【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 113

Column

CHAGE&ASKA 10周年のその先を照らす、彼らの新たな“PRIDE”

CHAGE&ASKA 10周年のその先を照らす、彼らの新たな“PRIDE”

1989年8月にリリースされた『PRIDE』は、彼らにとってデビュー10周年の記念盤であり、2枚組16曲入りの大作にも関わらず、81年2月の『熱風』以来、久々のアルバム・チャート1位を獲得する(拍手!)。

この年も、CHAGE&ASKAは精力的なツアーを行っていた。「CONCERT TOUR ’89〜10 years after〜」と題したもので、4月30日の東京「昭島市民会館」(現・KOTORIホール)を皮切りに、9月15日の沖縄コンベンション・センターまで全59公演を駆け抜けた。

その際、特筆すべきは東京「新宿厚生年金会館」において、延べ10日間の日程を組んだことだ(今は存在しないこのホールだが、2010年2月には、ASKAが閉館を惜しみ、同じく10日間のコンサートを開催したことも話題となった)。

『PRIDE』は、そのツアーの終盤にリリースされた作品集であり、このアルバムが1位を取ったことは、コンサートでの彼らの人気と、レコードでの彼らの人気が、乖離せず、ひとつの流れを作りつつあることを明示させた。そして本作といえば、まずは表題曲、「PRIDE」だ。シングル・カットしたわけじゃないが、ライブで歌われるたびに浸透し、いつしか彼らの代表曲となった。なぜそうなったのか? 真の名曲だったからだ。

ポップ・ソングの定石である、“ラブ・ソングの装束”はまとわせつつも、これほど深く人生哲学を響かせる歌はないだろう。単に“プライド”を扱った作品は珍しくないが、この歌の場合、そこに“思い上がり”という表現を対峙させているのが巧みだ。

つまり“プライド”というものは、ヒトからみれば、そう受取られかねない危ういものなのだ。でも、そんな雑音にも負けず、己の信念を角質化せず柔らかく保つ上で、よき相棒となってくれるのがこの歌だろう。終盤に従い、クレッシェンドしていく想いが、高く高く積み上げられ、それをライブで浴びた時の至高感はハンパない。

この歌ももちろんそうだが、他にも明らかに、CHAGE&ASKAは“ゾーン”に入っているなと思わせたのが「天気予報の恋人」である。この楽曲のような、“なんてことないようでかけがえのない”境地こそが、“ゾーン”に入ったアーティストの証拠なのだ。ただこの作品。同名タイトルのドラマとの関係でいうと、なんだか特殊だ。主題歌になったわけじゃなく、最終話に一度きり、挿入歌として使われたからだ。

さらにこのアルバムには、10年間走り続けてきた彼らの、過去の自分達への“落とし前”も示されている。ライブで歌い込み、成長した作品を、レコーディングし直して、ファンに届けている。それが当時、Disc2だった2枚目のほうだ。現在、CDで聴くぶんには関係ないことだが、リリース時の彼らの想いとしては、そんな分類がされていたわけだ。

CHAGEの「終章(エピローグ)」と「嘘」は、アレンジを服部克久が担当している。それはCHAGEの、たっての願いだったという。こうした音楽界の大物が参加してくれるのも、二人の10年間の頑張りがあってこそだろう。

お馴染みの前者は、そもそも彼が、19歳の時に作った歌であり、80年のデビュー・アルバム『風舞』に収録され、本作『PRIDE』、その後も『STAMP』、さらに彼のソロ名義でもセルフカバーされていく。同一曲をもとに、その年代その年代の歌を丹念に記録し続けているアーティストというのは、世界でも珍しいだろう。

「終章(エピローグ)」は、女性の立場から歌いかける作品ゆえ、CHAGEは常に、異性である主人公の気持ちを察しつつ歌う必要がある。そこには彼の“女性観”の変化も反映されるだろうし、さらにこの作品は、主人公の内なる感情が、微妙なグラデーションとなり表現されるあたりがポイントとなる。

オリジナル・ヴァージョンは、その心の震えを簡素な生ピアノ中心に聴かせている。アレンジの構図としては、女性の胸の内に軸を置く。一方、本作で聴かれるものは、繊細かつダイナミックなストリングスも相まって、楽曲自体のスケールの大きさを届けてくれる。テンポはこちらのほうがやや遅い。

CHAGEの歌については、オリジナルが節回しの正確さに留意した感覚に対して、ここでは大観衆の前で歌う経験を積み重ねた後の、自然な感情表現が増して、こなれたものとなっている。

もう1曲の注目作は、ASKAの「MOON LIGHT BLUES」である。こちらもオリジナルとは大きく違っている。それは後半、“少しくらい 少しくらい”から始まる新たなパートが加えられている点だ。この歌も「終章(エピロ−グ)」同様、女性の立場からのものだが、新たなパートでは、両者が“本気で愛していた”という過去も独白されている。なので、これがあるのとないのとでは歌の印象がかなり違う。

印象が違うといえば、アレンジも大幅に違う。なんとこの曲のアレンジを、ASKAは巷のアレンジャーではなく、原田真二に依頼した。非常に珍しいケースだろう。なぜなら原田は、CHAGE&ASKAと同時代のアーティストだ。その立場の人間に、リ・アレンジを頼んだのだ。もちろん原田の才能を、ASKAがリスペクトしてのものだった。依頼に際しては、一切、口は挟まず、思い通りにやってほしいと告げたという。

完成したニュー・ヴァージョンは、思い通りどころか、ここぞとばかり、原田が様々な音楽ワザを投入した印象だった。ちなみに「MOON LIGHT BLUES」は、基本スタイルはロッカ・バラードであり、原田により、その部分が強調されている。

オリジナルはシンセの柔らかい音も活かしたS・ウィンウッドの『アーク・オブ・ア・ダイヴァー』的な世界観だったのと較べ、こちらはハモンド・オルガンのアーシーな雰囲気のものであり、ツー・コーラス目以降は、大胆なコーラスを絡め、ASKAの歌を盛り立てている。

ASKAの歌い方もオリジナルから発展し、そもそも冒頭の[お願いだから]からして、“お〜・ね〜・がいぃ〜”と、充分にタメを効かせたものになっている。このふたつのヴァージョンは、聞き比べるとたいへん興味深いと思う。

この『PRIDE』のアルバムのあと、しばし二人は各々の活動に入っていく。次のアルバムは、遂にロンドンでレコーディングされることとなる。

文 / 小貫信昭

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