Report

「延々とセックスを見せる」という表現手法 舞台『娼年』観劇レポート

「延々とセックスを見せる」という表現手法 舞台『娼年』観劇レポート

石田衣良の恋愛小説『娼年』『逝年』をもとに、ポツドール主宰の三浦大輔が脚本・演出を手がける舞台『娼年』が東京芸術劇場プレイハウスで開幕した。原作者の石田が連載当時、「毎回、ベットシーンを描くこと」を主眼にした作品を、『愛の渦』や『恋の渦』で欲望の過程を描いてきた三浦がどう舞台化するのか。R15指定が付いたことでも話題を集める作品の初日公演をリポートする。

取材・文 / 永堀アツオ


役者たちの肉体のぶつかり合い、言葉にならない会話の積み重ね

劇場に入って最初に目に付いたのは、ステージ中央に設置されたクイーンサイズのベッドだ。視線を上に向けると天井に天蓋が設置されていた。開演前は、激しい性描写はこの天蓋が降りた中で展開されるのだろうと予想していたのだが、クライマックスまで使われることはなかった。しかも、ベッドは少しせり出した舞台上にあり、真横から観ることのできる客席もあった。2階席には立ち見の客もおり、死角となるのは真後ろの15度程度しかない。また、舞台後方には長い階段が設置されていた。ベッドは階段を下り切った最下層にあり、中段にはバーとボーイズクラブの事務所が登場する。

物語は、松坂桃李演じる<森中領>が10歳のときに急死してしまった母と交わした、ベッド上での最後の会話から始まる。彼にとっては深い傷となって心の奥底にしまってある思い出である。続いて、領がバイトをしているバーが照らし出される。そこでは大学の友達との他愛のない会話が繰り広げられるが、友達たちは彼の内側は知らない。

やがて、コールボーイとなった彼は、女性が指定したホテルの一室に向かう際に必ず階段を“降りて”いく。つまり、この階段は、彼の深層心理であると当時に、彼が一人ひとりの女性の心の奥底へと降りていく道程であり、肉体を重ねる会話——セックスという行為によって、女たちの原始的な欲望を探り当て、現実の世界へと引き出していく。

shonen_r_04

「女に興味がない」「セックスは退屈なだけ」とうそぶき、日々を無気力に過ごしていた領は、ボーイズクラブ<パッション>のオーナーである御堂静香(高岡早紀)の娘で、耳に障害を持つ咲良(佐津川愛美)とのセックスによって心の硬い扉が少しだけ開き、コールボーイとしての仕事を始めることになる。クラブの常連客、知性溢れるキャリアウーマン、夫への復讐心をぶつけるセックスレスの主婦……。最初は戸惑いながらも、女性たちの個性的な欲望に圧倒されることなく、心の声に耳を傾け、すべてを受け入れていく。主演の松坂桃李をはじめとする役者陣は、文字どおり、“一糸纏わぬ”姿で体をぶつけ合っていた。公演前のインタビューで「延々とセックスを見せる、肉体を通したコミュニケーション」という話を聞いてはいたのだが、とても疑似とは思えない、想像以上の生々しさがあった。役者陣は布団等で体を隠すことなく、真っ向からセックスという行為を全裸で見せつけた。吐息やキスの音、喘ぎ声も出しながらの演技には相当の覚悟が必要だったはずだ。

shonen_r_01

おそらく、領と同じように観客も最初は戸惑っていただろう。果たして他人のセックス——簡単な挨拶を交わし、キスをし、洋服を脱がし、激しい愛撫をし、大声で感情を吐露するすべての過程をまじまじと見ていいのかという困惑があったと思う。何かしらの反応を起こしたいのだが、黙って見ているしかないという鬱屈もあっただろう。 静香に過去の傷を話したことでトラウマから開放された領は、娼夫という仕事を通じて、女性やセックスに対しても心境の変化を見せていく。彼と同じように、観客も次第に感情を表出させていったように感じた。わけありの夫婦との性交では大きな笑いが起きた。 さらに物語は、暗闇を好む女性との交わりを経て、70歳の上品な老女との軽妙なやりとりが描かれ、彼に思いを寄せる大学の友人と交流をもって、クライマックスへと向かっていく。結末は原作とは異なっているので、生の舞台で確認してもらいたいと思う。

shonen_r_07

領は素性を知らない女性と、言葉ではなく、身体のコミュニケーションを通じて、相手の心と繋がっていった。「延々とセックスを見せる」という表現手法をとった本作は、領の成長物語であると同時に、役者たちの肉体のぶつかり合い、言葉にならない会話の積み重ねによって、観客に様々なテーマを投げかけてくれた。女性の欲望の肯定。傷を見せることで得られる癒し。普通とは何か? 身体性の復活。死生観。男性の心の中にある異性としての母親像。私と似ているというシンパシーを感じた女性もいたはず。それは、およそ官能的なベッドシーンとは無縁で、爽やかで優しく“普通”の好青年のイメージが強い松阪桃李が、すべてさらけだして演じたからこそ、得ることができた共感ではないかと思う。

shonen_r_12

蛇足ではあるが、筆者が最も心に残ったのは、同僚である平戸東(猪塚健太)がこぼした「もっとこういうことを居酒屋でワイワイ話したい」というひと言である。領と10人の男女とのセックスを見ながら、自分にとってのセックスとはなんであるかをずっと考えていた。ただの欲なのか、深い意識を通じた会話なのか。愛の交感か、生の実感や喜び、はたまた、安心を得られるものなのか。本作を観た方々がどんなことを感じたのか。どこかの居酒屋でワイワイと話してみたいという思いでいる。

また、本公演は、9月4日まで東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて上演されたのち、9月7日から11日まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、9月14・15日に福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホールと巡演する。

関連記事:松坂桃李が娼夫を演じる舞台『娼年』。脚本・演出の三浦大輔の挑戦について、佐津川愛美、猪塚健太も交え話を訊く。


bt000011655100100101_tl
娼年

石田衣良 (著)
集英社

恋愛にも大学生活にも退屈し、うつろな毎日を過ごしていたリョウ、二十歳。だが、バイト先のバーにあらわれた、会員制ボーイズクラブのオーナー・御堂静香から誘われ、とまどいながらも「娼夫」の仕事をはじめる。やがてリョウは、さまざまな女性のなかにひそむ、欲望の不思議に魅せられていく……。いくつものベッドで過ごした、ひと夏の光と影を鮮烈に描きだす、長編恋愛小説。


舞台 『娼年』

shonen_photo

【東京公演】2016年8月26日(金)〜9月4日(日)東京芸術劇場プレイハウス
【大阪公演】2016年9月7日(水)〜9月11日(日)シアター・ドラマシティ
【福岡公演】2016年9月14日(水)・9月15日(木)久留米シティプラザ ザ・グランドホール
★各公演当日券販売あり! 全席指定がなくなり次第、立見券の販売となります。

大学生の森中領は、ある日、友人の紹介で一人の美しい女性、御堂静香と出会う。女性に対して無関心の領は静香から自分が経営するボーイズクラブに誘われ、娼夫として働き始める。やがて領は女性の欲望の不思議に魅せられ、次第に仕事へのやりがいを見つけていくのだが……。

【原作】石田衣良
【脚本・演出】三浦大輔
【キャスト】松坂桃李 高岡早紀 佐津川愛美 村岡希美 安藤 聖 樋井明日香 良田麻美 遠藤留奈/須藤理彩
猪塚健太 米村亮太朗 古澤裕介 江波杏子 尾藤亜衣 鈴木葵椎 楢原嵩琉
【企画・製作】ホリプロ

『娼年』オフィシャルサイト http://www.shonen.jp