Column

ヨシ子さんは実在するのか、その真実とは!?〜決定版。その後の「ヨシ子さん」

ヨシ子さんは実在するのか、その真実とは!?〜決定版。その後の「ヨシ子さん」

前回「ヨシ子さん」に関して書かせていただいたあと、実に幸運なことに、桑田佳祐にインタビューする機会を得た。なのでご本人から伺ったことも含め、改めて書かせていただくことにする。ただ、そのインタビューは購読条件を満たした方々のためのもの(サザンオールスターズの会報『代官山通信』のため)だったこともあり、記事から直接転載することは控えつつ、進めていければと思っている。

仮タイトルは「夢の島」

曲のタイトルというのは、最終的に判断して決められることが多く、それまでは仮タイトルで呼ばれる。中には“M-5”みたいな実務的な呼び方で通すアーティストもいるが、たいていはその楽曲のイメージなり方向性を示す言葉が付けられる。「ヨシ子さん」の場合どうだったのかというと、仮タイトルは「夢の島」だった。

桑田の中のイメージとしては、様々なものが堆積し、でもどこか全体が有機的に繋がり、ひとつの生命体とも思えるような場所……ということだったようだ。

“様々なものが堆積し”というのは、まさに「ヨシ子さん」から聴こえてくるサウンドそのものである。その日の気分で際立つ音が違って思えたりする万華鏡サウンドとも言える。

その際、サザンおよび桑田の大切な音楽パートナーである、キーボード奏者の片山敦夫の存在が大きかった。普段なら、桑田がある楽曲を構想し、世界観を絞っていくうえで、それをサポートするのが片山の役割だろうが、「ヨシ子さん」の場合は違ったようだ。

彼の音楽性を包括的に引き出そうとしたきらいがあるからだ。インタビューの際、桑田は改めて、片山がクラシックからジャズまで幅広いヒトであり、しかもそれぞれに対して奥の深いアプローチができる人間と評していたが、ならばそこにある容積を、制限なくトラックに刻み付けてもらおうという、そんな試みでもあったようなのだ。

“様々なものが堆積し、でもどこか全体が有機的に繋がり”というイメージは、音だけでなくアート・ワークにも言えそうだ。渡辺俊太郎が手がけたCDジャケットが、もし手元にあったら再度眺めて見て欲しい。まず感じるのはピカソなどが得意としたキュビズムおよびコラージュの手法であり、単視ではなく多視的な広がりと平面でない奥行きを感じさせるものであり、このアート・ワークはそのまま、聴こえてくる音楽とも呼応するものだろう。

ヨシ子さんは実在する!?

このジャケットの女性が、とりあえずは公認の“ヨシ子さん”像なのかなぁと思っていたが、せっかく桑田本人に会えたので、訊ねてみたのである。「あなたの親類縁者に“ヨシ子さん”という名前のヒトはいないのか?」「もしいたら、やはりそのヒトの顔は浮かぶんだろうし、桑田さんの中でこの作品は、ちょっとした“具体性”を帯びることにもなりますよね?」と……。

すると桑田は、こんな話をしてくれたのだ。まず最初に事実から書くなら、“ヨシ子さん”は実在する。ただ親類縁者ではない。仕事の際にお世話になっているスタッフに、そんな名前のヒトがいるそうなのだ。

だからって作品の“モデル”がそのヒトなのかというと、それはちょっと早とちりだ。そこまで、ではない。「ヨシ子さん」の歌詞を眺めてみればわかるが、たしかに“ヨシ子さん”と呼びかけるパートはあるものの、歌の“モデル”というほどにフィーチャーされてはいない。

あくまでキッカケのひとつ……。でも、なぜ彼女は桑田の創作活動に影響を及ぼすこととなったのだろうか? 実はそのヒト、名前は“ヨシ子”と昭和風というか、ちょっと古風な響きだけど、実際はバリバリ今風のキャリア女性そのものの容姿だという。そのギャップが桑田にとって、実に印象深いものだったらしい。

いわゆる“ツボ”というヤツなのかもしれない。類いまれな表現者というのは、凡人にはなんてことない出来事に深遠さや永遠さを嗅ぎ取ったりするものだ。この場合、“名前は昭和だけど容姿は平成”というアンビバレンスが、桑田にとっての“ツボ”であり、彼の創作の釜に薪をくべることになったのかもしれない。

それどころか桑田は、仕事の合間などに、彼女に対して「♪よ〜し〜こ〜さ〜ん」と、親愛の意味で歌いかけたりもしたそうだ。ちなみにこれ、林家三平のヒット曲「好きです(ヨシコさん)」の一節である。

“もしやヨシ子さんってヨシコさんのこと?”というのは、シングルのリリース時、歌謡ポップス史に興味ある人間たちの間で取り沙汰されていたことだった。これは当たっていたわけだ。桑田の頭の片隅にも、三平師匠に対するオマージュの気持ちがあったのである。

無意識下の条件反射と“カオス世代”

「『ヨシ子さん』といえばカオスでしょ、そもそも桑田佳祐といえば、ひとつのジャンルに納まり切れないところが魅力なんだからさぁ〜、特にそんな傾向が強く出たのが『ヨシ子さん』のイイところじゃないの?」という意見もあるだろうし、そもそもこの曲をムリに“わかろう”とすることがストレスにもなるわけだ。カオスといえば、実は桑田も自分のことを「ロックでも歌謡曲でも、様々なものを雑多に取り入れてきた“カオス世代”だと認識することがある」とインタビューで言っていた。そこで思い出したことがあった。

以前、文芸評論家・加藤典洋の『耳をふさいで、歌を聴く』(アルテスパブリッシング 刊)という本を読んでいたら、桑田に関して興味深い記述があったのだ。著者は「原則のなさをプラスに転化するだけの桑田の強力な音楽的適応性」に注目し、様々なサザンの作品を考察していくのだが、その中で、吉本隆明の“重層的非決定”という言葉を引用しているのである。

浅学な私はこの言葉を初めて知ったのだけど、やがて吉本の『重層的な非決定へ』(大和書房 刊)という著作を手に取った。すると吉本は、この言葉にこんな説明をしていた。つまり「現在の多層的に重なった文化と観念の様態にたいして、どこかに重心を置くことを否定して、層ごとに同じ重量で、非決定的に対応すること」が“重層的な非決定”なのだ、と。

まさにこれ、桑田がやってきたことに重なる。思えば桑田の世代には、時代を象徴するようなビッグなヒトは存在しなかった。ビートルズや長嶋茂雄のことを、もちろん桑田は知っているけど、純粋なリアル世代よりちょっと下だ。でも吉本の言う“重層的な非決定”を続けていき、新旧様々な音楽的要素を雑多に取り入れることでリアルを追求し、時代の寵児となったのが桑田だろう。“重層的な非決定”バンザイ、である。
最後は慣れないことを書いてしまって冷や汗モノだが、でも実は、さらなる話題が届いているのだ。映画『金メダル男』(内村光良 原作・脚本・監督)の主題歌「君への手紙」を書き下ろしたというニュースである。どんな作品なのだろうか。「ヨシ子さん」とはおそらく、間違いなくテイストの違うものだろう。もし近い将来チャンスがあったら、“「君への手紙」のしたため方”なんていうタイトルで、再び原稿が書けたら嬉しいのだが……。

文 / 小貫信昭

リリース情報

シングル『ヨシ子さん』
2016年6月29日発売

【通常盤】VICL-37901 / ¥1,296+税
【アナログ盤】VIJL-61600 / ¥2,037+税
※7月27日発売

【収録曲】
1.ヨシ子さん(WOWOW開局25周年CMソング)
2.大河の一滴(UCC BLACK無糖TVCMソング)
3.愛のプレリュード(JTB TVCMソング)
4.百万本の赤い薔薇(フジテレビ系列 全国26局ネット「ユアタイム~あなたの時間~」テーマソング)
5.大河の一滴(TV Edit)


Blu-ray&DVD『THE ROOTS ~偉大なる歌謡曲に感謝~』
2016年11月30日発売

【初回限定盤 Blu-ray(Blu-ray+7inchレコード+Book)】VIZL-1500 /¥7,000円+税
【初回限定盤 DVD(DVD+7inchレコード+Book)】VIZL-1501 / ¥7,000円+税
【通常盤 Blu-ray】VIXL-800 / ¥6,000円+税
【通常盤 DVD】VIBL-1000 / ¥6,000円+税

※WOWOW開局25周年記念番組“桑田佳祐「偉大なる歌謡曲に感謝 ~東京の唄~」”としてオンエアされた模様にあらたな編集を加えパッケージ化。


新曲「君への手紙」が主題歌の映画『金メダル男』
2016年10月22日公開

原作・脚本・監督:内村光良
出演:内村光良 知念侑李(Hey! Say! JUMP)
木村多江/ムロツヨシ 土屋太鳳/平泉成 宮崎美子/笑福亭鶴瓶

配給:ショウゲート
Ⓒ「金メダル男」製作委員会

オフィシャルサイト http://kinmedao.com/

公式サイト・公式アカウント

sas応援団 サザンオールスターズ Official Fan Club Site
桑田佳祐 スペシャルサイト
桑田佳祐 ニューシングル「ヨシ子さん」スペシャルサイト
桑田佳祐 official YouTube channel
サザンオールスターズ official YouTube channel
サザンオールスターズ official Facebook
サザンオールスターズ official Twitter