LIVE SHUTTLE  vol. 59

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水球日本代表が登場!吉川晃司、貫禄のライブファイナル@東京体育館

水球日本代表が登場!吉川晃司、貫禄のライブファイナル@東京体育館

KIKKAWA KOJI Live 2016 “WILD LIPS” TOUR FINAL
@東京体育館 2016.8.28

文 / 平山雄一 撮影 / Shigeru Toyama

今年5月にリリースした最新アルバム『WILD LIPS』を掲げた“WILD LIPS”TOURのファイナルを東京体育館で観た。

かつて東京オリンピックで使用された東京体育館にはプールが設置されていて、水球競技の舞台にもなった。当時の建物から建て替えられたものの、高校時代を水球選手として過ごし、ジュニア日本代表として世界を目指したことのある吉川晃司にとって、ある意味“最高の舞台”でのファイナルになる。

雨模様の空の下、オーディエンスが続々と会場に詰めかける。僕は2階に上がって、やたらとガ体のいい3人の男性オーディエンスの後ろを通って、観客席に向かった。ステージは紗幕に覆われ、1階席最後部の天井からは、“吉川マーク”の電飾が吊り下げられている。

このところ歴史番組のナビゲーターや幕末ドラマの俳優としての活動など、歴史好きの吉川らしい活躍が目立っていたが、彼が歴史以上に好きなのが音楽であることは紛れもない事実。ファンたちも“歴史キャラ”の吉川も好きなのだろうが、ステージで比類のないパフォーマンスをする吉川が大好きなのだ。期待を込めた熱気が、東京体育館に充満する。

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やがてライトが消えて、ハイハット・シンバルがカウントを取ると、いきなり鋭いギターの音が鳴り響く。そこに超へヴィーなドラムとベースがかぶって、ニューアルバムのタイトル曲「Wild Lips」のイントロが始まった。

歌い出す吉川。紗幕は下りたままで、シルエットしか見えない。その紗幕にはおびただしい数の真っ赤なリップが映し出されて、スリリングなオープニングになった。3コーラス目を過ぎたあたりでようやく紗幕が上がり、吉川の姿が見える。と、そのまま吉川がギター・ソロを弾き出す。ギター・スタンドに据え付けられたギターを抱える吉川の左足は、モニタースピーカーの上に掛けられ、シャープなボディラインが強調される。

まず立ち上がりは『WILD LIPS』からの曲を、立て続けに5曲。80年代のダンス・ミュージックの代表格であるナイル・ロジャースばりのグルーヴが炸裂する。吉川の得意な足技=ステップも絶好調だ。そのステップをがっちり支えているバックの音が、凄まじいほどロックしている。長年、吉川のライブを見て来たが、歴代のバンドの中でも屈指のタイトなロック・サウンドを叩き出している。このバンド、凄い! それを従えて歌う吉川が凄い!

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「ついにファイナルがやってまいりました。東京体育館、もっと音がワンワンするかと思ったけど、めちゃくちゃいいね。東京オリンピックでも活躍した会場だし、何よりみんなの笑顔に再会できて最高です! 最後だから大いに盛り上がって、あんなことも、こんなことも全部やっちゃいます。まずはメンバー紹介。今回はロック色を濃くして、“我が道を行く”ミュージシャンたちにお願いしました」。

その吉川の言葉どおり、バックを務めるのはロックのレジェンドばかりだ。おなじみのキーボードのホッピー神山は元“PINK”で、ドラムの湊雅史は元“DEAD END”。80年代の東西を代表するバンドのメンバーが顔を並べる。ベースのウエノコウジは90年代のミッシェル・ガン・エレファント、ギターの生方真一は2000年代のエルレガーデンに在籍。もちろん彼らはずっと第一線で活躍を続けてきていて、信じられないようなメンバーが吉川の後ろに控えている。ホッピーと同じく、吉川のライブを支えてきた菅原弘明はギターとキーボードを担当。2ギターになるときも、2キーボードになるときも、要所をビシッと締めているのはさすがだ。

「このメンバーでツアーをやってきて、昨日は踊ってバカやって、ボロボロです。でも、楽しい!」と吉川は心底、嬉しそうに笑う。

ここからの懐かしい2曲が、前半のハイライトだった。「にくまれそうなNew フェイス」では、重戦車のようなビートに乗って吉川が突き進む。続く「LA VIE EN ROSE」のエンディングでは、延々と歌い、踊る。ラストはもちろん、シンバルキックで決めた。

終演後、吉川は「この曲あたりで、完全にぶっ飛んだ」と振り返っていたが、自分がどう歌って、どう踊ったか、本当に何も覚えていないらしい。リアルタイムでステージを観ていた僕も、あそこまで燃焼し尽くす吉川を観た記憶はない。それほど一直線に、吉川は最初のピークに駆け上がったのだった。
「(延々と歌って踊ってたから)シンバル、蹴るの、忘れてた。みなさん、身体、あったまってきたかな? ここからは、今日のコンサート唯一の静かなパート。ここで休んでね(笑)。この2曲が終わったら、後はイキっぱなしですから」。その後、ポツリと「LA VIE EN ROSEで飛ばし過ぎたよな」と、“心の声”を口に出してしまうところが吉川らしい。

「Expendable」と「ONE WORLD」は、胸に響かせるUKロック・スタイルの歌唱で会場をしっとりさせる。天井の高さを活かした縦の照明は青を基調としていて、この会場ならではの美しいシーンとなった。静まり返ったフロアから、男性ファンの「コージ!」という感極まった声が上がる。
一度、ステージを去った吉川が、ギターを肩にかけ、白のロングコートをまとって現われた。吉川は歌だけでなく、生方とのツインリードギターや、シンセとのバトルなど、中盤は見せ場が満載で会場が沸きに沸く。と、吉川は「みんな、壊れてしまえばいい」と、またしても心の声をポロリ。彼自身が、それだけ楽しいからなのだろう。

「ノンストップで最後まで飛ばそうぜ」と言って始まったのは「A-LA-BA・LA-M-BA」だった。この曲が収められている5thアルバム『A-LA-BA・LA-M-BA』(1987年)は、ほとんどの曲を吉川自身が作詞・作曲しているが、感覚に優れた彼の作る曲は、ライブにおいて真価を発揮する。会場全体が踊り出した。曲がバシッと終わったタイミングで、吉川が「愛してるぜ!」と叫ぶ。

「Black Corvette `98」で吉川が過激に踊り狂えば、ウエノコウジのベースがドライブして応える。ラストで銀色のテープが発射されると大歓声が上がって、「恋をとめないで」のイントロに雪崩れ込む。吉川が言ったとおり、ノンストップの終盤だ。「BOY`S LIFE」の明るいメロディをみんなでシンガロングして、本編が終わった。シンバルキックを決めた吉川が、ステージに転がる。爽快なエンディングだった。

アンコールにもドラマが待っていた。
「みなさん、大丈夫ですか? ちらほら疲れた顔も見えますけど(笑)。音がデカかったでしょ? オトナ気ないのも、いいじゃない。あー、ツアーもこれでおしまいです。しばらく会えないね。オレはこの後、『精霊の守り人』(NHKドラマ)の撮影ですよ。森の中での撮影なんだけど、台風が来るんだよ。ま、嵐を呼ぶ男ってことで(笑)」。リラックスしたしゃべりの後、バンドのメンバーを一人ずつ呼び込んで改めて紹介する。広島出身のウエノコウジが「吉川のアニキとツアーもできたし、後はカープが優勝したら言うことなし」と言えば、「ここは神宮球場が近いけど、優勝、譲ってくださいよ」。ロック界のレジェンドたちも、吉川とのツアーを楽しんだようだ。

「実は、今日は最高に緊張してるんだよ。なんと、ポセイドン・ジャパン、来てます!」と客席の水球日本代表の選手たちを紹介。客席から大きなどよめきが起こる。僕が開場時にすれ違った“大きな人たち”は、オリンピック選手たちだったのだ。吉川はこのツアー中に、縁があってポセイドン・ジャパンの応援歌「Over The Rainbow」を作ってプレゼントした。「最高の気分で歌います!」。

始まった「Over The Rainbow」は、水球の楽しさも苦しさも知っている吉川だからこそ書くことのできた、渾身のミディアム・ロック。それを、吉川自身が“王道”のボーカルで披露する。オーディエンスたちが一緒に歌う。感動的なシーンとなった。
熱唱を終えた吉川が話し出す。
「長くやってると、いいこと、あるね。オレが水球選手として海外に連れて行ってもらったときは、まったく歯が立たなかった。オレは挫折した身だから」。そう、デビュー間もない吉川をインタビューしたとき、これと同じことを何度も言っていた。すでに大ヒットを飛ばしていたのに、彼にとっては払しょくできない挫折感があった。「挫折した身だから、(ポセイドン・ジャパンは)世の中でもっとも尊敬するチームです」。吉川の本音だった。

「Over The Rainbow」を選手たちに生で聴いてもらったので、吉川は慣れない場所にいる選手たちを気遣って、「スタッフの方、選手の人たちを楽屋に案内してあげてください」と言ったのだが、選手たちはそのまま客席にいる。「えっ? 最後までライブを観たいの?」。吉川は嬉しそうにアンコールを続けた。

レジェンドたちが繰り出すどっかんどっかんするリズムに乗って、「せつなさを殺せない」を会場中が歌う。最後の「Dream On」は吉川がしっかりと歌う。途中で紗幕が下りてきて、ライブはシルエットで終わった。
終演後の楽屋では、ポセイドン・ジャパンの大本洋嗣監督、棚村克行選手、荒井陸選手、柳瀬彰良選手が吉川を待っていた。吉川は「ウォーッ!」っと叫んで選手たちにハグしたのだった。選手たちも、負けずに嬉しそうだった。

吉川に今日のライブについて聞くと、「ポセイドン・ジャパンの選手たちが来ているから、彼らに“自分の力を見せろ!”って身体が勝手に反応しちゃったんだよね。前半から飛ばし過ぎ。電池が切れちゃいました」。

監督と選手たちにも今日のライブについて聞くと、「最高でした! “Over The Rainbow”も最高でした」と答えてくれた。

何の迷いもない吉川晃司は、最強だ。彼は今、これまで以上に独自のロックのスタイルを構築しようとしている。そのファイティング・スピリットは、きっと水球で培われたものなのだと思った。

KIKKAWA KOJI Live 2016 “WILD LIPS” TOUR FINAL
@東京体育館 2016.8.28

セットリスト
01.Wild Lips
02.The Sliders
03.サラマンドラ
04.Dance To The Future
05.OH YES
06.にくまれそうな New フェイス
07.LA VIE EN ROSE
08.Expendable
09.ONE WORLD
10.MODERN VISION

11.スティングレイ
12.BOMBERS
13.A-LA-BA・LA-M-BA
14.Black Corvette ‘98
15.恋をとめないで
16.Fame & Money
17.THE GUNDOGS
18.Juicy Jungle
19.BOY’S LIFE

EN1.Over The Rainbow
EN2.せつなさを殺せない
EN3.Dream On

吉川晃司

1984年に映画「すかんぴんウォーク」と、その主題歌「モニカ」でデビュー。日本歌謡大賞最優秀新人賞ほか、8つの新人賞を独占、俳優としてもブルーリボン賞、日本アカデミー賞、ゴールデンアロー賞他の新人賞を受賞した。「モニカ」をはじめ、「LA VIE EN ROSE」「You Gotta Chance」など、常にランキングの上位をにぎわせる中、1988年ギターリスト布袋寅泰とのユニット COMPLEXを結成。その後ソロとして、作詞、作曲、プロデュースを自ら手がけ、独自のボーカルスタイルでロックアーティストとして不動の地位を確立。2011年7月には、21年ぶりの復活となったCOMPLEXの東京ドーム公演を東日本大震災復興支援の為に開催した。近年は音楽活動に留まらず、俳優としても高い評価を得る。映画「必死剣・鳥刺し」では、第34回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。現在も精力的にライブを行う中、映画やドキュメンタリー番組、CM等、更に活動の幅を広げて活躍中。

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