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平野 良と久保田秀敏らが生み出す憧れのパワーが炸裂! 舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)』ただいま上演中

平野 良と久保田秀敏らが生み出す憧れのパワーが炸裂! 舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)』ただいま上演中

舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)』が開幕した。DMM GAMESで配信中の文豪転生シミュレーションゲーム『文豪とアルケミスト』(通称:文アル)を原作に、特殊能力者“アルケミスト”によって転生された文豪たちと、人々の記憶から文学を奪おうとする“侵蝕者”との戦いを描いた本作。2.5次元舞台らしい華やかさと明快さを備えながら、文学好きにはたまらない要素も随所に散りばめられていて、間口の広いライブエンターテイメントに仕上がっている。そんな意欲作の魅力を、初日にさきがけて行われたゲネプロをもとにご紹介したい。

取材・文 / 横川良明 撮影 / 友澤綾乃

憧れの芥川のために、太宰治が奇跡を起こす

憧れって、ものすごく大きなパワーだ。憧れの人の残した言葉を暗誦できるぐらい読み込んだり、憧れの人のスタイルや表現をマネしてみたり。憧れの人のようになりたい、と思う力は、あらゆるものを凌駕する底なしのモチベーションだ。

この舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)』を観ていると、そんな憧れのまばゆさに、ついあてられたような気持ちになってしまう。主人公は、太宰 治(平野 良)。近代文学史を代表する文豪・太宰が憧れたのは、もちろんこの人、芥川龍之介(久保田秀敏)。「芥川龍之介」と書き連ねたノートが発見されるなど、太宰が芥川に心酔していたのは、文学ファンの間でも有名な話。本作では、そんな太宰と芥川の関係を下敷きに、憧れの芥川のために全力疾走する、おバカなくらいラブリーな太宰の“片想い”がエネルギーたっぷりに描かれている。

創作に携わる人なら、誰かしら自分にとっての“神様”はいるはず。きっと太宰にとって芥川こそ“神様”だった。“神様”の目にふれるだけで舞い上がるし、“神様”が自分の書いた作品を読んでくれるなんて、光栄すぎて脳が瞬間沸騰する。転生した世界で芥川と対面した太宰は、まるで恋を覚えたての中学生のよう。

だからこそ、憧れの人のためなら艱難辛苦にもまっしぐら。芥川を救うべく、太宰は脇目も振らず突進する。そして、そんな太宰を見て観客は思うのだ。ああ、私たちも太宰も同じなんだな、と。

太宰 治は凡人の私たちではとても肩を並べることなんてできない不世出の天才なんだけど、芥川の前で犬みたいに尻尾を振って喜んでいる姿は、たぶん私たちと大して変わらない。浮き沈みが激しくて、さっきまで今すぐ玉川に入水しそうな顔してたのに、ちょっと憧れの芥川と会話できただけでほとんどゼロだったライフポイントがフル回復する。思わず目尻が垂れるほど太宰の思考回路はわかりやすい。

でも、多くの人にとって、憧れの存在とはそういうものだろう。憧れの人が笑ってくれたらそれだけで幸せだし、落ち込んでいたら何かしてあげたいと思う。この舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)』は、たったひとりの憧れの人のために太宰が奇跡を起こす、そんな物語だ。

誰は仲良しで誰は不仲? 史実を活かした文豪同士の関係性に萌え

本作が面白いのは、そうした太宰のストーリーをひとつの柱にしながら、実際の文豪同士の関係やバックグラウンドをふんだんに盛り込んでいるところ。芥川をただの“神様”に終わらせず、その裏側にある人間・芥川龍之介の苦悩までしっかりカバーしたり。それぞれに見せ場があって隙のないつくりだ。

芥川賞に推薦してもらえなかったことで生まれた太宰と佐藤春夫(小南光司)との間の歪(ひず)みや、前世では激しく罵り合いを交わした太宰と志賀直哉(谷 佳樹)の確執など、数々の逸話が各キャラクターの行動原理や物語を進める機動力になっていて、遊び心溢れるアイデアについ頬が綻んでしまう。

無頼派の代表格である太宰と織田作之助(陳内 将)と坂口安吾(小坂涼太郎)は、劇中でも「三羽烏」と呼ばれてお茶目なポーズを決めるなど程良い悪友感があって微笑ましい。精神不安定な太宰を、陽気な関西弁でバックアップする織田と、ニヒルな眼差しで見守る坂口。言うなればチーム男子的な空気感を放つのが無頼派だ。

それに対し、生涯の友として知られる白樺派の志賀と武者小路実篤(杉江大志)の友情はどこか耽美的。志賀と武者小路のやりとりからはそこはかとない儚さと高潔さが漏れ出ていて、無頼派と白樺派、対照的な個性に萌える観客は多そう。

そこに史実どおり酒浸りの中原中也(深澤大河)や、推理作家らしくちょっとトリッキーな江戸川乱歩(和合真一)が絡んできて、文豪同士の関係性がいろいろ楽しめるのも大きな作品の魅力となっている。

演者と観客の距離を縮める平野 良の圧倒的座長力

そして、それを演じる俳優たちの輝きも作品の魅力のひとつ。中でも座長・平野 良の無双ぶりは特筆すべきものがある。ほとんど暴走に近い太宰の芥川愛を決してイタくならず、キャスト最年長とは思えないチャーミングさで演じつつ、キレのいい台詞回しでキメるべきところはカッコよくキメる。2.5次元という言葉が生まれるずっと前からシーンを牽引してきた実力者だが、今回改めてそのアベレージの高さを証明してみせたように思う。

笑いをとるべきところできちんととれるのは、間のとり方や緩急の付け方が絶妙だから。要所要所で挟まれるメタっぽいツッコミも、ちょっとさじ加減を間違ったらサムくなりがち。それをアドリブ的な素っぽさを残しつつ、ちゃんと作品に馴染ませて浮き上がらずに成立させられるのは、役者として抜群のセンスがある証拠だ。

何よりそんな平野の芝居が、本作の芝居のトーンそのものを決定付けているところに、圧倒的な座長力を感じた。わりと幕開けから早い段階で演者と観客の距離がぐっと縮まったように見えたが、そうしたフレンドリーな空気感が生まれたのも、平野 良の愛すべきキャラクターがあってこそ。

そこに杉江大志、和合真一らコメディ巧者がうまく乗っかり、ますます場を温めつつ、陳内 将、久保田秀敏といった経験値の高い役者が安定感のある芝居で空気をキュッと引き締める。特に久保田は物語が進むにつれて変わっていく芥川のキャラクターを台詞の音や息遣いでさり気なく表していて、涼しげな物腰の裏にある芥川の繊細さを過不足なく体現してみせた。

演出・吉谷光太郎は今回もアンサンブルキャストを駆使して“侵蝕者”とのバトルシーンの迫力を表現。面白いのが、派手な立ち回り以外のシーンにもアンサンブルを登場させ、作品の世界観を醸成する因子にしていたところだ。おかげでその奇妙で独特な動きが舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)』という作品が醸す通奏低音になっていたように思う。こうしたエンタメ作品はもはやアンサンブルキャストの存在なくして成立しないが、改めてその素晴らしい仕事ぶりに敬意を表したい。

花も実もあるメインキャスト9名と、磨いた武器で勝負するアンサンブルキャストやスタッフが総力戦となって挑む本作。原作ファンはもちろん、原作未見の観客が見ても楽しめる総合力の高いエンターテインメントに仕上がっており、このレベルの作品がコンスタントに世に送り出されているところに、近年の2.5次元シーンの地力を見た想いだ。

トボけた後輩たちに、平野良のツッコミが止まらない?

そんなチームとしての強さは、囲み会見でも見て取れた。江戸川乱歩 役の和合真一が「平和の話に合格の合、真実はいつも一つと書いて和合真一と申します」と前口上を述べると、方々からざわめきが。口々にどよめくキャスト陣に、平野 良が「クローストークじゃないから」と的確なツッコミを入れ、ひと笑い生んだところで会見はスタート。

和合は「摩訶不思議な世界観に似つかわしいような、妖しい感じでやっていきたい」と気合いを入れつつ「(妖しいという字は)妖艶の“妖”と書いていただきたいんですけども」と取材陣にオーダー。その押しの強さと抜け目のなさに、平野は「こってりしてるな~」とうなり声を上げていた。

中原中也 役の深澤大河は「中也はすごく酒豪なんですけど、僕自身がまだそんなにお酒が飲めない体質……体質じゃないや、全然飲めるんですけども」と、言っていることが2秒で変わる不思議コメント。これには、平野も「どっち? どっち(記事に)使って欲しいの?」と思わず混乱。

続いて、坂口安吾 役の小坂涼太郎は無頼派の平野、陳内 将と稽古場からずっと一緒に過ごしていたそうで、「もう仲良く3人でお世話し……」とこちらも言い間違えで全員から「お世話し??」と総ツッコミの嵐。収拾のつかない事態に、「その仲の良さが舞台上で伝わればと思っております……お願いします!」と強引にまとめる小坂に、平野は「最後ラクしたな」とポツリ。天然な後輩たちにツッコミの手が止まらない毎日を送っていることを窺わせた。

舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)』は2月28日(木)までシアター1010に上演。その後、京都に場所を移し、3月9日(土)から3月10日(日)まで京都劇場で上演される。愛すべき太宰の偏愛が起こす奇跡の光をぜひその目に焼きつけて欲しい。

舞台『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)』

東京公演:2019年2月21日(木)〜2月28日(木)シアター1010
京都公演:2019年3月9日(土)〜3月10日(日)京都劇場

STORY
文学作品を守るためにこの世に再び転生した文豪たち。
親友たちとの再会、そして前世ではありえなかった出会いに喜ぶのもつかの間、太宰の憧れの人、芥川龍之介の作品が侵蝕される。
芥川先生の作品は俺が守る!と意気込み、仲間を引き連れ潜書する太宰だったが──。

原作:「文豪とアルケミスト」(DMM GAMES)
監修:DMM GAMES
世界観監修:イシイジロウ
脚本:なるせゆうせい
演出:吉谷光太郎

出演:
太宰 治:平野 良
織田作之助:陳内 将
坂口安吾:小坂涼太郎
佐藤春夫:小南光司
中原中也:深澤大河
志賀直哉:谷 佳樹
武者小路実篤:杉江大志
江戸川乱歩:和合真一
芥川龍之介:久保田秀敏

©舞台「文豪とアルケミスト」製作委員会

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