Interview

尾崎世界観、処女作『祐介』で小説家デビュー。唯一無二な文学表現

尾崎世界観、処女作『祐介』で小説家デビュー。唯一無二な文学表現

不安も一緒に増刷される。不安も一緒に重版出来!

あと、血、尿、唾、精液などの吐瀉物もつねに巻き散っているのも印象に残ります。

それは自分の中にずっとあったし、今でもある気持ちなので、やっと表現できて良かったなと思います。そういう意味でも小説を書かずにはいられなかったというか、絶対に表現したかったんです。僕も歌詞でセックスについて歌ったりしてますけど、暴力描写と一緒で性描写も音楽でやるとかわいくなるし、優しくなる。だから、そこは小説として絶対に表現したかった部分なんです。

sekaikan_yu8762

音楽ではポップに聴こえたりもしますしね。もっと生々しいものとして表現したいということですよね。この物語の主人公は掃き溜めのような生活の中でも音楽に希望を抱いていますが、尾崎さんが小説を書きながら見ていた光はありますか?

自分の中にあるぐちゃぐちゃしたゴミみたいなものを、なんとか形にしたいと思って。ドロドロに腐ったものをこねくりまわして、拾い集めて使えるものにするために、僕は主人公をちょっとずつ動かしていって。あのときの自分——“尾崎祐介”が“尾崎世界観”とふざけて名乗り始めて、今こうして音楽でやれている。“世界観”と名前を付けたときに“祐介”の自分は置いてきたと思っているので、最後まで一緒に走らせたかったというか。結果的に破滅のほうに向かってはいくんですけど、そこもケリをつけたかったので、例え良くないほうに走っていっても、走り始めた瞬間は気持ち良かったです。あのクライマックスを思いついたのは、実は、立川談春さんの落語を観に行って客席が暗転してるときだったんです。あのシーン、すごく好きなんですよね。

ラスト・シーンは読者としては、“祐介”が終わって、“世界観”が始まっていく、ロックスターの誕生の瞬間に立ち会ったような感覚を覚えましたよ。

そうですね、引き継ぎみたいなものですね。自分のことを書いていたので、最後は重なっていくというか……。

sekaikan_yu8789

本作は“半自伝的”とありますが、小説と捉えていいですよね?

自分の中で大きかったエピソードを思い出しながら書いているけど、「こんな人生を送ってんだ」とストレートに受け取ってほしいわけではなくて。もちろん、本当のエピソードもあって。初めて行ったピンサロ嬢は本当にああいう話をしてくれたし。ただ……そこに行くまでの期待感みたいなものに結局、裏切られ続けてきて。ライブをしたらもしかしたらとか、ここに行ったら何か変わるかもとか。でも結局は何も変わらなくて。そういう希望と、その希望が打ち砕かれる瞬間を描きたかったんです。最近、すごく自分を象徴してるなと思ったことがあって。「重版が決まりました」と連絡をもらったときに、「え? 大丈夫ですか?」と真っ先に言って「素直に喜べばいいのに」って怒られたんです。「たしかにそうだな」と思ったんですけど、最近また「4刷りが決まりました」と言われて「え! 本当に大丈夫ですか?」と(笑)。2刷りのときに素直に喜べば良かったと反省して、3刷りのときには喜んだんですけど、4刷りでまた不安になってしまって。なぜだか、不安なことばかり探しちゃうんですよね。

あはは。尾崎さんのそういうところはこの本を読めばわかりますけどね(笑)。

そうですね。もう、「刷りすぎですよ」と言いましたから(笑)。

刷りすぎは素晴らしいことです! この表紙装丁についてはどんなイメージだったんですか?

僕の大好きな寄藤文平さんが装丁してくださったんですけど、打ち合わせで「何色がいい?」って聞かれたので「サーモンピンクです。自分の肉を見せているような本なので」と言ったらこうなったんです。しかも、9月に出るクリープハイプのアルバムも文平さんにジャケットをお願いしていて。タイトルが『世界観』なんですけど、小説と同じサイズでタイトル文字の書体もこの形になるんです。

『祐介』と『世界観』とは!

同じ時期に作っていたものなので、過去の自分と向き合っていたのが『祐介』で、今が『世界観』というところで。

sekaikan_yu8752

じゃあ、また重版しちゃいますね!

そのときは素直に「ありがとうございます」と即答できると思います(笑)。喜びもあるけど、どうしても不安のほうが勝ってしまう。それはずっと変わらないんですね。この本の19歳の頃に今みたいなところにいられたらまた変わっていたと思うんですけど、そうじゃなかったからこそ、こうやって本になったんだと思います。この小説に書いたような期間があるかないかでも変わっていたと思うので、ホントに財産だと思います。

期待や希望や喜びよりも不安や反骨心が勝ってしまう気持ちは、また増刷が決まってもなくならないでしょうね(笑)。

絶対になくならないです。不安も一緒に増刷される。不安も一緒に重版出来!……今のどうですか?

あはははは。見出しにしたいと思います。最後に小説家としてのこれからについてもお伺いしたいんですが。尾崎さんの作品をもっと読みたいです!

そう言っていただけるなら。また時間をかけてでも書きたいですね。でも……その前にこの本をちゃんと広めたいですね。頑張ります。

書籍情報

sekaikan_yu_cover

2016年6月30日発売
『祐介』
文藝春秋 ¥1,200+税

sekaikan_yu8689

尾崎世界観

1984年生まれ、東京都出身。クリープハイプのフロントマン(vo、g)&ソング・ライター。2001年にバンド結成。2005年に多くの人から「(音楽の)世界観がいいね」と言われ、その曖昧な評価に自らを“尾崎世界観”と名乗りだす。2009年に現メンバーとなり、本格的に活動を開始。2012年4月にアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャー・デビュー。2014年には尾崎世界観 責任編集による雑誌『SHABEL(シャベル)Vol.1』を手がける。現在、『本の話 WEB「1分書評」』(文藝春秋)にて連載を、テレビ『#ハイ_ポール』(CX / 声出演)、ラジオ番組『SPARK』(J-WAVE)にてレギュラーを担当。また、クリープハイプは8月10日に藤原竜也主演ドラマ『そして、誰もいなくなった』(NTV)の主題歌、書き下ろし新曲「鬼」をシングル・リリースしたほか、9月7日には4thアルバム『世界観』を発売。9月10日より全国ツアー<熱闘世界観>の開催も決定している。
オフィシャルサイトwww.creephyp.com/

< 1 2