Interview

山崎育三郎がミュージカル『プリシラ』で伝えたい、“今”を生きる大切さ

山崎育三郎がミュージカル『プリシラ』で伝えたい、“今”を生きる大切さ

3月9日(日)より日生劇場で上演されるミュージカル『プリシラ』。
“プリシラ=Priscilla”とは女性の名を表しているが、現代におけるセクシャリティのあり方において、その単一の色合いは、すでに失われているかもしれない。ドラァグクィーン3人による悲喜こもごものロードムービー風のミュージカル『プリシラ』は、その色合いをどれだけカラフルなものにしてくれるのだろう。本作品の再演は、現代において様々な意味を持つだろうし、今の演劇界にどんな衝撃を与えてくれるか興味は尽きない。
そこで、ドラァグクィーンのティックを演じる、稽古中の山崎育三郎に話を聞き、今作のことを徹底的に解剖してみた。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 増田慶

愛にはいろいろな形があり、生き方だって様々な形がある

まず、ミュージカル『プリシラ』が熱いファンの要望に応え、3年ぶりに帰ってきます。

2016年の初演に携わったときから、楽しかった思い出しかないんですね。お客様に喜んでいただき再演が決まったわけですから、舞台においては成功の証だと受け止めて、素直に嬉しく思っています。

昨今話題になっている“LGBTQ”といったセクシャルマイノリティを扱う作品が再演されるのは、今の時代にとても大きな価値があると思いますが、山崎さんはこの時代に『プリシラ』が再演される意義を感じたりしますか。

演出家の宮本亜門さんが、稽古場でみんなに話をしてくださったんです。「この作品は、男性でも女性でもいろいろな方がいらっしゃるように、僕たちをひと括りにしてはいけないことを示してくれる。愛にはいろいろな形があり、生き方だって様々な形がある。カンパニーのみんなはこの舞台で、自分の役がどういう愛を求める人なのか、どんな生き方をしているのかを深めて欲しい。彼らが抱えている葛藤や愛を明確に表現することが、この時代に上演するうえで重要な意味を持つよ」とおっしゃられて、この作品をお客様に届ける大切さを感じました。

初演を拝見して思ったのは、今作はロードムービーという体裁で、“旅モノ”特有の物哀しさもありますが、最後には目の前が開ける印象を受けました。根本には何があるのでしょう。

この作品は、「自分の存在とはいったいなんだろう」という問いかけをしているんです。ほかの誰よりも、自分自身のことってわからなくて、客観的に見られないですよね。だからこそ、僕らは自分にとっての幸せを日々模索しながら、生きていると思います。今作は、人間の愛や自分にとって大切なものを見つける旅なので、お客様は観終わったあとに「自分にとっての幸せはなんだろうか。自分らしくいることの意味はなんだろう」と問いかけながら、新しい自分を発見することになると思います。

ティックはアイデンティティを探し続けている人

では、山崎さんが演じるティックの役どころを教えてください。

いつも心に迷いがあって、自信がなくて、アイデンティティを探し続けています。奥さんがいて子供もいるけれど、居場所が見つからず、本来の自分を知りたくて、奥さんの後押しもあり、ドラァグクィーンの世界に飛び込みます。だけど、その世界にいても自信が持てず、心に埋まらない溝がある。何年か経て、もう一度自分の子供に会いたいと旅を続ける途中でいろいろなことが起きて、そこで家族に会ったときに彼は何を思うのか。いわば、彼の成長物語であり、彼自身が自分を見つける旅でもあります。

心に葛藤を抱えた難しい役どころだと思いますが、どのように演じていきますか。

まず、僕でさえ20着以上も着替えるので、衣裳だけで華やかな作品になっています。この舞台は衣裳を見て楽しむことができる絢爛さがあり、音楽も思わず踊ってしまうナンバーが揃っていますし、個性の豊かな役者がたくさん登場します。その中でティックは、自分らしく生きている人たちに出会って変貌していきます。なので、主役ではありますが、作品の中では受け身で、自分からストーリーを展開させていく役割ではないんです。周りが起こしたアクションを受け止めてどんなお芝居をするのか。ですから、ティックが家族に会いにいくという物語の筋を通していく役割に徹したいと思っています。

今の僕が、何を表現したいのか自分と真摯に向き合うこと

山崎さんは再演の作品にもたくさん出演されています。再演と初演での演技は異なるものでしょうか。

再演のお芝居で大切にしているのは、初演をなぞらないことで、とにかく今の僕が何を表現したいのか、自分と真摯に向き合うことだと思います。3年前の自分と現在の自分は環境も生き方も違う。僕が変化しているわけですから、お芝居も自ずと変わっていきます。再演の良さは、「初演ではこんなことを思わなかったのに、今回はこんな気持ちになるんだ」とびっくりするぐらい自分の変化に気づかされることですね。

お芝居へのモチベーションも変わっていくのでしょうか。

人の日常と一緒で、いろいろな人に出会い、時間が経って経験が増えていくからこそ成長していくと思うので、お芝居に対する気持ちも自然と変わっていきますね。

そんななかで、今作で座長として心がけたいことはありますか。

とにかく、先輩や後輩に関係なく、若い子もベテランも、稽古場では同じ立場でフラットな状態で、演出家も含めて自由にいられる場所をつくりたいです。緊迫感や変なプレッシャーをつくりたくないので、カンパニーがなるべく自然体で、自分らしくいられるような空間づくりをしたいと思っています。

ここまでの稽古の手応えはいかがですか。

初演は何もないところから手探りでつくって、本番でお客様の反応をいだたいて、ようやく『プリシラ』が出来上がりました。その苦闘があるからこそ、再演では、初演でつくったベースを活かしてもっと挑戦できるし、みんなのキャラクターも深まっているのでさらにパワーアップした『プリシラ』を届けられると思います。宮本亜門さんも初演を超えたところを目指されているし、脚本の台詞も変えていらっしゃるので、どんな作品になっているか、お客様には期待していただきたいです。

今作で特徴的なのは普段ミュージカルで歌われないようなポップなナンバーに溢れていることですね。

マドンナやドナ・サマーなどの往年のヒット曲が揃っているので、曲が流れただけでお客様の体に馴染んでしまうと思います。本作は誰もが知っているメロディーの名曲が続きますから、初めてミュージカルに触れられる方でも踊りたくなるし、楽曲のパワーが強いので、『プリシラ』の虜になると思いますよ。

それでは、現存するヒット曲を歌うときのお気持ちは、たとえば古典的なミュージカルナンバーを歌うときと変わるものですか。

誰もが知っているヒット曲だということはそれほど意識していないです。どの作品でも、あくまで歌詞をしっかりお客様に届けることに集中しています。

宮本亜門はみんながついていきたくなるカリスマ性がある

演出の宮本亜門さんの印象を聞かせてください。

とにかくオープンな方で、稽古場でも太陽のような存在なので、いらっしゃるだけで現場が明るくなりますし、みんなに愛されているので、思わずついていきたくなるカリスマ性があります。明るくて、ネガティブな要素のない方なので、この作品の雰囲気にぴったりですね。

演出の特徴はありますか。

とてもパッションがあるし、演出家席に座らず、僕たちと一緒に動いてくれます。どんなときでも誰に対しても全力投球です。真剣に僕たちに挑んでくるので、僕たちも本気でお芝居を返したくなるんです。

山崎さんは多くの演出家と接する機会があると思いますが、意識していることはありますか。

とにかく信じることですね。演出家のおっしゃっていることを信じることが、作品の成功の鍵だと思います。ただ、演出家に任せっきりにするのではなくて、僕たちから「こうしたい」という意見をぶつけていく。そんな信頼関係を築くことが大切だと思います。

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