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ファミコン風アドベンチャー『偽りの黒真珠』にオールドゲーマー狂喜乱舞

ファミコン風アドベンチャー『偽りの黒真珠』にオールドゲーマー狂喜乱舞

2019年1月、ファミコン風のアドベンチャーゲーム『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』がNintendo Switchにて配信され、世のオールドゲーマーたちをざわつかせています。グラフィック、サウンド、システム……何を取ってもド級のレトロテイスト。いま最新ハードで、あえてそのようなゲームが生まれた理由、プレイする意義、遊んで得た“気づき”について語ってみたいと思います。

文 / 忍者増田


8ビット感あふれるアドベンチャー

『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』(以下、『偽りの黒真珠』)は、その名のとおり伊勢志摩地方を舞台としたサスペンスアドベンチャーです。
ある日、東京の公園で名もなき変死体が発見されます。事故と事件の両面から捜査が進むなか、事件解決の手掛かりとなる黒真珠の存在が明らかとなり、舞台は真珠の産地である伊勢志摩地方へ……。そこから物語は、悲しい連続殺人事件へと発展していきます。プレイヤーは事件を担当する刑事となり、後輩刑事のケンとともに現場検証や聞き込みをして、事件の解決に挑むこととなります。

▲東京、上野の公園で死体が発見されたところから捜査は始まる。彼が後輩刑事のケンだ

画面を見れば一目瞭然ですが、本作のウリは、かつてのファミコンアドベンチャーゲームを彷彿させる懐かしいグラフィックとゲームシステム。漫画家の荒井清和さんによって描かれたキャラクターがクラシカルなドット絵で表現され、コマンド選択式でフラグを立てながらゲームが進行していきます。安直ながら、あえて当時のプレイヤーにわかりやすい表現で例えると、さながらファミコン版『オホーツクに消ゆ』をプレイしているような感覚に陥ります。ファミコン版『オホーツクに消ゆ』のキャラクターデザインも、荒井さんでしたからね。

▲スマホを使って場所を検索したり、ゲームのセーブができたりするところは現代風。あまり検索に頼りすぎると、ケンから注意されることも

私は、『偽りの黒真珠』を作ったハッピーミール社長の関さんに、このようなファミコンテイストのゲームを制作した理由を伺ってみました。関さんたち制作スタッフの方々は、ファミコンゲームに大きな影響を受けた世代で、いつか自分たちもファミコンゲームの新作を作りたいという気持ちを、いつもどこかに持っていたとのこと。ハードのスペックがどんどん上がっていくなかで、ファミコンテイストのゲームをビジネスとして制作する機会はなかなかありませんでしたが、近年のレトロゲームブームが訪れたことやダウンロード配信という環境ができたことで、満を持して制作に至ったそうです。

そんな関さんたちの、長年の夢がかなった気持ちが反映されるかのように、このゲームにおいて“ファミコンらしさ”はしつこいほどに徹底されています。完全新作でありながら、グラフィック面においてもサウンド面においてもファミコンの実際の仕様に準じて制作され、当時のファミコンでできる以上のことはあえてしていないという徹底ぶり。ビープ音で奏でられるピコピコなサウンドを聴いていると、ゲーム音楽が最もゲーム音楽らしかった、当時のいろいろな思い出も蘇ってくるのではないでしょうか。まさに、当時の古き良きアドベンチャーゲームをもう一度味わいたいという人には、グサグサと突き刺さる作品であると言えましょう。

▲本作のヒロイン、珠海登場。荒井さんのドット絵がキュート

オールドゲーマーに優しい文字量やストーリー展開

私はすでに、『偽りの黒真珠』を最後までプレイしています。作り手の狙いどおり、当時のファミコン世代が、「ああ、昔のアドベンチャーゲームってこうだったなぁ」とニヤニヤ懐かしみながらプレイできる作品であることは間違いありません。しかし、そういった“懐かしさ”を除いても、個人的にオールドゲーマーにオススメしたいと感じる要素が多々ありました。
ここで全国のオールドゲーマーに問うてみたいのですが、最近、アドベンチャーゲームやRPGで長文のテキスト表示があると、ストーリーが覚えられなかったりすることはないでしょうか? 私は大いにあります。人間、歳とともに記憶力も集中力も低下していくので、延々と世界設定を説明されたり、登場人物に長時間ベチャクチャしゃべられたりすると、物語を把握するだけでいっぱいいっぱいです。ファミコン風という画面制約もあって長文が出せないせいかもしれませんが、『偽りの黒真珠』ではそういったことがなく、ストーリー把握が容易。私のような人間には優しい仕様なのです。

▲珠海の幼なじみのカナは写真家だ。個人的には珠海より好み

次から次へと事件が起こる息もつかせぬ展開で物語が進み、そして通常のアドベンチャーと比べて短時間で終了できるボリュームであることも、オールドゲーマー向きと言えますね。オールドゲーマーはクリアにダラダラと日数がかかるゲームは、2~3日放っておくとストーリーを忘れてしまう危険性があります。その点『偽りの黒真珠』は、気合いを入れてプレイすれば1日でクリア可能(無理に早解きする必要はありませんが)だし、中だるみしないスリリングな展開のおかげで、緊張感を持続したまま一気にラストまでプレイできました。単純にストーリーも面白いのです。捜査中にいつも不気味な人影につけまわされているような演出にもドキドキさせられたし、真犯人も私が想像していた人物とはまるで違っていて、「やられた~!」といい意味でラストは苦笑い。同時期に本作をクリアした友人も、私と同じ人物を犯人と疑っていたそうです。制作者の関さんにこれを話したら、「最初は増田さんが考えていた人物を犯人とする構想もあったんですよ(笑)」と教えてくれたので、少し救われた気持ちになりましたけど。
コマンド選択式アドベンチャーにおいて、“ストーリーの面白さ”は何よりも大切。基本的に、コマンド総当たりでゲームが解けてしまう理屈なので、まずストーリーが面白くないと話になりません。そこんところ、本作は十分に合格点をあげられる内容だったということも記しておきたいです。

▲珠海の母であり、真珠工房の女社長でもある咲子は、何かを隠していそうな人物だ

細かい部分でいえば、文字サイズを大きくできるところも、もう老眼に差し掛かっているオールドゲーマーにはありがたいはず。個人的には、ファミコン風の小さな文字で遊び通すのも当時っぽくていいんですけどね。漢字などは少ないドットで強引に表示されているので、登場人物の“咲子”の名前が、途中から“蛭子”にしか見えなくなってしまい、蛭子能収さんを想像してニヤニヤしていたのは私だけだろうな。

▲文字サイズを大きくした画面。イメージとしては、ファミコンゲームの文字がスーパーファミコンゲームの文字になったような感じ。ルポライターの西沢は、敵か味方か……?

なお、文字サイズを大きくしたり、ゲームの取り扱い説明書を見たりするためには、Nintendo Switchの+ボタンを押す必要があるのですが、ゲーム画面には表示されない機能なので、気づいていない人も多いかもしれません。この仕様には「画面からファミコンっぽくないものを極力排除したい」という、制作側の意向があったそうです。一見、プレイヤーの皆さんから反感を買いそうな仕様ですが(いや、もうすでに反論は出ているのかもですが)、そこまで当時のファミコンっぽさを重視する徹底ぶりに、唸らざるを得ません。さらに、この機能で見られる取説もファミコンを思わせる作りになっているのが恐れ入ります。

▲ゲーム内で確認できる、ファミコンゲーム風の取説。中央のノドの部分を灰色のシャドウにし、ページの盛り上がりを再現しているところまでリアルだ

▲ファミコンのアドベンチャーゲームの取説にありそうなメモ欄まで再現。もちろん、本当にメモることはできないが、こういうムダが素敵

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