんですが、かなりダークな内容もあったのに、むしろそっちに共感してくれるファンも多くて。KUMONOSUで歌詞を書くときも同じで、決してフィクションではなく、自分のなかから出している言葉なんですよ。

八王子Pとしてやってきたこととガラッと変えるのではなくて、いままでの音楽を土台にしながら、KUMONOSUとしての作品を作りたいなと(八王子P)

サウンドメイクに関しては?

八王子P 今回のEPはダンスミュージックがベースになってますが、それは自分たちが伝えたかったテーマに合致したからで、決してそれだけをやろうとは考えてなくて。あとは“聴いてくれる人を突き放したくない”というのもありました。八王子Pとしてやってきたこととガラッと変えるのではなくて、いままでの音楽を土台にしながら、KUMONOSUとしての作品を作りたいなと。

HANAE 私はこういうトラックに歌詞や歌を乗せたことがなかったので、ソロのスタイルとはかなり違っていると思います。ジャンルも音色も「こういう音で歌うとは予想してなかった!」ということばかりだったので。そういう予想外のことが起きるのが人と組む意味だし、すごく嬉しいです。

八王子P 特に「共犯」はこれまでのHANAEさんの歌い方をあまり考えずに作ったんですよね。こういうトラックは僕にとっても挑戦だったし、「どうなるか見てみたい」という気持ちもありました。

「存在証明」のようにヒップホップ、ラップの要素を取り入れた曲も印象的でした。

HANAE もともとヒップホップが好きなんですよ。ふだん聴いているのはフィーメールではなくて、男の人のラップが多いんですが、それをマネしてガチガチにライムを踏むのも違うと思ったので、ポエトリー・リーディングに近いイメージだったんですけどね。実際の制作では「ここは自由にラップ」というパートを用意してもらってたので、そこはトラックメイカーとラッパーみたいな感じだったかも。

八王子P 僕はそこまでヒップホップを聞き込んでなかったから、HANAEさんにおすすめを教えてもらうこともあったり(笑)。

HANAE 「存在証明」を作っていたときに、「こういう感じでやりたいです」ってNujabesとかWiz Khalifaのチルいやつを送ったり。結果的にはぜんぜん違う曲になりましたけどね(笑)。逆に私はEDMや海外のDJをあまり知らないので、そこは教えてもらって。

八王子P もともとのルーツが違うので、そこを共有するのもおもしろいんですよね。お互いに影響を与え合ってるところもあるだろうし、意識はしてないけど、それは作品にも滲み出てる気がします。「最近はどんなの聴いてるの?」みたいな話もするので。

HANAE そうですね(笑)。

八王子P さっきも言ったように「こういうジャンルでやろう」と決めているわけではないから、今後はどんどん変わっていくかもしれないですね。バンドよりのサウンドになるかもしれないし、もっとヒップホップになるかもしれないし。それは自分たちも楽しみですね。

ポップという言葉は“明るい”とか“かわいい”というイメージもあるけど、“大衆的”と訳せば、悩みとか闇ほどポップなものはないとも言えますからね(HANAE)

5曲目の「夜行」は解放的なイメージの楽曲。ドラマティックなメロディ、「救いは無くて 赦しも無くて だけど笑いたくて 手を伸ばす一筋の光」という歌詞を含めて、KUMONOSUのポップサイドと呼ぶべきナンバーだと思いますが、やはりポップでありたいという気持ちもあるんでしょうか?

八王子P ありますね。扱っているテーマは決して明るくないかもしれないけど、ポップなものが好きなので。さっきの“いきなり突き放すようなことはしたくない”という話にもつながるんですが、僕もHANAEさんも、ソロとしてはかなりキャッチ—なことをやってきてると思うんです。この2人が作ればキャッチ—な音楽になるという確信もあるし、そこは自然に出てるんじゃないかなと。「夜光」に関して言えば、EPの最後に希望を感じてもらいたいという気持ちもありました。

HANAE “ポップであること”については、“そうしたい”と話さなくても、そうなることがわかっているというか。ポップという言葉は“明るい”とか“かわいい”というイメージもあるけど、“大衆的”と訳せば、悩みとか闇ほどポップなものはないとも言えますからね。サウンドや私の歌に関しては、お互いにもともとポップなものを持っているし、拭おうとしても拭えないと思います。

八王子P うん。作りたいものを作ればポップになるというか。

KUMONOSUというユニット名については?

八王子P ユニット名はめちゃくちゃ考えたんですよ。八王子Pとしての活動って、最初からプロになろうと思っていたのではなくて、趣味の延長でやってたことがそのまま仕事になった感じで。0からしっかり作り上げるプロジェクトは、今回が初めてなんですよ。だからユニット名を決めるときもかなり悩んで…。まず最初に思ったのは、HANAEさんというボーカリストと組むんだから、“生モノ”“有機物”をイメージできる名前にしたくて。いろいろと探していくなかで、辿り着いたのが“蜘蛛”だったんです。

HANAE 蜘蛛は足が八本あって、私たちの手と足を合わせた数と同じじゃないですか。HANAEの“HA”、八王子Pにも“八”があるし、後付けの理由はけっこうあります(笑)。漢字で書くと虫偏に“知(しる)”と“朱(あか)”で、そのイメージも合ってるかなって。

音楽を軸にしつつ、いろいろな表現を使って、KUMONOSUの作品や世界観を出して行きたいですね(八王子P)

“入り込んだら離れられない”という感じもいいですよね。最後に、KUMONOSUのこの先の展望を教えてもらえますか?

HANAE ライブを2回やったんですが、既にかなり手応えがあって。お互いに違うジャンルで活動してきたし、いろいろな場所に出ていって、新しい出会いを経験したいですね。フェスにもぜひ出たいです。

八王子P ライブもひとつの軸と考えているので、もっと増やしていきたいですね。もちろん、次の曲のことも話しているし、どんどん動いていけたらなと。これは構想段階で、何も決まっていないんですけど、音楽以外の方法でも伝えていきたいんですよね。HANAEさんは文章が書けるので、本や絵本などもいいだろうし。音楽を軸にしつつ、いろいろな表現を使って、KUMONOSUの作品や世界観を出して行きたいですね。

KUMONOSU

『都市型夜光性音楽ユニット KUMONOSU』。
ボカロ界の貴公子 八王子Pとシンガー・詩人・モデルとして活躍するHANAEによる、都市型夜光性音楽ユニット。
2018年8月8日始動。 作編曲を担当する八王子Pによるキャッチーなメロディとハードなトラック、歌唱・作詞を担当するHANAEのウィスパーボイスと歌詞が現代に生きる人々の葛藤を暴き出す。

オフィシャルサイト
http://www.kumonosu.tokyo